米議会6/5-9:Fiscal Responsibility Actの整理と政治的勝者・敗者

Fiscal Responsibility Actは6/3(土)に大統領が署名して法案が無事に成立しました。署名したという声明文はこちら
今週も上下院議会は開催します。

$1兆の米債券が発行される見込み

特別措置の残高は6/1時点でわずか$228.9億まで下落していてこれから大量の米債券発行が待っている。米財務省の入札スケジュールをみると、現在までは$1700億あまりの入札スケジュールしか告知されていない。6/6・6/8にアナウンスされるのでそこである程度みえるだろう。なお、その両日にアナウンスされた入札日は6/7~6/13になる(引用元: treasurydirect.gov

米連邦債務上限問題が決着したことを受けて、米国債の大量発行が始まるが、一部の金融機関は7-9月(第3四半期)末までに発行高が1兆ドルを超える可能性があるとみている。米財務省は5日に合計1700億ドル余りの財務省短期証券(TB)の入札を実施する予定。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-06-04/RVPBPODWX2PS01?srnd=cojp-v2

Fiscal Responsibility Act の採決

下院は最終的に314票で可決。投票記録は公開されています(引用:CLERK
Aye(YES): 314, NAY(No): 117,Present(白票): 0,Not Voting(投票に参加せず): 4。ここ数十年は党派的な投票が多い中、稀にみる超党派の賛成となった。

下院民主党で最大勢力のプログレッシブコーカスは118会期は102名いるのですが、結果的に半分も入らなかった。Jayapal議長は”  “a majority” oppose the bill, adding that “it could be“ enough for the group to actively whip against it. “とは発言していた(引用元:axios.com
副議長Omar議員がまさか賛同していたとは驚き。それ以外のWHIP,CHAIR EMERITIの幹部は全員反対。プログレッシブコーカス内も割れているのだなあ。ちなみに、サンダース議員の後継者としてささやかれているKhanna(カンナ)議員はNOに投票。また、これからCA州上院選で争う予定のAdam Schiff, Katie Porter ,Barabra Leeは Schiff議員だけYES。

続いて反対票が多かった下院共和党。多くはフリーダム・コーカスだが、RSCからKevin Hern現議長はNO、元議長の Jim Banks議員も投票参加していなかったことは留意しておきたい。
また、全米税制改革協議会代表(Americans for Tax Reform)のGrover G. Norquist氏はIRA法で$800億予算追加していた分を取り返したことを称賛している。やはり Americans for Tax Reform の影響は強い。

一方で、上院議会は意外にギリギリだった。共和党からは31票が反対票を投じ、民主党議員からはFetterman, Markey, Merkley, and Warren, そして無所属サンダース議員の5名がNOで票を入れた。この時の修正案は1法案につき10分間で投票終わらせる!というシューマー上院院内総務からの強い指示が入り、本当に各法案の投票を10分間で終わらせて本採決に進んだ。それにしてもRule14でこれだけ審議時間をショートカットできるとは驚きでした。

Fiscal Responsibility Act を再整理

①2025年1月1日まで債務上限を停止

合衆国の信用において金銭を借り入れる権限は米議会にあります(合衆国憲法Section8)今回は借り入れる上限金額を設定したのではなく、2025年1月1日までは上限を設定せずに借り入れることが可能になります。まあ、”無制限に”借り入れ可能ということですね。
過去の経緯でいくと米議会は
①借り入れ上限額を$●までに増やす or
② 借り入れ上限額を設定するのを●年●月までやめる
という2通りで進めてきました。今回は②で対応したということですね。

2024年11月総選挙後にまた債務上限問題がきますが、たいてい「次の政権・議会に予算とあわせて決めさせよう」が流れになる傾向が強いので6~8か月程度の延長になるのではないでしょうか。なので、債務上限問題が本格化するのは2025年中盤~後半ではないでしょうか。

