OPEC+の原油価格決定力が高まる2023年

米国とサウジアラビアの関係はかつてないほど冷え込んでいる。
2022年7月に国内の人権活動団体の反対を押し切り、バイデン大統領はサウジアラビアを訪問したにも関わらず。ムハンマド・ビン・サルマン皇太子(以降、MBSと略す)とfist bumpする写真が多くのメディアで掲載されたものの、それ以外で友好的な関係を示す写真はでてこなかった記憶がある。2022年7月9日WP寄稿記事‘Why I’m going to Saudi Arabia’に書いて理解を得ようとしたが、国内の反発がおさまることはなかった。そのような反発がある中で、せっかくサウジに訪問して増産をお願いしたのに確約は得られなかった(引用元:ブルームバーグ
そして8月のOPEC+では 9月以降の増産は日量10万バレルとバイデン政権が期待していた量とはかけ離れた増産発表をされた。
しかも、10月OPEC+では増産どころではなく8月の生産水準から日量200万バレルの大幅減産で合意した。
バイデン政権が期待していた増産とは真逆の対応をしてきたわけで、「もう米国の指図では動かない」ということを意味するだろう。


さて、2023年の4月にOPEC+は4月2日、5月から合計で日量166万バレルを追加減産すると表明した。予定されていた合同閣僚監視委員会(JMMC)の前日に行われたこの発表に、市場は不意を突かれた。原油市場は$5ほど上昇して、WTI原油価格は$75前後だったのが$80を突破した。
これに対して、バイデン大統領は 「世界経済が今も続くプーチンのウクライナ侵攻による悪影響に対応する中、OPECプラスの減産という近視眼的な決定に失望している」とするバイデン米大統領の声明を発表した(引用元:WSJ
しかし、もう価格交渉力をもっていないに等しいバイデン大統領・ホワイトハウスが何を言っても無駄だろう。

基本的にバイデン政権の支持団体の一つに環境保護団体があるので、国内エネルギー増産をすることはない。しかしながら、 インフレ削減法(IRA)の条項に書かれた連邦公有地における太陽光・風力のリース募集を行う前に、連邦公有地における石油・ガスのリース募集を行う条件がある。石油・ガスのリース募集を先に行わないと公有地の太陽光・風力のリース募集ができないことが条項で盛り込まれてしまったのだ。
その一環としてアラスカ州北部の石油大手コノコフィリップスが同州北極圏で計画する大型プロジェクト「ウィロー」の承認がある。AP通信によると、最大で日量18万バレルを生産する計画だ。もっとも、アラスカ州議会・アラスカ州上下院連邦議員・労働組合から熱望されていたプロジェクトではあるので関係者は歓喜の声をあげたが環境保護団体は怒り心頭だった(引用元:Politico


OPECプラスにとってラッキーなことに、もはや米国エネルギー企業は生産コスト上昇と株主への配当・自社株買いを優先しており増産しようとは考えていない。 もうOPECプラスは2010年代に悩まされた米国のシェールオイルとの価格競争をしなくてよい。
ダラス連銀の最新レポートでも2年以上続いてきた事業活動の上昇トレンドは消えた。ベーカー・ヒューズ社が発表している石油採掘リグ数は751(4/6発表)で、コロナ直前の790前後にはまだ回復していない。回復するどころか、12月頭の784を最後にゆるやかに下落しつつある。
原油の最大生産国である米国の生産がほぼ変更なしとなると、第二位のサウジアラビア(他中東国もだいたい従う)・第三位のロシアの交渉力が増すことになる。

少なくとも2024年末までインフレ削減法に従うていどしか政府は石油生産のために公有地のリースもしないだろう。もし民主党政権が2024~2028年になったらそれが続くことになる。もっとも、公有地リースが可能になったところで、米エネルギー企業が増産するかはまた別の問題だ。
しかも、 テキサス州西部からニューメキシコ州にまたがるパーミアン盆地では、より古いシェール鉱床で見られてきた生産頭打ちの初期兆候を示しているという話もある。 米石油大手コノコフィリップスのランスCEOは「世界は再び70年代や80年代の状況に戻るだろう」と指摘している。OPECが近く、世界供給でシェアを伸ばすと警鐘を鳴らした。(引用元:WSJ米シェールブームに陰り、消える優良油井

もう一度整理する
①政治的な理由で公有地リースは限られている。少なくとも2024年末までは。
②米石油企業は増産ではなく株主に配当・自社株買いを優先
③そもそもシェール最大のパーミアン盆地で優良油井が減少してきている。

という状況をふまえると、米国の増産というのはないだろう。しかも生産頭打ちとなれば、OPECの価格決定力が再び強まることを意味する。


サウジアラビアとロシアの狙い

Bloombergの記事がはっきり書いているわけだが、 OPEC+に対する欧米の影響力は、ここ数十年で最低になった。原油価格決定の構造変化というよりは、米石油企業・欧米政府の交渉力が弱まったことで結果的にOPEC+が強くなってしまったといえよう。
サウジアラビアとロシアが協調して原油生産量を決める同盟関係だ。となると、この両者が何をしたいかをみることが原油価格の動向をみるうえで重要になるだろう。しかも、サウジアラビアは宿敵だったイランと外交復活してしまい、サウジアラビアのイラン大使館が7年ぶりに再開した(引用元:ロイター
ちなみに、もはやサウジアラビアにとってイラン包囲網の一つだったイスラエルとの協調は不要になったのだろうか。今年に入ってからサウジアラビアはイスラエルへの非難が相次いでいる(引用元:WSJ
ちなみに、 サウジアラビアとシリアは、ロシアの仲介により外交関係を正常化することで間もなく合意するとみられている。サウジとシリアの当局者が明らかにしている(引用元:WSJ
話を戻して。中東の政情不安定がなくなってくればサウジアラビアはより動きやすくなるだろう。

サウジは財政均衡のために$70~80の原油価格が必要なだけでなく、NEOM建設や国内経済対策を考えると$100/バレルが望ましいとしている。これはロシアが望む原油価格と同じ水準なのだ。そうなると、彼らはもう米国にも欧州も気にせずに減産してくる可能性が極めて高いだろう(引用元:US-Saudi Oil Pact Breaking Down as Russia Grabs Upper Hand

本記事によると、今年から来年にかけての原油価格平均は$85~90/バレルがコンセンサスのようだ。もっとも、リセッション懸念や中国の需要後退懸念などもあればこのコンセンサスから下振れする可能性はあるが。
2023年~2024年は価格上昇要素としてはOPEC+の動向、価格下落要素リセッション懸念・中国の需要後退をみていくのがよさそうだ。
ちなみに、3月中国の原油輸入、3月は前年比22.5%増 20年6月以来の高水準となっている(引用元:ロイター