2021年11月のVA州知事選でヤンキン現VA州知事が当選したことで、民主党に衝撃が走ったのは記憶に新しい。共和党が物価高、ガソリン高を猛烈に叩くことで支持率があがるとわかってからレッドウェーブがきていたことは確かだ。しかし、今年6~7月頃からガソリン価格が下落してくるとともに、民主党に勢いが戻ってきて、8月の「Inflation Reduction Act」可決で一気に巻き返した。この法案を可決できたことで、プログレッシブコーカスは、主要アジェンダを何一つ法案化できないまま選挙をむかえるところだったが、妥協案ではあるものの、首の皮一枚でつながったというところだろう。さらに、8月にバイデン大統領が学生ローン$1万ドル債務免除の大統領令を実施。民主党の勢いは、このあたりが最高潮に達していたといえよう。
このあたりから、バイデン大統領への支持率も少し回復してきた(それでも50%を下回り、不支持率の方が50%を上回っているが…)
8月頃から上院は民主党勝利、下院は共和党勝利の予測に変更してきたサイトも多い。私も、上院は民主党が51~54議席、下院は共和党勝利という予測をだしていた。ところが、選挙1カ月前になり、また興味深い流れになってきた。
上院議席予測は50vs50
私の現在の上院選予測としては、50vs50だ。州別の予測は以下の通り。
多くの予測サイトでGA州、PA州、OH州はトスアップだとされているが、PA州は民主党、OH州は共和党になると私は思っている。GA州は決選投票にまで持ち込みそうだ。ちなみに、この3つの州の資金調達は州内、州外ともに圧倒的に民主党がリードしている。 少し引用したTrafalgarの資料について補足。Trafalgar Groupの調査は、やや共和党寄りだとされているが、fivethirtyeight.comのPOLLSTER GRADEでもA-にランクされており、 Quinnipiac Universityと並ぶ調査クオリティである。
まず、PA州。2.4%差がしかないし、まだ決めかねている人が4.1%もいるのでじゅうぶん巻き返しは可能かもしれない。ただ、オズ候補は ヨルダンのシンクタンク the Royal Islamic Strategic Studies Centreが「世界で最も影響力のあるイスラム教徒500人」の2022年版に含まれる約40人のアメリカ人の1人に認定している(引用元:Celebrity surgeon Dr. Oz seeks to be first Muslim elected to the US Senate) 。本人は無神論者だと主張していたり、 妻はキリスト教の神学者だったりする。トランプ元大統領が強く支持したオズ候補だが、福音派が支持するのか、かなり疑問に思う。オズ候補は共和党内予備選でもやや苦戦していた。一応、マコネル上院少数党院内総務は、オズ候補を支持して資金援助もしている。なお、オズ候補について詳しくはこちらに書いた。
ペンシルベニア州の上院選結果/イスラム教徒のメフメト・オズ候補
次にオハイオ州。
オハイオ州は3.5%差で、決めかねている人が8.9%とやや多いのが少し気になるが、Emerson CollegeでもJDヴァンスがリードする調査を報告している。JDバンスは、もともとオハイオ州出身で「ヒルビリー・エレジー」の本を出版してベストセラーになった作家でもある。グレーターアパラチアの貧しい家庭に生まれ、一度軍隊に入ってからオハイオ州立大学に入り、その後、イェール・ロースクールを卒業。トランプ前大統領、ピーター・ティールから支持。一方のティム・ライアン民主党上院候補者は現連邦下院議員で、労働組合が支持母体の議員。2024年バイデン大統領立候補すべきではないと発言したり、いろいろ目立っている。
さて、厄介なのがジョージア州の上院選。
ジョージア州は過半数得ないと当選できないルール。過半数とれた人が誰もいないと上位2位で競い合う決選投票を再度実施する必要がある。2020年も2021年までもつれこんだのは記憶にある人も多いだろう。ハーシャル・ウォーカーの知名度や人気を考えれば、彼が当選すると考えている人もいるが、民主党ワーノック議員は政治家としてあるていど結果をだせたので現職の方が強いとみる方が強いように思う。
今回は決選投票が12/6に予定されていて、すでに決選投票に持ち込まれるだろうという話もでている。
共和党としても、GA州とNV州上院選が現時点でh最も奪還しやすいと考えているので資金も集中投下してくるだろう。PoliticoでもNV州とGA州が上院選を決めるといわれているほどだ、その通りだろう(引用元:Politico)
NV州が上院選を左右する
NV州で現職の民主党議員が共和党候補者に対して負けそうになってきた。現在、fivethirtyeight.comでも、上院選でToss-UPとされているのはNV州だけとなった。
