3/31(水)にPA州ピッツバーグでバイデン大統領が3兆ドルのインフラ投資計画” Build Back Better ”を発表すると明らかにした。その発表内容に注目が集まることは確かだが、鵜呑みにしすぎてもいけない。
というのも、バイデン大統領と、民主党議員の方針・意見の相違が目立つようになってきている。もともとプログレッシブ(急進左派)の勢いを抑え込む役割もあったバイデン大統領だが、ここへきて、マンチン上院議員との交渉まで必要になっていることが露呈してきた。
バイデン政権は、リーダーシップを発揮して米議会を引っ張るというよりも、米議会の調整役となり、上院議会で民主党全員を一致させる役割になりつつある。
そういうわけで、バイデン大統領のインフラ投資計画が発表される前に、いったん米議会で現状どうなっているか整理してみる。
法案可決予定の9月までの流れ
【1】7月までは、各委員会から五月雨式に法案提出される。
既にペロシ議長は、3/13に各委員会に次回の大型予算”Build Back Better”に関して法案作成せよと支持をだした参照元:The Hill)
民主党内部の中でも、財政調整プロセスを使おうとする方針の議員たちと、使わずに超党派で進めたいて法案可決したい議員たちで方針が分かれている。
財政調整プロセスの第一歩である予算決議がだされる予定の7月までは五月雨式に法案が出てくるであろう。既に提出された法案は後述する。
【2】7月に各委員会に配分される予算決議がでてくる
下院予算委員会のYarmuth委員長は、予算決議は7月に可決して、上下院可決は9月になるだろうと発言している(参照元:Roll Call)
財政調整プロセスの第一歩は、各委員会への予算配分を指示する予算決議をすることではじまる。要は、この予算決議が上下院で可決しないと財政調整プロセスに入れないのだ。
【3】7月~8月に 下院各委員会からやりたい放題予算が提出され可決
各委員会への予算委配分にそって、各委員会は予算案を発表してくる。すでに下院議会では以下のようにインフラと関係ない条項まで盛り込もうとしている。もはや、インフラ法案とよんでいいかどうかも疑問に思う。
・薬価引き下げ
・気候変動対策
・移民改革法案( 在米1,100万人に市民権を付与)
・最低賃金引上げ
・法人税率やキャピタルゲイン税引き上げ
・医療保険改革
・Child Tax Credit拡大を2022年以降も継続
(参照元:Politico)
義務的支出にしか財政調整プロセスは適応しないバード・ルールがあるので、税制管轄のWay & Means委員会の配分が少なくとも1兆ドル超えると予測される。
また、留意しておきたい点としては、 下院議員ではバイデン閣僚入りした議員がでてきたこともあり空席が増えている。3名反対すると法案が下院で通過できなくなっているので、少し注意が必要だ。
【4】上院議会では下院で可決した予算からいくつかの政策が除外。
マンチン上院議員も一部に反対表明。
まず、上院にはバード・ルールたる規則がある。この規則に違反するかどうかは、前回同様に上院顧問( Senate Parliamentarian)であるElizabeth MacDonough が判断することになる(参考資料:RollCall)。
法案がでてきたタイミングで、専門家から様々な意見があり、サンダース議員もシューマー院内総務も「最低賃金15$」はバード・ルールに違反していない!と言い切っていたが、結局、バード規則違反となり、この条項は削除された経緯を思い出すとわかりやすい。
現段階では、移民改革法案などはバード・ルールに違反するという見解が大半なのでたとえ盛り込まれたとしても、上院で削除される運命になるだろう。
次に、マンチン上院議員のハードルがある。
財政調整プロセスを使ったとしても、過半数の賛成が必要だ。共和党からの賛同者を得ることは極めて考えにくい。そうなると、上院議会で民主党議員が1人でも反対すると法案は通過できない。そうなると中道派であり化石燃料業界擁護のマンチン上院議員が反対する条項は削除せざるおえなくなるだろう。
マンチン上院議員は、石炭業界の代表者であり、”化石燃料を含めた”エネルギーミックスを重視している。
現在のところ、マンチン上院議員の発言としては以下3つだ。
・2~4兆$のインフラ投資には賛成。(ただし大幅な赤字にならなければ)
・マンチン民主党議員が法人税21%→25%支持
・インフラ法案については、財政調整プロセスを使わずに超党派で進めたい
前回1.9兆$法案の時に、失業保険給付について約1日議論が続いたため投票が遅れた。マンチン上院議員が妥協しなかったこともあり、バイデン大統領が仲介役に入って解決したのだ。最終的にはマンチン上院議員の意向通りに失業給付保険が $ 400/週→ $ 300/週に変更になり1週間伸びた。
【5】上院で可決した法案を再度下院で可決、大統領署名
前回同様、上院で可決した法案を下院が可決して大統領署名になり最終的に予算が成立することになるだろう。
ただ、先述した通り、 3名反対すると法案が下院で通過できなくなっているので、少し、注意が必要になることは留意しておいた方がいい。
