米議会は今週から再開/中間選挙総括 第一弾。下院選におけるゲリマンダの影響

中間選挙で最終的な決着はついていないが、今週から上下院ともに米議会は再開。といっても来週はThanksgivingがあるので上下院1週間休会となる。
ペロシ下院議長は、来年は民主党が下院支配ではなくなる可能性が高いため、民主党指導部は債務上限を年内に進めたい構えだ(引用元:Bloomberg)
2022年中間選挙で当選した候補者は、2023年1月3日から正式に議員となる。年内は現在の議会構成のまま開催されるが、レームダックと表現されてしまうくらい何も進まないことが常だ。ただ、民主党は来年からオールブルーではなくなることを懸念して年内に急いで法案を進めようとしている動きがあるが、どの法案から進めるかはシューマー院内総務、ペロシ下院議長をはじめとした下院指導部が権限を握っているので彼らの発言を待つしかないだろう。

https://www.majorityleader.gov/calendar
「Vote」は本議会での投票が予定されている。「District Work Period」は、選挙区での活動という意味するため、議員は基本的にはワシントンを離れる。

上院を民主党が多数党になるというのは大きな意味をもつことになる。
というのも、政府高官と連邦判事の承認権限があるからだ。また、バイデン大統領が外交で締結してきた条約の批准権限ももつ。バイデン政権にとっては、新たな財政政策、立法を可決するのは難しくなるが、連邦判事承認を進めることは今後の訴訟で有利に進ませることになるだろう(引用元:Politico


中間選挙総括にむけて 第一弾

Real Clear Politics(RCP)といい、FiveThirtyEight.comといい、今回は上院では共和党が勝利するという予測をはずしている。RCPは54議席、 FiveThirtyEightは選挙1週間前くらいに50vs50から51議席に変更していたあ。
予測と実際の乖離がどこにあったかは、これから明らかになってくるだろう。世論調査はだいたい「今日、もし投票があるとしたらどっちに投票するか?」で聞いてくるしサンプル数が1000~2000前後だから実際とずれるのが当然といえば当然なのだが、世論調査で聞かれていた回答と別の候補者に投票したか、投票に行かなかったかのどちらかになるだろう。このあたりはデータを待つことにする。

現段階の総括としては、下院や州議会は選挙区割り変更の影響が大きくでたし、ほぼそれで決まったといっていいのではなかろうか。一方で、選挙区に関係なく州の代表者を決める上院、州知事、州司法長官、州務長官などについてはそれぞれ細かくみていく必要がある。
なぜなら、ブルーウェーブがきていたとしたら、上院、州知事、州司法長官、州務長官などオールブルーになってよいはずだが、そうはなっていない場合もいくつか見受けられる。例えば、NV州をみると州知事は共和党知事立候補者(Joe Lombardo氏)が現職民主党知事(2期目)から奪還している。しかもこのLombardo氏は、個人的な信条としては“personal belief is pro-life”だと発言しているが、NV州民投票に従うとしている。また、共和党がトランプ前大統領からも支持を得ているが、「票が盗まれた」という不正選挙についてはきっぱり否定している。 敗れた現職知事シソラック氏は中絶の権利を強力に支持していたので、民主党が主張するように中絶の権利擁護派や女性が動いたのだとすればなんで現職が負けたのかつじつまがあわない(引用元:AP通信


下院選・州議会選におけるゲリマンダの影響

自党に都合の良い選挙区を設定することをゲリマンダというが、共和党も民主党もやっている。民主党の議会選挙対策委員会の責任者を務めていたマロニー下院議員の敗北は、民主党下院にとっては想定外の大きな打撃だったが、これもまさに選挙区変更の影響だ。もともと Lean-Democraticといわれていた17区では思わぬ番狂わせがあったというわけだ (引用元:PBS
今回のNY州における共和党の躍進は、州裁判所によって民主党が極端なゲリマンダを実施していると判決がでたため、中立的な選挙区に変更となった。その証拠に今回はTOSS-UPといわれていた4つの選挙区は、3区共和党、18区民主党、19区共和党、22区共和党リード(まだ未決着)となってしまっている。ゲリマンダの時点では6議席確実だったが、実際ふたをあけたら9議席獲得であと1議席も獲得できそうな状況なのだ。

この失敗に対して、NY州民主党内では早くも誰に責任があるかの議論になっているし、元NY市長ブルームバーグ氏顧問は「NY州民主党が選挙区割りで失敗しなければ」とはっきり発言している。他にも理由は述べている者の、選挙区割りは勝敗を決める大きな要素なのだ。

一方で、AZ州については4区以外は、選挙区割りの段階で共和党6議席、民主党2議席、接戦1議席(4区)と共和党が制覇すると思いきや、接戦の4区は民主党現職 Stanton議員が当選確実。Lean-Republicanといわれていた1区、6区が接戦となってしまっている。しかも残りの票は民主党が強いマリコパ郡などが大半を占めるため民主党が奪還する可能性がおおいにある。
1区のSchweikert議員もAZ州議会議員の中で、州の選挙結果を受け入れる(トランプは負けたと認める)と発言しながら、2022年共和党予備選の前には急にトランプ前大統領から支持をとりつけたりしている。このあたりは、AZ州議員内での問題もありそうだ(引用元:Yahoo
一方で、6区のヒスパニック系のjuan Ciscomani氏はトランプ大統領から支持はうけていない( 引用元:Ciscomani氏のホームページより)
AZ州についてはトランプ前大統領が支持した Eli Crane氏は現職民主党議員を破っているが、そもそも2区は共和党が強い選挙区になってしまっている。予備選の時にトランプ前大統領をより強く支持していたBlackman氏は落選していることもあり、どちらかというと選挙区変更の影響が大きいと思われる。ホームページを見る限り、 Eli Crane氏はそこまでトランプ前大統領支持を強く打ち出しているとも思えない(引用元:Eli Crane氏のホームページ

