米議会10/4-9 デフォルト回避のために米議会は行動できるか

先週の米議会はとにかく波乱続きだったものの、ひとまず政府閉鎖や運輸省交通局関連職員約3700名の一時帰休などは数日で終了。
少しだけ交渉に余裕ができた。
1. 2022年度つなぎ予算(12/3まで)を可決
2.  surface transportation programsを10月末までつなぎ予算可決
(両方とも、上院議会で全会一致で可決)

一方で、下院議会のスケジュールとしては10/15までは委員会活動だ。下院議会はリモート投票可能なので、急な投票スケジュールが入っても特に問題はない。

一方で、上院議会はリモート投票が認められていない。上院議会は、コロンブス・デーの祝日から1週間は休会予定だ。地元での選挙活動もあるだろうから、休会は必要だが、短期間に変更される可能性はあるだろう。

債務上限問題について

債務上限の期限が到来すると何が起こるかは前回書いた通りななので参照下さい。一方で、「マーケットが債務上限期限がきた時にどう受け止めるか」はまったく別問題。デフォルトで重要なのは、意思と実現可能性だと思うんだが、今回の場合はどちらもクリアしているわけなので、そこまで大事にならないとは思うがどうなんだろうか…
1)支払う意向はあるのか
2)支払える資産や計画があるのか(実現可能性)

債務上限について、何が壁なのか?解決策はどこから出てくるか?

まず、債務上限問題を解消するためには2つの方法がある。

①共和党から賛成票をもらい債務上限一時停止法案で進める(60票必要)
②民主党上院議員50名が一致団結して債務上限法案(具体的に債務上限金額を記載することが必須) 財政調整法案に盛り込んで可決する。つまり、財政調整法案の中身を確定させて民主党上院議員50名が全員賛成する必要がある。これが難しいわけだ。

現在の問題は、以下の3つの勢力の意見が分かれていることで生じている。
(1)vs(2)は民主党内部の問題。(1)&(2) vs ( 3)は民主党対共和党の構図になる。

(1)民主党下院議員を中心としたプログレッシブコーカス
(2)民主党マンチン上院議員(WV州選出)&シネマ上院議員(AZ州選出)
(3)共和党

これは共和党vs民主党の構図だけではなく、民主党内部の対立もあるというのを理解する必要がある。そんなの話し合いで解決すればいいじゃんと思うかもしれないが、(1)と(2)は同じ民主党でも支持者層が違うのだ。それを理解しないと、何故こういった問題が起きているのか、この構造は見抜けないと思う。


なので、(1)~(3)の支持者層を分析していく。

(1)民主党下院議員を中心としたプログレッシブコーカスの大きな支持団体

労働組合の中でも 国際サービス従業員労働組合SEIUだと私は認識している。民主党プログレッシブコーカスのジャヤパル議長の旦那も 全米食品商業労組 (UFCW )Local 21の議長だし、SEIUをはじめとした主に低賃金といわれるサービス労働従事者だと考えている。

民主党の最も大きな支持団体は労働組合だ。日本は企業別労働組合が主流だが、欧米の基本形は産業別労働組合であり、それに加えて様々な市民団体や環境団体を巻き込んでいるので非常に大きい勢力となっている。
また、全米の労働組合を束ねるアメリカ労働総同盟・産業別組合会議AFL-CIOは、全米ほとんどの労働組合を束ねる勢力でありつつも、各労働組合が同じ方向を向いているとは限らない。なので、大統領選についても、 全米の労働組合連合AFL-CIOの大統領選において支持表明するが、それぞれの労働組合も各大統領を支持表明する。米議会とも似ていて、民主党や共和党に属していても、造反する投票も許されるような関係性なのだ。

で、SEIUについてはこういったツイートをしているくらいなので、今のプログレッシブコーカスの進め方に賛成しているというのではないだろうか。プログレッシブコーカス約100名のうち半数は、$3.5兆経済対策&増税(Build Back Better)を可決しない限り、インフラ法案には否決すると宣言していて一歩も譲らない姿勢だ。

一方で、AFL-CIOは
”We urge you to vote in favor of the #IIJA and then quickly complete negotiations and pass the budget reconciliation bill.”としているので、インフラ法案を先に進めてほしいのだろう。これは無理もない。インフラ法案の恩恵を受けるのは主に製造業、建設業だ。 AFL-CIOとしては約100の労働組合を束ねるのであって、 インフラ法案から恩恵を受ける団体はそれなりにいるわけだからね。また、教員組合AFTもAFL-CIOと同じ声明文を発表している
正直、着々と労働組合からの圧力がプログレッシブコーカスにかかっていることも確かなので、多くの労働組合から圧力がかかればプログレッシブコーカスも妥協せざるおえないだろう。ただ、まだ、今ではないのだ。

(2)民主党マンチン上院議員(WV州選出)&シネマ上院議員(AZ州選出)

