2022年中間選挙、再び上下院でレッド・ウェーブ/学生ローン債務免除一時停止について

1. 再び、上下院でレッド・ウェーブ

先週、50vs50が続く可能性を指摘していたが、この1週間でまた随分変わった。
プログレッシブメディアといわれるAXIOSでさえ「Red tsunami watch」という記事をリリースしてきた(引用元: AXIOS
GA州とAZ州では、民主党は選挙資金を大量に使い、人員もつかったにもかかわらず負けそうなことを プログレッシブメディアが報じているというのがなんともアレだ。
しかし、これには裏があるだろう。主党内ではプログレッシブvsそれ以外の民主党員の間で、選挙メッセージをめぐる不一致があったことが報じられている(引用元:THE HILL)プログレッシブコーカスは当初から中間選挙の選挙メッセ―ジは経済でいくべきだったと主張している。むしろ、これを報道することで軌道修正を促したいのだろう。民主党は中絶の権利を訴求すれば無党派はついてくると確信していたようだが、蓋をあけたら期待外れな結果だったというわけだ。
夏頃から、無党派はインフレ・経済が最重要ISSUEだという調査結果がいくつもでていたが軌道修正できなかったのだからしょうがない。今頃、サンダース議員とか言い始めても内部分裂をみせるだけだからやめたほうがいい。まあ2024年大統領選を狙ってこのような発言を強めているのだろうが(引用元:Politico

RCPの予測では、上院でも共和党勝利がでてきた。これは、AZ州、PA州、GA州を総どりすることを意味する。PA州はOZ候補が勝利するとは私は思えないので、51~52議席が共和党というところではないだろうか。ちなみにGA州は決選投票になる予定なので年末まで上院議席数は確定しないだろう。

ちなみにTrafalgarでさえPA州もAZ州も未だ民主党候補者がリードしている。この決めかねている数%の有権者が動かすことになるだろう。正直、AZ、PA、GA州上院選は接戦なのでどっちが勝ってもおかしくない。

2. 学生ローン債務免除一時停止について

連邦裁判所が控訴申し立てを検討する間、バイデン政権が実施しようとしていた学生ローン債務免除の一時停止を発令したという件について(引用元:NPR

8月下旬、バイデン大統領は連邦政府の学生ローン返済を一部免除すると発表した。具体的には、年収$12.5万以下の米国民に1人当たり最高$1万を債務免除と発表。また、低所得家庭の学生向け奨学金「ペル・グランツ」を受けた人については、2万ドルを免除と発表。2020年3月に施行した学生ローンの一時的な返済停止措置についても、年末まで延長した。これが最後となると発表した(引用元:ロイター
この政策はバイデン大統領の2020年大統領選の公約であったが、法的問題を抱えていたためその解決に時間がかかった。プログレッシブコーカスは全額債務免除を訴えていたため、不満はあったが、それでも中間選挙前に実施できたことで歓喜の声があがっていた。まず、この時点では「債務免除する予定」と発表されただけだ。債務免除は実施されていない。

基本的には、国家予算は米議会の権限だ。なので、債務免除を行政府であるバイデン政権が実施することじたい違憲になると思われるし、共和党からの反論はこのポイントを指摘していることが多い。バイデン政権としては今回の学生ローン債務免除の法的根拠は、 2003年に制定されたHEROES ACTに基づき、政府は債務免除をする権限があると主張している。この HEROES ACTは、戦争や国家非常事態の際に米教育省長官が先方政府の学生ローンの条件を免除・変更することを認めている 。パンデミックは国家緊急事態であるというのがバイデン政権の主張なのである。

当然ながら、共和党州司法長官、 シンクタンクCato Institute 、納税者団体などいくつかの共和党団体が学生ローン債務免除は政府の越権行為だとして、訴訟を準備していた。9月下旬からただし、政府が実施した政策に対して実害を被った人達は誰なのかというのを証明するのがハードルだと言われていている。 IN州では債務免除に対して所得税が発生してしまう。今回の債務免除で$1000以上課税される人もいる(引用元:Indystar)。まずはID州の学生団体がこのポイントで訴訟してる。次に、共和党6州司法長官が今回の政府の決定は、州の財政を損なうとして訴訟を起こしていた(引用元:THE HILL)。このように9月から訴訟は次々に起こっていたのだ。

