米議会5/22-27:債務上限の進捗と今後の展開/上院は休会、下院は26日(金)から休会予定

民主党シューマー多数党院内総務は上院議会を予定通り休会にした。マッカーシー下院議長からの要求に応じ、シューマー院内総務は交渉に入らないことを受け入れたようで「下院で可決したら上院も動く」と宣言している(引用元:TheHill

https://www.senate.gov/legislative/resources/pdf/2023_calendar.pdf

現状を解決できるとしたら、 民主党シューマー多数党院内総務と共和党マコネル少数党院内総務の2人だろう。しかし、どちらも動く気がないようだ。

5/19(金)の交渉決裂

米国東部標準時間の5/19(金)に、突然、New Big4(バイデン政権側はOMBのヤング氏、リチェッティ氏。マッカーシー下院議長側はグレイブス下院議員、下院金融サービス委員長マクヘンリー議員とマッカーシー下院議長スタッフ)による会合が中断された。バイデン政権が共和党の要求する歳出削減に応じない構えだったからだ。 6/1より前に交渉妥結できるか?の記者からの質問に対して“No.”って 下院金融サービス委員長マクヘンリー議員 は回答している (引用元:Roll Call

正直、なぜ交渉代理人を下院共和党指導部でもなく委員長でもないグレイブス下院議員を 交渉代理人をとして選んだのか理解できなかったが、 Pro-化石燃料の人物で、energy, climate and conservation タスクフォースの議長ではある。おそらく、 RSCにとって最優先である「Lower Energy Costs Act」を実現させるための人物 として送りこまれたのだろう。また、 下院金融サービス委員長マクヘンリー議員はいわずもがな歳出予算の観点からだろう。
また、バイデン政権側もOMBヤング氏を選んだことは正しい。党派を超えて議員と交渉できるヤング氏の交渉能力が高く評価されていた。超党派で交渉できる人物がどんどん両党の指導部から消えていく中で貴重な存在ではある(引用元:CNN) ただし、ヤング氏の選定を高く評価したのは超党派で話し合いができる無所属シネマ議員や共和党コリンズ議員だ(引用元:PoliticoBloomberg
この時点で私も気づけなかったが、超党派で考えられる前提がある議員との交渉はスムーズだったとしても現在の下院共和党(RSCでさえ)とは困難ということだろう。
まあ、ヤング氏も超党派で考えられるといいつつ、プログレッシブコーカスがヤング氏の選定に喜んでいたくらいだから、そういう人物ということだろう。

①共和党が要求する歳出削減

過去に一度ブログに書いているが、再掲する。共和党の要求は すでに可決した「The Limit, Save, Grow Act of 2023」 をバイデン政権・民主党が受け入れることだ。 この法案は3月末までまたは 約1年間分の債務$1.5兆引き上げを含めたうえで、以下が含まれている。 現時点では、マッカーシー下院議長はどれかを要求からおろしたという発言はない。

The Limit, Save, Grow Act of 2023に含まれた法案節税額
●2024年裁量的歳出を2022年レベルに削減($1300億の削減)
→ちなみにこれだけで260万人もの雇用が失われ失業率増加になるとムーディーズのレポートは示している
●2024~2033年まで裁量的歳出約2.48%だった歳出増加率を年1%まで上限を設ける
$3.2兆
IRAのクリーンカー購入に対する数千億ドルの税額控除廃止
IRAのクリーンエネルギーの投資税額控除・生産税額控除の廃止
IRAのクリーンエネルギー促進に関する大部分の廃止
$5400億
大統領令による学生ローン$1万免除の廃止とIDR( 連邦学資ローンの収入に基づく返済に関する新規則案 )廃止
※学生ローン免除については最高裁判決で実施が阻止される可能性もある。判決は6月末までにでる予定。
$4600億
メディケイド、補助栄養支援プログラム(SNAP)、および貧困家庭一時支援(TANF)の受給者に月80時間の就労最低時間を設け、就労訓練プログラム参加義務化。年齢も18-55歳まで拡大。$1200億
COVID19基金で使われなかった基金を終了$300億
『Lower Energy Costs Act』の許認可改革による効果$30億
IRA(インフレ抑制法)で可決されたIRSへの$800 億予算追加の取消により富裕層や脱税から税金取り立てできなくなると見込まれる金額$-1200億
上記合計$4.2兆

