上院米議会が共和党50vs民主党50になって起こることの整理

ローファー共和党現職議員が負けを認めた。パーデュ―議員とオソフ議員はまだ正式には決着がついていないが、残りの票数を考慮しても逆転は難しいと考えている。尚、各カウンティは投票数を報告した段階でほとんどが投票の認証はされていない(1月7日JST 16:34)

https://results.enr.clarityelections.com/GA/107556/web.264614/#/summary

50vs50の米議会運営について

上院議会が50vs50になるのは、1881年に2年間、2001年に半年間起こったくらいだ。なので、前例が多くあるわけではない。

まず、上院多数党院内総務は、上院議長(副大統領)の1票が含まれるため、1月20日までは現多数党院内総務のマコネルがつとめる。1月20日以降は、バイデン政権になる予定なので民主党のチャールズ・シューマー院内総務が務めることになる。(2001年は1/20まで民主党、1/20から共和党が多数党になった)
尚、参考までに、上院HPの過去の多数党院内総務一覧はこちらです

上院議会における過半数を占める多数党院内総務というのは、実質的に議事日程を掌握し、どの法案を本会議の採決にかけるかも決められる。
また、過半数を占めると、各常任委員会の委員会委員長になることができる。ほとんどの法案は委員会によって葬られる運命なのだ。委員長が気に入らない法案は取り上げなければ審議されないで終わるだけだ。法案が管轄される委員長に適任を置かなければ、法案は本会議まで通過しないのだ。もちろん、多数党院内総務との連携はあるので、多数党院内総務と各常任委員会委員長の意向で法案の行方はほぼほぼ決まると考えてよい。

しかしながら、今回は50vs50だ。1881年、2001年の事例に踏襲するならば、多数党院内総務は先に書いた通りになるが、両党の委員長が均等に配分することになりそうだ。このあたりは、共和党マコネルと民主党シューマーの話し合いで決まることになりそうだ。 更に、2001年は委員会で法案が行き詰まらないように、いきなり本会議で上程して投票できるように規則も変更しているようだ。 2016年の時にマコネルは50vs50になったら2001年のようにすると発言していた経緯もある。あとは、シューマー院内総務次第になるかもしれない。

バイデン政権の政策的には以下の委員会をおさえたいところだろうけど、どちらがどの委員長になるかは定かではない。
◆エネルギー・天然資源委員会
◆環境・公共事業委員会
◆歳出委員会←裁量的経費を握る
◆外交委員会

民主党上院幹部の人事

すでに11月総選挙で上院幹部は発表されていて116会期とほぼ変更がない。
ここは顔ぶれが変わっていないので、どちらかというと常任委員会委員長が誰になるかが重要になるだろう。
◆院内総務 : チャック・シューマー (NY)
◆院内幹事: ディック・ダービン (IL)
◆ 民主党指導者補佐 : パティ・マレー (WA)
◆ 政策・通信委員会委員長: デビー・スタバノウ (MI)
◆上院民主党議員総会副議長:
エリザベス・ウォーレン (PA)/ マーク・ワーナー (VA) 
民主党はタイトルが多いので以下省略。

http://www.senate.gov/senators/leadership.htm

過半数で決まる人事承認

バイデン政権、および民主党上院が多数党になると、一番スムーズになるのはバイデン政権が指名した要職の人事承認だ。アメリカンセンターが、チャート図を用意してくれているので引用する。承認するにあたって、関連する委員会では公聴会が開かれるが、この公聴会のスケジュールはもちろん各委員会委員長が設定することになる。多数党が各委員会の委員数も多くなるはずだが、委員数がどう配分されるかはわかっていない。この辺も院内総務同士の話し合いかもしれない

https://americancenterjapan.com/aboutusa/govt/4741/

というわけで共和党が懸念を示していたバイデン政権人事も、たとえ共和党が反対しようともスムーズに承認されるだろう。
また、 この人事承認というのは、政権の要職だけではなく、未だ空席になっているFRB理事、最高裁判事、連邦控訴裁判所判事などもすべて過半数で決まる。

特に最高裁判事Stephen Breyer (スティーブン・ブライヤー)は最高齢82歳?。民主党大統領が指名した判事が3名しかいない状態なので、このタイミングで引退して頂いて若い方に置き換えることが噂されている。

50議席をとっても上院議会では60票必要な法案が多い

まず、なぜ60票必要かというと フィリバスターを回避できるからだ。フィリバスターを終了させるためには、 クローチャー討論終結と呼ばれる決議を行い60票の賛成がなければなりません。60票得られれば、議員の発言時間に制限が設けられ討論を終了させて30時間以内に法案の採決を行うことができる。
基本的に、先に書いた人事承認を除き、歳出に関わる裁量的経費についてはこれに該当すると考えてよいでしょう。毎年、恒常的に発生するものではない一時的な財政支援などはこれに該当する。となると、共和党から10議席賛成が必要になる。

