米議会7/10-21:2024年度予算にむけた動きが本格化/Students for Fair Admissions v. Harvardの最高裁判決と今後の展開

2週間の休会を終えて、米議会は再開。夏の長期休暇をはさみ、ここからは2024年度予算が決まるまで予算の話が中心になりますね。

黄色でカラーリングしてある日程が本会議開催日
https://www.majorityleader.gov/uploadedfiles/house_calendar_-_revised_march_2023.pdf

連邦政府の予算は9月末で2022年度が終わり、10月から2023年度に切り替わる。そのため、2023年度年間予算の話が中心になる。

2023年度予算は、今年の6/3に成立したFiscal responsibility Act of 2023 (財政責任法、以降はFRAと略します)の制約をうけることになる。FRAは、債務上限に関して注目されていた法案だったが、財政に関する条項の方が多い。FRAが2024年度予算について設けた制約をもう一度整理する。

Fiscal responsibility Act of 2023で制約をうける2024年予算

①国防費は2023年度の水準より△約3%、$280億多い$8863億に制限。
(3%というのは、米インフレ率の約半分に相当するので実質減額となる)
②非国防費(退役軍人給付は維持)は2023年度の水準より▼約9%、$700億少ない$7037億に制限
[予算編成に関して注意点]
注意1:2024年度と2025年度の年度予算法案がそれぞれの会計年度の1月1日までに制定されない場合、裁量支出は現在の2023年度より強制的に1%削減となる(PAYGO原則の復活)。つなぎ予算で可決することは認めていない。
つまり、
注意2:特定の部分で1%引き下げではなく、全体的な削減
1985 年均衡予算法(Balanced Budget and Emergency Deficit Control Act of 1985) に基づきOMB(行政管理予算局)が削減可能な範囲を算出することになる。
ただし、FRAは国防費(特に軍人給与関連)はこの自動削減の対象外としている。しかしながら、ウクライナ支援の予算などは削減対象になっていないので、予算成立しないまま1月1日をむかえると1%削減対象にある恐れがある。たかが1%といっても 国防費は$8863億から$8498億の削減となり、$365億ほど削減になる。
非国防費については計算方法が複雑なので割愛するが、現段階では1%よりもさらに削減する可能性がある。

参照元:『米議会6/5-9:FISCAL RESPONSIBILITY ACTの整理と政治的勝者・敗者 』https://ni225-topix.com/?p=9891
Automatic spending cuts would threaten infrastructure funding


FRA可決後にでてきた非国防費のさらなる削減

FRAは無事可決したのだが、70名もフリーダムコーカスを中心に共和党下院内から反対がでた。さらには、マッカーシー下院議長はフリーダムコーカスとの約束を破ったということで、フリーダムコーカス10名強が立法させない妨害にでた。そのことで、マッカーシー議長は追い込まれ、3つの約束をした。銃規制の決議は即対応したのだが、問題はFiscal responsibility actで決定した支出削減から追加で約$1000億の削減合意したことだ。これが実現すれば、国防と退役軍人費用を除く非国防費で約30%の削減となる。また口約束かと思ったが、すでに下院歳入委員長は Fiscal responsibility actで決められた上限よりももっと低い歳出で約1200億の削減になる予算を作成していると報道されている(引用元:Hill) 。とはいえ、実際の法案がでてくるまで正直わからないだろう。

https://www.pbs.org/newshour/show/far-right-house-republicans-demand-more-control-over-major-issues-in-the-chamber

政府閉鎖を防ぐために、早くもつなぎ予算準備?上院民主党も2024年度予算に着手

下院共和党幹部は早くも政府閉鎖を防ぐためにつなぎ予算(任意で決められた期間において、前年度と同様の支出を可能にする予算法案)を提出する見込みと報じられている。もう9月末までに共和党内でさえ合意できないということを予測しているのだな…(引用元:Roll Call
一方で、民主党上院歳出委員会も2024年予算にむけて着手する予定と報じられた。下院共和党がFRAからさらに$1200億削減するという動きをうけて、民主党側も対応する方針を示したということだ(引用元:Yahoo

というわけで、2024年度予算が決定するまで、年度予算の話を中心に米議会は動いていくことになる。FRAで共和党と民主党は協力体制できることがわかったので、政府閉鎖はないだろうが年内に予算が決まらなければ強制的に1%削減という混乱が訪れるかもしれない。といっても、削減できる予算を試算する期間があるので、急に混乱に陥るわけではない。
とはいえ、学生ローン支払い再開となりただでさえ消費が落ち込むことになるだろうに、さらに2024年度予算で社会保障を削られることになるのは厳しくなるだろう。どこがどう削られるかはこれからなので注意しておいたほうがいいだろう。


人種による優遇政策の終焉のはじまり/Students for Fair Admissions v. Harvard

先週の最高裁判決の続きだ。アファーマティブ・アクションについては誤解や偏った解釈が相次いでいるように感じたので皆のヒートアップが落ち着いてから書くことにした。

まず、どういった訴訟が起こっていたのかから説明しよう。今回、2つの訴訟について最高裁から判決がだされた。ハーバード大学とNC州立大学の両方に対して判決が下された。ハーバード大学は最高裁でだされた判決通り、遵守していくと声明をだしている(引用元:https://www.harvard.edu/
Students for Fair Admissions v. Harvard
Students for Fair Admissions v. the University of North Carolina