まず、NV州は9/22Trafalgar調査で現職Masto民主党議員に対して、Adam Laxalt共和党候補者(2015-2019年州司法長官)がリードしている。ただし、その他や決めかねている人が10%もいるのは注意だ。また、ネバダ州は無党派層が多い。そのうえ、ネバダ州の投票用紙には「いずれの候補も選ばない」という選択肢もあり、上院選の接戦の行方を左右しかねない (引用元:Politico)
現職Masto民主党議員は、そもそも長い間、民主党上院のリーダーである上院院内総務を務めたハリー・リード議員の後継者として2016年に初当選して2017年から上院議員を務めている。
しかし、Harry Reidは昨年末に亡くなり、強力な後ろ盾をなくしてしまったのは大きく響いているようだ。ハリー・リードの支持団体といえば、6万人規模の調理師労働組合員だ。ここが強力な地盤だったからこそ安定して勝利してきた。しかし、どうやらまだ10~20%ていどが仕事を取り戻せていないという。ただ、選挙対策には意欲的に取り組んでいるようだ。調理師労働組合は、選挙期間中としては過去最大の取り組みを行っており、NV州の黒人・ラテン系有権者の半分以上、アジア系有権者の3分の1以上のドアをノックする勢いで活動していると(引用元:WP)
一方、ラクサルト共和党候補者は自身も 2015-2019年に州司法長官を務め、祖父のポール・ラクサルトは、1967年から71年まで共和党のネバダ州知事、その後1975年から87年まで上院議員を務めている。NV州は1999年~2019年まで共和党知事が務めていたので決して共和党の地盤が弱いわけではない。また、司法長官は1971年から共和党と民主党をほぼ交互に繰り返しているのでスウィング州と考えてもよいのだろう。
そして、共和党にとって追い風になっているのがラテン系の民主党離れだ。共和党は2016年選挙から、明らかに白人男性以外の候補者を増やしてきた。それがはっきり出てきたのは2020年のキンバリー・クラシックというアフリカ系アメリカ人女性の共和党下院議員立候補者がでてきた時だ。ちなみに、引用記事内にある 「民主党を支配している大学教育を受けた白人の進歩主義者に疎外感を感じる労働者階級の文化がある」 は最近特に指摘されていることだ。大学教育をうけたWhiteだけではないが、労働者階級の中に疎外感・違和感を感じる人達がいるのは確かで、それがトランプ元大統領への票に流れたし、ヒルビリーな人達ということだろう。
WSJの調査では、労働者階級の中南米系有権者は、大卒の中南米系有権者よりも今秋の選挙で共和党候補を支持することに前向きであることも分かった。4年制大学の学位を持たない中南米系有権者は、民主党候補を選ぶと答えた人の割合が共和党候補を選ぶと答えた人の割合を6ポイント上回っていたのに対し、大卒の中南米系有権者ではその差は26ポイントだった。
https://jp.wsj.com/articles/latino-voters-once-solidly-democratic-split-along-economic-lines-11663295214
この票の流れが持続すれば、人種と民族の多様化や大卒の白人有権者の支持増加で、民主党が国政で優位に立てるという民主党の考えは打ち砕かれる可能性がある。共和党にとっては、中南米系有権者の支持の大幅な増加は、トランプ大統領時代に党内の多くが受け入れるようになった目標の達成の一助となる可能性がある。その目標とは、米国の労働者階級の支持を受ける多人種政党となることだ。
共和党の一部にとって意外だったのは、中南米系有権者の支持を増やすために移民法の緩和を受け入れる必要がなかったことだ。多くの中南米系有権者が取材で、共和党が訴える国境警備の厳格化を支持すると答えた。人身売買や麻薬の密輸、同伴者のいない未成年者の越境を減らすことになるというのが、その理由だ。不法移民に合法的な地位を与えることを望む中南米系有権者の中には、民主党の取り組みに不満を抱き、政治システムがこの問題に全く対処できないことに冷めた態度を取るようになった人たちもいる。
(中略)
マドリード氏は「民主党を支配している大学教育を受けた白人の進歩主義者に疎外感を感じる労働者階級の文化がある」と指摘。「彼らは経済問題や民主党の文化的傾向を考慮して投票している」と述べた。
中南米系有権者に特化した民主党系調査会社エクイスリサーチの共同創設者、カルロス・オディオ氏は、民主党は労働者階級の中南米系有権者票の多くを獲得してきたため、大規模な離反に直面するとは思いも寄らなかったと話す
下院は共和党勝利/NV州下院選に注目
共和党は222議席、 民主党下院議席は207議席はほぼ確定とみてよいのかもしれない。 あとの6議席をどちらが取るかというところだろう。こちらもNV州の下院選で民主党が議席差を埋められるかが決まりそうだ。
詳細は、先々週に書いた通り。