1/16-20米議会は両院で休会/共和党下院委員会委員長が確定/債務上限問題

先週、やっと下院議長がきまり下院議会のカレンダーが公表された。今週は休会となり、来週24日(火)から再開となる。上院は23(月)から招集されているため、やっと来週から本格的な稼働となる。

下院議会も上院議会も多数党院内総務によって発表される。共和党の多数党院内総務は、スティーブ・スカライズ議員だ。今後のスケジュールも下院多数党院内総務のホームページやTwitterで公開されていくのでURLをはりつけておきますので活用ください。
https://www.majorityleader.gov/schedule/weekly-schedule.htm

下院議会が可決した7つの規則変更

まずは先週可決したこのポイントをおさえておく必要がある。
米議会は、ルールがすべてだ。ルールを再定義することで、自らの優位性を確立しようとする。そのルールは下院・上院ともに異なるし、議事進行や解任ルールでさえも多数党が決めることができる。多数党が決めるといっても、党内での抵抗勢力をどう封じ込めるかさえもルールで決める。今回のように共和党内の抵抗勢力であるフリーダムコーカスの交渉力が強い場合は、彼らの交渉力が強いようにルールを設計する。これさえも彼らにとっては「Deal」なのだ。
そのため、どういったルール変更をしたかをおさえておくことはその会期の進行を左右することになるのできわめて重要なのだ。 Dailysignal.com がわかりやすく「 7 Key Reforms in New House Rules 」,Roll Callでうまくまとめてくれたので、それをベースに書くことにする。

  1. 下院議員であれば1人でも、下院議長の解任採決を要求できる
    • 2020年、プログレッシブコーカスの勢いを封じこめるために民主党は民主党指導部だけが下院議長を解任できる動議規則を変更することで解任動議をあげさせなかったがもとに戻した。
  2. 債務上限を引き上げるには、下院での投票が必須となる
    • 下院が予算決議を採択すると、自動的に債務上限を延長する法案を上院に送ることを認める“Gephardt rule” 規則を採用していたがこの規則を撤廃して、投票を必須にした。
  3. 5~10年以内に義務的歳出を増やす法案を阻止する「cut as you go」方式
    • 赤字を増やす法案の場合、歳出削減や増税で相殺することを求める民pay-as-you-goルールを民主党は採用していたが、義務的支出を増やす場合は、義務的支出内で相殺を求めて新たな課税は認めないcut-as-you-goルールに規則変更。
  4. 議会予算局に主要法案のインフレ分析を行うことを義務化
  5. 連邦政府機関であるFBI、IRS、その他の政府機関が個人の自由を侵害することを行っていないか調査する委員会設置
    • この発想のベースは憲法修正第一条にあり、憲法修正第1条[信教・言論・出版・集会の自由、請願権]が政府によって侵害されていないかの調査を実施する委員会となる。
  6. “Holman Rule”の復活。特定のプログラムの削減、政府高官、連邦職員の給与削減、特定の職員の解雇を目的とした歳出法案の修正案を認める規則変更
    • 2019年に民主党が撤廃したルールの復活。
  7. 新しい法案を投票する前に72時間前に通知することを義務付け
  8. 税率引き上げを可決するために5分の3の賛成票を必要とする規則を復活

また、規則変更には盛り込まれなかったが、マッカーシー議員を下院議長として認めるかわりにフリーダム・コーカスが認めさせた事項は主に2点だ。特に、

  1. 2023年度予算を2022年度の予算水準を超えないようにする
    • 2022年度の予算水準におさめようとすると、2023年度から$1300億(8%)削減することになる。共和党下院議会の最大コーカスである The Republican Study Committee は、国防費は聖域だが、フリーダム・コーカスのロイ議員は、国防費を削らないという約束はしていないと断言している。希望的観測としては、国防費は削られないで非国防費の社会保障がメインとはみられているが、これはこれからの交渉で決まっていくことになるだろう。
  2. 強力な権限を持つ下院規則委員会の9議席のうち3議席を保守派の下院フリーダム・コーカスのメンバーに割り当て。発表は、下院規則委員会議長のトム・コールが実施する予定

ルールの変更は、彼らの思考が色濃くでてくる。たとえば、「 2020年、プログレッシブコーカスの勢いを封じこめるために民主党は民主党指導部だけが下院議長を解任できる動議規則を変更することで解任動議をあげさせなかった 」というのは、さすが権力を集中させる民主党ともいえる。民主党はとにかく権力の集中を好むし、財政出動拡大を簡単にさせようとするルールを設計してくる。共和党はその逆なのだ。

