ロシア正教のトップであるキリル総主教は、ロシアがウクライナに侵攻した2月の数日後、「祖国防衛の日」として発表した。キリル総主教は、プーチン大統領の「ロシア国民への奉仕」を祝福し、兵役を賞賛している(注1)。ウクライナで続く戦争については、正義と悪の「黙示録的戦い」に他ならないとさえ語ってもいる。キリル総主教にとって、この戦争の結末は「神のご加護を受けられるか否かという人類の行方」を決めることになるようだ(注2)
ロシア正教会が国家の軍事に口をだすというのは、今にはじまったことではない。シリア内戦にロシアが介入した時はもっとはっきりと「キリスト教徒を解放する聖戦」とキリル総主教は発言している(注3)
このように教会人が軍事行動を祝福するのは、ビザンツ帝国(東ローマ帝国)の文化を色濃く受け継いだものと思われる(注4)。ビザンツ帝国時代は、皇帝と総主教を中心とする独特の信仰体系で権威が作り上げられていった。 ビザンツ帝国時代は、皇帝が総主教を任命し、皇帝と教会が密接な関係が築かれていった歴史がある。ビザンツ時代から皇帝は神であるという観念は拒否されていたが、ビザンツ帝国時代は「キリスト教徒を統治するために地上に送られた代理人、真の支配者である全能の神の似姿」だといわれていた。また、皇帝は神の代理人として教会を守護し反映させる責任があった。そのため、国庫から教会に補助金を支給し、異教を抑え(禁止すること)もやっていたのだ(注5)
①正教( Orthodox church )とは
ギリシャ正教と日本語で訳されたり、東方正教会と訳されたりするのだが、本文では「正教」に統一する。というのも、英語では Orthodox church と呼ばれることが多く、Eastern Orthodox Churchとも表現されるが、前者の方が多い。
ではなぜ「ギリシャ」がついたかというと、そもそもOrthodoxとはギリシャ語由来だからだと思われる。ギリシャ語orthos(正しい)とdoxa(信念)を語源として、正しい信念や正しい考え方を意味する。
まず、正教会について大きな誤解を解きたい。ギリシャ正教会は1カ国に1つの教会組織と習った人も多いと思うが、各教会のカバー範囲をみると明らかに違うことがわかる。例えば、正教会で序列第2位のアレクサンドリア総主教(エジプトのカイロにある)は、アフリカ全土をカバーする。また、ロシア正教は、日本やアメリカ、中国に進出した経緯があり、 モスクワ総主教の祝福を受けて「自治教会」 となっている。今でも日本正教会は独立した正教会ではない。 モスクワ総主教の祝福を受けて「自治教会」 となっていると、日本正教会ページにもしっかり書かれている。(引用元:日本正教会)
なお、アメリカは1970年にコンスタンティノープル総主教から独立を認められているが、いまだにロシア正教会(in USA)も残っていたりするので複雑というかぐちゃぐちゃというか、そんなにきれいな構造になっているわけではない。
また、 Antioch (アンティオキア) もPatriarch of Antioch and all the Eastとなっており、アンティオキア・東方の総主教庁とでも表現すればよいのだろうか。
アンティオキアは、トルコの地名でもあるのだが、地名だけ引き継いで、実際はシリアのダマスカスで執務を行い、シリアとレバノンをカバーしている。
また、正教会は、教会ごとに独立性を認められていて、自ら主教を選出してよいとしている。教皇でひとつにまとまっているローマ・カトリックと大きく違う。 正教会での序列第1位はコンスタンティノープル総主教庁(所在地:トルコのイスタンブール) だ。歴史的にも東ローマ帝国(ビザンツ帝国)の首都はコンスタンティノープルだったし、正教会の中心となったことが経緯だ。次いで、序列第2位 アレクサンドリア総主教庁(所在地:エジプトのカイロ)とされている。 まだ、この2つを含めた古代四総主教庁(アンティオケ、イェルサレム)として他の独立教会と比べて歴史があるため権威があるとされている。
では信仰者はどれくらいいるのだろうか。Pew Research Centerが発表したデータによると、全世界に約2.6億人いるとされている。信者が多い国は、トップがロシアで約1億人。次いで、エチオピア約3600万人、ウクライナ約3500万人、ルーマニア約1900万人、ギリシャ約1000万人となっている。また、正教会信仰比率が多いのは、以下の地図以外には、ギリシャ、ジョージアがどちらも約9割を占める。正教会は基本的に生後早い段階で洗礼を受けるはずではあるが、信仰心がどこまであるかはわからない。ロシアでは実際に教会に通っている人は10%未満なので信仰心がどこまであるかわからない部分はある(引用元:Pew Research Center)
また、正教会の教義で特徴的なことは以下の通りだ。
①ローマ教皇の優越性を否定。 総主教も人間だから間違うことがあるとする
②カトリックの「無原罪の聖母マリア」否定→マリアは普通の人間とする
③三位一体で、聖霊は「父なる神から出る」
カトリックとプロテスタントでは、聖霊は「父と子から出る」
④既婚の司祭を早くから認めていた
