118会期は2025年1月2日までなので、残りわずかとなった。 2025年の下院カレンダーをスカリス下院院内総務が出していたので掲載しておきます。
11月総選挙の結果、119会期は1月3日からのスタートとなり、上院は共和党53議席・民主党47議席、下院は共和党219議席・民主党215議席・空席1議席となる。
空席1議席は、FL州ゲーツ元下院議員が年末に突然引退発表をして119会期も辞退した(※1)
トランプ次期大統領が2017年1月に就任した時は、下院共和党246議席、上院共和党52議席だった。同じトリプルレッドとはいえ、下院議会は議席を減らしてのスタートとなり、第一次トランプ政権の時よりも立法成果を出しにくい状況であることは間違いない。国境警備の強化、対中国政策関連の立法、2017年トランプ減税(The Tax Cuts and Jobs Act of 2017)の延長は、ほぼ間違いなく実現するとみているが、それ以外で立法成果が出せるかは未知数である。
当選が危ぶまれる下院議長選挙
下院議会は2年ごとの会期スタート時に下院議長選出の投票を実施するルールを設けている。 下院議長が決まらないことには、新たに選出された議員の宣誓式だけでなく下院議会の本議会さえスタートできない。
下院指導部は、11月の総選挙後の指導部選挙で全会一致でジョンソン下院議長とスカリス下院院内総務を選出した。全議員が出席すると仮定すると、過半数を獲得するためには218票を獲得する必要がある。同数では否決となる。
民主党は自党の党首に入れるため共和党内で票を集めるしかなく、共和党からは1名の議員しか造反できない。すでに、トーマス・マシ―議員(共和党)は、ジョンソン下院議長に投票しないと宣言している(※2)
さらに、12月20日のつなぎ予算で混乱が生じたことでフリーダムコーカス議長が、意味深な声明文を発表した。「誰を議長とするか決めかねている」と書いてある(※3)。フリーダムコーカスだけでなく、今回の投票では共和党内に不満が残る結果となったのだ(※4)
さらに、ジョンソン下院議長を含む共和党指導部が政府閉鎖を防ぐことを優先したため、トランプ次期大統領にとって好ましくない結果となった。トランプ次期大統領は、今回のつなぎ予算の結果をふまえてジョンソン下院議長を支持するかも明確には発言していない。そんな状況でクリスマス休暇まで過ぎたわけだが、トランプ次期大統領は12月29日に「自分が就任する前に、債務上限停止を延長せよ」と議会に要請してきた。
これで明確にわかったのは、トランプ次期大統領は債務上限停止が就任1年目に訪れることに納得できていないし不満があるということだ。
1月20日までに債務上限の停止を延長することは、下院では民主党が票を入れない限り難しいだろう。なぜなら、共和党から30名弱が絶対反対するからだ。
共和党下院内では、この状況に不安を抱えている議員も少なからずいる。
また下院議長選挙が長引くかもしれないからだ。2023年の下院議長選挙では、共和党内に「Never Kevin」と呼ばれるマッカーシー元下院議長反対派がいたため、15回も投票を行い審議が数日遅れた(※5)
そのため、トランプ次期大統領にジョンソン下院議長を支持するよう呼びかけているが未だ声明はでていない。
118会期が最後に可決した「American Relief Act」
今一度、タイムラインと法案を確認して整理した。トランプ次期政権チームは、法案のスリム化・民主党が求めていた予算の削減に対して勝利宣言を出していた。しかし、超党派で進めていた薬剤給付管理(PBM)の取り締まり強化やら、対中国への強硬策も除外されてしまった。
しかも、トランプ次期大統領の要求で「American Relief Act」から一部除外された条項が、別法案として上院は全会一致で12月20日に可決しているものもある。民主党が要求した予算が一部除外されたことは事実だが、トランプチームの大勝利と呼ぶには疑問が残ることになった。
つなぎ予算、American Relief Actをめぐるタイムライン
◆12月17日
何か月もかけて共和党と民主党が交渉を進めていたつなぎ予算+追加予算だった「Further Continuing Appropriations and Disaster Relief Supplemental Appropriations Act, 2025」が発表された(※6)
◆12月18日
トランプ次期大統領およびバンス次期副大統領が共同声明を発表。
民主党からの要求をのむことなく、債務上限の引き上げとつなぎ予算を可決しろと要請
◆12月19日
