米議会は多くの議題を残したまま7月4週末から休会入りした。
米議会は9日から再開するが、総選挙前なので9/27からまた本議会は休会する。
休会後に米議会が再開するのは、Veterans Day後の11月12日~となる。債務上限の一時停止の期限切れは1月1日になるが、総選挙終了後から1か月で調整することになる。決着は次期議会で行うだろうが、ジョンソン下院議長にとってまたもや民主党の票を必要とすることになる。
①政府閉鎖を防ぐための、つなぎ予算
米国の年度予算は9月末で終了するため、年度予算を可決しなければならない。総選挙の年は、来年の議会に決めさせるということがここ数十年の慣例になっているので今年もその予定で動いている。
その慣例を踏襲してのことか、年度予算は進んでいない。上院では個別予算は委員会で可決しているが、予算決議も可決できていない。下院も委員会レベルでは可決できているが、本議会で可決できているのは防衛予算などの一部だ。
下院共和党は9月6日につなぎ予算を発表した(※1)
この法案は3月28日まで2024年度と同程度の支出を可能とし政府閉鎖を防ぐ。
ただし、このつなぎ予算には2つの法案が盛り込まれた。
1つは、連邦緊急事態管理庁(FEMA)の予算不足に対応するため100億ドルの補正予算が組まれている。もう1つは、Safeguard American Voter Eligibility Act(通称: SAVE Act)だ。この法案は、既に下院議会で7月に可決している(※2)が、民主党から1票も入らず強く反対されている。この法案は1993年全米有権者登録法(National Voter Registration Act)を更新することになる。連邦選挙の有権者登録時に米国の市民権を証明する書類を提示することを有権者に義務付ける。証明書類はREAL IDに準拠した証明書・有効な米国のパスポート・軍歴証明書など明確に定義されることになる。
また、各州の選挙管理組織は、国土安全保障省が管理するSAVEへのアクセスを許可する条項も盛り込まれる。これにより、各州は投票者に市民権があるかを容易に確認できるようになる。しかしながら、この SAVE Actは、民主党が反対している。下院可決時も民主党からは1票も入っていない。シューマー上院院内総務も、すでに反対を表明した。
というわけで、いったん下院共和党はSAVE ACTつきの法案を可決して、上院民主党は他のつなぎ予算を可決して一時的には硬直することになるだろう。少しハラハラする展開もあるかもしれないが、総選挙前なので、どちらの党も政府閉鎖を起こす気はない。議会開会の最終日(9月27日)には最終的に可決するだろう。
ちなみに、1990年以降で総選挙が控えている年に政府閉鎖を引き起こしたことはない。それくらい政府閉鎖が起こる可能性は低いと考えてよいだろう。
なお、歳出削減を強く求める共和党保守のフリーダムコーカスは8月時点で、つなぎ予算を支持する公式声明を発表している。彼らがつなぎ予算を遮ることはない(※3)
②9月末に期限切れを迎えるその他予算
・ 退役軍人省の予算不足に対処する「the Veterans Benefits Continuity and Accountability Supplemental Appropriations Act」
下院共和党は退役軍人省の予算不足に対処するため、the Veterans Benefits Continuity and Accountability Supplemental Appropriations Actを発表した(※4)
退役軍人省は退役軍人に支払う年金や給付金で約30億ドルを緊急で要請しており、 来年度の裁量医療費としてさらに120億ドルも必要になると。上院退役軍人問題委員会によると、議会が9月20日までに可決しないと、700万人の退役軍人や退役軍人の遺族が10月1日に給付金を受け取れなくなる可能性があるとしている。
この要因は、2022年に可決したPromise to Address Comprehensive Toxics (PACT) Act of 2022により、 退役軍事に提供するヘルスケア(VA Health Care)の新規加入者や給付金申請が増加しているからだ。PACT Actは、戦闘地域での従軍中に有害物質にさらされた退役軍人のための医療サービスを拡大する法律だ。実際、この法律施行により、退役軍事に提供するヘルスケア(VA Health Care)の新規加入者は前年比27%で増加していた(※5)