訴訟を起こしたのは、どちらもEdward Blumが代表を務めるStudents for Fair Admissions という団体だ。この団体は、大学入試において人種分類や人種優遇は不公平であり不必要であり違憲だと考えている団体だ。 学生の人種・民族は、競争力がある大学への入学を妨げる要因にも、助ける要因にもなるべきではない。米国のcivil rights movement を復活させようと訴訟を支援することをミッションとしている。彼らは、ハーバード大学やNC州立大学の入試は人種、肌の色、国籍による差別を禁じた 1964年制定の公民権法6条に違反していると訴えていた。ちなみにこの団体には黒人もそれなりにいるので、アファーマティブ・アクションを廃止したい黒人がいるということだ。

Students for Fair Admissions is a nonprofit membership group of more than 20,000 students, parents, and others who believe that racial classifications and preferences in college admissions are unfair, unnecessary, and unconstitutional. Our mission is to support and participate in litigation that will restore the original principles of our nation’s civil rights movement: A student’s race and ethnicity should not be factors that either harm or help that student to gain admission to a competitive university.

https://studentsforfairadmissions.org/about/

最高裁から下された判決

今回、アファーマティブ・アクション(人種による優遇)は、合衆国憲法修正第14条で定める法の下の平等に違反していると最高裁判事6対3で判決がでた。志願者の人種を評価軸にいれることで、評価されない人種だった人たちを差別してきた。それは市民の平等権に違憲であるということだ。

修正第14 条[市民権、法の適正な過程、平等権] [1868 年成立]
第1項 合衆国内で生まれまたは合衆国に帰化し、かつ、合衆国の管轄に服する者は、合衆国の市民で あり、かつ、その居住する州の市民である。いかなる州も、合衆国市民の特権または免除を制約する法律 を制定し、または実施してはならない。いかなる州も、法の適正な過程によらずに、何人からもその生 命、自由または財産を奪ってはならない。いかなる州も、その管轄内にある者に対し法の平等な保護を否定してはならない。

https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2569/

ただし、ロバーツ長官は人種が自分の人生にどのような影響を与えたかについてエッセイや願書で語ることまで禁じたわけではないと意見書に書いている。大学入試過程において、人種ではなく個人の経験に基づいて扱われるべきとしている。ロバーツ最高裁長官の「人種による差別をやめる方法は、人種による差別をやめること“the way to stop discriminating on the basis of race is to stop discriminating on the basis of race,”は名言になりましたね。

“Nothing in this opinion should be construed as prohibiting universities from considering an applicant’s discussion of how race affected his or her life, be it through discrimination, inspiration, or otherwise,” Roberts wrote. “But, despite the dissent’s assertion to the contrary, universities may not simply establish through application essays or other means the regime we hold unlawful today.”

https://www.politico.com/news/2023/06/29/supreme-court-ends-affirmative-action-in-college-admissions-00104179

余談だが、米国では人種分類の”White”は中東系も含まれる
ヨーロッパ、インド以西のアジア、北アフリカ “の出身者が含まれる。ウェールズ系、ノルウェー系、ギリシャ系、イタリア系、モロッコ系、レバノン系、トルコ系、イラン系(引用元:WSJ)

Edward Blum 氏の次の標的

アファーマティブ・アクション廃止活動に30年を費やしたBlum氏の発言では

「大学入試はゼロサムゲームだ。人種を理由に入試のハードルを下げれば、別の人種のハードルを上げることになる。これを否定する人は誰もいませんとまで発言している(引用元:WSJ
そして、彼は人種を理由に優遇にする大学入試だけでなく、公共政策などについて徹底的に戦うと宣言している。今回の判決に従わない大学についても訴訟を続けると宣戦布告している。

また、注目すべきは彼が別の団体 Alliance for fair board recruitment を立ち上げていることだ。2021年、ナスダック証券取引所の規則「上場企業は2026年までに少なくとも1人の女性と1人の人種的マイノリティもしくはLGBTQを自称する人を役員に任命し、報告書を公表することを義務づける」 SECに対して訴訟を起こしている。次はここに注目が集まるだろう。

ただし、大学入試におけるアファーマティブ・アクションとは異なり、雇用については1964年公民権法で、人種・肌の色・宗教・性別・国籍による雇用差別が明確に禁止されている。「雇用主が多様性、公平性、包括性、アクセシビリティ・プログラムを実施し、あらゆる経歴の労働者が職場で平等な機会を与えられるようにすること」は、依然として合法であることを明確にしている(引用元:VOX)なので、「役員で義務化」になるとロバーツ長官の言葉を借りれば「 「人種による差別をやめる方法は、人種による差別をやめること」となり 違憲になる可能性がでてくるかと思われる。

尚、Edward Blum氏はレガシー入学にも反対している。ただし訴訟するまでには至っていない。一方で、経済的に恵まれない家庭をはじめとした世帯年収一定以下の子供、家族ではじめて大学進学する子どもに対して優遇することは賛同を示している(引用元:Edward Blum: My battle against affirmative action

レガシー入学への訴訟

レガシー入学とは、 卒業生と裕福な寄付者の子女を入学選考で優遇することだ。今回の最高裁判決をうけて、 今度は3つの団体からハーバード大学にレガシー入試の中止を求める訴訟が行われた。並行して 米教育省にも苦情を申し立てた。

Lawyers for Civil Rights on behalf of Chica Project
African Community Economic Development of New England
Greater Boston Latino Network

公民権運動の大きな母体であるNAACP (全米黒人地位向上協会)もレガシー入学の廃止を求めている。
連邦政府の資金を受けるプログラムにおいて人種差別は禁じられているので、このあたりは重要なポイントになってくるだろう。バイデン大統領は教育省にレガシー入学について見直すように指示をだしている(引用元:NPR

まあこれも最高裁までいくとすると数年単位、長ければ10年後になるのではなかろうか。