共和党内交渉の結果、3月14日までのつなぎ予算に加えて債務上限を盛り込んだ 「American Relief Act」 (H.R.10515/※7)を発表した。民主党だけでなく共和党内部で交渉妥結した条項を反故にし、トランプ次期大統領が要求した債務上限停止(2027年1月31日まで延長)を盛り込んだ法案を発表した。トランプ次期大統領も満足したようで、議員に賛成投票するよう呼びかけた。
しかし、12月19日に否決された。規則委員会を通さず、規則停止下で行うサスペンションルールでの採決だったので可決には3分の2の賛成が必要だった。迅速な投票を行うためというのもあるが、規則委員会を通したら可決できないからという理由もあっただろう。賛成は174票(共和党172票/民主党2票)、反対235票(共和党38票/民主党197票)となり可決できなかった(※8)
◆12月20日
債務上限停止と、 Family-to-Family Health Information Centersへ1年間の資金提供の延長を除外して 「American Relief Act」(H.R.10545 /※9 )を再度発表した。
賛成は366票(共和党170票/民主党196票)、反対34票(共和党34票/民主党0票)となり無事に下院で可決した (※10)
上院では修正条項の投票が続き、真夜中に可決することができた。 賛成は85票(共和党37票/民主党48票)、反対11票(共和党10票/民主党+無党派 1票)、投票なし (共和党2票/民主党+無党派2票)(※11)
なお、ヴァンス次期副大統領は投票しなかった。
結局、トランプ次期大統領の呼びかけにも関わらず、債務上限停止の延長を含まない法案に多くの共和党議員が賛成票を入れた。
①可決したAmerican Relief Act( H.R.10545 )
- Further Continuing Appropriations Act, 2025
2025年3月14日までのつなぎ予算 - Disaster Relief Supplemental Appropriations Act, 2025
- NC州、SC州、GA州、FL州、OK州、その他西部地域へ1,100億ドルの災害支援
- 農業生産者への災害および経済支援として310億ドル
- FEMAの大統領宣言による主要災害(ハリケーン・ミルトンやヘレーネを含む)に関連する対応、復旧、緩和活動のために290億ドル
- 9月に期限が切れていた農業法(the Agriculture Improvement Act of 2018))を2025年9月30日まで延長
※農業法に関しては、過去ブログ「9月の重要議案は政府閉鎖を防ぐつなぎ予算と農業法案の延長」を参照ください。 - 2025年3月31日まで 公衆衛生 プログラムを延長
パンデミックの時に拡大されたメディケアにおける遠隔医療プログラムを延長した。- 地域医療センターおよび国立医療サービスへのプログラム延長
- 1型糖尿病患者と先住民のための特別糖尿病プログラムを延長
- Medicare-Dependent Hospital (MDH) プログラムの延長
- その他
- 崩落したMD州のフランシス・スコット・キー橋の再建費用
②法案から除外された条項
- 2027年1月末まで債務上限停止を延長
→予定通り、2025年1月1日で債務上限の停止は終了。2025年1月2日、債務残高に基づいて新たな債務限度額が設定されることになる。 - 薬剤給付管理者(PBM)に対してリベートに関するより詳細な情報を提供することを義務付ける。スプレッド・プライシングを事実上廃止
※スプレッド・プライシングとは、実際の薬局への医薬品償還価格よりも高く、利益を上乗せしてPBMがペイヤーに請求することを指す - 連邦議員が年間17.4万ドルの基本給に自動的に生活費調整を受け取れるようにする条項。連邦職員医療給付制度(Federal Employees Health Benefits Program)への加入も可能になる。
- 中国への米国の投資、特にテクノロジー部門への投資を制限する条項
- フードスタンプの給付金を盗まれた低所得者層に対する保護
- リベンジポルノ公開を犯罪化する連邦法。SNSやその他Webに、被害者からの要請を受けて認められれば48時間以内に画像を削除できることを実現できるフローを構築。
③「American Relief Act」からは除外されたが、すでに下院で2024年に可決していた単独法案だったので、上院が12月20日に別法案として全会一致で可決した法案
- the DC Robert F. Kennedy Memorial Stadium Campus Revitalization Act(H.R.4984)