先週、バイデン政権は申請サイトを公開したので申請してくださいと大々的に発表していた。開始数日で2000万人が申請したということも数日後に発表。さらに、 WI州ブラウン郡納税者協会は水曜日、バイデン政権が実施した学生ローン債務免除を、下級審で控訴している間、阻止するよう最高裁に緊急要請したが、最高裁はコメントなしで却下した(引用元:ロイター)。このことで自信をつけたバイデン政権は、共和党の訴訟を非難しつつ、申請を11月中旬までに実施してくださいと繰り返していた。
その翌日、 連邦裁判所が控訴申し立てを検討する間、一時停止を発令した。バイデン政権に対して、控訴を検討している間は債務免除を正式に実施してはいけないとしている。
正直、連邦裁判所の検討期間がどれくらいになるのかは発表されていない。あくまでも今回は控訴の対象になるかの検討なので、控訴が棄却される可能性もある。そうすれば、バイデン政権は学生ローン債務免除を進めることができる。

正直、訴訟についてはどちらが勝つのか、そもそも控訴が認められるのか予測がつかないところがある。しかしながら、今回の大きなポイントは、中間選挙1カ月前に「 学生ローン債務免除の一時停止を連邦裁判所によって発令された」ということだ。しかも、控訴検討が長引く、あるいは、裁判が長引いて裁判所からの一時停止命令が継続したまま中間選挙投票日当日をむかえたら、民主党にとっては最悪の事態だ今、まさにそれが起こっている。


米国は三権分立が徹底している。大統領(行政)、議会、裁判所のどこか(たいていは大統領)が権力拡大を目指そうとしても、他の二者が抑制することで均衡状態を維持することが期待されている。ただ、この裁判所だって、訴訟をもとに動くので独断で動いているわけではない。今回は共和党州からの訴訟のため、州政府を法的に代表して訴訟を起こしている。その州政府は州民から権力を委ねられているわけだ。そういう視点でみると、今回の訴訟は、州vs連邦政府という視点でもみることができる。

何度かツイートしたが、今回の学生ローン債務免除をめぐる政権と訴訟については注視してみている。というのも、プログレッシブコーカスが主張するような政策は、こういった法的な課題を含むものが多いからだ。すでに現在の最高裁は「米議会で決めなさい」「州で決めなさい」という判決を出してきている。今の最高裁では、自分たちの政策が実現できないとわかれば、方向転換せざるおえなくなるだろう。オバマ政権時代から、行政府の権限拡大をすることで政策を実現させてきている民主党にとって、曲り角にきているともする。そういう意味でも、非常に興味深いのだ。


そういえば、某区議会議員の方が「 政治の決定で翻弄される大学生 」というコメントをつけて引用されていたが、どちらかというと彼らが政治家を動かしていると思う。
この学生ローン債務免除のムーブメントは、学生(卒業生も含む)団体が、学生ローン債務免除を訴え、それを実現してくれるような議員や大統領を代表として選んできた。その大半がプログレッシブコーカスだが。逆に、さきほどのIN州みたいに債務免除で税金が発生するので、訴訟している学生団体もいる。
翻弄されているのではなく、政治を活用しているのだ。受け身の学生も多いだろうが、能動的に政治を利用している学生団体というのを見落としてはならないと思う。むしろ、翻弄されるだけで受け身の学生が大半なら、大統領や議員だってこれを公約に選挙選を戦うことなんてことはないだろう。票取りができるから、どの議員(特にプログレッシブコーカス)もこれをつかうわけだし。

まあ動かしていながら、翻弄されていることは事実なので間違っているわけではないのだが少し補足しておいた方がいいなと思いここに書いておくこととする。