マンチン上院議員は以前から発言していたが、ここへきて財政調整法案(Build Back Better)は$1.5兆までしか支持できないし、これ以上債務を増やすことも許容できないと明確に声明をだした(引用元:マンチン上院議員

民主党マンチン議員を理解するには、WVの産業を知るのが一番早い。WVは別名、石炭州と呼ばれており、アパラチア山脈の炭鉱が主な産業だった。天然ガスの産業もあるが、比率はそんなに高くない。WV州は化石燃料の使用及び雇用を守りたい州なのだ。WV州の発電は9割が石炭なくらいなのだ。

WV州というのは共和党州なのだ。WV州知事、WV州選出の下院議員、WV州のもう一人の上院議員は見事に共和党員なのだ。マンチン上院議員の支持者は、基本的に共和党員なのだ。炭鉱労働組合からの大きな大きな支持もあるが。
マンチン上院議員は民主党であるものの、支持者は基本的に共和党員なのだ。
超党派とか穏健派とかいわれるが、それよりもWV州の産業と支持者層をみるとなぜマンチン上院議員がああいう意見になるのかがわかりやすいと私は思う。

また、6月頃に、Americans for Prosperity(億万長者チャールズ・コークが支援する政治団体) 、Heritage Actionなどがマンチン上院議員に $3.5兆経済対策&増税(Build Back Better) に反対するように圧力をかけていると報じられた(引用元:CNBC)。また、エクソン・モービルなんかはマンチン上院議員に献金トップの常連だ。化石燃料企業は、過度なクリーンエネルギー政策にシフトしないようにマンチン上院議員にロビー活動をそりゃ行うだろう。それが政治だ。

以上のように、民主党内部の対立とはいえ、支持者層が違うのだから、そこの利害関係が対立しているのだから致し方ないのだ。議員同士の話し合いで解決できる問題は少ない。
尚、シネマ上院議員については、彼女はあまり発言しないタイプだが「$1.5兆の財政調整法案」ということだけは発言している。彼女の分析がまだできていないのだが、それは私の今後の課題にしておく。

(3) 共和党

彼らは、債務上限について協力しないと宣言している。「債務上限を増やすなら民主党が財政調整法案の中に含めて、民主党が財政支出とあわせて責任もってやれ」と明確に発言している。共和党としては、債務上限一時停止に反対しているというより、 $3.5兆もの経済対策&増税(Build Back Better) を反対するために債務上限一時停止を人質にとっているといった方が正しいだろう。

共和党の最も大きな支持団体は、全米商工会議所に所属する企業群だ。化石燃料企業も基本的には共和党。まあ当然ながら、企業は増税を避けたいし、現在恩恵を受けている化石燃料についての税控除なんかは続けたいわけだ。また、少数ではあるが財政規律を求める議員や支持者もいるので財政調整法案とつかって$3.5兆もの経済対策&増税(Build Back Better)には反対な人達もいる。

今後の予測

結論からいうと、債務上限に達して、上記で述べた(1)~(3)の支持者層のうち、金融市場が混乱して一番困る支持団体は共和党ではないかという気がしている。最低賃金付近で生活している労働組合メンバーに影響がでるまでにはかなり時間がかかるはずだ。

尚、昨年にトランプ前大統領が選挙不正で騒いでいた時に、共和党メガドナーの一人であるブラックストーンのシュルツCEOは「これ以上、政治で混乱させるならGA州特別選挙で献金しないぞ」と脅したことがある(引用元:The Hill
ただでさえ、ラスベガスサンズの故アデルソンCEOが昨年亡くなってしまい大型献金者がいない状況で、金融業界に対して歯向かうことはできないだろうというのが私の予測だ。

最終的には支持団体からの圧力で一部の共和党がおれて、債務上限一時停止になるのではないかなというのが私の予測だ。それがいつになるかは正直、わからないが、少なくとも、どこかが圧力かけはじめたことが報じられはじめたらサインだと思う。

一方で、債務上限一時停止は、共和党とともにクリアしたとしても、 $3.5兆もの経済対策&増税(Build Back Better) については、別の問題で民主党の2つの勢力が対立しているので解消にはまだまだ時間がかかるだろう。
債務上限の問題は今月~来月上旬には解決するが、 $3.5兆もの経済対策&増税(Build Back Better) の解決にはもっと時間がかかると思われる

というのも、民主党マンチン上院議員(WV州選出)&シネマ上院議員(AZ州選出)については2024年まで再選挙の心配はないが、下院議員プログレッシブコーカスは2022年中間選挙を控えている。結果を出さなくてはいけないが、一方で、長引かせて何も実現できないのでは中間選挙でボロ負けするはずだ。
最終的には、プログレッシブコーカスは、マンチン上院議員が求める$1~1.5兆の経済対策に妥協するだろう。