⑤ユリウス暦を採用
⑥ギリシャ語以外の言語を用いた布教を認めた。
正教会は、ローマ・カトリックと対抗してきた歴史があるため、ローマ・カトリックが認めなかったことを認めてきたことが色濃くでている。
たとえば、ローマ・カトリックはつい数年前まで司祭の結婚を認めていなかった。禁欲の誓いをたてるカトリックならではなのだが、それを正教会はしなかったのだ。また、もう一つ特徴的なのは、ギリシャ語以外の言語を用いた布教を早くから認めたことだ。この方針がなければ次に話すキエフ公国への布教も無理だっただろう。これもラテン語でしか聖書を読むことを認めなかったローマ・カトリック、コーランを読むことを古典アラビア語に限定した信仰とは対照的なことだ。今では聖書が各国に翻訳されているのは常識ではあるが、ギリシャ語を話さない人達に布教するために現地語を使うという判断をくだしたフォティオス総主教の功績であろう。
なお、キエフ公国への布教のために古代スラブ教会文字は開発されたわけだが、それを開発したのはビザンツ帝国内の聖職者であったことを忘れてはいけない。その聖職者の名前が聖キュリロスで、その聖職者の名前をとって「キリル文字」と名付けられている。彼らは民族としてはスラブ人だったが、ビザンツ帝国の聖職者なのだ(注4)
②ロシア正教もウクライナ正教も起源はウラジミール1世の洗礼
ロシア正教会もウクライナ正教会も、988年、キエフ公国のウラジーミル1世がクリミアの都市ケルソネソス(古代ギリシャの植民都市だった)で 正教の洗礼を受けたことを起源としている(注6)。さらに、ウラジミール1世は、ドニエプル川のほとりに全市民を集め、集団洗礼を施して、国教とした。それまでは多神教で偶像崇拝もあった。彼が改宗してから、教会や学校などが建てられていって、キエフ公国はキリスト教化されていった。現ロシアにあるノヴゴロドの聖ソフィア大聖堂は、ウラジミール1世の息子が建設したものだったりする。
2016年に ロシアはクレムリンの近くにウラジミール1世の巨大な像を起き、キリル総主教と除幕式まで行った(注7) 現在のロシアにとっては、建国の父であるとともにウラジミール1世は、歴史上の偉人として描かれており、ロシア正教会の聖人ともいう存在なのだ。
一方で、ウクライナにも ウラジミール1世の巨大な像があり、こちらは19世紀のロシア帝国時代に建設されている。ロシアがウラジミール1世の巨大像を建設した時、ウクライナは激しく抗議している。
Don’t forget what real Prince Volodymyr monument looks like. Kyiv brought Orthodox Christianity to the Rus. Kind reminder to @Russia pic.twitter.com/zQ0BpUKMbS
— Ukraine / Україна (@Ukraine) November 4, 2016
キエフ公国の地図(1000年頃)をみると、現在のウクライナの国境線とはだいぶ異なるが、現在のキエフとモスクワの両方が入っていることがわかる。なので、ルス王国をどちらも起源にせざるおえないだろう。
このキエフ大公国だが、実は北欧のヴァイキングらが作った国だ。東ヨーロッパに進出したヴァイキングは、「ヴァランギア」または「ルス」と呼ばれていた。ヴァイキングによりスラブ民族が支配された国、それが Kievan Rusというわけだ。ちなみに Kievan Rus とは、”land of the Rus”の意味だそうだ (注8)。スラブ民族の国というよりも、東ヨーロッパに進出したバイキング「ルス」が建国した国なのである。この地にスラブ民族もいたはずだが、ルスの国を建国したリューリクはノルマン人でありヴァイキングなのだ。
さて、ウラジミール1世の改宗だが、ビザンツ帝国側からすると、これはキエフ大公ウラジミール1世との同盟交渉だったのだ。ビザンツ帝国の皇女アンナを花嫁に渡すことで、6000のルス人の傭兵が皇帝を支援することになったのである。この同盟以降、ビザンツ帝国側は定期的な傭兵を受け入れることができるようになって大きな戦力となったのである(注4)
スラブ人は当時、文字も文明ももたない民族だった。ある意味、それが文明が発達したビザンツ人にとっては好都合だと捉えたのだ。ビザンツ帝国内に滞在する許可を与え、軍役とひきかえに土地をあたえ、キリスト教の需要とビザンツの文化を同化させてきたのだ。そのれは未だに引きずっていて、元キエフ公国のエリアは都市名がギリシャ語由来だったりするのが多い、ロシア人もウクライナ人も名前はギリシャ語由来だったりする人が一定数いるのはこの時の影響だといってもよいだろう。
ビザンツ帝国からすると、キエフ公国が正教を国教として、ビザンツ文化をふんだんに取り入れたことで、ビザンツの文化圏に組み込んだといえよう。ビザンツ帝国は、武力ではなく、外交・文化・正教(信仰)で支配したのである。