過去20年間でイラク・アフガニスタンの戦争から帰還した退役軍人数は増えており、 2023年には、退役軍人を支援するプログラムへの支出は総額3,020億ドルに達した。約20年間で5倍の支出に膨らみ、その支出額は連邦政府支出全体の約5%にも相当する。この支出の約半分は退役軍人とその遺族のための障害補償・年金である(※6)退役軍人への医療サービスの拡大もあるが、退役軍人の高齢化に伴う補償・年金支出の増加もあるのだ。
・農業法(the Agriculture Improvement Act)も9月末に期限切れ
農業法(the Agriculture Improvement Act of 2018)の延長期限が9月末に迫っている。両党の溝が埋まらないため、2023年11月に今年9月末まで延長された(※7)
the Farm, Food, and National Security Act of 2024は5年間で総額$1.5兆にものぼる農業法案は、すでに下院農業委員会での委員会採決はクリアしたが、民主党から未だ支持は得られていない。本議会での採決には進めていない。
この法案は、主に栄養補助プログラム(SNAP)と農家への補助金から成り立っていて、民主党と共和党が協力して進めるためにこの2つを抱き合わせて進めてきた法案だ。主に4つの内容で構成されており(※8)、栄養プログラムが支出の約8割を占めている。
①栄養プログラム
低所得者層が小売店で食料を購入するための資金を提供する補助栄養支援プログラム(SNAP)が含まれているからだ。
②農業保険
農家への保険料補助や農業保険企業に対しての引き受け支援も含まれる。
③保全休耕(CRP)
土壌などの保全を目的とした耕作地・休耕緩和プログラム。休耕した場合、米農務省(USDA)がその借地料を支払う。
④コモデティ・プログラム
・価格損失補償(PLC)参照価格に販売価格が達しない場合に、その差額が農家に支払われる。
・農業リスク補償(ARC)過去数年間の平均的な農家の収入水準を当該年収入が下回った場合に、その差額を農家に支払う
・酪農リスク管理プログラム(DMC)生乳価格と飼料コストのマージンに基づいて生産者を支援
などの作物生産者支援。
下院農業委員会で可決した法案は、SNAPを数百億ドル削減することにつながるので民主党は猛反発している。また、気候変動に配慮した農業を行うためのインフレ削減法の予算から130億ドル近くを再配分することも求めている。 一方で、作物生産者を支援するためにARCとPLCの基準価格は一部引き上げられた。
期限が9月30日までではあるが、上院農業委員会のスタビノウ上院議員は上院では可決しないと言い切っている(※10)
両党の隔たりが激しいだけでなく、共和党内でも意見が分かれていることもあるのでまだ調整に時間がかかるだろう。
総選挙前のねじれ議会なので、レームダック期間ともいえなくないが2024年は以下4点は議会が動かねばならない。
・政府閉鎖を防ぐためのつなぎ予算
・債務上限の一時停止の期限(2025/1/1)への対処
・農業法案の更新
・退役軍人省への補正予算
特に債務上限の一時停止期限に対処するために年内に動かなくてはいけないので、年内は最後まで議会をみておいたほうがよさそうだ。
参考文献
※1:House GOP unveils stopgap plan to avert government shutdown
CONTINUING APPROPRIATIONS ACT, 2025
※2:H.R.8281 – SAVE Act
※3:Freedom Caucus pushes for stopgap into 2025 to avoid omnibus
※4:Garcia, House Republicans Introduce VA Supplemental Bill
※5:Massive veterans budget gap rips hole in appropriations process
※6:Spending on Veterans in the Budget
※7:Stabenow Restores Funding for Urban Agriculture in Senate-Passed Bill
※8:Farm Bill Spending
※9:Thompson Releases Farm, Food, and National Security Act of 2024
※10: Stabenow says GOP farm bill is ‘not balanced’ and won’t pass through the US Senate