8月8日(土)に、トランプ大統領が、大統領令を出した。
大統領令の主な内容は、以下の4点だ。
・7月最終土曜日でなくなった失業給付を週400$で復活させること
・2020年末まで、給与税の納税猶予(期間:9/1~12/31)
・連邦機関が財政支援する賃貸住宅からの立ち退き猶予
・連邦政府が融資する学生ローンの利払い免除の延長 (9月末→12月末)
大前提として、連邦予算編成の権限は、議会にある。
大統領には、予算編成権限はない。連邦予算からの歳出を伴うものは、議会の承認が必要だ。「猶予」は行政権限で可能だろうが、「免除」は歳入に関わらうので難しいというのが基本理解だ。
この大統領令がでた時に、行政権限として、ここまでの範囲は、違憲になり、訴訟になるという話がでていた。しかし、ワシントン・ポスト記者が引用した司法専門家の見解では、違憲ではないとのことだが、別の問題が生じるようだ。
Top mainstream legal analyst says Trump’s executive order is not unconstitutional — this is largely consensus from interviews I’ve done thus far. Whether they are effective is a different matter https://t.co/KnwWog2ATd
— Jeff Stein (@JStein_WaPo) August 9, 2020
失業給付を週400$で復活できるのか?
災害救済基金から440億ドルを拠出を利用して、週400$を連邦政府として上乗せするとしている。ただし、これを実施するためには、州政府が連邦政府に上乗せ要請を行い、州政府も25%(すなわち週100$)を負担するというのが条件なのだ。
まず、州政府が連邦政府の条件を呑んで、週400$上乗せできたとしよう。
しかしながら、継続失業給付保険申請は、直近で1600万人もいるのだ。仮に、この人数が継続したのなら、連邦政府は週300$×1600万人で毎週48億$必要になる。そうなると、9~10週分の予算しかないことになる。
つまり、実現できたとして2か月半くらいのつなぎになるのだ。
次に、州政府が週100$×1600万人で週あたり16億ドル×10週分の予算を捻出できるかというと、極めて厳しいと思われる。
この1600万人の内訳では、100万人を超えるのはカリフォルニア州、ニューヨーク州、テキサス州の3つだ。この3州合計で失業者数の3分の1を占める。
CA州 2,817,289人
NY州 1,561,879人
TX州 1,247,674 人
データは、こちらを参照。 Insured Unemployment For Week Ended July 25
特にカリフォルニア州は財政難で、教育サービスをはじめとした公共サービスの予算カットでレイオフを続けている。
案の定、FOXニュースに出演したペロシ下院議長は、「州には資金がない」と反発した。
On Fox, Pelosi says “states don’t have the money” to fufill 25% of the extra unemployment benefits as dictated by Trump’s exec actions
— Chad Pergram (@ChadPergram) August 9, 2020
また、クオモ州知事も、「州が失業給付を25%も捻出できるわけないだろ、バーカ(意訳)」と言い放った。
Executive Orders can’t replace legislative actions.
— Andrew Cuomo (@NYGovCuomo) August 9, 2020
States can’t pay 25% of unemployment costs.
It’s simply impossible.
しかし、お金がなくても、FEMA( 災害救済基金 )からお金を借りることもできるようだ。そうなってくると、あとは州政府が借り入れしてでも、失業給付を上乗せすべきかどうかになってくる。
For this to work, governors will need to request aid, & states must share 25% of cost. This may require a new act of the legislature in some states (though if governors have the authority but not the cash, looks like they can borrow from future FEMA $$$ under 44 CFR 206.110) 3/ pic.twitter.com/vuR4Q17sJp
— Daniel Hemel (@DanielJHemel) August 9, 2020
尚、FOXの記者によると、トランプ大統領令の400$上乗せは、共和党議員の半数が反対しているとのことだ。半数は、200$にすべきだと主張し、半数は、上乗せはこれ以上すべきではないとしている。
共和党と、共和党であるはずのトランプ政権の足並みが全くそろっていません。
大統領権限で、期限を遅らせることはできても、免除は難しい。
残る3つについては、あくまで「猶予」なら、大統領権限で問題ないということのようだ。
・2020年末まで、給与税の納税猶予(期間:9/1~12/31)
・連邦機関が財政支援する賃貸住宅からの立ち退き猶予
・連邦政府が融資する学生ローンの利払い免除の延長 (9月末→12月末)
しかしながら、別の問題が発生する。まず、給与税について。
給与税は、雇用主が給与税から差し引いて支払う。 月1回の支払の場合、毎月15日までに前月の源泉徴収額を納税するとのこと(引用元はこちら)。ワシントン・ポストによると 一部の企業が給与税を数か月延期できるシステムを導入するのに数か月かかる可能性があるとのことだ。更には、雇用主が数カ月延期すると採用するとは限らないとのことだ。ただでさえコロナウイルス対策への余計な経費が掛かっている中、たった数カ月のためにシステム改修するところは少ないだろう。
Isberg said it may take months for some businesses to implement a system that can defer payroll taxes for a few months, delaying any potential boost to the economy. “It’s not clear employers broadly will adopt this,” he added. “It’s not clear employees will want to take it even if they qualify.”
https://www.washingtonpost.com/us-policy/2020/08/09/trump-executive-actions-economy-democrats/?hpid=hp_hp-banner-main_bailout-hill-545pm%3Ahomepage%2Fstory-ans
Unable to swing a deal with Democrats, Trump resorted to executive actions as concerns in Washington intensified about the economic distress — and the political fallout — caused by the pandemic.
残り二点の猶予延長は、既に大統領権限で実現していることなので、実現は可能だろう。
・連邦機関が財政支援する賃貸住宅からの立ち退き猶予(期限切れ→再延長)
・連邦政府が融資する学生ローンの利払い免除の延長 (9月末→12月末)
ただし、 住宅の連邦機関というのはファニー・メイとジニー・メイなので、彼らは8/31まで立ち退き猶予を設けている。彼らが再延長するかどうかというのは別問題なので、ここもまた問題になるだろう。
さて、いくつかの記事では、そもそもこれは民主党に圧力をかけるためのものだという話もあった。
この点については、効果があったようで、8/7(金)に民主党指導部とホワイトハウスは決裂したが、再度、交渉再開になるようだ。少なくとも、民主党指導部は、再開したいという旨を発言したとのことだ。