6/12-17の米議会/Allen v. Milliganの判決解説/今月でてくる注目の米最高裁判決

先週、下院議会は機能不全に陥った。
Fiscal responsibility actに未だ納得いかないフリーダム・コーカスの10名強が法案投票前のRule投票に相次いで反対票を投じたことで法案投票に進めなくなってしまった。簡単にいうと投票妨害ですね。そのため、予定より1日早く休会入りし、フリーダム・コーカスとマッカーシー下院議長は協議を続けているようだが、いまだ打開策は得られていない。フリーダム・コーカスはマッカーシー下院議長が約束を破ったと主張しているが、マッカーシー下院議長はそんな約束はしていないと主張している始末。もはや子どもの喧嘩のようになってきた(引用元:The Hill
フリーダム・コーカスのメンバーもそれぞれの選挙区を代表して連邦議会に来ているので、彼らも彼らの選挙区の有権者から責められているようだ。何か行動を起こさないと彼らを選んだ有権者が納得いかないのだろう。

Allen v. Milliganの最高裁判決

先日、Allen v. Milliganの判決がついにでた。5 v.4で投票権擁護団体Alabama Forwardの事務局長であるEvan Milligan氏の勝利となった。
まず、これは何を争っていたかというと、州議会が行ったゲリマンダが投票権法に違反していたかどうかだ。AL州は黒人の有権者が27%いる。しかしながら、AL州選挙区7つあるうち1つしか黒人の代表者(連邦議員)を輩出できていない。Al州議会は意図的にこうした選挙区を作成して、投票権法が定める投票における人種差別の禁止( 投票権法第2条 )に違反しているという訴訟だ。投票権法第2条は、人種を理由に投票権を否定するような投票法、慣行、選挙区割りを禁止している。
地裁はこの選挙区割りが違法であると判決を下したが、共和党が多数党であるAL州議会は選挙区割りをつくる際に中立的な基準を用いたと主張しており、投票権法に違反していないとして最高裁に上訴していた。

最高裁の判決は、 投票権法が定める投票における人種差別の禁止( 投票権法第2条 )に違反しているとした。地裁の判決が認められた。

この判決をふまえて、AL州は選挙区割りを再度作成する必要があり、7つの選挙区割りのうち、2議席は黒人有権者が多く割り当てられることになるだろう。
これはどういうことを意味するかというと、黒人有権者が多い民主党の勝利を意味する。なお、今回のAllen v. Milliganと同様の訴訟は数多く起こっていて、最高裁判決待ちだった。この判決をもってGA州・TX州など大票田をもつエリアも選挙区割りの訴訟が進むことになり今回の Allen v. Milligan は重要な判例となる。したがって、単純にAL州の議席数が増えますよという話ではなく、これから各州での訴訟が進み、選挙区割りが再編成されていくことになるので影響は大きい。ちなみに、選挙区割り訴訟を進める民主党のマーク・エリアスはすでに多くの訴訟を進めているのでまだいくつかの州では選挙区割り変更がでてくるだろう(引用:www.democracydocket.com
選挙区は国勢調査に基づいて州議会(あるいは中立的な立場で構成された選挙区割り委員会)で作成されるため、次の国勢調査が実施される2030年(選挙区への反映は2031~2032年)まで続くことになる。正直、選挙区割りで下院選挙は決まるといっても過言ではない。今回、民主党に有利な選挙区割が裁判所から相次いで出てくるようなら2030年総選挙まで下院連邦議会は民主党がおさえることにつながるかもしれない。

尚、今回はロバーツ判事とブレット・カバノー判事が、裁判所の3人のリベラル派に加わり、5名が賛同を示したことはサプライズとなった。ロバーツ長官は多数決の意見で、南北戦争後の人種差別的な有権者弾圧が、1965年の投票権法の最初の成立につながったとしており、人種的に指定された立法区を作ることを避けるため、すべての人種グループの平等な参加を可能にすることを定めた、とロバーツ氏は意見書に記している(引用元:The Conversation

今回の判決で、どちらの党も実施していたゲリマンダ合戦に終止符が打たれることにつながるのかもしれない。ただし、そもそも人種的に配慮した選挙区割りを描けるかどうか示さなくてはいけないことは未だハードルとして残る。人口が等しく、隣接しcounties・ cities・townsのような選挙区割りにしなくてはいけないというルールは残る。州内で隣接していない地域をかきあつめて人種的に配慮した選挙区割りを作成することはできないのだ(引用元:Vox