②バイデン政権側の2024年度予算案に対しての考え方

バイデン政権は共和党の要求に対して、過去に歳出削減の大統領案は示したとしている。これは3月に発表した2024年度大統領予算案のことを指している。この予算案は簡単に言うと現在の歳出からさらに追加して合計$6.8兆の歳出増をする一方で、年間所得40万ドル以上の人への増税・キャピタルゲイン税40%・自社株買い税など大増税することで 10年間で約3兆ドルの米国赤字を削減 するものだ(引用元:ロイター

まあ要はお互いの予算を提示して、どちらも現時点では一歩も引いていないということだ。
マッカーシー下院議長の”Agreement is ‘Possible’ By Week’s End”という発言や、”making progress Thursday toward a bipartisan deal ”というメディアはなんだったんだろうといいたいところだが、合意できるという楽観視は「(あなたたちが私たちの要求を受け入れるならば)合意できる」ということを意図していたのだろう。


今後の流れ

米財務省は5月18日時点で、財務省の現金残高は570億ドル強だと発表した。イエレン財務長官は法人税の税収が入る6月15日まではもたないとしている(引用元:ブルームバーグ

5/21(日)のマッカーシー下院議長とバイデン大統領の電話協議もたいした進捗なくおわった。バイデン大統領が帰国した22(月)に会合を設ける予定が決まった。一方で、 New Big4(バイデン政権側はOMBのヤング氏、リチェッティ氏。マッカーシー下院議長側はグレイブス下院議員、下院金融サービス委員長マクヘンリー議員とマッカーシー下院議長スタッフ) による交渉は5/21(日)夕方からすでに再開している。

正直、 あと数日で「THE LIMIT, SAVE, GROW ACT OF 2023」に対抗する法案が民主党あるいは超党派で出てこないと、6/1には審議が間に合わないと思われる。 下院はフリーダム・コーカスの要求で年初から投票まで法案に目を通すために最低72時間(3日間)と設けると規則つけている。上院も全会一致以外なら最低でも数日必要となる。下院の最低72時間で投票して、上院が全会一致になったとしても4~5日はかかる。25日には法案が発表されないと6/1には間に合わないと予測している。何より、リモート投票を一切認めていない上院議会は30日まで休会なので議員はワシントンを離れている。

また、バイデン大統領とマッカーシー下院議長がなんとか合意にこぎつけたところでまた別の問題が待っている。正直、民主党プログレッシブコーカスと共和党フリーダム・コーカスって真逆なのでどっちかが反発することになる。どちらも背後に集団票を抱える支持団体がいるからそりゃあ簡単に妥協できない。

1. バイデン政権とマッカーシー下院議長が合意するか
2-1.民主党上院リーダーのシューマー院内総務がその案に合意するか
2-2.民主党内のプログレッシブコーカスがその案に合意するか
3.共和党下院のフリーダム・コーカスがその案に合意するか

まあ両者の言い分はあるだろうが、いずれにせよ「バイデン政権の時に、(テクニカル)デフォルトが起こった。経済危機に陥った」と有権者は判断してしまうのでオバマ政権の時と同様にバイデン政権側が妥協することになるのではないでしょうか。逆に厄介なのは「オバマ政権の時に、共和党の要求を大幅にのんだことで失敗した!共和党の要求は聞いてはいけない!」になっているほうが問題なのだと思う

