マッカーシー下院議長は先日に債務上限引き上げを含む『The Limit, Save, Grow Act of 2023』を発表して今週採決にかけるようだ(引用元:speaker.gov) しかしながら、スカライズ下院多数党院内総務がすでに発表しているスケジュールをみる限りは、まだ予定に入っていない(引用元:www.majorityleader.gov)。ちなみに来週の5月1週目は下院は休会予定。
共和党内部で詳細を交渉して可決が見込める票を集めてから投票にするかと思いきや、可決が見込めない状態でいきなり投票にかけるようなので私はやや驚いた。 5名以上反対がでたら法案内容の再交渉になる 。
可決に必要な218票は獲得できますか?という問いに対しては、マッカーシー下院議長はぐらかした(引用元:Bloomberg)。BBG邦訳記事では「今週下院通過へ」と書かれているが、フリーダム・コーカス5名以上は反対でると思うけど、どこまで党内交渉したかには言及していない。下院民主党はジェフリーズ少数党院内総務の発言している限りは、NOに投票いれるだろう。 ホワイトハウス・上下院民主党トップは‘clean’ debt limit bill(要は、他の要求をつけずに債務上限引き上げだけの法案)を求めている(引用:The Hill)
The Limit, Save, Grow Act of 2023
さて、マッカーシー下院議長は先日に債務上限引き上げを含む『The Limit, Save, Grow Act of 2023』を発表した(引用元:speaker.gov)
約1年間分$1.5兆引き上げ、あるいは2024年3月末までのどちらかを条件とした債務上限引き上げ案を発表した。スケジュール的には、遅くとも2024年3月末には債務上限引き上げに達するため、また2024年選挙前に債務上限法案を可決しなくてはいけない。The Limit, Save, Grow Act of 2023に関して書かれたメディアと法案原文を確認しながらいくと大事なところはざっとこんな内容。
主な内容はこちら。
◆2024年予算は裁量的支出を2022年の水準に戻し$1300億削減。
→ちなみに共和党フリーダム・コーカスは$1310億削減を要求したので少しずれる。
◆ 2025年以降の10年間は前年比1%を上限とする
◆ IRAのクリーンカー購入に対する数千億ドルの税制優遇(税控除)廃止
◆IRAのクリーンエネルギーの投資税控除・生産税控除の廃止
◆連邦学生ローン免除の禁止
◆COVID19基金で使われなかった基金を終了
◆IRAで可決したIRSの税徴収強化$800億の取消
◆フードスタンプ受給者(扶養家族は除く)に、月80時間以上の就労を義務づけ、免除を制限
◆先日下院で可決した石油・鉱山開発の許認可改革であるLower Energy Costs Actを含む
-大統領権限による水圧掘削禁止を禁じる
-国家環境政策法(NEPA)に基づく審査を1年以内、調査を2年以内とする
-最終的な行政決定に関しての訴訟できる期間を120日以内に定める
-2023-28年の海上石油・ガスリース販売計画の公表を政権に義務付ける
-メタンガスを削減するEPAプログラムと連邦グリーンバンクプログラムを廃止
を含む(引用元:Bloomeberg)
債務引き上げのほかに重要なところは、IRAで可決したクリーンエネルギー普及の巻き戻しが含まれているということではないでしょうか。 また、 Lower Energy Costs Actを含むということ。このままだと民主党が多数をしめる上院議会で可決するはずがないが、仮に可決したらIRAのクリーンエネルギー約$4000億のほとんどが廃止になる。まあ債務上限と引き換えに、化石燃料活性化とIRAクリーンエネルギー巻き戻しを図りたいといったところではないでしょうか。
また、今回マッカーシー下院議長からでた法案を改めてフリーダム・コーカスの要求と照らしあわせたが、一部を除きほぼ盛り込まれている。なので賛成に票を投じるフリーダム・コーカス議員も多いだろうが、数名でも反対票を投じないかどうかはわからない。すでに数名の議員は反対票を投じることを宣言している(引用元:AXIOS)
なので今回の債務上限に関する交渉の進捗は二段階に分けて考えたほうがいい
第一段階→共和党内交渉。対立解消?今週の投票で判明予定←いまここ
第二段階→共和党vs民主党
ちなみに、今回マッカーシー下院議長が発表した 『The Limit, Save, Grow Act of 2023』 とともに発表されたキーメッセージの一つの「LIMIT」に注目したい
レーガン元大統領が「小さな政府」と表現したことがずっと引きずって共和党は「小さな政府」を好むと思われている。しかしながら、もう少し正確にいうと「Limit(上限を設ける/制限をつける)」が重要なのであって「小さい」ことが重要なのではない。まあ 「Limit」 していけば小さくなるので、言葉遊びといえばその通りかもしれない。この「Limit」というキーワードを覚えていくと、なぜ行政機関の権限拡大を嫌うのかがよくわかる。要は、権限を超えた「Unlimited」な政府を嫌うのであって、彼らは「Limit」することを好むのだ。今回も闇雲に債務上限交渉に応じないのではなく、制限を設けたいだけだ。
なので、今期に入ってから下院共和党が設立したWeaponization Committeeもまさにその流れだ。 いくつかの日本メディアで「政府の武器化委員会」と邦訳されているのを見かけたが、これではわからない。
翻訳するとすれば、連邦政府機関が本来もつ権限以上の権限を行使してきて
憲法で保障された米国民がもつ自由を侵害してくる行為に対して調査する委員会ということだ。
「憲法で保障された米国民がもつ自由」とは何のことかというと、 権利章典( the Bill of Rights ) であり、合衆国憲法修正第1条~第10条を指す(引用元:アメリカンセンター)
民主党は基本的に各行政機関がもつ権限を立法で定められたよりも拡大解釈することで、自分たちの政策を実現しようとする傾向が極めて強い。気候変動問題についてもSECにもEPAにもそんな権限は付与されていないので推し進めようとしている。「Limit」を重んじる人にとっては、権限以上の行使は許してはいけないと考えているのだ。それはLibertyが侵害されてしまうことにつながるからだ。Limitを理解しておくと、共和党がわかりやすくなるのでおすすめだ。
ハネムーン期間が終わったマッカーシー下院議長と下院共和党指導部
ハネムーン期間といえば、大統領就任100日間を指すことが多いものの議員に対して使われることもそれなりにある。で、ちょうどマッカーシー下院議長や下院指導部は先週で100日を迎えた。スカライズ下院多数党院内総務は100日過ぎたところで成果を発表しているが、上院ではシューマー院内総務が‘Dead-on-Arrival’ と宣言しているのでほぼ可決できていない(引用元:Bloomberg)
唯一、下院と上院で可決できたのはCOVID19緊急事態宣言の終了(引用元:RollCall)とコロンビア特別区の刑法改正案の成立措置の決議案くらいだ。(引用元:Roll Call/The Hill)
まあそもそも上院は民主党ファインスタイン議員が数か月病欠しているため、可決や否決する票を集められないという問題もあるが。
ハネムーン期間のうちに、フリーダム・コーカスを巻き込んで法案を可決したのは評価できるポイントだろう。しかし、これからの債務上限引き上げを含む The Limit, Save, Grow Act of 2023 で、共和党下院内と上院シューマー院内総務、バイデン大統領と交渉できるかが本番になるだろう。