民主党ロー・カンナ(Ro Khanna)下院議員が提唱するNew Economic Patriotism

ロー・カンナ下院議員は私が大注目している米議員の一人だ。
サンダース議員の選挙キャンペーン陣営トップは、2024年にバイデン大統領が再選を目指さない場合に、民主党大統領に立候補するようカンナ議員に強く勧めていた(引用元:Politico
さらに驚いたことに、サンダース議員のブレーンが、プログレッシブコーカスを束ねてサンダース議員の後継者としてカンナ議員を後継者とみていることだ。
カンナ本人は「2024年には出馬しない」と宣言しているし、バイデン大統領の再選を強く支持するとしている。
本人が否定していることもあり2024年出馬するというのは可能性は低いが、プログレッシブコーカスを率いているため強い支持団体(労働組合・環境団体)をもっているという観点では大きな支持団体がないハリス副大統領、ブティジェッジ米運輸長官よりも選挙戦で有利に思える。
ただ、カンナ議員はヒンズー教徒なので民主党の重要な支持基盤の一つであるカトリックから票が入らない可能性はある。とはいえ、下院民主党の最大勢力であるプログレッシブコーカスが支持するとなれば可能性はあるだろう。

ロー・カンナ(Ro Khanna)議員

彼の議員ホームページによる自己紹介や今までの紹介を参考にして、重要な部分だけを箇条書きにした。

https://khanna.house.gov/about/about-rep-khanna
  • シリコンバレーの代表議員
  • プログレッシブコーカス所属の幹部/インド系アメリカ人コーカス
  • ヒンズー教徒(ただし、ガンジーに強く影響を受けており、カンナは”Gandhian Hinduism ”を信仰しているとしている)
    引用元: khanna.house.gov
  • 下院中国特別委員会のメンバー
  • 両親はともに1970年代のインド移民のインド系アメリカ人
  • オバマ政権時には米商務副長官補佐
  • シカゴ大学で経済学学士号、イェール大学で法学博士号
  • CHIPS and Science Act(半導体製造法案)起草に関わり、米国内での半導体製造を強く推進
  • 世界銀行総裁に指名された元MastercardCEOバンガ氏や、テスラ元CTOのDeepak Ahujaなど特にシリコンバレーのテクノロジー業界からの支持
https://www.amazon.co.jp/dp/B09842C2RG

カンナ議員が提唱するNew Economic Patriotism

2022年12月に、カンナ議員はフォーリン・アフェアーズに「The New Industrial Age~America Should Once Again Become a Manufacturing Superpower~」 を寄稿した。カンナ議員のホームページで全文掲載されているので、こちらで全文が読める。私からいくつか邦訳したのを抜粋する。


・new economic patriotismの提唱
アメリカ人は、国内生産の増加、海外からの雇用の回復、輸出促進を求める新しい経済的愛国主義を受け入れるべきである今こそ、アメリカの製造業とテクノロジーを復活させるべき時だ。米国に生産を戻すよう米国内生産に税額控除を設け、逆に米国内生産拠点を閉鎖して雇用を海外に移転する米国企業には10%のオフショア化法人税を課すべき

・脱中国に本気で取り組む
米政府は、ディスプレイ、半導体、バッテリー、センサーなどの生産を米国内または同盟国へ移転するよう企業に奨励しなくてはいけない。また、オーストラリア、インド、日本などの友好国に対して、携帯電話用の電子部品の自国での生産を増やすように働きかるべきだ

・輸出大国になった後はドル高も是正
米産業界が製品を輸出しようとするとき、大きな障害になるのがドル高。1985年の日独プラザ合意で、米国への製品ダンピングを制限し、ドル安で低迷する米国の輸出需要を強化したように、米国は中国と通貨と商品の協定を交渉しなくてはいけない(とはいえ、中国は話をきかないだろう)

対中貿易自由化が米雇用を喪失させデモクラシーを脅かしている
対中貿易の自由化は、特に中西部と南部の工場や農村の町を衰退させるものであった。この荒廃は、移民排斥、アジア人排斥、右派ナショナリズムの台頭を促し、過激派と暴力によって米国のデモクラシーを脅かした。


乱暴にまとめると①脱中国②友好国と協力して米国内の製造業を復活させようということだ。これは自身が CHIPS and Science Act(半導体製造法案) にも色濃く反映されていて、彼は CHIPS Act 2.0 や3.0などまだまだ追加して政府が助成金をだしていきたいとしている。彼は半導体だけではなく、鉄鋼や家電製品も国内製造を視野にいれている(引用元:bostonglobe.com

なお、彼はプログレッシブコーカス所属なだけあって、当然ながら最低賃金$15や、労働組合の団結権保護法案、医療債務キャンセルなどを強く推進している。サンダース議員の後継者と呼べるような国内政策を支持しながらも、こうした半導体製造法案を起草するなどハイテク業界と深く結びついているのは、他のプログレッシブコーカス議員にはみない特徴といえるだろう。

カンナ議員の台湾外交

カンナ議員は2月末に台湾訪問をして、台湾の蔡英文総統、 国民党党首の朱立倫主席、さらにはTSMC会長モリス・チャン氏とも会合を実施している。
カンナ議員はこの訪問で「国民党の朱主席が台湾の国防を強化することを主張し、中華人民共和国との統一よりも現状維持が望ましい」と発言したことにカンナ議員は驚いたようだ。カンナ議員は今回の訪問を終えて、「米国は台湾の防衛を支援する一方で、中国との建設的な対話を促して現状維持に貢献して、軍事衝突のリスクを最小限に抑える」とも書いている (引用元:bostonglobe.com