米国の温室効果ガス(GHG)排出量の内訳とエネルギー事情

バイデン政権といえば、 気候変動対策&インフラ投資が中心政策になりそうなので、少しまとめておきたいと思う。

EPAが全米の温室効果ガス(GHG)排出量に関する包括的な年次報告書を4月に発表しているので、そのレポートやEIAの電気に関するページをおもに参考にした。トランプ大統領は気候変動に積極的ではないが、米国は 2005年以降、温室効果ガス排出量が12%減少させた。

米国 温室効果ガス排出量の内訳

米国の 温室効果ガス排出量は、
①運輸部門(そのうちの9割が石油ベース)が28%で最も大きく占めている。
②電力生産は27%
③産業用は22%
④商業用・住宅用は12%
⑤農業用は10%(家畜のメタン排出量は、4分の1しか占めない)

①輸送部門の内訳

乗用車やトラックが排出ガスの8割を占めている。 最大の発生源は、石油由来の乗用車(スポーツ多目的車、ピックアップトラック、ミニバンなどの小型トラックが含まれる)なのだ。 次いで、貨物トラックが2割。航空機(多くが商用)なんてたった1割しかなく、船、ボート、列車、パイプラインなどもたいしたことがない。
石油由来の乗用車を禁止すれば、輸送部門のGHG排出量は少なくとも半分以上は消えるだろう。

引用元:https://nepis.epa.gov/Exe/ZyPDF.cgi?Dockey=P100ZK4P.pdf

②電力生産部門の内訳

現在の米国で発電する際の燃料は、天然ガスが38%、石炭が23%、石炭が2割、原子力が20%、石油が1%、再生可能エネルギーで17%という内訳になっている。尚、この部門のGHG排出量の65%は石炭によるものであることが判明している。極端にいうと、石炭を利用しなければ、半分以上はなくなる。

引用元:https://www.eia.gov/energyexplained/electricity/electricity-in-the-us.php

電力生産における燃料をみると、明らかに石炭が2000年半ばにピークに達し、2019年には半分にまで落ち込んだ。その分、天然ガスと再生可能エネルギーが2倍近くに増加した。こうしてみると、発電量は増加し続けているのではなく、2007年にピークを迎えてこの20年横ばいで推移している。

引用元:https://www.eia.gov/energyexplained/electricity/electricity-in-the-us.php

次に、再生可能エネルギーの内訳の推移をみると、2007年までは70%が水力発電だった。2019年には風力発電が水力発電を超えて、米国内で再生可能エネルギーのトップは風力発電となった。2019年時点で、 41州とグアム、プエルトリコに56,000基の風力タービンがあるようだ(引用元:wired)。また、よく耳にする太陽光は2019年時点で1.8%しかない。

引用元:https://www.eia.gov/energyexplained/electricity/electricity-in-the-us.php

ちなみに、風力発電の米国トップ企業はネクステラ・エナジー(NEE:US)。風力タービンが米国の中央部に集中しているのは、大陸内にふく風の流れで一番効率がいいようだ。TX州、OK、KS、NE、SD、NDといった中央部に集中している。一方で、都市圏は太陽光設置が多く、米国の地理や人口規模をふまえた展開をしている。

引用元:https://www.nexteraenergy.com/content/dam/nee/us/en/pdf/2020%20NEE%20ESG%20Report.pdf

尚、生産された電力の最終利用者の内訳は、 家庭・商業用、産業、工場の利用が3分の1ずつになる。

https://www.epa.gov/ghgemissions/sources-greenhouse-gas-emissions#t1fn3

少し話がそれるが、石油は電力発電に消費されていない。では、何で消費されているかというと68%が輸送。プラスチックなどの石油製品などに使われるのは26%しかないのでたいしたことないですね。①の輸送部門のグラフとほぼ同様に、乗用車&貨物トラックなどによって消費されているということ。

引用元:https://www.eia.gov/energyexplained/oil-and-petroleum-products/use-of-oil.php

実は、このセクター別の石油利用の推移をみると、1990年から輸送の比率はほぼ変わっていないことがわかる。

③ 産業用の内訳

製造業では、機械動かすので半分以上を占める。データが古いが参考までに。

https://www.eia.gov/energyexplained/electricity/use-of-electricity.php

④ 商業用・住宅用の内訳

家庭用の電力消費について、 冷暖房/空調が4割超を占める。冷蔵庫・冷凍庫は7%、照明、テレビ・パソコンは5%程度なのでたいしたことはない。

https://www.eia.gov/energyexplained/electricity/use-of-electricity.php

また、商業用はコンピューターやオフィス機器が16%、冷蔵庫が14%、冷房が14%,空調が11%。照明は家庭用と同様に10%。暖房は3%しかない。

https://www.eia.gov/energyexplained/electricity/use-of-electricity.php

JETROの資料(2010年)によると、米国では冷房の大半がセントラル空調、暖房はファーネス(天然ガスを使うのが一般的)とボイラー(ガスが一般的)。ヒートポンプ調で分かれている。日本のようにエアコンや石油ストーブなどの利用とはだいぶ異なる。ここも都市と田舎地方によって大きく違うことを留意する必要がある。

住宅部門では、冷房の大半をユニタリー空調の一種であるセントラル空調。 暖房機器では、住宅部門で最も一般的なファーネスに加えボイラーも一般的に使用されており、それぞれ市場の 約 30%を占めている。 (中略)
空気熱式ヒートポンプは、住宅部門では空調の約 10%、そして非住宅部門では約 14%を占め ている

引用元:JETRO

また、米国といってもエリアによって気候はずいぶん違う。これはEIAの調査で、各エリアのセントラル空調とエアコンの 1平方フィート当たりの価格だ。どのエリアでもセントラル空調の価格が安いが、 個別の空調ユニットの価格は気候によって大きく左右されているようだ。

引用元:https://www.eia.gov/todayinenergy/detail.php?id=36692

ちなみに、日本の方が冷蔵庫の比率が2倍近くあり、エアコンが3分の1近く比率が小さい。利用する電化製品も異なるし、電化製品の熱効率も異なるだろう。また、冷暖房方式の違いなども大きく異なる。

出典)温室効果ガスインベントリオフィス
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト

米国で気候変動対策を本気でするなら

もう一度、温室効果ガス排出量に振り返る。

①運輸部門(そのうちの9割が石油ベース)が28%で最も占めている。
②電力生産は27%
③産業用は22%

ガソリン車を停止するのが一番手っ取り早い。みんな移動しなければいいわけですよね。Zoomで済ませて移動しなきゃいいんじゃないのですかねw
電力生産については、石炭を完全に停止すれば65%減る。電力生産に石油を1%しか使っていないので電力生産において石油企業を敵にまわすのは間違いだということがよくわかる。石炭燃料さえなくせば、温室効果ガスが27%→9%に減りますよ!とはいえ、現在の電力生産の23%を石炭が占めていて、約1兆キロワット分も電力をつくっているので何で代替するかという課題があることは確かだけどね。