すでに提出された法案や想定される予算
バイデン大統領の提案は大きく二つに分かれると報じられているが、もともと米議会でもいくつかの法案に分割されることが話されていた。ここではバイデン政権が検討している2つに分けて話を進める。
1つ目はインフラに焦点が置かれた法案、2つ目はChild Tax Credit拡大の延長や、カレッジ無償化などだ。
まず、1つ目のインフラについて。
米議会(下院エネルギー&コマース委員会)ですでに提出された法案があるが、これだけで9670億$の規模になっている。まだこれらが財政調整プロセスに入るか確定していないが、入る可能性はじゅうぶんにある。詳細はリンク先を。
① The CLEAN Future Act ($5650億)
―乗用車・トラックなどをすべてEVにするための取組( $1000億)
― carbon tax は含まれていない
② The LIFT America Act ( $3120億)
―クリーンエネルギーやエネルギー効率向上 ( $699億 )
> $3.5 billion for electric grid infrastructure
> $18 billion to help rapidly deploy new technologies aimed at reducing emissions
―電気自動車のためのインフラ構築( $418億 )
> $3.8 billion to reduce emissions at ports
> $12.5 billion to accelerate domestic manufacturing of batteries, power electronics
― ブロードバンド網の拡充$1000億
―飲料水インフラ投資 $510億
―医療関連施設 $300億
おそらくこの2つにシューマー院内総務の過去に提出した約$4540億の法案内容がほぼ盛り込まれることになるのではないかと予測している。
彼は、 米国で製造されるすべての車を2030年までに電気自動車にし、2040年までに米国内で走る自動車をすべて電気自動車にしたいという野望がある。 EV充電器を設置するための税控除や、工場をEV製造やバッテリー製造に改修する費用の補助金などを考えているのだ(参照元:the verge)
彼の提案は、米国内の主要な労働組合にも支持されている。労働組合は、米民主党の主要な献金団体の一つなので、そこから支持を得ているとすれば議員も賛成しやすいだろう。さらに、税控除関連なら財政調整プロセス適応になるので可決する可能性が高いかと思われる。
また、さらに以下2点が追加されると思われる。
③ 国の道路、橋、水路、鉄道を修復するために約$3000億
上院環境委員会委員長カーパー議員は、2019年の約$3000億の法案がスタートラインになると述べていて、これについては共和党10名の支持が得られるだろうと発言している(参照元:BBG)
2019年の時は、共和党議員を中心とした環境委員会で約$3000億規模で道路と橋の補修に関する予算を委員会で承認したことがあったが、本会議まではいかなかった(参照元:Roll Call)
共和党には道路族のように道路、橋、空港など建設業界の代表者がそれなりにいるので、インフラ投資じたいに反対ではないのだ。共和党が賛同するか否かは、インフラ投資の内容と予算規模になる。
④ 主に低所得層への住宅供給を拡大するための$2,000億
2020年時に下院で可決した $ 1.5兆インフラ法案でも盛り込まれた低所得者向け住宅投資1000億ドルも含めた住宅投資が今回も盛り込まれると思われる(参照元:ロイター / WP)
次に、2つ目の Child Tax Credit拡大の延長や、カレッジ無償化についてだ。
$ 1.9兆法案で既に可決したChild Tax Credit拡大は、ざっくり1年間で$1000億かかる。WPでは数年間延長と書かれているが、仮に5年間延長するとなると$5000億かかることになる。
カレッジ無償化やそれ以外についてはどうなるかまだ情報がでていない。
一方で、サンダース上院予算委員会委員長をはじめとした民主党議員は、次回大型予算でもDirect Paymentと9/6で終了する失業給付上乗せを継続したい意向を示している。(参照元:CNBC)これらが含められる可能性も多いにある。
$1.9兆予算をふまえると、ざっくり6700億$ほどかかることになる。
・1400$配布:$4220億
・失業給付増額:$2460億 (期間:3/14~9/6でざっくり半年分)
最後に、巨大な財政出動をするため、何かで歳入を補わなくてはいけない。国防費削減も一手であるし、あとはやはり増税になるだろう。
おそらく確定しそうなのが、法人税率上昇(21%→25%)だろう。上昇幅は、マンチン上院議員が支持した25%だと思われる。
富裕税、キャピタルゲイン税引き上げも話にでているが、マンチン上院議員次第であると思われる。
引き続き、マンチン上院議員への注目が集まることになるだろう。
マンチン上院議員に関する記事は、別途、書きます。