なお、非常に興味深いことに2015年にロシアは「聖ウラジミール1世 没1000周年祝典( Reception to mark 1000 years since the death of St. Vladimir, Equal-to-the-Apostles )」を開催している。St.をつけてしまうあたり、アレだなぁ…と思うのだが、財政逼迫している中、約$1700万を費やして記念式典を実施した。モスクワの救世主キリスト大聖堂での祈りは、ロシア総主教キリルによって導かれ、国営テレビによって生中継している。この時、 プーチン大統領は、「ウラジミール1世がルスの国をキリスト教化することで統一し、ロシアはここまで発展した」 「 当時、ビザンツ帝国ほど発展した文化や国家はなかった」とビザンツ帝国の文化というのを今でも認めている(参照元:kremlin.ru)
話を戻そう。キエフ公国は、モンゴル帝国に滅ぼされたが、信仰には寛容だったためモスクワ大公時代も旧キエフ公国内の正教は温存されることになる。アレクセイ帝のもとで、1653年頃~ニコン総主教による改革「Schism of the Russian Church」でビザンツ回帰が起こる。活版印刷の技術が進み、各教会の教義を比較した時に相違が目立つようになり、ニコン総主教は一つの教義にすることを進めた。それが、ビザンツ回帰だ。当時のコンスタンティノープル総主教の教義を正確に取り入れることを進めた。しかし、このビザンツ回帰に反発した教会がでてきて、それが分裂することになり、「古儀式派」が誕生する。この分裂じたいも興味深いのだが、それはまた別の機会に書くことにする。
③ソ連崩壊後の正教会再興
ロシア帝国時代のピョートル大帝は、 1721年に正教を国教として保護するが「モスクワ総主教庁」は正式に廃止された。ロシア帝国最後の皇帝が1917年に崩御した後、すぐに大司教ティホンを総主教に選出した。これで復興できるかと思いきや、ソ連政府の弾圧がはじまる。ソ連政府による教会財産没収&弾圧、神学校閉鎖など、かつてないほど弾圧がはじまるわけだ。
1980年代になると、ソ連でも信教の自由が認められはじめ、多くの教会が返還されていくことになる。ソビエト崩壊前の1988年に『1,000TH ANNIVERSARY OF THE BAPTISM OF RUS 』”Rus”の洗礼1000年祭ということで、ソビエト崩壊前から正教会はキエフ公国( Kievan Rus )の洗礼を重要視していたことがよくわかる。
ソ連崩壊後、初の正教会総主教になったのはアレクシー2世(Patriarch Alexy II)だ。プーチン大統領が大統領就任した時に祝福の式典をしたのもアレクシー2世なのである。
アレクシー2世は、弾圧されていた教会の復興に尽力して、在任中に3万件、修道院700件に増やした。また、正教会、イスラム教、ユダヤ教、仏教以外の宗教の活動を制限する宗教法の成立を働きかけ、1997年に成功させている。事実上、正教会を国教化したようなものだともいわれた(引用元:Russian Orthodox Church Patriarch Alexy II dies)。カトリックに対しては敵対的な態度を取り続けていたことではアレクシー二世は有名だ。また、アレクシー2世の功績は、ソ連時代に逃げた国外分派と80年ぶりに再統合させたことだ。その統合式典にはプーチン大統領も参加している(引用元:AFP)
④現代におけるウクライナ教会の独立
先に述べたように、正教会系のキリスト教徒は全世界で2.6億人といわれ、そのうち約半数がロシア・ウクライナ。ウクライナ教会が独立する前は、モスクワ総主教庁が抱える信徒1億3600万人の4分の1はウクライナ国内にあり、1.8万カ所ある教会区の3分の1はウクライナだった(注9)
ところが2018年、ウクライナの正教徒の多くが、モスクワ総主教座からの独立を宣言してしまったのだ。ロシア正教会のキリル総主教はこの独立を認めなかったが、コンスタンティノープル正教会のエキュメニカル総主教は独立を承認してしまった。さらに、コンスタンティノープル教会庁は、1686年に起きたウクライナ正教会のモスクワ管轄への移管まで無効と判断してしまったのだ。
当時のウクライナ大統領であったポロシェンコ氏はこの決定を大歓迎し、「神を愛するウクライナ国民は、モスクワの悪魔たちとの戦いで偉大な勝利を収めた」とまで発言している(注10)
このコンスタンティノープル教会庁の判断をロシア正教会は激しく非難した。未だにウクライナ教会の独立を認めていない。同年、ロシア正教会は、ベラルーシの首都ミンスクで教会会議を開き、ウクライナ正教会の独立に関する「コンスタンチノープル総主教庁」の決定を違法として拒否した。同庁との正教会としての関係を「維持することが不可能になった」とする声明まで出している。以前から何かと挑戦的な態度をとっていたロシア正教会だったが、このウクライナ正教会独立がキッカケで、コンスタンティノープル教会とロシア教会は完全に断絶してしまったのだ(注11)これは東西教会が1054年に分裂してから、東方正教会にとって最大の分裂となったといわれている(注12)
正教会においてはローマ教皇のような絶対的首位権を有する者はいないが、最高権威はコンスタンティノープル総主教庁と認識されている。正教会としての正式な独立もコンスタンティノープル総主教庁が認めなければならないとされてきている。
