①1月3日、ジョンソン下院議長の再任
Thomas Massie(KY),Ralph Norman(SC), Keith Self(TX)は、別の議員に投票していたが、最終的にThomas Massie議員以外は賛成票を投じ、過半数の216票を獲得して当選した(3名は欠席)。
この2名の議員はメイス議員経由でトランプ次期大統領と電話で話し、トランプ次期大統領がジョンソン下院議長に票を投じるよう促したとのことだ(※1)
この状況は安心できない。フリーダムコーカスの11名の議員はジョンソン下院議長に投票したものの、要求をつきつけた。
主に法案提出から採決まで72時間ルールを遵守すること、今年実施される財政調整法案には赤字削減を盛り込むこと、均衡予算を実現させる道筋を示すことなどだ。
119会期では9名の議員が議長解任案を提出すれば投票にかけられる規則も採用した。フリーダムコーカスの11名はジョンソン下院議長をいつでも解任するという警告なのだろう。
これらをジョンソン下院議長が受け入れたわけではない。彼らもすべてが受け入れられるとは考えていないだろうが、 全く実現できない状況になったらさすがに解任動議をあげるだろう。
また、1月20日に国家安全保障担当補佐官に指名されたウォルツ下院議員は1月20日に下院議員を辞任するため1議席空席になる。さらに、国連大使に指名されたステファニック下院議員も上院で承認され次第、下院議員を辞任することになるため一時的に217議席まで議席が減ることになるだろう。民主党が全員(215票)、反対票を投じた場合は1名しか造反者を出せないので厳しい状況が続くだろう。FL州2議席の議席を埋めるのは2025年4月になる。
Today, the Board of the House Freedom Caucus released the attached letter to their Republican colleagues regarding today’s vote for Speaker. pic.twitter.com/lV1ZLnT0aC
— House Freedom Caucus (@freedomcaucus) January 3, 2025
ジョンソン下院議長は議長当選後に「メモリアルデー(5月26日)までには、トランプ次期大統領の政策を1つの財政調整法案として可決する」と意欲をみせた。ジョンソン下院議長は、財政調整法案の中に、債務上限、減税、移民政策、エネルギー政策も含めると発言した(※2)
”reconciliation bill”という表現がトランプ次期大統領や議会から出てきており、日本語では財政調整法案と訳される。それについては後ほど詳細は書くことにするが、財政調整法には細かいルールがあるため、それを遵守する必要がある。債務上限、税制改正は問題なく財政調整プロセス下で適応されるが、移民政策やエネルギー政策などは難しい気がするがどうだろうか。
2022年、民主党は財政調整プロセス下で連邦法として最低賃金$15の条項を盛り込んだが、上院議事運営専門家(Parliamentarian)によりバード・ルール違反だと指摘されて除外した(※3)
バード・ルール違反だと指摘されたものは、フィリバスターを突破するのに必要な60票が必要になる。60票はかなりハードルが上がることになり、未だに実現できていない。
②刷新した上院共和党の指導部、下院共和党はNo.3までは変更なし
マコネル上院議員が共和党トップを引退を宣言し、昨年の党内投票をふまえて大幅に刷新した。当時、トランプ次期大統領が支持したリック・スコット上院議員は13票しか賛同を得ることができなかった(※4)
No.1:スーン上院院内総務(Senate Majority Leader)
No.2:バラッソ上院院内幹事(Majority Whip)
No.3:コットン共和党会議議長 (Republican Conference Chair)
No.4:キャピト上院共和党政策委員会委員長(Republican Policy Committee Chair)
No.5: ランクフォード上院共和党政策委員会 副委員長(Vice Chair of the Senate Republican Policy Committee)
No.6: スコット共和党上院委員会委員長(Republican Senatorial Committee Chair)
※大統領継承順位第3位の上院議長代理(President Pro Tempore)はグラスリー上院議員(91歳!)が務める。
コットン上院議員、スコット上院議員、バラッソ上院院内幹事は特にトランプ次期大統領と強い同盟関係にある。
一方で、スーン上院議員は共和党大統領候補としてスコット上院議員を支持していたし、トランプ次期大統領を共和党大統領候補者として支持したのも2月後半だ。トランプ次期大統領からは「ミッチの息子」「RINO」と敵視されたこともある(※5)
特に上院の伝統的な規則を重んじるスーン上院院内総務とフィリバスターなどを廃止したいトランプ次期大統領との間でそのうち衝突することが多発するだろう。
下院トップ3は変わらずだった。118会期では共和党研究委員会(RSC)の委員長を務めたハーン下院議員がNo.5に就任した。
No.1:ジョンソン下院議長(Speaker of the House)
No.2:スカリス下院院内総務(Majority Leader)
No.3:エマー下院院内幹事(Majority Whip)
No.4:マクレイン共和党会議議長 (Republican Conference Chair)
No.5:ハーン共和党政策委員会委員長(Republican Policy Committee Chair)
③フィリバスターは維持され、上院では可決に60票が必要。財政調整法以外は、共和党だけでの可決は難しい。
二十数年ぶりに、共和党のトップが変わり、スーン上院院内総務が就任した。
議会初日の演説で、共和党トップとしてフィリバスターを維持することを最優先事項の一つとして掲げた。フィリバスターを維持するということは、法案可決に60票が必要になることを意味する。上院議会での共和党議席は53議席なので、民主党から7票もらう必要がある。
“And one of my priorities as leader will be to ensure that the Senate stays the Senate.