下院委員会の委員長が決定

議員ならだれでも法案を提出できるが、提出された法案は管轄委員会に送付される。その法案を取り上げるかどうかは、委員長次第だ。稀に下院議長が直接取り上げる場合もあるが、基本フローは委員長によって審議されるかどうか決まる。法案の9割は委員長によって葬り去られている現実を考えると、委員長が誰かをおさえておくことは米議会をみていくうえで重要なのだ。
下院委員会委員長の任命は、下院議長が批准する。また、下院共和党内の独自規則として3期までしか連続して委員長を務めることができないようにしている。

<下院委員会委員長>
歳入委員会:Jason Smith (Mo.)   RSC所属
歳出委員会:Kay Granger (Texas) RSC所属
下院規則委員会:Tom Cole(OK) RSC所属
軍事委員会:Mike Rogers (Ala.)   RSC所属
予算委員会:Jodey Arrington (Texas) RSC所属
教育・労働委員会:Virginia Foxx (N.C.)  RSC所属
エネルギー・商業委員会:Cathy McMorris Rodgers (Wash.) RSC所属
金融サービス委員会:Patrick McHenry (N.C.) RSC所属
下院外交委員会: Michael McCaul (Texas) RSC所属
安全保障委員会:Mark Green (Tenn.) RSC所属
司法委員会:Jim Jordan (Ohio) フリーダム・コーカス初代議長
天然資源委員会:Bruce Westerman (Ark.) RSC所属
科学・宇宙・テクノロジー委員会:Frank Lucas (Ok.)  
運輸・インフラ委員会: Sam Graves (Mo)
農業委員会:Glenn Thompson  (PA) 

引用元:Roll CalltheHill

想定内ではあるが、重要であり主要委員会がほぼThe Republican Study Committee (RSC) 所属議員になっている。唯一の例外が、司法委員会でフリーダム・コーカス初代議長の Jim Jordan 議員くらいだろう。

それにしても、委員長の選出州も見事に偏っている…
もちろん民主党支配の場合の委員長選出もCA州がやたら多いのはあるんですけどね。


2011年以来の債務上限危機が訪れる可能性

イエレン財務長官は、 米国は19日に$31.4兆の法定債務上限に達する可能性が高く、財務省は特別な資金管理措置に着手せざるを得なくなると述べた。 「 現金や特別措置が6月上旬までに枯渇することはないが、6月上旬以降に政府が支払不能に陥る可能性がある」と警告している(引用元:WSJ

去年からわかっていたことだが、米議会は債務上限を引き上げる必要がある。
米国は、無制限に借金を増やさない仕組みを設けており、必ず米議会でいくらまで借り入れできるかをきちんと記載して立法する。上下院ともに可決し、大統領の署名が必要である。

しかし、2023年はそんなにすんなりはいかない。主にフリーダム・コーカスがマッカーシー議員を下院議長として承認するなかの条件に、「財政改革をしない限り債務上限引き上げに抵抗する」と認めさせているからだ。
その財政改革については、どれを削減するのかの合意はほぼない状況だ。
フリーダム・コーカスの主張としては、10年以内に財政黒字化(10年間で$10兆前後の巣支出削減)だ。そもそも共和党内で国防費を聖域と考えている議員が党内で多数を占めていることを考えると、党内交渉が困難を極めるだろう。 しかも、今回はたった5名が反対票を投じれば共和党内全員の賛成はとれずに可決できなくなる。現在の下院共和党の方向性を考えたら、下院民主党の票を取り入れるということはまずしないだろう。

ちなみに 連邦債務が法定上限に達した場合、米国債の利払いを優先するのか政府職員への給与を優先するのか、優先順位が決められていない。過去にトゥーミー議員が、米国債利払いを優先させることを法整備しようとしたが失敗している(引用元:ブルームバーグ

2011年には、政府支出と債務上限をめぐる対立から米国の格付けが下がり、金融市場が混乱した。まあその時も共和党のティー・パーティーが引き起こしたといえるのだが。また、再び混乱が起きてもおかしくないだろう。
政府が無制限に借金できるようになると権力が拡大してしまうことから、それを防ぐために設計された米国ならではだと思う。確かに混乱ではあるが、この問題は、人民のLibertyを守るために設計された連邦政府ならではだろう。