②2024年度の非国防裁量支出を$約7040億が上限。2025年度の裁量支出は1%増加が上限。

今回は義務的支出の話ではなく、裁量的支出の削減。裁量的支出は毎年議会で議決しなくてはいけないほうの単年度予算。

2024年度
・国防費は2023年度の水準より△約3%、$280億多い$8863億に制限。
(割合でいうと、米国のインフレ率の約半分)
・非国防費(退役軍人給付は維持)は2023年度の水準より▼約9%、$700億少ない$7016億に制限

2025年度
・裁量支出は1%増加が上限。裁量支出の上限が$1兆606億
・国防費$8952億、非国防費 (退役軍人給付は維持) $7107億ドルに制限

[注意が必要]
・2024年度と2025年度の法案がそれぞれの会計年度の1月1日までに制定されない場合、裁量支出は現在の2023年度より1%引き下げられる。特定の部分で1%引き下げではなく、全体的に削減される。さらに、2024年度と2025年度の支出上限は、これらの支出上限を超えた場合に自動的に支出削減が発動される隔離措置によって強制(  PAYGO原則の復活)

③すでに成立していた COVID-19関連の$約280億の取消

the American Rescue Plan Act (ARPA), Coronavirus Aid, Relief and Economic Security (CARES) Actで成立していた予算でまだ利用されていなかったCOVID-19関連の約280億ドルを取消 。
ただし、The American Rescue Plan Actで割り当てられていたState and Local Fiscal Recovery Fund (SLFRF)とLocal Assistance and Tribal Consistency Fund (LATCF)の基金(約651億)は取り消されない。なので、連邦政府から州・地方政府・カウンティに直接支給される地域社会への投資は引き続き行われる。

④IRAで可決していたIRA(内国歳入庁)への予算増加$800億のうち$200億を取消

⑤許認可改革

・環境影響評価書については2年、環境アセスメントについては1年という期限
・環境影響評価書と環境アセスメントのページ数を制限 など
・ウェストバージニア州からバージニア州に至る建設中の天然ガスパイプライン「Mountain Valley Pipeline」の完成を早める。

(ある意味、一番重要だった環境訴訟を起こせる期限は設定されなかった)
→そもそも国内エネルギー・鉱業の許認可に7~10年間かかっているうえ、さらに環境訴訟が起こっていて一時停止が頻繁にある状況で許認可改革をして国内エネルギー・鉱業の活性化・増産を目指す法案であったがちょっと目的が達成したかは微妙な感じがしている。

⑥補助栄養支援プログラム(SNAP)への要件

Temporary Assistance for Needy Families (TANF)の変更。補助栄養支援プログラム(SNAP)受給者の就労要件を設ける年齢の引き上げは現在の49歳から2023年度は51歳~、2024年度は53歳~、2025年度は55歳~となる。ただし、退役軍人とホームレスはこの就労要件を除外。

⑦連邦学生ローンの支払い再開

米国教育省に対して2023年8月29日までに連邦学生ローンの支払いを復活させるよう指示。ただし、米議会が学生ローンについて何らかの措置を講じた場合はそれに従う。

なお、現在、学生ローン債務免除(Student Cancel Loan)は、最高裁の判決待ちで今月でてくる予定。これは連邦政府が学生ローンの債務を免除することが違憲になるかどうかである。この最高裁の判決がでた場合、バイデン政権が昨年大統領令で告知した「学生ローン$1万(ぺル・グラントは$2万)の債務免除」が実現できなくなるということだ。

バイデン政権は前回の学生ローン支払い停止措置を延長した時に支払い再開は期限(あるいは最高裁の判決)から2か月後に支払い再開としていましたが、今回の立法で少し支払いタイミングが早まりましたね。

参照元:https://www.naco.org/resources/legislative-analysis-counties-fiscal-responsibility-act-2023#link-1