https://www.thune.senate.gov/public/index.cfm/press-releases?ID=F447BB05-509C-43D4-A72F-FD6388BA7F5E
“That means preserving the legislative filibuster – the Senate rule that today has perhaps the greatest impact in preserving the Founders’ vision of the Senate.
ただし、財政調整措置を利用して立法すれば、上院に必要な票は過半数(50票)となり共和党議員のみでの可決が可能となる。財政調整措置を使えば、なんでもできるかというとそうではない。細かい基準が数多あるのだが、大きく4つをクリアする必要がある。
①財政調整法が適用されるのは、義務的経費のみ。
義務的経費とは、 国債利払い、年金・医療といった社会保障費、国家公務員の給与や退職年金などのようにすでに政府に支出が義務付けられている経費
②歳出と歳入( 主に税金) に関わる予算
③年度に1回だけ利用できる
④上院議事運営専門家(Parliamentarian)が法案内容を確認し、バード・ルールに適応しないものは除外される
バード・ルールとは、バード上院院内総務の発案で1986年に法制化され、1990年に恒久措置とされた上院の規則だ。同規則下では審議の過程で「関連性のない」と判定される以下の規定・文言は少数党の異議申し立てによって削除される。
『アメリカの財政民主主義』渡瀬義男
①予算上の効果がない規定
②赤字を悪化させる規定
③「調整」対象となる委員会の管轄外の規定
④予算外の項目を含む規定
⑤調整法案に提示された年度の枠外で赤字を悪化させる規定
⑥社会保障年金に関する勧告を含む規定
しかしながら、バードルール違反だと上院議事運営専門家(Parliamentarian)に判断されたとしても、覆すことも可能だ。適用除外動議を発動した上で、60名の議員が賛成しなくてはいけない(※6)
一部の見解では、単純過半数でも判断を覆すことができると考えられているようだが、少なくともスーン上院院内総務は上院議事運営専門家の意見を取り入れると発言したことは大きな意味をもつ(※7)
④トランプ次期大統領が求める財政調整法案
トランプ次期大統領は「1本の大型法案」を提案していて、スミス下院歳入委員長と意見が一致している(※9)
一方で、スーン上院院内総務は12月に2つの財政調整法案で進める意向を既に示している。1つ目は国境、国防、エネルギーに焦点を当てて、2つ目は減税を含めた税制改正を中心にしたものを検討しているとのことだ。上院予算委員会のグラム委員長も同じ意見だ。
この上院の進め方に対して、 スミス下院歳入委員長はトランプ減税(2017 Tax Cuts and Jobs Act)を延長する前に税制以外の財政調整法案に集中する上院の進め方は “reckless” だとも発言した(※10)
トランプ次期大統領が発言する前から上下院で意見が異なっており、まずは進め方の歩み寄りからだろう。
上院指導部は、トランプ次期大統領と近日中に協議をする予定なのでまずはそこで何か動きがあるだろう。
また、税制改正についてもSALT控除を強く求めてトランプ減税に反対した下院議員がまだ2名ほど残っている(当時は17名の議員が反対に投じた)
SALTコーカス議員は、SALT上限引き上げまたは撤廃を含まない税制改正に対していかなるものでも反対票を投じると宣言した(※11)
SALT上限・引き上げに反対する議員が多いだけに、どううまくまとめるのか注目が集まる。さらに、フリーダムコーカスも赤字削減とセットにならない減税には反対すると宣言している。ジョンソン下院議長は個別に交渉しないで進めてきたので、投票でいきなりNAYを突き付けられる可能性もあるだろう。共和党下院内だけでもまとまるのが難しい状況で、さらに上院とのすりあわせがあるので厳しい道のりとなるだろう。
※1:House Speaker Mike Johnson held onto his job, but there are signs of trouble ahead
※2:Johnson says he expects to pass most of Trump’s agenda with 1 ‘big, beautiful bill’ by Memorial Day
※3:Senate parliamentarian nixes minimum wage boost in aid package
※4:Thune elected Senate majority leader
※5:John Thune Once Objected to Trump. Does He Have the Courage to Do So Now?
※6:How Does Budget Reconciliation Work?
※7:Thune to Senate GOP: Don’t overrule parliamentarian on reconciliation
※8:Thune plans sweeping bill on the border, defense and energy in Trump’s first 30 days
※9:House GOP’s top tax writer battles with party leaders on Trump’s border-tax strategy
※10:Ways and Means chair takes shot at Senate tax delay
※11:GOP’s small majority adds to challenge of tax reform