米議会が夏期休暇にはいるまで、残り3週間となった。
中間選挙のために米議会が「成果」とよべる立法期間は残り3週間。
①Build Back Betterスリム版(増税含む) $3000~5000億規模
先週末に、マンチン議員は「薬価引き下げ」以外は、法案を通すことに賛同しないと宣言したため夏期休暇前の可決は絶望的になった。
(引用元:Bloomberg)。民主党としては、クリーンエネルギー促進、 連邦政府の支援を見込んでいたわけだがマンチン議員の発言で太陽光銘柄では金曜日には失望売りがあった(引用元:CNBC)
2023年末までの住宅用太陽光発電システム設置に対する優遇措置の税額控除は現在の26%から2023年は22%に下がり、議会が新たに可決しない限り、2024年に期限切れとなる。商業用太陽光システムの税額控除は同年、永久に10%になる。米議会が硬直状態に陥っているため、時間との戦いになってきているともいえる。
一方で、株式市場にとってポジティブな内容としては、 米企業への法人税増税は支持しつつも、法人税の国際的な最低税率15%は交渉テーブルから外れた。
マンチン議員は改めて交渉を打ち切ったわけではないとしている。夏期休暇中の7月CPIを8月に確認してから9月の法案可決を判断するとマンチン議員は再度発言している。とはいえ、 どこまでCPIが下落すれば納得するのかもマンチン議員は示していない。 パウエル議長と同様に「2%」に戻ってからとするなら、今年の法案可決というのはかなり難しくなるだろう。また、そもそもエクソンから長年の献金をうけているマンチン議員のことを考えると、過度に化石燃料企業を追いやるような法案を可決するはずがないので過度な期待をしてはいけないだろう
さて、マンチン上院議員が賛同している薬価引き下げについては再度整理。
① メディケア(高齢者・障害者向け医療保険)でカバーされる医薬品の価格について連邦政府に交渉を義務付け、インフレを超える薬価の大幅引き上げに対し医薬品企業に罰則を科す 。交渉は2023年から開始される予定で、この交渉で10年間で累計$2800億の歳出削減をもくろんでいる
②Affordable Care Actの下で期限切れとなる健康保険補助金の2年延長
→マンチン議員は、①のメディケア交渉で削減した$2800億のうち$400億を予算割当しようと考えている。延長しないと年末で期限切れとなり約1300万人の保険料が値上がりし、数百万人が保険に入れなくなる恐れがある(引用元:WP)
③ メディケアの薬剤費に年間$2000の給付上限を設ける
これは案としては上がっているようだが、①と②が話の中心でまだなんともいえない
② Bipartisan Innovation Act(対中国競争法案)
先週は、レモンド商務長官・オースティン国防長官がともにこの法案を議会は夏期休会前に可決させるべきだと発言していた。その発言をうけてなのか、マコネル少数党上院院内総務の脅しをうけてなのかわかりかねるが、シューマー院内総務は早ければ審議開始をして可決させる意向を示した。共和党上院議員がどれだけ賛同するかは未だ不明である。
しかし、競争力を高めるために$2500億ほど予算を組んでいたわけだが、上下院で相違点が多く今年春から合同委員会を進めていたが調整がついていないままになっていた。
そんな中、数週間前にマコネル上院院内総務はBuild Back Betterのスリム版を民主党だけで単独で進めるならば Bipartisan Innovation Act に共和党は賛成票を投じないと脅しをかけたわけだ。しかし、マコネル上院院内総務は米国内半導体製造の補助金の$520億だけ切り出して可決させることには前向きな意向を示している。一方で、マコネル少数党上院院内総務は投資税額控除には難色示しているが、シューマー上院院内総務はここも含めて可決したい。したがって、まだ上院内の共和党・民主党間でも解決できていない(引用元:AXIOS)
また、マコネル上院院内総務はすでに可決している上院の対中国包括法案を下院が可決することもあわせて推奨しているが、これはペロシ下院議長が拒否するだろう。
③その他の法案進捗
・マリファナビジネスがクレジットカードなどの金融サービスを利用できるSAFE(Safe and Fair Enforcement)銀行法が、下院が作成している2023年国防権限法に含まれたようだ。2022年国防権限法でも同じように下院で修正条項として追加されたが、結局は上院で削除されたので同じような運命をたどることになるだろう(引用元:RollCall)
・上院民主党議員も連邦レベルで大麻を非犯罪化する法案を提出する予定だと報じられたが、これも可決することは難しいだろう(引用元:The Hill)
バイデン大統領の支持率低下と2024年大統領選
6月中旬から最高裁が、中絶、銃、EPAに対して次々に判決をだして、ほぼ何も対抗措置をだせないでいるバイデン政権に失望の波が押し寄せている。支持率は、前大統領をやや下回ることになった。 New York Times-Siena Collegeの世論調査では、8-29歳の若年層の94%が2024年でバイデン大統領以外を大統領候補とすべきと回答していて、この世代のバイデン大統領不支持率は7割を超えている。 救いは、まだ黒人支持率が6割を超えていることだろう。これでバイデン大統領が黒人支持率まで失ってしまったら本当にもう絶望的な状況だ(引用元:The Hill)。また、民主党は中絶、銃規制に関して、選挙でムーブメントをつくろうとしているが、無党派の関心ごとはやはりそこではないのだ。いくつかの世論調査をみていても、無党派の最優先の関心ごとは経済であり、目の前のインフレ(生活コスト上昇)なのだ。中絶、銃規制については二の次なのだ。この優先順位の低さがゆえに、議員も中絶や銃規制だけでは票集めができないため立法化も二の次になってしまうのだ。むしろ、中絶反対や銃の権利擁護の方がコミット力が強いことを認めなくてはならないのだろう(引用元: New York Times-Siena Collegeの世論調査 )
さて、この調査はバイデン大統領が中東訪問でサウジアラビアと会談する前だ。
サウジの原油増産の確約がとれなかった(引用元:ロイター)。バイデン政権としては、8月のOPEC+で大きな発表がされるはずだという期待を寄せている(引用元:The Hill)
それにしても、得るもの上に国内で人権擁護団体からの失望をかったことでダメージが大きかったといえよう。そして、人権を強く擁護してきたバイデン大統領のイメージダウンだけでなく、サウジアラビアとは距離を置くことを公約にしていたので、公約違反もおかした。
ワシントンポスト編集長 Fred Ryan氏は、会合をもつことに対して警告していたし、握手などもってのほかと警告していた (引用元:WP)。にも関わらず親密な挨拶を交わしてしまったことで怒り心頭になっているようだ(引用元:WP)
今回の会談を痛烈に批判している民主党議員はシフ議員くらいだが、そもそも会談することに警告していた議員は多くいたし、クリーンエネルギー促進する動きではなく原油増産という意味でも批判が多くあるわけだ。
今回の訪問でイスラエルとアラブ諸国(サウジアラビア)の国交正常化も前進したこと、その一方でイランには引き続き厳しく対処することは外交的評価ではあるのだが、外交は選挙にはほぼ影響しないのが常なのでねぇ…(引用元:The Hill)
今回の会談は外交成果よりも公約違反のほうが大きく取り上げられているので、次の支持率調査ではさらなる下落を招く可能性は高い。民主党はそんな状況で2022年中間選挙を戦わなくてはいけないのでかなり厳しいところだ。
8月からは予備選挙後半戦がスタートする。またこちらも追ってレポーティングしていきます。