5/9-5/12米議会再開:バイデン政権は債務上限の代替案を模索、 憲法修正14条発動とプラチナ$1兆コイン発行

https://www.majorityleader.gov/uploadedfiles/one-page-2023-house-calendar.pdf

下院議会は4月末に「The Limit, Save, Grow Act of 2023」を可決して、バイデン政権および民主党に債務上限問題のボールを投げた。
まずは5/9(火)にバイデン政権と米議会Big4(シューマー上院院内多数党総務・マコネル上院少数党院内総務・マッカーシー下院議長・ジェフリーズ下院院内総務)に会合をもつが、特に交渉が進むとは思えない。
民主党シューマー上院院内総務は、下院可決後にclean debt ceiling(歳出削減などをつけずに、債務を引き上げるだけの法案)を未だに求めている(引用元:Shumer newsroom)。
一方で、マコネル上院院内総務を中心として上院共和党議員40名議員は「歳出削減なしの債務上限引き上げを支持しない」と署名した(引用元:The Hill
マコネル上院院内総務が債務上限問題解決の一番の糸口だと思われるが、あまり積極的に動く気がなさそうだ。マコネル上院少数党院内総務がこのような姿勢で挑むなら、民主党はなんらかの歳出削減には応じざるおえないだろう

また、何度も書いているが、上院民主党は1名欠席が続いている。そのため、党派的な投票になるような法案は投票できない状態が続いている。粛々と判事承認は続いているが。NYタイムスは病欠が続いているファインスタイン議員に辞任を迫る記事まで公開した(引用元:NYタイムス
正直、ファインスタイン議員が出席しないとさらに民主党は窮地に陥ることになるだろう。フィリバスター突破のためには60票必要で民主党は50議席しかない。1票の議席数が非常に重いのだ。


「The Limit, Save, Grow Act of 2023」 の詳細はこちらを確認ください。

バイデン政権は代替案を模索: 憲法修正14条発動とプラチナ$1兆コイン

① 大統領による憲法修正14条発動 は実現しても訴訟に直面

バイデン大統領は憲法修正14条の発動をちらつかせはじめている(引用元:ロイター)。米議会を必要とせずに債務上限問題を解決する案はオバマ政権時代も熱心に行われていたが大前提をおさえておく必要がある。
合衆国憲法第8 条[連邦議会の立法権限]が示すように、 ①歳入歳出コントロール②米債務の支払い③合衆国の信用で国債発行において唯一の権限をもつのは米議会だけだ。 これを忘れてはいけない。

第8 条[連邦議会の立法権限]
[第1 項]連邦議会は、つぎの権限を有する。合衆国の債務を弁済し、共同の防衛および一般の福祉に備 えるために、租税、関税、輸入税および消費税を賦課し、徴収する権限。但し、すべての関税、輸入税および消費税は、合衆国全土で均一でなければならない。
[第2 項]合衆国の信用において金銭を借り入れる権限
[第5 項]貨幣を鋳造し、その価格および外国貨幣の価格を規制する権限、ならびに度量衝の基準を定める権限
[第6 項]合衆国の証券および通貨の偽造に対する罰則を定める権限

https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2566/

バイデン大統領は憲法修正14条の発動をちらつかせはじめている。合衆国憲法修正14条は第1~5項まである。 今回話題にあがっているのは憲法修正第14条第4項だ。 憲法修正第14条は1868年、南北戦争終結3年後に制定されている。南北戦争の南軍だった州の州議会が、将来、連邦政府(北軍)債務を否認したり、旧南軍の債務を保証したりするのではないかという懸念に基づいて、部分的に盛り込まれたものである。

法律により授権された合衆国の公の債務の効力は、暴動または反乱の鎮圧のための軍務に対する恩給および賜金の支払いのために負担された債務を含めて、これを争うことはできない。但し、合衆国 およびいかなる州も、合衆国に対する暴動もしくは反乱を援助するために負担された債務もしくは義務に つき、または奴隷の喪失もしくは解放を理由とする請求につき、これを引き受けまたは支払いを行っては ならない。かかる債務、義務または請求は、すべて違法かつ無効とされなければならない

https://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2569/

正直、ここにどこにも連邦政府の債務を認めるとは書かれていない。
これを法的根拠として債務上限を乗り切ろうというのは、民主党がお得意の典型的なgovernment overreaches(政府の権限を超えた行使)だ。法律専門家によって意見が分かれるのはある意味当然で、専門家じたいもgovernment overreachesを認める派と始原主義や原点主義の考え方になるからだ。
なお、 始原主義者は合衆国憲法を「建国の父」の考えに基づき解釈すべきと考える人で、原典主義者は規定の当初の意味や用語の正確性に焦点を当てた解釈を行う人。まあどちらも合衆国憲法原理主義と考えればわかりやすいのではないだろうか。

