来週は2月第三月曜日なのでワシントン誕生記念で祝日がある(引用元:アメリカンセンター)。そのため、1週間米議会は休場。
上院の本議会では連邦判事の承認が粛々と進んでいる(引用元:ロイター)だけで大きな動きがなく、今週もクローズドの会議はあるけど大きな動きはないでしょう。債務上限が気になっている方は、今週は大きく動くことはないのでここで読むのやめてよいです。今週は気になっていることをつらつら書きます。
米国上空での気球の件
共和党なり民主党の自作自演だという意見もいくつかみたが、共和党はもちろん、上院民主党議員の一部はこの気球の件で中国なりバイデン政権を批判していることは指摘しておきたい。
上院トップの上院院内総務であるシューマー院内総務が気球の件で中国を批判しているというのは重く受け止めたほうがいい(引用元:TheHill)
まあなんというか、米民主党にも共和党にも親中派(程度はある)と中国強硬派がいるわけで、党内でその綱引きがそもそもある。今の民主党の親中派の筆頭はStarr Insurance のグリーンバーグ氏(フォーリン・アフェアーズ名誉会長)だ。2022年11月の米中会談が実現したのもグリーンバーグ氏の働きかけがあったと報じられている(引用元:WSJ)
なお、グリーンバーグ氏はWSJに「We Want to Rebuild U.S. Relations With China」と寄稿している。この記事内に書かれた人物からの発言はポジショントークであることをおさえておいたほうがよいだろう。
そういえば、トランプ政権時代にも気球が飛行していたというニュースがあったが、その報道も怪しい。元国防長官マーク・エスパー氏も、CNNで「中国が米国上空に監視気球を持っているという情報を読んだりした覚えはない」と発言。トランプ政権下で国家安全保障顧問を務めたジョン・ボルトン氏も、前大統領の在任中に気球が米国を監視していたことに対して反論している(引用元:CNN)
共和党にとっては、バイデン政権を攻撃するチャンスなので、ここぞとばかりにバイデン政権を攻撃している(引用元:The Hill)
まあ共和党が必要以上に気球の件で騒ぐのは政権攻撃のためでもある。
そして民主党はSocial Security削減の件やら債務上限混乱で共和党を攻撃していたり、今月は Black History Month なのでアフリカ系アメリカ人で偉業を成し遂げた人を持ち上げたりしている。外交と安全保障に弱い民主党プログレッシブコーカスは、気球の件でまったく発言していない。 Social Security削減、中絶、銃禁止の主張ばかりだな。
下院のWeaponization Committee
先月、下院司法委員会の特別小委員会として”Weaponization Committee”が設立した。数日前に初の公聴会が実施し、 元FBI捜査局がメンバーとして呼ばれた。FBI長官、司法長官にも召喚状が送られた(引用元:The Hill)
いくつかの日本メディアで「政府の武器化委員会」と邦訳されているのを見かけたが、これではわからない。
翻訳するとすれば、連邦政府機関が本来もつ権限以上の権限を行使してきて
憲法で保障された米国民がもつ自由を侵害してくる行為に対して調査する委員会ということだ。
「憲法で保障された米国民がもつ自由」とは何のことかというと、 権利章典( the Bill of Rights ) であり、合衆国憲法修正第1条~第10条を指す(引用元:アメリカンセンター)
現在の司法委員会委員長でありWeaponization Committee議長のジム・ジョーダン議員はフリーダム・コーカス設立メンバーの一員であり、フリーダム・コーカス初代議長でもある。彼らは米国のLibertyと権利章典( the Bill of Rights )を重んじており、そのためにはLimited Government(限定された権限をもつ政府)である必要があると主張している。日本では大きな政府・小さな政府と訳されるが彼らは Limited Government(限定された権限をもつ政府) という表現を多用する。
As we encounter these efforts to expand government, we must resist them. When government grows, individual liberty suffers.
https://jordan.house.gov/media/opinion-pieces/dont-forget-freedom
Our liberty, articulated in the Declaration of Independence and enshrined in the Bill of Rights, is the most fundamental element of American life. For over two centuries, it has empowered our free exchange of ideas and fueled our engines of innovation. It has propelled the American dream and contributed to the most vibrant economy in the history of the world.
民主党は基本的に各行政機関がもつ権限を立法で定められたよりも拡大解釈することで、自分たちの政策を実現しようとする傾向が極めて強い。気候変動問題についてもSECにもEPAにもそんな権限は付与されていないので推し進めようとしている。各行政機関の権限付与は、米議会が権限をもつ。要は、米議会の権限付与をスキップさせて動かしているのである。
そしてそれを拡大解釈して規則を発表するのだが、現在の最高裁になってからは始原主義の傾向が強いためその動きが制限される傾向にある。
まあ民主党は、このWeaponization Committeeこそが武器になっており陰謀論になると言いたいようだ。
Democrats see the committee as the weapon itself, a vehicle for the GOP to forward conspiracy theories that will mobilize the Republican base ahead of 2024.
https://thehill.com/homenews/3851910-house-weaponization-panel-opens-first-hearing-with-a-partisan-bang/
重要なことは、どちらが正しいとか、どちらがいいとかではなく
・ 連邦政府機関が本来もつ権限以上の権限を行使することをよいと思わない共和党(特にフリーダム・コーカス)
・ 連邦政府機関が本来もつ権限以上の権限を行使することをよしとして政策を進める民主党
の2つの視点があり、それぞれどちらかの視点からメディア記事が書かれているからこれをふまえてどちらの視点から書かれたか区別して読み取らなければいけないということだ。
まあ、圧倒的に民主党寄りのメディアが多いため、「 連邦政府機関が本来もつ権限以上の権限を行使することをよいと思わない 」という前提は書かれないことが多いのだが。
ウクライナ支援打ち切り決議
下院軍事委員会メンバーであり、フリーダム・コーカスの一員といわれているゲッツ下院議員が フリーダム・コーカスを中心とした下院議員11名と “Ukraine Fatigue” 決議を共同提出した。さすがに下院での採決はないだろうが、こういう主張が共和党の一部にいるということはおさえておいたほうがいい。
米国がウクライナへの追加の軍事・財政援助を停止させようとするものだが、要は米国内の自由のために海外での戦闘で米国民の税金を使う必要がないという意図だ。これは実は民主党のプログレッシブコーカスの意見と似ていて、プログレッシブコーカスは軍事費を使わないで、国内の国民の経済対策に使いなさいという考えだ。
今のところは手を組むことはないと思うが、基本的には功利主義なので何かの時に共和党も民主党もこれらの人たちが手を組むことはあるのかもしれない。