共和党・民主党5月予備選まとめ

5月に共和党・民主党の予備選が行われた。5/3のオハイオ州にはじまり、ペンシルベニア州、 ジョージア州と注目の予備選が行われたので結果と振り返り。
予備選についての説明は、アメリカンセンターから引用。尚、今現在で閉鎖型の予備選(closed primary )を実施する州は14州ある。Semi-closed primaryは14州なので、それも含めると約半数が基本的には支持政党の候補者に登録できるという認識でよいかと思う

予備選挙: 他の選挙と同様、州政府が資金を拠出して実施する。有権者は投票所に行き、投票を行い、退出する。投票は無記名ですぐに終わる。政党に登録した人だけが参加できる「閉鎖型」予備選挙を実施する州もある。例えば、民主党の閉鎖型予備選挙で投票できるのは、民主党員として登録した人だけである。開放型予備選挙は、支持政党の有無にかかわらず、全ての有権者が参加できる。

https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/4495/

まず、大前提として下院は2年おきの任期で全員再選挙になる。上院の任期は6年でざっくり3分の1が2年ごとに選挙となる。その年によって共和党・民主党の上院議員で再選挙となる議員数にはかなり偏りがあるのだ。2022年は共和党が21議席(6議員が引退)、民主党が14議席(1議員が引退)の再選挙となる。何度か書いているが、共和党は再選議席数が多い事、新人候補者をたてる数が民主党より多いこともあり、やや不利な状況ではある。民主党としては全議席を守りつつ、特にペンシルべニア州、オハイオ州、ノースカロライナ州、フロリダ州、ウィスコンシン州の議席を奪うことを目論んでいる。全議席を守れたという前提であっても51~55議席がせいぜいなのだ。フィリバスターを突破できる60票には到底届かないということは変わらず、かりに55議席確保できてもリベラルな法案については難航となるだろう。


以下は5月に行われた予備選で上院選と知事選をピックアップした。 知事の任期・任期制限などは各州などによって違うのだが、今年は36州が知事選を実施する。2020年の13州と比べるとかなり多い。
Rは共和党、Dは民主党を指して、予備選で勝利した候補者を書いている。RかDを一つしか書いていないところは、RかDが強い州なので、そこまで深追いしなくてよいかなという意図だ。

上院知事
5/3Indiana R: Todd Young 再出馬
5/3 OhioR: J.D. Vance
D: Tim Ryan
R:DeWine 再出馬
5/10NebraskaR: Jim Pillen 新人
5/10WV
5/17IdahoR: Mike Crapo 再出馬R: Brad Little再出馬
5/17KentuckyR: Rand Paul 再出馬
5/17 NCR: Budd
D: Beasley
5/17 OregonD: Ron Wyden再出馬 D: Tina Kotek新人
5/17 PA共和党は再集計中
D: John Fetterman
新人
D: Josh Shapiro
R: Doug Mastriano
5/24AlabamaR: Katie Britt 新人 R: Kay Ivey
5/24ArkansasR: John Boozman再出馬 R: Sarah Sanders 新人
5/24GeorgiaD:Raphael Warnock
R: Herschel Walker
R:Brian Kemp
D:Stacey Abrams
5/24TX
Runoff
R:Greg Abbott

予備選は、基本的に党内抗争となるので注目ポイントは2つある。
①トランプ大統領が支持した候補者がどれだけ勝利するか
トランプ大統領が支持した候補者は現職の連邦議員も含めて170名で、新人候補者は44名だ。
②民主党のプログレッシブコーカスから下院議員がどれだけ勝利するか
中道穏健派のブルードッグがどれだけ落選するかだ


まずはトランプ元大統領の影響力について。
5月の予備選結果は、共和党にとって朗報だったように思える。というのも、トランプ元大統領の影響力が想定よりは高くなかったからだ。
何よりも「ジョージア州の選挙は不正だった」と言い続けたトランプ元大統領にとって、「バイデン大統領が勝利した」と最終的に判断した現職のケンプ知事、ラッフェンスパーガー州務長官、州司法長官がそろって圧勝で当選したのだ。この3つすべてに対抗馬を用意したトランプ元大統領だったが、全滅したわけだ。不正だったということをジョージア州の有権者は認めなかったということだ。しかもジョージア州知事選でトランプ元大統領が応援した元GA州上院議員のパーデュ議員は、共和党の有力献金者から全然献金を集められなかったことがわかっている(引用元:Politico)。ペンス元副大統領もケンプ知事の応援に駆け付けたし、そろそろペンス元副大統領も発言を増やしきそうですね。
他にも、アイダホ州では現職知事に対して対抗馬をたて、ネブラスカ州でもトランプ元大統領が支持した候補者がいたが両方負けている。
下院選でも トランプ大統領が支持して予備選で初勝利した下院議員候補者をみると圧勝しているのは1人か2人くらいでGA州では2名が決選投票になっている。トランプ選挙アドバイザーだった Madison Gesiotto Gilbertがオハイオ州下院選で出馬しているが28.6%の得票率 でなんとか勝利したような状況でもある。

