バイデン政権はAmerican Job Planに続き、4月末にAmerican Family Planを発表した。これらは、あくまでバイデン政権として米議会に提案・要求しているのであって、このプランがそのまま実現するわけではない。
大統領はFEMA予算など自由に使える予算も存在するが、米議会から承認されたほんの一握りの予算しか自由に使えない。国家の歳出・歳入は米議会が決めるのだ。大統領は、署名する・署名拒否のどちらかしかない。
だからこそ、大統領として具体的に提案する必要がある。だからこそ、大統領の議会演説は重要であり、米議会に提案・要求しているのだ。
さて、バイデン政権は、共和党議員も民主党議員も招いて超党派で American Job PlanとAmerican Family Plan を実現しようとしている”演出”をしているが、肝心の民主党議員指導部は超党派でやる姿勢はまるで見られない。財政調整プロセスで実現するというのが民主党指導部のコンセンサスだろう。
【1】法案可決までのスケジュール
財政調整プロセスを使うなら、予算決議を可決する必要がある。
予算決議が可決してから、各委員会への予算配分もできる。
その予算決議だが、まずは下院か上院予算委員会で予算案を作成・委員会採決で通過しないといけない。下院予算委員会を司るYarmuth議長が、予算決議は7月に可決するだろうと発言しているからそれ以上早まることはまずないだろう。
しかし、そもそも財政調整プロセスを使っても可決できないのではないかという懸念が2点ほどある。
一つ目は、マンチン上院議員が賛成するかだ。彼は超党派での法案成立をずっと呼び掛けている。バイデン政権の提案にも”uncomfatable”と発言して話題になった。インフラ投資に数兆ドル費やすことは賛成だが、あくまで橋・道路・水道・ブロードバンドに対しての投資に集中すべきと発言している。$2.2兆のインフラ法案を分割すべきとまで主張しているが、プログレッシブからは反対されている(引用元:The Hill)
もしかすると、マンチン上院議員は財政調整プロセスで進めることさえも反対するかもしれない。私個人の予想としては、財政調整プロセスで進めることを承認する代わりに、 アパラチアストレージハブの建設を盛り込むという取引をすると邪推している(引用元:上院エネルギー委員会)。WV州に大きな利益をもたらすプロジェクトなのだ。
二つ目は、 州税・地方税(SALT)控除上限撤廃の条項で民主党内部がもめている。この件をめぐって民主党下院議員の数名が控除上限撤廃を条項に盛り込まないと、法案に賛成しないと主張している(引用元:The Hill)
そもそもこの主張はかなり裕福な州(およびカウンティ)出身の下院議員が訴えている案件で富裕層にメリットがある。
しかしながら、このSALT控除上限撤廃することは、富の格差是正に反すると上院財政委員会で共和党・民主党の見解が一致してしまった。(引用元:Roll Call)。仮に下院で 州税・地方税(SALT)控除上限撤廃の条項 を盛り込んで可決しても、上院で否決されるだろう。そうなった場合、この数名がどう交渉するか定かではない。
【2】バイデン政権の提案から、米議会で変更・追加が入りそうな案件
バイデン政権の提案をうけて、民主党議員がすべて受け入れたわけではない。そもそもプログレッシブは、 10年間で6.5兆$~11兆$規模の財政出動にしたいと発言しているくらいだ(引用元:The Hill)。プログレッシブ・コーカスは決して少数ではなく、91名の下院民主党議員の大所帯だ。下院民主党議員が現時点で218名しかいないことを考えると、民主党内部最大のコーカスだ。おそらく下院議会での法案は、プログレッシブの意向が存分にはいった法案になるのではないかと考えられる。
さて、バイデン政権の提案から議会が大きく変更してきそうなのが以下の内容だ。まだ出てくるだろうし、漏れもあるだろうが、今のところ私が認識しているのは以下の点だ。
①薬価引き下げ・メディケア対象年齢拡大
民主党の上院財務委員長とエネルギー・商業下院委員長が「薬価引き下げ」「メディケア対象年齢を55~60歳への引き下げ」をAmerican Family Planに盛り込む意向を示した。バイデン政権が盛り込まなかった部分だが、少なくとも下院の法案では盛り込まれることになるだろう。
シューマー上院院内総務、ペロシ下院議長はこれを支持している。マンチン上院議員もここは支持しているはず。
一方で、メディケア対象年齢拡大はバード・ルール規則で除外されるという話もあるので、現段階ではなんともいえず。
