バイデン大統領は中道派と表現されていることが多い。確かにそういう部分もあるが、バイデン大統領の経済政策を知る上で一番おさえなくてはいけないのは、労働組合の存在だ。先月には、 全米の労働者の組織化を促進し、組合員数を増やすことを目的としたタスクフォースの大統領令も発表している 。バイデン大統領と労働組合の結びつきは、今後のバイデン政権の経済政策をみていくうえでキーになる重要ポイントなのだ。
18日、バイデン大統領はミシガン州にある自動車大手フォード・モーターの電気自動車工場を視察をした。 もちろん、UAW(全米自動車労働組合)のメンバーと視察。 演説では労働組合を持ち上げまくりですよ、以下から全文読めます。”the UAW elected me”とも発言していますね。上院議員時代は、州の労働者が4分の1ほど組合参加していた頃、組合員票を集めて当選していますからね、バイデン大統領は。
And I — you know, I want to — so everything that these workers, this historic complex, and this state represent is something that I hope gets modeled around the country. It’s about respect. It’s about dignity — the dignity of work.
https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2021/05/18/remarks-by-president-biden-on-a-future-made-in-america/
2021年2月、バイデン大統領は就任してから1ヵ月も経たないうちに、全米の労働組合リーダー10名を集めて会合を行っている(引用元:White House)
全米最大級の労働組合連合である米労働総同盟・産業別組合会議AFL-CIO だけでなく、IBEW、 LIUNA など主に製造業の労働組合のリーダーも呼ばれている。この会合後に、時には「 invite close friends into the Oval」もできるんだよと発言したいくらいだから、労働組合とのフレンドリーさをアピールしたい狙いもあったのだろう。
この時に参加した AFL-CIO議長リチャード・トルムカ氏は「バイデン大統領は、まだ自分がブルーカラーだと思っている。彼は労働者に受け入れられたいのであって、ウォール街に受け入れられたいとは思っていない」とまで発言している。また、民主党上院銀行委員会のブラウン委員長も同様の発言をしていて、「もっとも労働者をよくみていて、もっとも労働組合を重視する大統領」とまで発言している(引用元:WP)
どう考えてもバイデン大統領がウォール街の味方にはならないだろう。
とはいえですね、Gardianで痛烈に批判されているように、バイデン大統領って、労働組合に有利な法案可決させたりしたことないし、むしろオバマ政権時代に労働者からうらまれる貿易交渉やったりしているんですよね。そのあたりは水に流したんですかね?(引用元:Gardian/Opensecrets.org)
民主党の大きな支持基盤である労働組合
労働組合は、民主党の大きな支持基盤の一つだ。1930年代のルーズベルト大統領時代に、労働組合の支持基盤を組み込んでから強固な同盟関係になって今に至る。1984年から労働者に対する労働組合参加率は減少の一途をたどり、全米の労働者の10.5%しか組合に参加していない。しかし、影響力がないかというとそうではない。まず、彼らは投票率が極めて高い。さらに、献金もこの20年で3倍に増えて2020年には最高額に達している。
また、労働組合というと、自動車など製造業を思い浮かべがちだが、サービス業、教員組合、州や地方政府政府職員などの労働組合も含む。特に教員組合は力をもっていて、多くの連邦議員の代表を出していることも事実だ。ペロシ下院議長もそうだし、下院Way&Meansのニール委員長は教員出身の連邦下院議員だ。
労働者のためのEV普及促進
バイデン政権や民主党にとって、気候変動対策のための電気自動車、バッテリー、再エネなどの普及促進というのはタテマエだと思うのだ。
グリーンニューディール政策を掲げている急進左派のAOC議員やマーキー議員は、本気で地球の気候変動を懸念している連邦議員が一部いるのは確かだけど、どうもシューマー院内総務やバイデン政権はタテマエにしているだけだなぁと感じるところが多々あります。
特にシューマー院内総務(民主党)は、数年前から、「2030年までにアメリカで製造されるすべての自動車を電気自動車にし、2040年までに路上を走るすべての自動車をゼロエミッションにする」と意気込んで法案を何度も提出している。