まあ、 憲法修正第14条を法的根拠として債務上限を一時停止あるいは債務支払いを続けたとしても、 government overreaches を毛嫌いする共和党州の司法長官から訴訟されるのは目に見えている。ただし、発動してから、裁判所により一時停止命令がでるまで数日~1週間は時間稼ぎができるのではなかろうか。

② $1兆プラチナコイン発行の実現可能性

憲法修正第14条発動は government overreaches とほぼ言い切れる一方で、プラチナコイン発行については米議会承認なしに財務省に発行権限が与えられている。驚くべきことに、”any value”と書かれており、制限が設けられていないのだ。しかしながら、合衆国法典第31編第5111条(a)(1)では、第5112条に記載されているコインを “財務長官が United Statesの需要を満たすために必要と判断する量を製造するよう指示している。また、日常的な商取引には使用されない貨幣を、「一般の需要を満たす“to meet public demand” 」のに十分な量を製造し、製造費と販売費を超えない費用で一般に提供することもできる(5112条(i)および(f)項)

31 U.S.C. §5111(a)(1), which instructs the secretary of the Treasury to produce the coins described in Section 5112 “in amounts the Secretary decides are necessary to meet the needs of the United States.” Those coins, from pennies to half-dollars, are specified—along with their compositions—in 31 U.S.C. §5112.
Congress further expressly authorized the Mint to strike commemorative coins and collectibles that may be sold to the public at a markup. It may also produce pure gold and silver coins—typically not used for everyday commercial transactions—sufficient “to meet public demand” and made available to the public at a cost not exceeding the production plus marketing expenses (Section 5112(i) and (f).

https://uscode.house.gov/view.xhtml?path=/prelim@title31/subtitle4/chapter51&edition=prelim

https://www.heritage.org/debt/commentary/can-us-mint-fix-the-debt-ceiling-crisis-and-conjure-1-trillion-platinum-coin

ちなみに、超保守のヘリテージ財団でさえ$1兆プラチナコイン発行は合法だと書いている(引用元: heritage.org
イエレン財務長官は バイデン政権が債務上限突破を回避するために1兆ドル(約129兆円)のプラチナコイン(法定通貨)を鋳造しようとしても米連邦準備制度理事会(FRB)が受け入れる可能性は低いと述べ、この問題で議会を回避するために浮上しているアイデアを一蹴した(引用元:WSJ

しかしながら、「FRBとしては何ら規定がない。何をするかはFRB次第だ」 とも書かれていることはおさえておきたい。$1兆プラチナコインについては、法的権限が財務省にはあるが、FRBがそれを受け入れるかは別問題という話だ。まあもし受け入れたらFRBの独立性は事実上終了するだろうなあ…


6月は債務上限Xデーと米最高裁判決が重なる

さて、今週の新たなニュースとしては資金不足になるXデーがだいぶ見えてきたことだ。
6月1日までに債務上限を引き上げなければならないとイエレン財務長官は5/1に議会指導部宛に書簡を送付した。6月初旬、早ければ6月1日には政府の全債務を履行し続けることができなくなるだろうとのことだ。CBOも4月の税収が予想を下回ったため「6月上旬に財務省が資金不足に陥るリスクが著しく高まっている」と警告した(引用元:The Hill

まずは5月9日の バイデン政権と米議会Big4 の話し合いだが、何も解決せずにすぐに5月末が経過してしまうだろう。
で、6月というと最高裁の判決が6月下旬~7月前半に集中する。特に注目するのがBIDEN V. NEBRASKA (バイデン政権の学生ローン債務免除)だ。

何度か繰り返し書いているが、これは違憲になるとみているので無効になると思う。つまり、学生ローン債務免除ができませんでしたということになるので、学生ローンを抱えている約4500万人は$1万(ぺルグラントは$2万)の債務キャンセルできないことになる。 判決がでたあと60日後に支払いは再開される。あるいは、学生ローン一時停止期限も6月30日までなので、60日後(8月末)に再開される。 ちなみに、 「The Limit, Save, Grow Act of 2023」 ではこの金額を IDR( 連邦学資ローンの収入に基づく返済に関する新規則案 )廃止とあわせて$4600億の歳出が削減されると見込んでいる。
つまり、この$4600億分の支払いが学生ローンを抱えている人たちに重くのしかかってくるということだ。