しかしながら、世界にある正教会すべてがコンスタンティノープル総主教庁の判断に従ったわけではない。この判断に対して沈黙しているセルビア正教会などもある。セルビア正教会は、ロシア正教会と関係が深いというのもあるし、セルビア教会は、自分たちのところから1967年に分離したマケドニア正教会が独立承認されるのではないかと冷や冷やしていたほどだ(注13)
⑤挑戦的な態度にでたロシア正教会
正教会の序列1位で最大の権威はコンスタンティノープル教会だ。ロシア正教会(少なくともキリル総主教)は、正教会の中で最も権威があると自らを見なしているし、自分たちを「第三のローマ」と呼ぶことさえある。これも、1473年にロシアのイワン3世がビザンツ帝国の最後の皇帝の姪を妃にして、皇帝(ツァーリ)と名乗るようになったことからはじまっている。ローマ帝国の遺産を受け継ぐ唯一の正統な後継者という考えに基づいている。
また、正教会内でもロシア正教会を支持する教会がある。ピューリサーチセンターの調査 (注14) によると、ロシア正教会を支持する教会の方が多いのが実情だ。正教会もロシア正教会派、各国の独立正教会派、コンスタンティノープル教会派に分かれているといったところだろう。
そして、ウクライナ侵攻前に正教会では大きな事件となったことが起きていた。なんとモスクワ総主教庁は、アフリカに総主教座付属教会を設立することを発表したのだ。ロシア正教会への移籍を希望しているアレクサンドリア正教会の聖職者102人が含まれる予定とのこと。 キリストの降誕祭と聖なるエピファニー(公現祭)の最中に下された決定で。トルコにも付属協会設置をほのめかしたのだ。これは明らかに既にあるアレクサンドリア総主教とコンスタンティノープル総主教への挑戦状なのだ。クーデターだともいわれている(注15)
⑥ロシアと米国福音派の関係
I’ve been in Moscow this week & had the privilege of meeting w/Patriarch Kirill of Moscow & All Russia. It was also a blessing to meet w/evangelical leaders & other officials while there. Pray for them & for more opportunities to share the truth, hope, & life found only in Jesus. pic.twitter.com/ftXhav3glu
— Franklin Graham (@Franklin_Graham) March 7, 2019
この二人が対談をしていたことがあるとは、正直、驚いた。
これは、米国福音派でもっとも影響力がある伝道師の1人であり、トランプ元大統領を支持していたフランクリン・グラハムとキリル総主教がロシアで対談した時の写真だ(無断借用してます…)。2015年、フランクリン・グラハム伝道師は、キリル総主教との会談後、プーチン大統領とも会談している。キリル総主教とは2019年にも再び会談している(注20)
ロシア正教と福音派の歴史は、ソビエト連邦が1980年後半に通信・渡航規制が緩和された時からはじまった。無神論の中心で伝道ができるという奇跡に、何百というキリスト教団体がソ連へ伝道しに行ったのである。フランクリン・グラハムの父であり、有名なテレビ伝道師であるビリー・グラハムもソ連に伝道しにいった牧師の一人だ。ソ連解体後、1990年代に福音派団体は$6000万も費やして伝道したと言われている。
さて、このソ連での伝道後に米国では一つの予測できなかったことが起こりはじめたのだ。ロシアでは共産党政権時に弾圧されていた東方正教会が息を吹き返し、 米国福音派の保守層は、ロシア正教会に対して惹きつけられていったのだ。 1987年、アメリカ福音主義の牧師たちが、2000人のアメリカ福音主義者を北米ア正教会大司教区に正式に編入するようなことまで起きた。
どんどんリベラル化していく米国に対して、ロシア正教会にキリスト教原理主義を見出したとしてもなんらおかしくない。実際、中絶禁止、同性婚の否定、女性の役割などについてはキリスト教の保守的な価値観と一致している部分があるのだ(注21)
そう、実は、正教会も福音派と同様に中絶禁止という考え方であり、過去のキリル総主教の発言をとると以下のような考えをもっていて、実は一部は福音派の考えと極めて近いのだ。福音派は同性愛も認めていないし、それは正教会とも同様だ。ただ、正教会はどうもローマ文化が色濃く残っている感がある。
以下は、過去のキリル総主教の発言だ。
①中絶禁止を強く推進していて、プーチン大統領に嘆願書も渡している(注16)
②フェミニズムを強く非難。女性は家庭に留まるべきだとしている。ロシアの崩壊をまねくとまでしている(注17)
③体罰はロシアの伝統という発言。 “神から親に与えられた本質的な権利 “として保護されるべきであると述べている (注18)
