8/15-19 米議会は休会中/下院でINFLATION REDUCTION ACT可決/注目のWY州共和党予備選

上院が8/7(日)に可決した 「INFLATION REDUCTION ACT」を、下院は民主党議員が全員賛成にまわり220、反対207の賛成多数で可決した。 内容は先週書いた通り。

いくつか気になった点

1)$800億かけて実施するIRSの徴税強化
全米税制改革協議会(Americans for Tax Reform)は、共和党支持団体の主要団体の一つではあるが、今回のIRS強化に対して激しく抗議している。納税者の監査率が全体的に上昇し、監査率が10年前の水準に戻るとされている
CBOの試算では、IRS課税取締強化による歳入のうち少なくとも$200億は、年間所得40万ドル以下の個人または中小企業から徴税されるとされている。確かに、これはバイデン政権の公約に反しているだろう(引用元:共和党 下院歳入委員会より

IRS職員の労働組合であるThe National Treasury Employees Union の主張では、2010~2020年にかけて既に予算と人員が20%削減されてきて、今後6年間で52,000人の職員削減も予定されているとのことだ。彼らにとっては、今後予定されている職員削減の補充も含めて今回の予算が対応できるとのことだ。今回の予算で87,000名の人員補充できるようで、NTEUとしては以前の水準に戻したいという目論見だろう(引用元:NTEU
FOXの指摘によると、追加された職員は全員がNTEUに加入するのではないかと指摘されているが、まあそういう方向になるでしょうね。今年、選挙を迎えるハッサン上院議員(NH州)がNTEUから多額の献金を受け取ったことも言及されている。

2)キャリードインタレスト“carried interest”の廃止の条項削除

民主党シネマ上院議員の鶴の一声で削除されたこの条項。彼女は PE、HF、VC から累計で$150万ほど受け取ってきている。(引用元:AP通信
富裕層の味方とみなされ、民主党内のプログレッシブコーカスから敵だとみなされている。2024年の再選挙時は、民主党内プログレッシブコーカスからの候補者と予備選で戦うことになるだろう。
ただ、シネマ議員はアリゾナ州の州民のためにもきっちり仕事をしているのは抜け目がない。今回の法案にアリゾナ州を含む西部に$40億の水不足資金を追加させ、製造業に不利にならないような法人税最低税率で一部除外を実現させている。ここはきちんとアリゾナ州の米商工会議所の意見もきいている。

それにしても、シネマ議員ひとりに献金するだけで、 “carried interest”の廃止の条項削除できるんだから費用対効果としては極めて高いよなあ。


さて、今回の 「INFLATION REDUCTION ACT」 はインフレ抑制法案と名付けられているものの、昨年11月に可決したインフラ投資法案(新規投資$5500億)、 $2800億の国内半導体助成金・科学技術支援法案(the CHIPS and Science Act of 2022) 、 $2780億の退役軍人給付法案と4つの法律を合算すると、財政赤字は10年間で約3000億ドル増えることになる。また、赤字削減につながるのは2022~2023年の次は、2030年まで待たなくてはならない。

2022年:$43億の赤字削減
2023年:$6億の赤字削減
2024年:$480億の財政投下(赤字削減なし)←総選挙
2025年:$728億の財政投下 (赤字削減なし)
2026年:$1040億の財政投下 (赤字削減なし)
2027年:$750億の財政投下 (赤字削減なし)
2028年:$350億の財政投下 (赤字削減なし) ←総選挙
2029年:$144億の 財政投下 (赤字削減なし)
2030年:$17億の赤字削減

(引用元:Biden’s Agenda Doesn’t Give Priority to Inflation, Despite Rhetoric

立法成果を上げたことは、民主党選挙メッセージとしておおいに役立つだろうが、有権者が実感できるのは2024年以降になるので、有権者の票集めになるかどうかはいまいちわからない。
特に、無党派にとっては経済状態やインフレ、ガソリン価格が極めて重要なことがわかっている。立法成果よりも、経済状態を悪くしないことが票集めにとって重要になるだろう。実際、ガソリン価格が下落しはじめたタイミングから共和党の議席予測数が徐々に下落していっているのがわかる。
少し前までは、上下院とも共和党予測が大半だったが、今となっては上院は民主党と共和党が接戦になる、あるいは民主党が勝利するというのがコンセンサスになってきているようだ。(引用元:FiveThirtyEight
私自身の予測としては、民主党が51~52議席になる可能性が高いと思っている。トランプ元大統領が支持したPA州のオズ候補と、GA州のウォーカー候補がどうも負けそうなのは共和党にとってかなり痛手となるだろう。


注目の共和党予備選挙(WY州/AK州)とトランプ大統領の訴追の可能性

FBIが8日、トランプ前大統領の邸宅「マールアラーゴ」を予告なしに家宅捜索したことが大々的に報道された。
1月6日議事堂襲撃事件について調査している下院の特別委員会はトランプ前大統領の起訴を強く支持しており、ガーランド司法長官には政界とメディアからトランプ氏の起訴を求める強い圧力がかかっていることはずっと前から報道されていた。
WSJに書かれている通りだけど、仮に大統領記録法の件で訴追されたとしても法廷闘争で時間がかかるだろうからそんなにすぐは判決がでてこないだろうな…とも思う。

1978年の大統領記録法は、当時のリチャード・ニクソン大統領が在任中の文書の所有権を主張しようとしたのを受けて制定された。同法は各政権に対し、十分な記録文書を維持・管理する措置を講じることを義務づけている。大統領の任期終了後、文書は自動的に国立公文書館の法的管理へと移される。 政府文書の不適切な扱いは、複数の刑法の対象となる。元検事らによると、トランプ氏が文書を削除したり破棄したりすることに関連した犯罪で訴追された場合、政府記録の不適切な取り扱いに関連した少なくとも一つ、もしかすると二つの法律に基づいて罰せられる可能性が最も高い。 そうした法律の一つは、政府職員が機密文書を持ち去り許可されていない場所に保管することを禁止している。違反して有罪判決を受けた場合は、罰金と最長5年の禁錮刑を受ける可能性がある。
 もう一つの法律では、裁判所に提出された文書や官公庁の文書を隠したり移動・破棄したりすることを禁じている。この法律に違反した場合は、罰金と最長3年の禁錮刑を受ける恐れがある。違反者は「職を剥奪され、米国でいかなる公職に就く資格も失う」

https://jp.wsj.com/articles/government-records-case-against-trump-could-raise-rare-legal-issues-11660112326

今週の8/16に行われるWY州の共和党予備選挙が注目されている。 トランプ元大統領の弾劾に賛成票を投じ、1/6米議事堂襲撃事件の特別委員会でも重要な役割を果たしたチェイニー下院議員が再選するか、落選するかの方が重要だろう。直近の世論調査では、チェイニー議員はヘーグマン候補者に対してビハインドしている。民主党陣営が、チェイニー下院議員に投票するために党員変更するはなしまで出ているようだ(引用元:The Hill

また、8/16はあわせてAK州のマカウスキ議員の予備選がある。世論調査では、トランプ元大統領が支持したKelly Tshibakaがリードしているとのことだが マカウスキ議員は無党派にも支持があるので彼女には有利に働くだろう(引用元:The Hill