しかしながら、オハイオ州予備選でトランプ大統領が支持してきた候補者は勝利している。トランプ元大統領の影響力はまだ州によっては強いのではないか?という見方もあるだろう。
もちろん影響力がまったくないわけではない。だが、NC州のBUDD議員は現職NC州選出下院議員だし、 J.D. Vance候補者は共和党メガドナーであるピーター・ティールから$1500万の献金をPAC経由でうけている(引用元:WP)という他の要素も考えると、実際はもう共和党内での影響力はそんなにないのではないかと思うのだ。
そしてやっと共和党ストラテジストも「トランプの勢いは弱まっている」「想定よりも影響力は低かった」「他の候補者がトランプの影響力を気にしなくなってきた」「トランプをメディアで扱わなくなってきた」という意見がでてきたようだ(引用元:The Hill

民主党は2020年総選挙は、トランプ元大統領叩きで勝利したと認識している。なので、2021年も「トランプ元大統領の政策を変更した」などトランプ元大統領からの変更を強調していた。2022年に入ってだいぶ減ったものの、まだたまにトランプ叩きしている議員もいる。
おそらくではあるが、トランプ元大統領の影響力が弱まってきて(もともと弱かったのに誇張していたのがばれたともいえるかも)、一番困るのは民主党だろう。ただでさえ、インフレ、ガソリン高で共和党から叩かれているのに、共和党に叩く要素がなくなったら困るのだ。
民主党メディア(NYT、Politico、WP)はトランプ元大統領が影響力が強いと書いておいたほうが都合もよかったのだろう。 WPなんか「 Trump’s endorsements in the 2022 Republican primaries 」とトランプ元大統領が支持した候補者を全員トラッキングしているほどだ。

PA州上院予備選が再集計になってしまっているが、トランプ元大統領が支持しているOZ候補が負けたらトランプ元大統領のことは口にさえ出さなくなるかもしれないなあとも思う。まだ、14州の結果なので、6月が山場になるので引き続き注視したい。


つづいて、 ②民主党のプログレッシブコーカスから下院議員がどれだけ勝利するか だ。
下院民主党は、イデオロギー的には3つのコーカスに分けられる。
ただ、下院ブラック・コーカスも重要なので入れておいて4つのコーカスを覚えておけばいいと考えている。プログレッシブコーカスは日本語では急進左派と訳されるが、私には馴染まないのでプログレッシブコーカスと表現して話を進める。
複数のコーカスに入る場合もあるので重複があること、上院が入っている場合もあります。人数はそれぞれのホームページに書いてある人員数。引退予定している民主党下院議員は23名もいて、重複しているが、それぞれどこのコーカスから引退するかも書いた。

今の下院民主党議員でもっとも勢力が大きいのは、プログレッシブコーカスなのだ。その議長をジャヤパル議員がつとめている。ここに”Squad”も入り、イスラム教徒のオマール議員、AOC議員など何かと話題にあがる議員はだいたいプログレッシブコーカスに所属している。社会主義を掲げるサンダース議員もプログレッシブコーカス所属だ。プログレッシブコーカスは大きな政府を目指すだけでなく、Pro-Union(労働組合)、Environmental justice(環境正義)、クリーンエネルギーによる雇用促進といったことが目立つ。

プログレッシブコーカスはPACを立ち上げ、11名の議員候補者を支持しているが、1名を除き順調に進んでいるといえよう(引用元:PROGRESSIVE CAUCUS PAC )プログレッシブコーカスの勢いは増すばかりだ。

一方で、中道穏健派といわれるBLUE DOG COALITIONがどんどん勢いが弱まっている。2008年には59名もいたのに…。共同議長のREP. STEPHANIE MURPHY議員がリタイアするのも大きいだろう。
BLUE DOG COALITION 所属で引退する議員は MURPHY議員を含め3名いるが、現職議員も1名負けた。もう1名も負けるかもしれない。
選挙区が変わった影響で、現職下院議員同士が争うことになったGA州7区だったが BLUE DOG COALITION に所属する Carolyn Bourdeaux議員が負けた。また、TX州28区の決選投票で争っている現職 BLUE DOG COALITION に所属する現職Henry Cuellar議員とプログレッシブコーカスから支持されている Jessica Cisneros候補者が接戦となっていたが、ペロシ下院議長はじめとした民主党下院幹部が支持する現職Henry Cuellar議員が早々に勝利宣言をしてプログレッシブコーカスからは不満がでている。おそらく、まだ決着がついていないで、まだ未開封の票が今週開票されるようだ。
なお、 Henry Cuellar議員は民主党で中絶反対を掲げる最後の議員なので、彼が落選したら民主党は全員中絶賛成になることになる。その意味でも、非常に注目されている。

それにしても、2024年は民主党にとって大きな変化になるかもしれない。ペロシ下院議長はすでに82歳とかなり高齢だ。今回は再出馬することを決めたが、さすがにそろそろ引退するのではないか。となると、プログレッシブコーカスが勢いをます中で下院議長を誰にするのか。今のリベラル民主党にとって、白人・男性は議長にするのはよろしくないと思っているようで、ホイヤー下院院内幹事が議長に昇格することは考えにくい。NY州選出の Hakeem Jeffries 議員の可能性がささやかれているがどうなんだろうね。