オールブルーでも、上院議会は議事運営方法が決まらず、上院委員会委員長も未だ共和党

バイデン大統領が1/20に大統領に就任し、ジョージア州決選投票で勝利した2名の上院議員も宣誓を終えてオールブルーがスタートした。多数党院内総務は、民主党シューマー院内総務になり、ペロシ下院議長、バイデン大統領とオールブルー体制が開始した。しかし、上院議会は機能しているとは言い難いのだ。

上院米議会が共和党50VS民主党50になって起こることの整理 」で言及していた点だが、未だに上院議会の議事運営方法が決まっていないのである。1月26日(火)に、やっと2001年の事例をもとにして権力共有協定を結ぶことにシューマー多数党院内総務とマコネル下院院内総務は合意した(引用元:Roll Call
2001年は各委員会メンバーを共和党と民主党で同数にして、委員長の議席をいくつか少数党が獲得したが、あくまで2001年をモデルにするだけなので、詳細はこれから詰めていくようだ。

そしてPBSで報道されているように、共和党議員が未だに上院委員会の委員長をつとめているということだ。さらに、ジョージア州決選投票で勝利した上院議員は、未だに委員会に入れていない。笑っちゃう。

上院委員会の各委員メンバー数と委員長

具体的に各上院委員会の共和党、民主党上院議員の配分、委員長がどうなっているかというと以下の通りだ。委員長が不在なのは、116会期で引退した共和党議員、ジョージア州決選投票で敗退した共和党議員が務めていからだ。116会期の少数党の委員会トップであるRanking Memberが代理議長しているのかどうなのかそのあたりよくわかっていない。
尚、1.28日時点の上院の公式サイトの委員会一覧から引用して作成(一部の委員会は割愛)しています。

民主党共和党委員長
農林委員会99不在
就任予定は民主党
Stabenow, Debbie 
歳出委員会 1415共和党Shelby, Richard C.
軍事委員会 1212共和党Inhofe, James M.
銀行・住宅・都市委員会 1111共和党Crapo, Mike
予算委員会 99不在
就任予定は無所属
Sanders, Bernard
商業・科学・運輸委員会 1113共和党 Wicker, Roger F.
エネルギー・天然資源委員会 98共和党 Murkowski, Lisa
環境・公共事業委員会 1011共和党Barrasso, John 
財政委員会 1313共和党Grassley, Chuck
外交委員会 910共和党Risch, James E.
司法委員会 912共和党 Graham, Lindsey
衛生・教育・労働委員会 108不在
就任予定は民主党
Murray, Patty
国土安全保障委員会 57共和党Johnson, Ron
復員軍人委員会 88共和党Moran, Jerry

なぜ、委員会が重要か。
連邦議会への法案提出は連邦議員なら誰でも提出できる。基本的なフローは、管轄の委員会に付託される。それを委員会で取り上げるかは委員長次第なのだ。
委員会委員長というのは絶大な権限をもつ。だからこそ、おさえなくてはいけない。もちろん、委員会を経由しないで上程することが上院院内総務/下院議長なら可能だ。116会期に提出された法案数は約14000本で大統領署名まで到達したのは343本しかない。ほとんどが委員会で握りつぶされていることを知っておいた方がいい。その会期によって異なるが、委員会から本会議に進む法案は1割なのだ。

この委員会体制が続く限り、直接、シューマー院内総務が本会議に上程するしか道はない。あるいは、共和党の各委員会委員長の関心が高い法案なら別ではあるが。 あのマカウスキー共和党議員でさえ、バイデン大統領の石油エネルギー関連の大統領令を非難しているから、わかりあえない気がしますけどねw

民主党は財政調整プロセスで予算決議を進める意向だけど…

上院米議会が共和党50VS民主党50になって起こることの整理 」で言及した点だが、歳出には2つあり、義務的支出と裁量的支出がある。裁量的支出に該当する場合は、フィリバスターの対象になるためクローシャーをするには60票が必要になる。しかし、義務的支出に該当する予算法案については、財政調整法が適応されるので過半数の承認で予算は成立する。

『アメリカの財政民主主義』 著:渡瀬 義男

そもそも、民主党が掲げている1.9兆ドルのパッケージ法案がすべて義務的支出になるのか定かではない。1400$小切手配布も、単なる配布ではなく、税還付という形式で配るなら義務的支出になるかもしれない。このあたり、正直、まだ議論されていないし、わからないのだよね。
また、 民主党ダービン院内幹事は、最低賃金15ドルは財政調整プロセスの範囲でバード・ルールに引っ掛からないと主張している(参照元:The Hill) 。しかしながら、多くはバード・ルールに引っ掛かるという見解だ。
一方で、上記の表分類をみると失業保険上乗せ(義務的支出)なんかは余裕で実現できそうだ。

