6/20-25の米議会/スリム化したBuild Back Betterが水面下で交渉中/バイデン政権による石油輸出禁止?

6/19は父の日であり、Juneteenth。奴隷解放宣言から2年以上経過したのに未だ奴隷だった人たちが、TX州で奴隷制度の廃止を”正式に”知った日。奴隷解放記念日として祝われている。 連邦政府の祝日として昨年立法化されたのですが、32の州では州職員に有給を与えるには財源が必要だということで、未だに州の祝日として立法化されていないのね…(引用元:AXIOS

https://www.majorityleader.gov/calendar

先週の日曜日に「銃規制法案の暫定合意」が発表されたわけだが、案の定、難航している。どうも民主党は「暫定合意」を早い段階で発表したがる傾向が強いので注意しなければならないようだ。あんな簡易な発表ではなく、その後の合意を取り付けるまで時間がかかるということだ。
次の上院議会開催は21日(火)15時召集なので、仮に21日に提出されたとしても今週中のクローシャー投票は無理だ。となると2週間の休会をはさんで、次の召集は7/11になるため、銃規制法案が進むのは7/11以降となるわけだ。
最も合意が難しいのは、以下二点となっているようだ。
・レッドフラッグ法を導入しない州にもメンタルヘルス対策の助成金を実施
→民主党はレッドフラッグ法導入のために予算を使いたいが、共和党はレッドフラッグ法導入は避けたいがメンタルヘルス対策は導入したいという思惑。
・boyfriend loophole:家庭内虐待で有罪判決を受けたパートナー(内縁含む)が銃器を所持することの禁止法案。パートナーといっても、現配偶者、元配偶者、内縁など細かいところの定義と、禁止が解除されるタイミングについてまだ議論が必要とのこと
引用元
Gun safety bill bogs down on details
Grant funding becomes sticking point in gun negotiations

合意を急げば急ぐほど、それほど”制限”につながらない法案となるだろう。現に、銃メーカー株(HON,GD,NOC)は上昇しているわけではない。規制懸念が高まると銃メーカー株は上昇するのが常だったので、市場も”今回の銃規制法案はゆるそうだ”とみているのだろう。

ところで、この銃メーカーの団体がNational Shooting Sports Foundation(全米射撃スポーツ財団)なわけだが、こっちの方がNRAよりもロビー費用は多く昨年実績では2倍近く費やしている。NRAは銃の所有者団体であるのに対して、NSSF( National Shooting Sports Foundation)は銃メーカーや銃小売・射撃場を代表する団体なのだ。NSSFは銃器店強盗に対する罰則強化やシリアルナンバーのない「ゴーストガン」の取り締まりなど、NSSF会員の利益とみなされる銃に関する法案にはより前向きだし、NRAと異なり銃反対派へのアンチキャンペーンは特にしない。WSJの記事によると、NRAはロビー活動費や資金力がどんどん弱まっているのに対して、NSSFの方はどんどん強くなってきている。NRAは会員からの会費で成立している団体なので、大きな寄付がないとそれなりの資金も捻出できないだろう。一方で、NSSFは銃業界の企業団体のようなものなんで、利益が好調ならそれなりの政治資金を捻出できるわけだ。
NRAは銃規制に関してどのような連邦法も反対してきたが、NSSFの方は自分たちの利益になるなら民主党とも前向きに話すようだ。今回も銃購入年齢の引き下げ、レッドフラッグ法導入などNSSFが反対した条項は含まれていない。NRAもNSSFも法案全文をみてから最終的に意見を述べるとしているので、法案全文を待つしかないだろう。
(引用元:Gun Industry Group NSSF Tries to Shape Senate Talks


7月までに他の目玉法案は可決するのか?

①Build Back Better $数千億規模
(薬価引き下げ、クリーンエネルギー推進)
さて、先週は2度ほどマンチン上院議員とシューマー院内総務が非公開の会合をもったことがわかった。シューマー院内総務は、前回で懲りたのか、マンチン上院議員との会合内容を公開したくないようで他の民主党議員を交えないで話を進めている。関係者によると、ひとつひとつ合意できるかどうか確認していっているようだ。その中で、マンチン上院議員からはクリーンエネルギーを発電する企業に助成金を支払うことには賛同しないということが一つわかった程度、まだ何なら合意できるかが外にでてこない。あと、懸念はもう一人のキーパーソンであるAZ州上院シネマ議員だ。彼女は銃規制法案検討メンバーに入っているので、マンチン上院議員とシューマー院内総務が合意できても、彼女とさらに交渉が必要かもしれない。そんなに簡単には進まないと私はみている。
(引用元:Back burner no more: Dems set Manchin talks on party-line bill to simmer

昨年のマンチン上院議員の意見を振り返ると以下になる。

<マンチン上院議員の今まで発言した中での内容は以下の通り>
・キャピタルゲイン税は21%→28%が妥当
・法人税は21%→25%が公正
・低所得者層のみのchild tax creditは支持 (上限を設けて予算削減)
 4年間で$4500億、10年間で$1.6兆もの費用が発生するプラン…
・最高税率39.6%に引き上げ支持
・無料のプリスクール には懸念を示す
・ Clean Electricity Payment Program(クリーンエネルギー発電に対して助成金)には反対
引用元:10/25-30 民主党内の大きな溝は埋まらない

