INFLATION REDUCTION ACTの動議開始が先ほど51票を得て無事に進んだ。7月27日(水)にマンチン上院議員とシューマー院内総務が合意を発表してから、民主党シネマ上院議員との交渉、上院議事運営専門家(Parliamentarian)からバード・ルールのチェックに1週間以上もかかったが、なんとか間に合った。
上院議会ではこのままvote-a-rama( 予算決議に修正動議を相次いで提出する戦術) が続き、東部標準時間日曜日の明け方~午前中に可決することになる見込みだ。上院で可決後、下院議会は8/12(金)に採決を予定している(引用元:The Hill)
バード・ルールで、1項目だけ削除
まず、最も懸念されていたのは上院議事運営専門家(Parliamentarian)からのバード・ルールのチェックだ。今回は、財政調整法案をつかうため、バード・ルールに従う必要がある。
複数の条項がバード・ルール違反になるのではないかという予測があったが、 上院議事運営専門家(Parliamentarian)からのフィードバックは
「 インフレを超える薬価の大幅引き上げに対し医薬品企業に高額なペナルティを科す」だけがバード・ルール違反になるというだけだった。
民主党にとっては、メディケア(高齢者・障害者向け医療保険)でカバーされる医薬品の価格について連邦政府に交渉を義務付けることがバード・ルールに該当しなかったのは、朗報だ。メディケアの薬価を引き下げることは、民主党にとって長年の目標だった。まさにそれが今、実現しそうなのだ。シューマー院内総務は、勝利宣言とともに、 上院議事運営専門家(Parliamentarian) からのフィードバックをふまえてこの部分を削除対応したとプレスリリースをだしている(引用元:民主党上院ホームページ)
シネマ上院議員の追加要求
民主党上院議員では、マンチン上院議員だけがやたら目立つようになったが、シネマ上院議員も重要な交渉相手の一人だ。 INFLATION REDUCTION ACT が発表された時、シネマ上院議員は交渉から除外されていたため、法案そのものを拒否するのではないかという不安が民主党上院議員内にはあった。ここでもシューマー院内総務が交渉相手として動き、結果的にはシネマ上院議員の意見をすべて反映させた。
彼女の要求は3つになり、すべて通った。
① キャリードインタレスト廃止の条項を削除
②AZ州など西部エリアの干ばつ対策のための$40億の支援(歳出)
③企業の自社株買い額に対して1%の課税($740億の歳入を見込む)
④利益が$10億を超える大企業に対して法人税最低15%は確定。
ただし、減価償却控除分については免税。この変更で、$3130億の歳入から$2580億の歳入に縮小。
まとめると以下のようになる。歳入・歳出は、10年間の合計額となる。
また、2023年1月2日から開始される見込み。各項目予算の参照元(TheHill)
歳入 | |
利益が$10億をこえる企業に対して法人税最低税率15% | $2580憶 |
メディケアにおける薬価の価格交渉など | $2880億 |
IRS 徴税取締強化 | $1240億 |
企業の自社株買い額に対して1%の課税 | $740億 |
合計 | $7440億 |
歳出 | |
エネルギーセキュリティと気候変動対策 | $3690億 |
オバマケアへの低所得者向け3年間の補助金延長 | $640億 |
合計 | $4330億 |
赤字削減額 | $3110億 |
各詳細は先週書いた記事から少しアップデートしてもう一度掲載する。
◆歳入について
1) 15%最低法人税の案
・対象は利益が$10億を超える大企業。ウォーレン議員が提出したレポートによると2020年に利益が$10億を超える70社の実効税率は15%未満だった。
※Meta、Apple、Bank of America 、Oracle、Microsoft、Fordなどが対象になるはず
2) 薬価引き下げ
・メディケア(高齢者・障害者向け医療保険)のパートBとパートDで提供される医薬品価格について連邦政府に交渉を義務付ける。 2026年に10品目の医薬品から始まり、2029年までに20品目に増加する。