これらは労働組合を巻き込んで実現させたい政策なのだ。 AFL-CIOだけでなく、UAW(全米自動車労働組合) 、IBEW( 世界最大のエネルギー組合)など組合からの賛同を得て法案を提示している。
一番最初に Clean Cars for America の法案が発表された2019年のプレスリリースでは、気候変動による影響を回避が目的とも書いてあるが、明確に雇用創出とも書いている(引用元:the verge/米民主党上院議員HP)
本当に米国で雇用創出ができるのか?という議論が度々起こる。労働組合が電気自動車やバッテリー工場を米国内でつくって、今よりも高い賃金の労働を組合員に提供したいと考えている。だから、彼らは献金して票をいれて、自分たちの代表を動かしている。それだけなんですよ。
労働組合出身を労働省高官や政権内部にかためるバイデン政権
バイデン大統領は、3月に、若くして労働組合員となり、市長、連邦下院議員とのぼりつめたマーティ・ウォルシュを労働長官に指名している。フォード政権以来の労働組合員の労働長官就任だ。
彼は、ボストン市長時代には、最低賃金$15、有給休暇などの労働者保護策を実現した人物だ。そんな人物が、連邦政府の労働長官に就任してしまったのだ。このバイデン大統領の指名およびウォルシュの就任は、労働組合から大きな称賛をうけている。
また、直近では、長年AFL-CIOに勤めていてAFL-CIOの元幹部テア・リーを労働省国際労働局の局長に指名した。このポジションは、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を含む、米国の貿易政策における労働条項の施行を監督する。
また、彼女は、自由貿易政策に批判的な立場だ。労働局では、すでにウイグル自治区での強制労働で作られた製品を精査しているが、中国との貿易交渉でこのあたりも入ってきそうだ。間違いなく、彼女は”労働者を中心とした貿易・外交政策 “にシフトさせていくだろう。(引用元:NPR)
政権が入れ替わると、根こそぎ高官や政府スタッフは入れ替わるのが通例だが、バイデン政権は、労働組合が敵対するとみなした政府高官を迅速に解雇した。また、労働者の保護を弱めたトランプ時代の規則を早い段階で覆している(引用元:ロイター)
特に、National Labor Relations Board (労働関係委員会)の調査・検察官としての役割を果たす役職であるピーター・ロブを就任日に即日解雇している。彼は、労働組合からみたら敵対的な人物とみなされていたからだ。
労働者と連邦政府との間の労働争議を裁く役割を担う「the Federal Service Impasses Panel」の前政権任命者も早々に辞任を要求している。(引用元:opensecrets.org)
昨日、イエレン議長は ”不平等は労働者の交渉力不足によって助長されている部分がある”とも述べているが、おそらくバイデン政権に残る限りは、労働者の交渉、すなわち、労働組合を重要視するような発言が続くだろう(引用元:CNBC)
ところで、 AFL-CIOトルムカ議長は、発言を強めていて、FRB理事の空席ポジションをうめるように何名かを推薦した。もちろん、FRB理事は上院議員の承認が必要なので、50vs50では極端な人事にはならないだろうが少し警戒が必要だ。(引用元:Bloomberg)
今後も、労働組合元幹部などの起用が続いていく可能性が多いにあるし、労働組合が敵対するとみなしている人物は政権内部に入り込めないようになっているということはおさえておいた方がよさそうだ。
労働組合が求める要求を進めるには立法化が不可欠。
ただ、ここへきて、バイデン大統領は、議会の助けを借りずに労働組合を支援する方法がなくなってきつつある。
先日米議会で可決したAmerican Rescue Planでは、最低賃金15$を盛り込むためにプログレッシブコーカスを中心としてサンダース上院議員などがかなり粘ったが、最終的にはバードルールの規則違反で除外された。
彼らが望む最低賃金15$は、結局のところ上院議会の60票の壁にぶつかっている。
また、労働組合としては、労働者の組合結成の保護を強化する法案(the Pro Act)を何がなんでも可決させたいと意気込んでいる。
この法案はおそらく財政調整法に入れるのは、バード・ルール違反になるだろうし、何名かの上院民主党議員も懸念点があって賛同していない部分もある。
立法化の壁はかなり大きいと思われる。たとえ、単純過半数で通過する法案であってもマンチン上院議員の壁がある。
民主党のマンチン上院議員はOpensecret.orgを視る限り、労働組合からあまり献金を受けていない。WV州の主要産業である炭鉱組合からは献金を受けているだろうが。このあたりもどうなるか、まだみえない部分が多い。