②法人税率・キャピタルゲイン税率・所得税率の上昇
法人税率は、マンチン上院議員、コリンズ上院議員が28%上昇を支持しないと発言しているので、少なくともバイデン政権が提示した法人税率は実現しないだろう。マンチン上院議員は25%までの上昇としているので、そこが着地点かと。
キャピタルゲイン増税について、マンチン上院議員はピンポイントで発言をしてはいないけど、過去の投票からヒントを探ると、100万$の所得者に対して30%増税までは許容範囲ではないでしょうか。 2012 年バフェット・ルール(100 万ドル以上の所得者に対して最低でも 30%の所得税を課す法案)で賛成票入れたことがあるんでね。(参照元:マンチン議員公式HP)
最後に、バイデン政権は個人所得税最高税率を37%→39.6%に上昇することも提案している。これについては、そもそも2018年開始のトランプ減税前は、実施されていたから特に問題なく可決するのではないでしょうか。
③Child Tax Credit拡大を恒久化
バイデン大統領は、 Child tax credit増額を5年間延長を提案したが、Way & Means委員会ニール議長は恒久化することを発表している。
2000$→3000$/年(6~17歳)
2000$→3600$ /年 (6歳未満)
Tax Foundation は、 Child tax credit 増額が恒久化した場合、10年間で$1.6兆になると見込んでいる(引用元:The Hill)今回、American Family Plan合計で$1.8兆予算を発表しているのに、Child tax credit恒久化だけで$1.6兆…!
ニール議長は、American Family Plan前日に恒久化する方針を発表して牽制してきたくらいなんで本気だと思います。(引用元:WP)ちなみに、 Child tax credit 1年間控除で$1430億の赤字が発生すると…。
他にも、ウォーレン議員などプログレッシブは育児・教育分野への$7000億の投資 (引用元:WP) を提案しているので、薬価引き下げやメディケア対象年齢拡大を含めるとAmerican Family Planの予算は少なくとも$4兆は超えそうな気がしています。そうなると、プログレッシブコーカスが提案している 10年間で6.5兆$~11兆$ ってじゅうぶんありえると思うんですよね。
可決するかどうかではなく、あくまで下院が作成してくる法案の予算額ですが。
一方で、バイデン政権とだいたい足並みがそろいそうな法案もでてきていることは確かだ。
先々週、 5年間で$1100億の研究開発・投資法案が超党派で提出された。 AI、機械学習、半導体、量子コンピューティング、ロボット工学、バイオテクノロジー、バッテリーなどの研究開発などにあてる。(引用元:Roll Call)
バイデン政権の「science, research and development」はクリーンエネルギーまで含まれていたりするので範囲が広いが、ここはおおむね一致しそうな気もしないでもない。
$50 billion for the National Science Foundation
https://www.rollcall.com/2021/04/02/bidens-infrastructure-plan-would-boost-science-tech-rd-funding/
$30 billion in research and development aimed at spurring jobs in rural areas.
$40 billion to upgrade physical infrastructure of research labs in federal and university settings.
$35 billion for clean energy projects
$15 billion for climate change-related demonstration projects.
$50 billion for semiconductor research and manufacturing.
パラパラ出てきてはいるが、やはり予算決議がでてこないと、米議会の予算感がわからないのはある。イヤーマークに関してのロビー活動が続いていたらしいが、PBSによると、締切りが先週だったみたい。
6月頃に少しは話がでてくるかなぁ…という感じであるのでまだまだ詳細がみえない時期が続くだろう。