着々と進む対中国へのデリスキングDe-Risking

先日、バイデン政権および米議会はインドを最重要国と定義した。さらに、21世紀の行方を定義するのは米国とインドの二か国とまで定義したことは重く受け止めなくてはいけない。

一方で、中国については明確に言及はしていないもののデリスキング(De-Risking)をするとG7で宣言している。 (引用元:G7広島首脳コミュニケ)
デリスキングといっても、①何をリスクとするか②そのリスクをどこまで低減するのか、あるいは完全に取り除くかでかなり対応が変わってくる。
今回は、G7で合意形成のために、①と②まで決めずに「デリスキング」をするとした側面が強いだろう。7か国それぞれでリスクは異なるだろうし、どこまで軽減したいかの判断(特に欧州は域内や国内での合意形成)に時間がかかる。
完全にリスクを除外しようとするのなら、デカップリングとほぼ変わらなくなることも考えなくてはいけない。また、モノを言わぬ相手が対象ならデリスキングも容易かもしれぬが、相手は中国だ。少しのリスクを取り除こうと動くと、すぐに対抗措置をきて急激にデカップリングに向かっていく可能性はおおいにあるだろう。

という前提をおいたうえで、米国・中国・欧州の動きを整理したい。

米国の規制

米国の半導体輸出規制をPwCがとても細かくきれいにまとめてくれているので転載。少なくとも1年間は使えると思う完全保存版

加速する米中デカップリング:米国主導の対中半導体輸出規制とその事業影響
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/geopolitical-risk-column/vol4.html

今度は、さらにクラウドまで規制に動き始めたようだ。もちろんまだ米商務省からの正式な発表ではないが。

バイデン米政権は、中国企業を対象に、米国のクラウド・コンピューティング・サービスの利用を制限する準備を進めている。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。米中関係が一段と緊張する可能性がある。
 関係者によると、この新たな規制が採用されれば、アマゾン・ドット・コムやマイクロソフトといった米国のクラウド・サービス企業は、高度な人工知能(AI)半導体を使用するクラウド・コンピューティング・サービスを中国の顧客に提供する前に、米国政府の許可を求める必要が出てくる可能性が高い。

https://jp.wsj.com/articles/u-s-looks-to-restrict-chinas-access-to-cloud-computing-to-protect-advanced-technology-97a1b98a

欧州の動き

日本、韓国は早々に米国に従う意向を見せていたが、問題は欧州だった。
PwCが示したシナリオでも、米欧日韓が連携して対中規制をしないと意味がない。とはいえ、やっと数日前にEU首脳は、EUの中国への依存度を下げることにコミットすると宣言した。とはいえ、中国との貿易に大きな恩恵をうけるフランス・ドイツはまだあれだが、少なくともEUとして中国で重要な鉱物・原材料の依存を減らし、必要な場合にはリスク回避と多様化を図るとしている。まあこれだとデリスキングといってもかなり弱い。とはいえ、一歩一歩着実に進んでいる(引用元:ロイター

で、その欧州にとってデリスキングのパートナーとして日本が選ばれているということだ。また、日本だけではなく欧州は先週も韓国と同様の協議会を開催し、AIやサイバーセキュリティなどの技術で協力することで合意している(引用元:ロイター

ちなみに、韓国・日本・欧州は共通の価値観があると欧州が認めていることは覚えておいたほうがいい。 democracy, human rights, the rule of law(法の支配)があると認識された国家ということだ。韓国に対して突っ込みたい気持ちはあるが、これもインドと同様に定義されたのだから突っ込みをぐっとおさえてそうだと定義したほうがよさそうだ。

We reaffirm that our partnership is grounded in common interests and the shared values of democracy, human rights, the rule of law, effective multilateralism, open, free and fair trade, and the rules-based international order.Joint statement

https://www.consilium.europa.eu/en/meetings/international-summit/2023/05/22/

そして訪韓した後に、今度は日本にブルトン欧州委員(域内市場担当)が訪問して半導体に関する協力覚書を締結した。ふと思うと、韓国はEUミシェル大統領、フォンデアライエン欧州委員が訪問しているが、日本は欧州委員メンバーか…とも思う。

日本とEUは半導体について、サプライチェーンの混乱に対処するための早期警戒メカニズムの構築や次世代半導体に関する研究開発、人材育成、最先端半導体のユースケースの創出、及び半導体分野における補助金の透明性確保に向けた取組に関する協力覚書を締結した(引用元:経済産業省

とはいえ、欧州もエネルギー依存がロシアから米国にうつっているので米国に逆らえなくなうのではないだろうか。すでにヨーロッパの輸入LNGの半分以上を供給しているのは米国だ。欧州はLNGスポット購入のほうが都合がいいことや、長期契約を望むカタールやLNG生産量をこれ以上増やすことが難しいアルジェリアからは調達が難しく、これからも米国からの輸入が伸びるだろう。

https://www.reuters.com/business/energy/us-lng-exports-both-lifeline-drain-europe-2023-maguire-2022-12-20/

米国にとっても、2022年、欧州はLNGの最大顧客となった。

https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=55920

ちなみに原油については、欧州はまだロシア依存が続いているが米国からの輸入量を最も増やしている。ちなみに、2022年12月にはもう欧州域内の輸入は米国がトップでシェア18%を占めるようになった(引用元:CNN

中国の対抗措置

さて、米国や欧州の動きを黙ってみている中国ではない。中国はイエレン財務長官が訪米間近ということを狙ってなのか対抗措置をだしてきた。
Critical Raw Materials Allianceによれば、中国は世界のゲルマニウムの60%、ガリウムの80%を生産している。ガリウムヒ素の生産は複雑で、世界でも数社しかできない。1社はヨーロッパにあり、他は日本と中国にある。ベルギー、カナダ、ドイツ、日本、ウクライナはゲルマニウムを製造できる。一方、日本、韓国、ウクライナ、ロシア、ドイツはガリウムを生産している。影響は限定的だとみなされている(引用元:CNBC

中国商務省と税関総署は3日、半導体などの素材になるガリウム関連の製品を輸出規制の対象にすると発表した。ゲルマニウム関連も許可制とする。8月1日から中国の輸出業者は当局の許可がない限り輸出できなくなる。米国が主導して先端半導体の輸出など対中規制を強めてきたことへの対抗措置とみられる。

https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2023/07/wto-37.php