これからでてくる最高裁判決

さて、6/15・6/22には最高裁から注目の判決が出てくる予定だ。

https://www.supremecourt.gov/#

1.バイデン政権による学生ローン債務免除の判決

「 BIDEN V. NEBRASKA 」は、バイデン政権が実施した学生ローン債務免除(1人$1万 ※ぺルグランとは$2万)に対して、共和党州司法長官がこの行政権限は教育長官の権限を超えており、三権分立と連邦行政手続法に違反すると主張して裁判をおこしていたものだ (引用元:Supreme court

すでに Fiscal responsibility actで、米教育省に対して2023年8月29日までに連邦学生ローンの支払いを復活させるよう指示している。
学生時代に借りた学生ローンは現在、 約4500万人が抱えており1人あたりの平均債務額は$37,338だ(引用元:educationdata.org/

学生ローン支払いは再開するし、債務免除ができませんでした(バイデン大統領の大統領令は違憲でした)となると、踏んだり蹴ったりになるだろう。

ちなみに、学生ロ―ン債務免除は不可能なのではなく、米議会の権限をもってなら債務免除にすることは残されている。 Fiscal responsibility actでも、”米議会が何らかの行動をおこさない限り”と条件はつけられていることはおさえておきたい。

2.アファーマティブ・アクションに関する訴訟

・Students for Fair Admissions, Inc. v. University of North Carolina
・Students for Fair Admissions Inc. v. President & Fellows of Harvard College

ハーバード大学とノースカロライナ大学に対する訴訟は、高等教育機関が学生を集める際に人種を考慮することを認めている長年の判例を覆し、大学入試の決定におけるアファーマティブ・アクションを廃止するよう求めるものです。 Students for Fair Admissions (“SFFA”)は、Blumによって設立された原告で、ハーバード大学の人種を考慮した入学政策は、1964年の公民権法に違反し、アジア系アメリカ人志願者を違法に差別していると主張しています。SFFAは、ハーバード大学や他の大学が志願者の人種を考慮すること、あるいは知ることさえも禁止することを求めている。

3.ゲリマンダに関する訴訟( Moore v. Harper )

この訴訟は、NC州の州最高裁に却下された同州の共和党議員らによって上訴された党派的なゲリマンダ(選挙区割り)に対する訴訟。NC州州最高裁に拒否されたことに対する反論として、独立州立法理論(independent state legislature doctrine)に違反していると共和党議員は主張している。

州の三権分立(チェック&バランス)を考えれば、州の司法が判断したことについて連邦の最高裁が介入することが重要な意味をもつ。
仮に訴訟をおこした共和党議員の主張が通れば、州の議会議員に並外れた権力を与える事を意味する。その結果、州最高裁判所は、連邦選挙において、州法が州自体の憲法に準拠しているかどうかを判断する州裁判所の権利を妨げることになる。 連邦選挙の権限は、州議会の議員になるため、彼らが規定する選挙法は、州の最高裁、州の長官、州の選挙当局がチェックできなくなることを意味する。そもそもなんでこの裁判を却下しないで最高裁が審理に持ち込んだかになるが、少なくとも4人の判事の審理すべきと考えたということを意味する。最高裁は、最低で4人が審理するに値すると考えなくては取り上げない。ちなみに、2019年に党派ゲリマンダーを評価するための連邦政府による基準は存在しないと米最高裁の判事が発言している。基本的にゲリマンダを評価できる正当な基準が連邦憲法にはないということだ(引用元: The Brookings Institution )

4. LGBTQへの保護(303 Creative LLC v. Elenis)

Webデザイン事業を営むスミス氏は、顧客の依頼で同性婚の結婚式のWebサイトを作成してほしいと依頼された。しかし、スミス氏はキリスト教信仰のため、自らの信条に背くような行為はできないと拒否した。これに対して、顧客側がコロラド州の反差別法(Colorado’s Anti-Discrimination Act )は、公衆に開かれた事業者が、人種、性別、性的指向、宗教、その他の特定の特徴を理由に商品やサービスを拒否することを禁じているため訴訟を起こしたものだ。

スミス氏の代理弁護をしている反LGBTQ団体であるADF(Alliance Defending Freedom)の弁護士は、一般大衆が読むことのできる媒体で仕事をしている人に、好ましくないと思っている作品をを作ることを強制できる法律はない、主張している。憲法修正第1条の部分である。
これもどのような判決がでるかによって、影響が大きい(引用元:VOX