→ロバート・F・ケネディ・メモリアル・スタジアムを連邦政府の管理から99年間、ワシントンD.C.の管理に移管。管理が移管したことで、老朽化したRFKスタジアムの取り壊しが可能となり、その跡地をさまざまな用途で再開発できるようになる。 - the Gabriella Miller Kids First Research Act 2.0(H.R.3391)
ガブリエラ・ミラー・キッズ・ファースト研究プログラム(Gabriella Miller Kids First Research Program)に、2024年から2028年まで毎年1,260万ドルの資金を認可
不安定なトリプルレッドでのスタート。トランプ次期大統領とフリーダム・コーカスのバトルが再燃
繰り返しになるが、来年はオールレッドだが、2017年と比較して下院議会は議席を減らしてのスタートとなり、第一次トランプ政権の時よりも立法成果を出しにくい状況であることは間違いない。
また、下院共和党≒トランプ支持ではない。
下院共和党内の構成は、大きく5つのコーカスがある。最も大きい勢力は1973年に設立された the Republican Study Committee で下院共和党内の過半数をおさえているコーカスだ。一時期は消滅したこともあるが、2005–2007年には当時下院議員だったペンス元副大統領も議長に就任したことがある最大勢力のコーカスだ。次に大きいのがメインストリート・コーカス(引用元:MAIN STREET CAUCUS)。残るは、 the Republican Governance(火曜会),the Freedom Caucus,超党派のProblem Solvers Cacusだ。
共和党内のフリーダム・コーカスについて少し書いておく。
2015年に設立された下院フリーダム・コーカスは、the Republican Study Committee に所属していた9名が創設した。トランプ前大統領の首席補佐官を務めたメドウズ補佐官やFL州デサンティス知事も創設メンバーだ。現在は抜けたが、下院司法委員会のジョーダン委員長も議長を務めた時があった。
ライアン元下院議長が下院議長をつとめた 2015-2019年から党内で衝突が絶えなかった。2015年には共和党ベイナー下院議長を辞任に追い込んだこともある。
フリーダムコーカスは所属している議員を招待した議員だけにしていて、名簿も非公開なのだ。そのため30~40名弱という表現をされることが多い。
彼らは連邦政府の権限に明確な制限を設けることを求めるだけでなく、中央に権力が集中することに強く反対する。連邦政府よりは州政府の権限が強い方をよしとし、それよりも個人の判断や市場原理に委ねることを第一義的に考える傾向がある。そのため、共和党指導部が権力を持ちすぎ、個々の議員の力が弱まるのにも強く反対してきた。
マッカーシー元下院議長を議長として承認する代わりに、 下院議長解任の投票提案を1人の議員でも可能にすることを条件の一つとしたくらいだ。
また、政府の歳出削減を伴わない債務上限の引き上げに強く反対する。
フリーダム・コーカスは、トランプ次期大統領とも第一次政権の時に戦った。第一次トランプ政権が進めていたトランプ・ケアを廃案に追い込んだのもフリーダム・コーカスだ。トランプ前大統領には「フリーダム・コーカスは2018年の選挙で追い出すべきだ、共和党内で団結できないなら」ともツイートされたことがある(※12)
しかし、2024年になってもフリーダムコーカスを追放できないでいる。確かに2024年に議長だったボブ・グッド議員を予備選で対抗馬を支持して、落選させた(※13)。デサンティスFL州知事をいち早く支持したグッド議員への報復でもあったわけだ。2022年よりは、若干弱体化したとはいえるが、勢力としてはほぼ変わらない。フリーダム・コーカス所属メンバーの選挙資金の40%近くを小口献金が占めており、この小口献金率は他の共和党議員よりも多い(※14)。これでは、落選させるのは難しいだろう。設立当時から比較すれば、明らかに縮小しているが全員追放するにはまだまだ時間がかかるだろう。
トランプ2.0の初年度に2025年度予算と債務上限問題に向き合う
今回の「American Relief Act」の結果をふまえて、第2次トランプ政権の1年目に党内で意見がまとまらない二つのことに向き合う必要がある。
下院議長が決まらないと何もはじまらないが、なんとか下院議長を選出できたとして、年内にこれを不安定なオールレッドでどこまでまとまることができるか。