なお、2017年にロシア正教会とロシア議会の保守派議員たちは、家庭内暴力を非犯罪化する法案まで採決している。
特に福音派と正教会を強く結びつけているのは「キリスト教徒は迫害されている」という考えだ。福音派指導者であるフランクリン・グラハムは「キリスト教徒保護の観点から、シリア空爆は正当化できる」とまで発言している。(注22)
フランクリン・グラハムは、プーチン大統領・キリル総主教を直接攻撃する発言はしていないが、ロシアがウクライナに侵攻してからウクライナ・ポーランドに2回も渡航して自分たちの財団費用で人道支援活動を行っている。そのうちの1回は、ペンス元副大統領と一緒に渡航している。
今後、福音派と プーチン大統領・キリル総主教がデカップリングするのかどうかはまだわからないが、注視していきたいと思う。
Our @SamaritansPurse teams in #Ukraine continue to work closely with local churches to distribute relief items. Please pray for the church in Ukraine, those they are helping, and our staff who are serving in this dangerous part of the world. pic.twitter.com/dR2cLufxqV
— Franklin Graham (@Franklin_Graham) April 16, 2022
I want to thank former Vice President @Mike_Pence and his wife @KarenPence for coming to Ukraine to visit our @SamaritansPurse team there and meet many refugees crossing the border into Poland. pic.twitter.com/TO5skJU8yl
— Franklin Graham (@Franklin_Graham) March 10, 2022
注1:キリル総主教は、プーチン大統領に「祖国の守護者」として祝福
http://www.patriarchia.ru/db/text/5900861.html
注2:プーチン氏の戦争、背後に「ロシア世界」思想
https://jp.wsj.com/articles/russian-world-is-the-civil-religion-behind-putins-war-11647578113
注3:RUSSIAThe Russian Orthodox Church, the situation in Syria and the crisis in the Greater Middle East
https://moderndiplomacy.eu/2017/07/04/the-russian-orthodox-church-the-situation-in-syria-and-the-crisis-in-the-greater-middle-east/
注4:『ビザンツ 驚くべき中世帝国』著:ジュディス・ヘリン 白水社
注5:『ビザンツ帝国 生存戦略の一千年』著:ジョナサン・ハリス 白水社
注6:ウクライナ情勢、分断と対立を生んだロシアとの根深い歴史
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/022200085/
注7:クレムリンの近くでウラジーミル大公の像除幕 2016.11.5
https://www.afpbb.com/articles/-/3106907
注8:When Viking Kings and Queens Ruled Medieval Russia
https://www.history.com/news/vikings-in-russia-kiev-rus-varangians-prince-oleg
注9:ウクライナ正教会、ロシア正教会から独立へ
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/b/101600240/
注10:東方正教会、ウクライナ正教会の独立を承認 ロシアは非難
https://jp.wsj.com/articles/SB10750612626653313748604584527042743634878
注11:ロシア正教会が「コンスタンチノープル総主教庁」と断絶
http://www.kirishin.com/2018/10/23/20084/
注12:How Putin’s invasion became a holy war for Russia
https://www.washingtonpost.com/religion/2022/03/21/russia-ukraine-putin-kirill/
注13:Will Macedonia’s Orthodox Church Also Break Away?