ただし、歳入と歳出に関わり、義務的経費(毎年法案を可決せずとも自動的に支出する。主にオバマケアなどの医療費)に該当する予算法案については、財政調整法が適応されるので過半数の承認で可決します。ここに書いてある “reconciliation” は、財政調整措置(reconciliation process)のことを指すようだ。

They could also use the legislative mechanism known as “reconciliation” to pass some legislation, if it is related to budgets or spending. That mechanism — which Democrats used to pass health-care reform in 2009 and Republicans tried to use to repeal it in 2017 — allows the Senate to pass legislation with just 51 votes.
But it is limited and could not be used to pass legislation unrelated to the budget. That sort of legislation is still subject to the filibuster rules, which require 60 votes for passage.

https://www.washingtonpost.com/politics/senate-georgia-runoff-power/2021/01/05/04bc8cd8-4f7f-11eb-b96e-0e54447b23a1_story.html

じゃあ税制は歳入に関わるから過半数でいける、バイデン政権は増税というのはやや早い。バード・ルールたるものがあり、法案の中に、以下に該当する条項がある場合は財政調整プロセスに加えることができなくなるため、フィリバスターの対象となる。60票の賛成が必要となってしまうのだ。

①歳出と歳入に関わらないものは、財政調整プロセスではない
②予算決議によって法案作成を支持された委員会が、目標支出額に達する法案改正をできなかったとき
③委員会が所轄する権限以外についての法改正が含まれる場合
④歳出・歳入に関わるが、偶然であるような政策案件
⑤委員会が財政調整の指示で示された法制度期間を超えてから、財政赤字につながるような法改正は、全体として財政的にニュートラルでない場合
⑥社会保障プログラムの中の、退職や身体障害の条項に関わる変更が含まれる場合

トランプ大統領とアメリカ議会」著:中林美恵子を参照

もうこうなると、単に増税といっても、法案の条項次第になるので現段階ではなんともいうことができない。もちろん、過半数で採決できるように財政調整プロセスに進めるだろうが、現段階では断言はできない。

バイデン政権の経済政策は実現するか?

ひとまず思いついた政策で歳入・歳出に関わりそうなものについてピックアップ

政策区分
たぶん
60議席確保
共和党で10議席確保可能か
2000$小切手配布裁量的経費難しくないか?
気候変動対策裁量的経費 意外にいけそう
インフラ投資裁量的経費 意外にいけそう
オバマケア改革義務的経費?条項次第で不要
最高裁審理中で懸念
富裕層への増税義務的経費 条項次第で不要 (過半数OK)
法人税増税義務的経費 条項次第で不要 (過半数OK)
ハイテク企業への増税 義務的経費 条項次第で不要 (過半数OK)

まず、民主党が意気込んでいるオバマケアだが、かねてから共和党が違憲だと訴訟を起こしており、最高裁審理が11月から開始して5~6月に判決が出る予定だ。あまり情報が出ていないが、ここで違憲判決がでたら、拡充は難しくなるだろうと考えている。とはいえ、11月の時点ではロバーツ長官とカバノー判事の2人が存続を支持する見解を示したことで存続する方向にはなっている。

次に、2000$小切手配布はなかなか難しいのではないかと思っている。
というのも、昨年末にトランプ大統領が提案したものの、ミット・ロムニー議員でさえ他に予算をさくべきことがあると反対している。共和党10名の議員を確保するのはなかなか難しいのではないだろうか。

一方で、気候変動対策については、委員長を民主党がつとめるならば進む気がしている。というのも、上院にはClimate Solutions Caucusがあり、共和党議員が7名も属しているからだ。環境・公共事業と、エネルギー・天然資源委員会をおさえれば、前者では気候変動対策を促進できる規制緩和や予算を潤沢にし、一方で、エネルギー・天然資源委員会では再エネの促進をすればちょうどいい気がする。共和党内部に化石燃料企業推進派がいることも事実だが、化石燃料企業への規制を強められる委員会委員長を民主党が握れば勢いは抑えられるだろう。 尚、化石燃料企業への融資規制については、下院金融サービス委員会が進めようとしているので、このあたりもウォッチしたいところだ。

https://www.coons.senate.gov/climate-solutions-caucus/members

インフラ投資については、ブロードバンドあたりはすでに12月末に米議会で可決した法案にも数億$規模でのが入っていたし、インフラも気候変動対策と絡めれば可決しやすくなるのではなかろうか。というのが所感である。