①2025年3月14日:つなぎ予算の期限到来
→2025年の年度予算をまとめることができるか
②2025年6~8月頃:債務上限のXデーが到来
→イエレン財務長官は、2025年1月半ばごろから特別会計措置を取り始める公算が大きいと明らかにした(※15)
最終的なXデーは、Taxシーズン終了後の4月後半~5月に判明する見込み。
③2017年トランプ減税(The Tax Cuts and Jobs Act of 2017)の延長
トランプ次期大統領が求めている「債務上限の廃止」は、民主党と超党派で取り組めば、間違いなく実現する。今年も民主党議員は「Debt Ceiling Reform Act(※16)」を提出していて、実質的に廃止できる法案を提出していた。2017年にトランプ次期大統領とシューマー上院院内総務は廃止に向けた協議で合意したこともある。トランプ政権の時に、成果を出したくないであろう民主党がどう出るかという問題もあるが、共和党内部の方から強い反発がありそうなのも確かだ。だったとしても超党派で取り組めば賛成多数で可決できるだろう。問題は、超党派で取り組めるかになりそうだ。
トランプ次期大統領は、1月20日の就任初日に大統領令を複数出すと宣言している。しかし、関税など大統領権限が明確な大統領令を除けば、だいたい民主党の州司法長官から訴訟されて一時停止することになるだろう。
最高裁判事は共和党大統領の指名による判事が多いから、共和党の味方になる判断をすると思われる方も一定数いるようだが、決してそうではない。始原主義の立場で判断を下してくるので、立法が必要になってくる可能性も高いし、合衆国憲法改正を求めてくる場合もあるだろう。 もっとも、判決を待っているだけでも119会期(2025年1月3日~2027年1月2日)が終わってしまいそうなくらいだが。 合衆国憲法改正は、ほぼ不可能と思っていい。
憲法改正には、連邦議会の両院で改正案が3分の2以上の賛成多数で可決され、さらに4分の3以上の州による承認を得る必要がある。 連邦議会の票を3分の2獲得できることは極めて難しい。さらに、州議会をおさえているのは共和党の方が多いが、さすがに4分の3は超えていないからだ。超党派で取り組めるのならば可能性はあるかもしれないが、厳しいだろう。
参考資料
※1:Gaetz resigns from Congress after AG nod
※2:https://www.instagram.com/p/DD0j-iENEX2/
※3:Massie says he won’t back Johnson for Speaker
※4:Funding saga forecasts future struggles for Speaker Johnson
※5:1/9-13の米議会/マッカーシー議員が下院議長に就任/フリーダム・コーカスとの取引はこれから明らかに
※6:Further Continuing Appropriations and Disaster Relief Supplemental Appropriations Act, 2025
※7:American Relief Act, 2025
※8:Roll Call 516 | Bill Number: H. R. 10515
※9:American Relief Act, 2025 (12.20.24)
※10:Roll Call 517 | Bill Number: H. R. 10545
※11:https://www.senate.gov/legislative/LIS/roll_call_votes/vote1182/vote_118_2_00339.htm
※12:Republicans ‘Turn The Cannons On Each Other’ In Week Of Public Feuding
※13:Trump-backed challenger beats US House Republican Bob Good in Virginia primary ※14:Insight: Why Republican hardliners can afford to say no to U.S. debt ceiling increase
※15:Yellen Says Treasury to Hit New Debt Limit in Mid-January
※16:BOYLE, DURBIN INTRODUCE BICAMERAL LEGISLATION TO END CYCLE OF REPUBLICAN DEFAULT BRINKMANSHIP