下院議会は予定通り休会に入った。上院議会は開催しているが、今週は4日間の開催で5/5~5/8は休会予定。上院議会は開催しているといっても、民主党議員が1名長期病欠していて49名の議席しか確保できていない。50名になるとマンチン議員・無党派に鞍替えしたシネマ議員の政治力が強くなってしまい、上院では政府高官承認さえうまく動かせていない。バイデン大統領が就任から1年以上経過したが、1200ほど上院承認が必要なポジションのうちたった500名しか承認できていなくて今も90名ほど上院承認手続きで止まっている。先日退任したウォルシュ労働長官の後任Julie Suも上院保険・労働委員会では突破したが本議会で承認されるかは未だわからない(引用元:Senate panel advances Biden Labor nominee Julie Su)
The Limit, Save, Grow Act of 2023 が下院議会にて217対215で可決
下院共和党議員で4名反対がでたものの217名の議員が「 The Limit, Save, Grow Act of 2023」の賛成に投じた。反対すると宣言していたIA州下院議員を賛成に変更させたのはマッカーシー下院議長の勝利だ。
さて、前回のブログから「The Limit, Save, Grow Act of 2023」に少し変更が入ったのでCBO試算(CBO Scores the Limit, Save, Grow Act)を参考にしながら改めてまとめる。まず、この法案は3月末までまたは 約1年間分の債務$1.5兆引き上げを含めたうえで、以下が含まれている。債務上限法案とよばれているが、それ以外にもこれだけの法案が含まれた内容となっているのだ。
The Limit, Save, Grow Act of 2023に含まれた法案 | 節税額 |
●2024年裁量的歳出を2022年レベルに削減($1300億の削減) →ちなみにこれだけで260万人もの雇用が失われ失業率増加になるとムーディーズのレポートは示している ●2024~2033年まで裁量的歳出約2.48%だった歳出増加率を年1%まで上限を設ける | $3.2兆 |
IRAのクリーンカー購入に対する数千億ドルの税額控除廃止 IRAのクリーンエネルギーの投資税額控除・生産税額控除の廃止 IRAのクリーンエネルギー促進に関する大部分の廃止 | $5400億 |
大統領令による学生ローン$1万免除の廃止とIDR( 連邦学資ローンの収入に基づく返済に関する新規則案 )廃止 ※学生ローン免除については最高裁判決で実施が阻止される可能性もある。判決は6月末までにでる予定。 | $4600億 |
メディケイド、補助栄養支援プログラム(SNAP)、および貧困家庭一時支援(TANF)の受給者に月80時間の就労最低時間を設け、就労訓練プログラム参加義務化。年齢も18-55歳まで拡大。 | $1200億 |
COVID19基金で使われなかった基金を終了 | $300億 |
『Lower Energy Costs Act』の許認可改革による効果 | $30億 |
IRA(インフレ抑制法)で可決されたIRSへの$800 億予算追加の取消により富裕層や脱税から税金取り立てできなくなると見込まれる金額 | $-1200億 |
上記合計 | $4.2兆 |
IRAのクリーンエネルギーの投資税額控除・生産税額控除の廃止について補足。エタノール・バイオ燃料だけはIRAで可決した税控除を継続する。IA州連邦下院議員の交渉で勝ち取った。控除を削除するなら The Limit, Save, Grow Act of 2023 に賛成票投じないとごねた勝利(Iowa biofuels credits protected in new deal, presidential candidate wants to cut them)
IA州レイノルズ州知事はマッカーシー下院議長と交渉したIA州下院議員を称賛している。「IA州エタノール産業のために、税控除を維持してくれた!IA州経済に$60億以上貢献することになる」と。IA州で生産されたとうもろこしのうち60%がエタノール生産につかわれてのは知らなかった…(Gov. Reynolds Statement Commending Iowa’s Congressional Delegation on Ethanol Victory )
次のステップ:ボールはバイデン政権と民主党に投げられた
民主党・バイデン政権はそもそも共和党下院が党内で法案をまとめられると考えていなかったようで、完全に状況を見誤り面を食らった状態だ (White House regroups after McCarthy’s debt ceiling success)
マッカーシー下院議長が取りまとめた法案がフリーダム・コーカスの意図にそったものを発表してきたことも驚いたし、それをなんとかまとめたのも驚いた。正直、マッカーシー下院議長の大勝利だ。共和党下院内がまとまったことで、やっと債務上限問題は共和党下院vs民主党上院の戦いに入った。
もちろん、この法案のままでは、シューマー民主党上院院内総務が宣言した通り”dead-on-arrival”になる運命で上院で可決するはずがない。 バイデン大統領も拒否権行使すると発言している。 今のままだと、民主党が進めないことに非がある状態だ。自分たちが理想とするクリーンな債務上限のみの法案(Clean Debt Limit Bill)を可決する必要がある。しかしながら、序盤に書いたように1名の長期病欠がいるため思うように法案可決ができないのだ。マンチン上院議員は、無制限の債務上限には大反対しているので、彼と交渉した上で上院を可決する必要がある。
この法案じたいは廃案になるが、共和党はこの法案を交渉の出発点にしている。さらに債務上限のXデーも迫っている。TAX デーは4/18に終わったばかりで、これでやっと 債務上限を現行法定の31兆4000億ドルから引き上げる期限となるXデーが判明する。 債務上限を引き上げないと何が起こるかというと、①社会保障費が払えない②米国債の利払いができない③米国債の新規発行ができない④ 連邦公務員や軍隊の給与、退役軍人手当が支払えないなどが起こる。2011年にはS&Pグローバルが米国を格下げしたことで混乱が生じ、S&P500も▼17%下落した(引用元:ウォール街が目を背けるリスク、米連邦債務上限と政府デフォルト)
2024年大統領再選を宣言したバイデン大統領は、債米国デフォルトは絶対避けたい。だとすると、民主党は共和党案からどれかを妥協する必要がでてくるだろう。民主党が望む債務上限のみの法案(Clean Debt Limit Bill)可決は難しいのではないだろうか。
ただ、共和党も The Limit, Save, Grow Act of 2023 の中からどれか一つだけ実現できるといわれても党内でまとまれるのか怪しい。
フリーダム・コーカスは 2024年裁量的歳出を2022年レベルに削減($1300億の削減)と 2024年裁量的歳出を2022年レベルに削減($1300億の削減) を最優先にしているが、RSC内の調査では 『Lower Energy Costs Act』 の優先が最も高いようだ。
まあ交渉がもたもたしているうちに、共和党支持団体(米商工委会議所)やメガドナーから 債務上限のみの法案(Clean Debt Limit Bill)をさっさと可決しろと圧力をかけられるという可能性もある。
まあこればっかりはもう少しXデーがせまらないとわからない。ただ、共和党支持団体やメガ・ドナーの圧力に対してフリーダム・コーカスのメンバーが対応するかどうかというのは正直わからない。
5/11のCOVID19非常事態宣言解除まであと少し
さて、 バイデン政権は5月11日に国家非常事態宣言を解除すると発表した。
これに伴い、タイトル42が解除されるため、 毎日1万人の移民が流入されると想定されている。今年入ってからは毎月13~15万人の流入だったんだが、倍増する可能性があるようだ(US to expand migrant processing abroad after Title 42 policy ends)
また、解除されると学生ローン免除の根拠も消失することになるのでおそらく裁判も負けることになるだろう。次週は、先日書いた非常事態宣言解除にともなう影響について書きます。