Fiscal Responsibility Act をめぐる内部事情と勝者・敗者

・マッカーシー下院議長は下院議長として大きな成果を残したことになる。また、交渉代理人のマクヘンリー議員・グレイブス議員は成果を出したことで指導部入りの道が開いたことになる。交渉代理人のぐらいブス議員の発言としては
“I have no doubt his position is safe, and we’re going to keep marching forward, continuing to build upon the historic wins that he’s been able to achieve this year,” (引用元:Politico
ちなみに、フリーダム・コーカスがマッカーシー下院議長の解任を求める行動をほのめかしていたが、現在は解任させる票をもたないことも認めた。これからも衝突し続けるだろうが、解任させるまでは力がもてていない。
そういえばマッカーシー下院議長は、ポピュリストだといわれていてマコネル上院院内総務と進め方も政治理念も全然違うことを懸念されていたが、マコネル上院院内総務が一歩引いて状況を見守ったことでうまくバランスを保てたのだろう。
後から出てきた話だが、マクヘンリー議員のMcHenry joked that it wasn’t easy to build a relationship because “you got two Irish guys who don’t drink.” の発言がおもしろい。マッカーシー下院議長もバイデン大統領もアイルランド人系移民なのに、酒を飲まないんだから関係築くの簡単ではないよと(引用元:Bloomberg

・バイデン政権を救ったのは間違いなくOMBのヤング局長だろうと思う。バイデン政権が再選すれば、OMBヤング局長は出世しそうですね(引用元:ブルームバーグ)。ヤング局長はねじれ議会&政府と現実的な解決をした(“divided government” and a “reality.” )と発言している(引用元:Roll Call
バイデン大統領は「超党派で法案を成立させた」とアピールできるのでWinnerだという見解が多いんだけど、「超党派で法案成立させたものの、現在の民主党の最大勢力であるプログレッシブコーカスから大きな不満」を残したので、そこまでポジティブに働かないだろう。
そもそも民主党は「クリーンな債務上限法案(歳出削減などほかの立法なしに債務上限を引き上げること)を望んでいたのだから。

・交渉からシューマー上院院内総務を外すという案は、シネマ上院議員の案だったとは…(引用元:Politico
プログレッシブコーカスの政策って、だいたい無所属シネマ議員(当時は民主党)とマンチン議員(民主党)の反対にあって潰されてきたが、今回は救われたというのが非常に面白い。
また、マンチン議員やキャピト議員はパイプラインを推進するためにグレーブス議員やマッカーシー下院議長に売り込みいったり、バイデン政権に売り込みにいったという隙のなさはすごい。

・大統領選挙につながる動きとしては、トランプ前大統領もデフォルトに関する発言をしているが、WSJが「トランプの発言に大半の共和党議員(150名近く)が耳を傾けなかったことは影響力低下を示す」と書いているのは覚えておきたい(引用元:WSJ

・共和党大統領予備選に出馬しているティム・スコット議員は、債務が無制限”no limit”に設定されているので反対せざるをえないと反対表明をだしている(引用元:axios

次は2024年度予算が焦点へ

米国の年度は9月末で終わる。しかも今回のFiscal Responsibility Actに沿って2024年度予算を作成するのはまた厳しいものがあるだろう。
今回、マッカーシー下院議長と民主党ジェフリーズ下院院内総務は協力体制に入れたこともあり、従来は懸念される政府閉鎖もさらに楽観視されるのではないでしょうか。上院のシューマー民主党院内総務とマコネル上院院内総務は何度も政府閉鎖を回避してきているので問題ないとみています。
とはいえ、まあ、非国防費 ▼約9% も削ることになるし、学生ローンは支払い再開しているわで、どこを削るかの協議は非常に難しいことになりそうな気はする。

平均で△6%近いインフレが起きている状況を考慮すると、国防費でさえ各年の支出を減らすことになる。実質的に削減される可能性が極めた高いため補正予算を組む必要がある動きがある(引用元:The Hill