・メディケア パートD(処方箋薬)加入者に年間$2000の自己負担上限を設定。2025年から施行予定。
・2023年からメディケア加入者に対してインシュリンの自己負担上限額を月$35とする
(薬価引き下げに関する参考資料:Bloomberg / NPR)
3)IRS(内国歳入庁の課税取り締まり強化)
4)企業の自社株買い額に対して1%の課税
2023年1月2日から施行されるため、2022年には自社株買いがラッシュになる可能性も指摘されている(引用元:Bloomberg)
◆歳出についても先週の記事と重複するが再度掲載する。
エネルギーセキュリティと気候変動対策 で$3690億
米史上最大の気候変動対策予算
歳出については大きな変更がなかったので、27日に上院民主党ホームページで公開されたEnergy Security and Climate Change Investments Summaryをみて抜粋して記載している。
1)低所得者向けの支援
・低所得者層向け住宅のエネルギー効率を高める($90億投資)
・新規クリーンカー購入の税額控除($7500)を2032年まで延長。中古車に対してもの税額控除$4000(ただし初回の再販のみ)も追加。 メーカーごとの上限は撤廃される。
控除の条件は所得と車両価格。
-新車:最大$15万以下の個人所得(共同:$30万以下)
中古車:最大$7.5万以下の個人所得(共同:$15万以下)
-クレジットの対象となるクリーンカーには、価格上限あり
SUV・バン:$80000、普通車:$55000、中古車:$25000
また、この控除は2分割される。
1)バッテリーの50%以上が北米製造または組立てられたか
(年々比率をあげていき、最後の2029年には100%北米製造を求められる)
2)クリーンカーに使用される重要鉱物の40%以上が米国内またはFTA締結国で採取・加工・リサイクルされたか。2026年には80%になるよう毎年10%上昇させていく。
なお、この点についてはMI州上院議員がFord、GM、トヨタからの圧力をうけて削除する動きをみせていたが頓挫してそのまま条項として残ってしまった(引用元:Bloomberg)
あまりにも控除適応の規制が厳しいため、税額控除が適応される車種が激減した。幸いなこととしては、詳細の要件定義は財務省とIRSが決めていくことになるので緩和要件も今後期待されるだろう(引用元:Politico)
今回、マンチン議員の要望により、EVだけでなく水素自動車も税額控除対象となった。 マンチン議員は以前から水素利用のハブ拠点をWV州に構築する動きをみせており、WV州で豊富な石炭を利用してブルー水素拠点を作りたいようだ(引用元:Motor Biscut)まあ、そもそもハイブリッド車でさえ税額控除対象になっているので、EV促進とは程遠くなってしまったのはあるが。
2)エネルギーセキュリティと国内製造促進
・太陽光パネル、風力タービン、バッテリー、重要な鉱物資源加工の生産税額控除(推定$300億)
・クリーンテクノロジー工場建設に投資税額控除(推定$100億)
・既存の自動車製造設備をEV製造に変更するための補助金($20億)
・EV工場建設のために最大$200億の融資
これはクリーンエネルギー投資にとって朗報。風力発電については、2022年着工分については投資税額控除は期限切れだったし、太陽光発電についても2024年以降、家庭向け太陽光パネル設置は0%になる。
3)経済の脱炭素
・発電を化石燃料からクリーン・エネルギーとエネルギー貯蔵に促進するための税額控除、助成金、融資制度($300億)
・鉄鋼やセメント工場などCO2排出量が多い工場からのCO2削減のための設備導入($60億)
・クリーンエネルギー技術投資($270億)
さて、まだ少なくとも10時間はこれから続く Vote-a-rama ではあるが、民主党内での合意を取り付けているため、大幅な修正はないと考えられているが、まあ最後まではわからない状況だ。
また、可決したとしても、 クリーンカー購入の税額控除などは管轄の行政が細かいところは決めていくので、可決後の動きをみていくことも重要になってくる。そのあたりもウォッチしていきたい。