また、問題は財政調整プロセスに入るか入らないかだけではない。最低賃金15ドルの件は、最近民主党への献金が増えている全米商工会議所、長年、民主党に献金をしてきた全米レストラン協会などがすでに不満を漏らしてロビー活動に励んでいる。こうしたロビー活動が効いて、取り下げる政策もあるだろう。いかんせん、2022年の中間選挙は民主党にとっても重要なのだ。下院議席差は10席しかないし、上院議席差は0席だ。どちらにとっても負けられない戦いだ。
(参照記事:The Hill

まとめると1.9兆ドルのパッケージ法案がきまるかは以下二点にかかっているのだと思う。このあたりは、追ってウォッチしていくしかないだろう。
①どこまで財政調整プロセスに含められるか
②ロビー団体からの圧力をどう回避するか

連邦予算作成はけっこう複雑

『アメリカの財政民主主義』 著:渡瀬 義男

シューマー院内総務は、来週すぐにでも予算決議案に実行できると強気に発言していて、共和党に対して交渉のテーブルにつくように求めている。

まず、予算委員会が歳出と歳入の具体的な中身を決められるわけではない。予算委員会は、租税政策なり支出政策なりの根本的変更を発議しうるという意味では強力な一面をもちえているが、その立法化は他の委員会に委ねなくてはいけないのだ。

予算委員会が所轄する予算決議は基本的に複数年度にわたる予算の大枠を決めるものであるが、その予算決議が目標とする財政バランスに到達するために、法律を改正する財政調整を盛り込むことができる。これを財政調整指示と呼ぶ。必要に応じて歳出と歳入の総額を決め、これをそれぞれの政策分野ごとに所轄の委員会に伝え、法律の変更や成立の期限を支持するのである。
(中略)
財政調整のプロセスは、2段階に分けることができる。最初の段階は、予算決議に財政調整指示を盛り込んで該当する委員会に対して、委員会ごとの増減の総額、必要な現行法の改正法を成立させる期日を盛り込んだ指示を出すことである。第二段階は、予算決議で定めたとおりに、各委員会からの法律改正案を予算委員会が一本又は複数の財政調整法案にまとめあげ、本会議で採決して大統領の署名を得て、法律として成立させることである。

「 トランプ大統領 とアメリカ議会」中林美恵子

歳入法案の先議権は下院議会にあるし、歳出法案も基本的には下院議会だから取り急ぎは問題がないのかもしれない。 しかしながら、上院歳入委員会と上院財政委員会をまったく無視して進めることはさすがにできないのではなかろうか。この2つの上院委員会は現在どうなっているかというと、歳出委員会は、共和党のシェルビー上院議員で、しかも共和党議員数の方が多い。上院財政委員会 は共和党のグラスリー上院議員で議員数は同数だ。どちらもマコネル上院院内総務に近く、共和党幹部の重鎮だ。

とにもかくにも、委員会委員長を握られた状況では、予算決議までできて下院で歳入法案と歳出法案が進んでも上院では??という感じだ。

マコネル上院院内総務の方が上手?

これらの状況をふまえると、シューマー院内総務は、民主党内の左派からもプレッシャーをかけられ、共和党にも委員会を握られている状況でかなり厳しい状況にいるのではなかろうか。 権力共有協定を結ぼうということに合意はしたものの、マコネル上院院内総務としては委員会委員長をほぼおさえている状況なのでこのままでもいいと思っている気がしないでもない。
また、主要委員会をほぼおさえている状況なので強気の交渉もできるだろう。一番もめるのは、どう考えても資源・エネルギー委員会の委員長の座だろう。バイデン政権のクリーンエネルギー政策を進めるためにはぜひおさえたいところがだが、中道派共和党の怒りにふれている部分でもあるので譲りたくない部分でもあろう。共和党が席を確保するならジョン・バラッソ共和党(WY州)が内定予定なので、石炭州出身ということもあり化石燃料フレンドリーになりそうだ。

尚、銀行委員会については、共和党ならトゥーミー議員、民主党ならブラウン議員だが、どっちも規制強化派だ。どちらも新年があるので、銀行・証券業界は何らかの規制が入る可能性を覚悟した方がいいのかもしれない。

一方で、 シューマー多数党院内総務ってウォール街から多額の献金受けてて「ウォール街の味方」って揶揄されてるくらいですよ。ウォール街が嫌がるような規制するわけがない。 しかも シューマー多数党院内総務は2022年に中間選挙で再選挙があります。 選挙資金集めが控えているとすれば、献金相手が嫌がることはしないでしょうね~