https://www.rferl.org/a/29551213.html
注14:Key takeaways about Orthodox Christians
https://www.pewresearch.org/fact-tank/2017/11/08/key-takeaways-about-orthodox-christians/
注15:Russia Establishes Exarchate in Africa, Deepening Orthodox Schism
https://greekreporter.com/2022/01/10/greek-orthodoxy/
注16:Russian Orthodox Patriarch signs petition to Putin urging abortion ban
https://news.yahoo.com/russian-orthodox-patriarch-signs-petition-putin-urging-abortion-194154844.html
注17:Feminism could destroy Russia, Russian Orthodox patriarch claims
https://www.theguardian.com/world/2013/apr/09/feminism-destroy-russia-patriarch-kirill
注18:Is the Russian Orthodox Church serving God or Putin?
https://www.dw.com/en/is-the-russian-orthodox-church-serving-god-or-putin/a-38603157
注19:Russian Orthodox church reunites after 80-year rift
https://www.reuters.com/article/us-russia-church-idUSL1729095720070517
注20:Franklin Graham, Russia and the ‘Moralist International’
https://religionnews.com/2022/03/21/franklin-graham-russia-and-the-moralist-international/
注21:The bond that explains why some on the Christian right support Putin’s war
The bond that explains why some on the Christian right support Putin’s war
注22:Why do so many of America’s white evangelicals support Putin?
https://www.abc.net.au/religion/why-do-american-white-evangelicals-support-putin/13846702
他参考資料:
・Russian patriarch calls Putin era “miracle of God”
https://www.reuters.com/article/uk-russia-putin-religion/russian-patriarch-calls-putin-era-miracle-of-god-idUKTRE81722Y20120208
・Orthodox Church: biggest split in a thousand years triggered over Ukraine
https://theconversation.com/orthodox-church-biggest-split-in-a-thousand-years-triggered-over-ukraine-105087
・Is the Russian Orthodox Church serving God or Putin?
https://www.dw.com/en/is-the-russian-orthodox-church-serving-god-or-putin/a-38603157
https://jp.wsj.com/articles/russian-world-is-the-civil-religion-behind-putins-war-11647578113
・What is the Orthodox Church?
https://www.dw.com/en/what-is-the-orthodox-church/a-45973747
・Ukraine war: The role of the Orthodox churches
https://www.dw.com/en/ukraine-war-the-role-of-the-orthodox-churches/a-61063614
・ How the Ukraine war is dividing Orthodox Christians
https://theconversation.com/how-the-ukraine-war-is-dividing-orthodox-christians-178319
・Ecumenical Patriarch: Stop immediately, now, the invasion and war in Ukraine
https://orthodoxtimes.com/ecumenical-patriarch-stop-immediately-now-the-invasion-and-war-in-ukraine/
・How Russia Became the Leader of the Global Christian Right
https://www.politico.com/magazine/story/2017/02/how-russia-became-a-leader-of-the-worldwide-christian-right-214755/
・焦点:ウクライナ侵攻による正教会の混乱、孤立するロシア総主教
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-orthodox-idJPKCN2LE08E
・プーチン氏の戦争、背後に「ロシア世界」思想
https://jp.wsj.com/articles/russian-world-is-the-civil-religion-behind-putins-war-11647578113
・『ロシア正教古儀式派の歴史と文化』 阪本 秀昭 編著 明石書店