なお、民主党にとって朗報だったのは、MI州の州知事・州議会がオールブルーになったことだろう。これも、独立委員会が作成した新しい議会地図が民主党に有利に働いた。約40年ぶりに、州知事、州議会上下院がオールブルーになった。このことで、州内の立法はかなりやりやすくなるだろう(引用元:Politico

同じく民主党にやや有利な選挙区割りになったペンシルベニア州ではあったが、共和党がペンシルベニア州議会上院議席を1議席、下院議席では11議席を獲得するだけでペンシルベニア州州議会上院を奪還するには至らなかった。ペンシルベニア州は州知事が民主党・州議会上院が共和党、州議会下院が民主党といったねじれ議会がまた2年続くことになる(引用元:inquirer.com


上院選・ 州知事・州司法長官・州務長官

PA州、NV州、AZ州、GA州といったトスアップになっていた州をみていく。
アリゾナ州はリードしている候補者が勝てばブルーウェーブがきたといってもいいのかもしれない。アリゾナ州は共和党が獲得できるはずの下院選挙区まで負けたとしたら、特にそうだといえるだろう。

①ペンシルベニア州
州知事: Josh Shapiro(民主党)
上院議員: John Fetterman (民主党)
※州務長官、州司法長官の選挙は2022年はなし

②ネバダ州
州知事:  Lombardo(共和党)※現職民主党知事は敗れた
上院議員:現職 Cortez Masto民主党議員
州務長官: Francisco Aguilar 民主党候補者がリード(まだ未確定)
州司法長官:Aaron Ford 現職民主党の再選

③アリゾナ州
州知事: Katie Hobbs 民主党候補者がリード(まだ未確定)
上院議員:現職ケリー民主党議員
州務長官: Adrian Fontes 民主党候補者がリード(まだ未確定)
州司法長官: Kris Mayes 民主党候補者がリード (まだ未確定)

④ジョージア州
州知事: Brian Kemp現職共和党知事
上院議員:決選投票
州務長官: 現職共和党 Brad Raffenspergerが勝利
州司法長官:現職共和党Chris Carr氏が勝利

トランプ前大統領のマイナスな影響

今回、トランプ前大統領が支持した候補者(現職を含む)と、連邦議員で21議員いたがすでに9議員は負けていて、7議員が勝利している現職議員を除くと、4議員しか当選させることができていない。予備選の時に、民主党が恐れていたほど影響力は小さかったが、今回でさらに影響力が小さいことが証明されたのではなかろうか。また、トランプ-チルドレンで有名だったGA州グリーン氏は当選できたが、CO州  Lauren Boebert氏は予想外に接戦となり苦戦している。
正直、民主党がなぜあそこまで「トランプ恐怖症」に陥っているか理解に苦しむが、トランプ前大統領が出馬したらバイデン大統領は再選目指して2024年大統領選出馬となるだろう。

尚、メディアが共和党が負けたのはトランプ前大統領のせいだとするのは、共和党のトランプ前大統領の影響力を低下したい層が発信しているからだろう。もちろん、その理由が大きいのはあるだろうが、マコネル上院院内総務とトランプ前大統領が罵り合いをしていたこともあり、マコネル上院院内総務がトランプ前大統領支持候補者がいる激戦区に資金投下しなかったことなどいろいろな理由がある。トランプ前大統領は支持だけは宣言するが、候補者に献金しないというアレなことをしていた。

15日に重大発表をするようだが、正直、出馬したとしても献金が集まらないだろう。というのも、2022年中間選挙の共和党メガドナーの顔ぶれをみると、1/6議事堂襲撃事件があった時に「トランプどうにかしないとGA州上院選決選投票に献金しない」と脅した実業界メンバーが上位にいる。トランプ前大統領を強く支持したラスベガス・サンズ創業者のアデルソン氏はもういない。ピーター・ティールも思ったより献金していない。小口献金で乗り切るといっても難しいだろう。

2024年総選挙はオールレッドの可能性高まる

先ほども書いた通り、トランプ前大統領が出馬してしまうと、民主党はトランプ前大統領に勝ったことがあるバイデン大統領を出馬せざるおえなくなるだろう。しかも、今回、ボロ負けではなく上院は維持できたので、よりバイデン大統領を出馬させることに傾くだろう。

一方で、共和党は今回のトランプ前大統領の影響力低下(支持者が勝てない)をみて、ますますトランプ前大統領を排除する方向に向かっている。おそらくデサンティス知事に決まるのではなかろうか。
そうなると、バイデン大統領不人気が続いていることもあり、デサンティス知事に新たな期待をよせるという方向になってもおかしくはないだろう。

また、上下院については2024年にはだいたい結論がでている。
前述で長々と述べた通り、下院選挙についてはゲリマンダの影響が強くでるので、今回の下院議席数でだいたい決まるのではなかろうか。もちろん、FL州の訴訟などは一時停止して選挙になったが、仮に州知事・州議会が決定したゲリマンダが敗退すれば獲得議席数が減るなどある。
そのためにも、ゲリマンダ訴訟を引き続きおっていくことは必須だ。

また、2024年上院選で民主党は敗退することは既定路線だ。まあ共和党が60議席とるのまでは難しいのではないかという気がするが、多数党にはなれるだろう。