米議会5/15-20:米財務省の特別措置残高は$880億/2011年の債務上限引き上げタイムライン振り返り

債務上限の交渉の中心になっている下院議会のスケジュール。今のところ5/29のメモリアルデーを含む1週間は休会。
5/15~18の審議・投票スケジュール詳細はWeekly sceduleを確認ください

マッカーシー下院議長と民主党の交渉にはほぼ進展がない。民主党は憲法第14条発動を推進!?

正直、5/9(火)は平行線でおわったようだ。民主党は未だに債務上限引き上げのみの立法を要求していて、共和党が要求する歳出削減にまったく応じていない(引用元:Bloomberg)。 ホワイトハウスは共和党下院の最優先アジェンダである許認可改革「Lower Energy Costs Act」 に目をむけているようだけど、一番のキーマンである民主党シューマー上院院内総務はまったくそんな様子がない(引用元:Politico

バイデン大統領はマッカーシー議長と16日に会談する見通しだと発言。16日は米議会が10時~正午に審議があるようなので朝一番か夕方になるのではないだろうか。ただ、” it wasn’t finalized and could change”とあるので変更になる可能性があるようだ(引用元:Bloomberg
本当にG7にむけて17日に米国を出発できるのかねぇ。

2011年の時より債務上限引き上げ交渉はかなり厳しい状況という見解をする人が多い。私もそうみている。
民主党上級顧問を務めたThomas Kahn氏によると、なぜより厳しい状況かというと3点あるとしている(引用元:The Hill
①2011年よりも共和党が要求する歳出削減額が増額している
(2011年は10年で$2兆みこみで妥結したが、今回は難しそう)
②下院フリーダム・コーカスがデフォルトを受け入れている
③マッカーシー下院議長は議長職につくためにフリーダム・コーカスに譲歩した部分が多くあり、それが民主党との交渉の足かせになっている

まあ多くの人がこの理由には納得する。②については、果たして何名の議員がどこまで受け入れているかというところには見解が分かれそうだが。間違いなく数名~10名前後の共和党下院議員は加速主義( accelerationism )の発想をしているので、デフォルトさせることで一度破壊したいという思いをもっていてもおかしくない。
ついでに私からもう一つ付け加えると、民主党も2011年に共和党の要求に応じて歳出削減した苦い経験としてもっているので、失敗を繰り返さないようにしていること。要は歳出削減に応じない構えなのよね。まあ どちらの党も「超短期の債務上限引き上げ」を実施して交渉続けようと言い出しにくい状況。どんなに早くても1週間前くらいからしか言えなそう。

そんな中で、上院民主党は憲法第14条発動して債務上限を防ぐことは大統領がもつ権限だと主張しはじめている。債務上限を超えても大統領権限で借り入れられる権限があると主張している議員が増えてきた。司法委員会委員長のダービン民主党院内幹事は、法廷闘争に発展して決して良い選択肢ではないと認めつつも “I personally feel that we should test that and I think that the language is very explicit in that amendment”とか発言しちゃってるし(引用元:The Hill

ちなみに、 憲法第14条発動やプラチナコインについては先週詳しく書いたので詳細はこちらをご覧ください。


特別措置の残高は6/10時点で$880億

米財務省は12日、連邦政府債務上限の到達後も支払い履行など資金をやりくりしてきた特別措置について、5月10日時点であと$880億しか残されていないことを明らかにした。5月の支払いで大きい金額はSocial Security benefit関連(1回約$250億)あるんだが、5月17・24日に支払いが予定されている。となると、bipartisanpolicy.orgがだした最新資料を参考にすると6/1のMedicare支払いが乗り切れないことになる。
おそらく問題は6/1・2を乗り切れるかどうかではないだろうか。これが乗り切れれば、6/15に四半期に一度のタイミングで訪れる税収入が入ってくるため7月までは乗り切れるとされている。

bipartisanpolicy.org

また、満期を迎える米政府債務が 6月だけで$1兆あることも留意していく必要がある。

bipartisanpolicy.org

テクニカル・デフォルトで一時的な遅れだと思われマーケットはさほど影響をうけなかったとしても、メディケア・年金・退役軍人給付が支払われないことになるので一般消費者にも影響は大きいのではないだろうか。再選を目指すバイデン大統領にとっては大きなダメージになることは間違いなさそう。