おそらく、増税については、早々に合意に至るはずだ。約半数の企業幹部は1~1年半以内にリセッションに陥るとしているなら、法人税増税したら、ほんとアレだなぁ…(引用元:企業幹部、大半がリセッション入りを予想=調査
バイデン政権は、やたらと「財政赤字を減らすことでインフレを落ち着かせることができる」と主張しはじめているので増税だけ進めるなんていうこともありえるかもしれない。

それ以外については、特に動きなし。
・COVID-19追加支援 $100億規模
・マリファナ合法化(刑事罰の廃止)法案
・ Bipartisan Innovation Act
→ペロシ下院議長は7/4以前に可決する可能性を発言したが、上院は無理かと。
上記以外にも、 労働者の団結権保護を確保する Protecting the Right to Organize (PRO) Act 、選挙改革法案U.S. Electoral Reform Actについては完全に頓挫している。

石油輸出禁止・ジョーンズ法の緩和

米国がガソリン・軽油輸出禁止(あるいは制限)に動くのではという観測がある。立法化は民主党内だけでも票がわれるので立法にするにはまず無理だ。やるとすれば、行政権限の大統領令で、また国防生産法を使う可能性があるという観測だ。
(引用元:White House Weighs Fuel-Export Limits as Pump Prices Surge
原油・石油製品の輸出禁止・制限の話は、昨年から数十名の民主党議員(だいたいプログレッシブコーカス)がバイデン政権に訴えていたが、バイデン政権ははねつけていた。
(引用元:U.S. House Democrats urge Biden to release oil reserves, reinstate export ban
共和党はもちろん、民主党でさえ輸出禁止・制限は余計に悪化するだけだとバイデン政権にしないように訴えていた。 原油輸出禁止はホワイトハウスが期待するようなガソリンコストの低下にはつながらず、さらに価格上げる可能性があると反論していた。これは多くのエネルギーアナリスト、ダラス連銀が論じているのと同様で、石油輸出禁止・制限は市場にショックを与えて価格高騰につながるのだ。石油精製会社も反対しているため、仮にこれをバイデン大統領が実施したら、せっかくの石油精製会社との対話ともまた最初から戻ることになるだろう。
(引用元:Why Biden Should Avoid An Oil Export Ban

さらに悪いニュースとしては、西海岸にある最大の精製所の一つが数週間以内にメンテナンスに入ることが報道されており、さらにガソリン・軽油価格が上昇する可能性がでてきた。しかもメンテナンス期間は約1ヵ月とされておりドライブシーズン真っただ中に行われることになる。
(引用元:California Fuel Prices Set to Soar as Refiners Undergo Work
西海岸は民主党の牙城ではあるが、今回の選挙区割り変更で西海岸合計で6議席ほど接戦になる予定だ。選挙対策ということで、一時的にでも何かやらかしてもおかしくはないとも思える。

あと、忘れてはいけないのは、米国は石油製品の純輸出国ではあるが、原油は2021年も純輸入国で、日量約611万バレルの原油を輸入し、約290万バレルを輸出している。メキシコ湾岸の製油所は重質原油を処理するよう設計されているため、シェールオイル向きではないのだ。なので、製油所にあった原油精製をしようとすると、輸入はどうしても必要になる。


もう一つ重要な動きとしては、ガソリン・軽油についてジョーンズ法の除外適用を実施するかどうかだ。
米国では、ジョーンズ法という法案がある。米国内の内航輸送について、米国造船所で建造され、米国籍船で米国民所有であり、米国人船員配乗の船舶による場合のみに限定している。外国製船舶の輸入及び米国内航海運業への参入を認めていない。 これを国内地域への外国籍タンカーによるガソリンと軽油輸送を認めるという除外要件を設けるのではないかということがバイデン政権で話をされている。

ただ、これもJPモルガンによると1ガロンあたり10セントあたりの値下げにしかつながらないということだ。
(引用元:East Coast Gas Would Only Drop a Dime If Jones Act Lifted, Says JPMorgan

もっとも、この対応をするとなると、労働組合の壁がある。3月の時点で、SIU(国際海員組合)とバイデン大統領は会合してジョーンズ法の支持を改めて表明させていて、歴代最高の「Pro-Unionな大統領」になると固く約束している大統領にとってやってはいけない手口であろう。


それにしても、このガソリン価格・軽油価格高騰でバイデン政権がうまく政策を進められないのは、最も大きな民主党支持団体が労働組合と環境団体だからだ。
これに尽きる。しかも厄介なことに労働組合も”雇用を増やす””賃金上昇”という目的でクリーンエネルギー促進に賛成しているので、まあいろいろと難しいだろうねえ。無党派の支持を取り付けなくてはいけないのだが、まず最初は自分たちの支持基盤を固めなくてはいけないからねえ。