あと、正直、Xデーがよめないのも問題だ。どちらかがあるていど交渉を受け入れて交渉妥結になるが時間だけ足りなそうなら、「米国の債務に上限を設けることを一時的に停止する」という魔法のような打ち手もある。
ツッコミどころは満載の打ち手だが、彼らはあくまでルールで動く。なので、ルールに従って「一時的に停止する」ということなのだろう。

憲法修正第14条発動は訴訟になって混乱するだけ

正直、憲法修正第14条はもう発動するつもりではないだろうか。
最初は上院議員5名程度がバイデン大統領に要請していたレベルだったが、遂に上院民主党議員の要請も10数名を超えた。
民主党上院No.2のダービン院内幹事でさえ、最適な判断ではないが、それしか選択肢はないみたいな発言を先週した(引用元:The Hill

さらに、下院民主党プログレッシブコーカス65名の議員からも「共和党の要求に譲歩するな。憲法修正第14条発動せよ」とバイデン政権に対して正式に要請があった(引用元:Politico)。

バイデン大統領およびバイデン政権は憲法修正14条を否定していたが、ついに “I’m looking at the 14th Amendment as to whether or not we have the authority — I think we have the authority,”  とは発言しはじめた(引用元:The Hill

このパワーバランス、さすがとしか言いようがないが、バイデン大統領はだいたい民主党議員からの圧力で動く。学生ローンキャンセルだって、散々「大統領権限では難しい」としていたのに、最後は大統領令で学生ローンキャンセルの大統領令をだした。はっきりいって同じような流れだ。

繰り返すが、連邦議会は強い予算権限をもつ。それは合衆国憲法第一章第8 条[連邦議会の立法権限]が明確に示している。
①歳入歳出コントロール②米債務の支払い③合衆国の信用で国債発行において唯一の権限をもつのは米議会だけだ。 これを忘れてはいけない。

第8 条[連邦議会の立法権限]
[第1 項]連邦議会は、つぎの権限を有する。合衆国の債務を弁済し、共同の防衛および一般の福祉に備 えるために、租税、関税、輸入税および消費税を賦課し、徴収する権限。但し、すべての関税、輸入税および消費税は、合衆国全土で均一でなければならない。
[第2 項]合衆国の信用において金銭を借り入れる権限
[第5 項]貨幣を鋳造し、その価格および外国貨幣の価格を規制する権限、ならびに度量衝の基準を定める権限
[第6 項]合衆国の証券および通貨の偽造に対する罰則を定める権限

https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2566/

憲法修正第14条のどこに債務を大統領が支払えるなんて書いているのか?

法律により授権された合衆国の公の債務の効力は、暴動または反乱の鎮圧のための軍務に対する恩給および賜金の支払いのために負担された債務を含めて、これを争うことはできない。但し、合衆国 およびいかなる州も、合衆国に対する暴動もしくは反乱を援助するために負担された債務もしくは義務につき、または奴隷の喪失もしくは解放を理由とする請求につき、これを引き受けまたは支払いを行っては ならない。かかる債務、義務または請求は、すべて違法かつ無効とされなければならない

https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2569/

法的根拠として債務上限を乗り切ろうというのは、民主党がお得意の典型的なgovernment overreaches(政府の権限を超えた行使)だ。法律専門家によって意見が分かれるのはある意味当然で、専門家じたいもgovernment overreachesを認める派と始原主義や原点主義の考え方になるからだ。
なお、 始原主義者は合衆国憲法を「建国の父」の考えに基づき解釈すべきと考える人で、原典主義者は規定の当初の意味や用語の正確性に焦点を当てた解釈を行う人。まあどちらも合衆国憲法原理主義と考えればわかりやすいのではないだろうか。

オバマ政権の時でも一度却下された話だ。

正直、混乱するだけだと思うので悪手でしかないが、  憲法修正第14条を法的根拠として債務上限を一時停止あるいは債務支払いを続けたとしても、 訴訟されるのは目に見えている。ただし、発動してから、裁判所により一時停止命令がでるまで数日~1週間は時間稼ぎができるのではなかろうか。