ちなみに、 1989年に財務省での事務作業の手違いによって3種類の国債で償還が遅れる事態が生じてデフォルトを起こしている。この不祥事によって金利が上昇し、返済遅延によって損失を被った投資家らが訴訟を起こしたことがあるということ。 ただし、この時は米議会で意思表示は決定した後の事務手続きの問題であって、今回は借入権限のある米議会が可決できないのでは話が異なるだろう


参考になる2011年を振り返り

今回の債務上限引き上げ問題で最も参考になるのが2011年だ。その時のXデーは
当時も大統領と議会の構成が同じでねじれていた。オバマ大統領・共和党ベイナー下院議長・民主党リード上院院内幹事ね。当時、バイデン大統領も副大統領として交渉の中心にいた一人だ。あと当時はガイトナー財務長官ね。イエレン財務長官と異なり、ガイトナー財務長官は議員と交渉していた。
この時のXデーは2011年8月1日だが、S&P500が反応しはじめたのは7/25以降と1週間前から反応していき、債務上限引き上げが8/2に可決したにも関わらず8/5、8/6に株価が最も下落した。米10年債利回りは7/25付近から下落を続けている。ドルインデックスも金価格もみたが、そんな大きい動きというのはなかったといっていいのではないだろうか。

当時、債務上限引き上げ法案が可決したにも関わらず、S&Pは米国債の信用格付けを下げた。経緯を少しまとめている。

2011年7月14日:S&Pの長期・短期格付けクレジット・ウォッチ・ネガティブ(CreditWatch with negative) 入り。今後90日以内に米国の長期格付けを引き下げる可能性が少なくとも50%ある見解を示していた。
①債務上限を引き上げず債務不履行をおこす可能性
②議会と行政が中期的な財政健全化計画に合意する可能性
格付けを維持するためには4兆ドル規模の歳出削減策を打ち出す必要があるとの見解を示す(引用元:ロイター)

2011年7月後半の米議会の動きは、これをもとにして箇条書きしてみる
このような流れになり、Xデーから残り1週間が勝負となった。
———————————–
7/19:下院共和党がCut, Cap and Balance Act of 2011を可決
7/20:オバマ元大統領が下院共和党主導の上記法案を非難
7/25:民主党リード多数党上院院内総務が別案を発表(10年間で約2.7兆ドルの支出を削減)
7/26:共和党ベイナー下院議長、下院共和党内のティー・パーティー派をまとめるのに苦戦するが、なんとかまとめる
7/29:下院共和党は上院リードを否決
7/30:上院民主党は下院ベイナー案を否決
7/31:オバマ大統領、交渉をまとめたと発表Budget Control Act of 2011
8/1:米下院でまとまった交渉案を可決
8/2:米上院でも「 Budget Control Act of 2011 」可決して、オバマ大統領署名
———————————–

問題はある意味ここからで、 「 Budget Control Act of 2011 」可決したにも関わらず、2011年8月5日:S&Pが米国の信用をAAA→AA+に格下げする。主な理由は、中期的な財政の安定確保には$4兆削減が必要と見解を示していたが、歳出削減規模が$2.4兆規模にとどまったことだ。
フィッチ・レーティングスとムーディーズ・インベスターズ・サービスが米国債を「トリプルA」に据え置いた。

なお、2011年8月8日は米国の信用格下げに伴う連鎖格下げがおこった。
米債券保有比率が高い米保険会社の格下げ、 連邦住宅ローン銀行10行、担保が主に米国債の 清算機関3社(NSCC、FICC、OCC)の格下げ、米国債保有比率が高い債券ファンドの格下げ、地方債の格下げが起こった(引用元: 野村資本市場研究所


7/25から8/8でS&P500が▼16%ほど下落しているが、その大半は格下げによる動きだと推測される。今のところ格付け会社から何か発信されたような形跡はないが、2011年を振り返ると「 ②議会と行政が中期的な財政健全化計画に合意する可能性 」の部分は今後注意が必要なように思われる。
というのも、どちらの党も歳出増加を容認しつづけてきたからだ。今回も共和党は10年間で$4兆超えの歳出削減案をだしているが、民主党は到底受け入れないだろう。