米議会ニュース11月2週/バイデン勝利の裏で、民主党議員内部の亀裂が進む

今週はVeterans Day(退役軍人の日)の祝日もあって米議会の稼働日が1日減ったものの、動きがあった法案や承認事項は多いので、そのまとめ。
それにしても、共和党は多数派を維持しているうちに、連邦控訴裁判所の判事承認を着々と進めていますね。最高裁の時も感じましたが、今回のFRB理事承認についても「空席は共和党が埋めるのだ」という強い意志を感じます。

<目次> 
① 共和党としては、新型コロナ追加対策予算はやはり5000億ドル規模
② FRB理事候補ジュディ・シェルトン承認手続きは来週実施
③ 上院歳出委員会は年度予算案を提出
④ バイデン勝利の裏で、民主党議員内部の亀裂が進んでいる
⑤ 2020年総選挙で FOXニュースは共和党議員を完全に敵にまわした。
⑥ 中国企業への投資を禁止する大統領令?
⑦ 司法委員会ではハンター・バイデン問題を追及する意向


① 共和党としては、新型コロナ追加対策予算はやはり5000億ドル規模

つい数日前は、1兆ドル未満の規模という発言もあったのだ。州政府や地方政府への支援についても”possibly”と今までにはない発言してたのに、やっぱり5000億ドル規模に戻ってきた。共和党内部ほぼ全員と合意をとるには5000億ドルの規模が限界なんだと思いますよ。

Senate Majority Leader Mitch McConnell (R-Ky.) on Thursday morning said a COVID-19 relief package in the ballpark of $500 billion would be more appropriate.

引用元:The Hill

それにしても、民主党は 下院が既に可決しているHEROS ACT(2.2兆ドル)を  “starting point”  として交渉はじめるべきだという主張をしてきた。こりゃ以前書いたように、GA州決選投票が終わらないと法案まとめるのなんか無理でしょ。

② FRB理事候補ジュディ・シェルトン承認手続きは来週実施

ジュディ・シェルトン、クリストファー・ウォーラーの2名が承認手続きのためのクローシャー動議に進みます。 FRB理事は、大統領の指名で上院が承認して決定します。最高裁判事と同じ手続きですね。バイデン大統領になる前、あるいは、共和党がもしかしてGA州上院選で負けてもいいように動いているなあと強く感じますね。
ロイターには「可決する可能性」なんて書かれているけど、反対しているのはスーザン・コリンズとミット・ロムニーだけだからもう承認されるとみていいはず。
で、このジュディ・シェルトンは物議をかもしてきた人で、過去に「米国は金本位制に戻るべきだ」「米国の輸出競争力上げるためにインフレ利用する」なんて発言してきた人なわけです。引用した記事には、パット・トゥーミー共和党議員は「ドルの切り下げを支持しない」という誓約を書面で書かせてやっと承認したとかいって、アレな感じですわ。この人はタカ派としていいのでしょうか…。他にも物議を醸しだすことを多く発言してきているんですが、そのあたりはプロの分析に頼ろうと思います。

Moments later, Senate Majority Leader Mitch McConnell (R-Ky.) filed for cloture on Shelton’s nomination, setting up a vote in the middle of next week.
A Senate Republican who was briefed by the leadership said Shelton has enough votes to pass.

引用元:The Hill

③ 上院歳出委員会は年度予算案を提出

下院は、 7月中に12の資金調達法案すべてを承認して、本会議で10本の法案を通過させている。 なんだけど、上院歳出委員会での検討なりマークアップが長引いていて上院本会議では何も進んでいないんですよね。
12/11がつなぎ予算の期限切れになるため、何もしないと政府閉鎖になります。しかし、さすがに政府閉鎖はならないと思いますよ、またつなぎ予算にして新しい会期で両党で協議するでしょう。

The Senate Appropriations Committee released its dozen spending bills on Tuesday after a monthslong stalemate sidelined the process.
The bills reflect significant differences between Senate Republicans and House Democrats on spending levels as well as policy riders that address everything from family planning grants to military installations named for Confederate officers and border wall funding.

引用元:Roll Call

④バイデン勝利の裏で、民主党議員内部の亀裂が進んでいる

都合の悪いニュースは報道しないのが民主党の情報戦略ではあるのですが、どうみても亀裂が進んでいます。民主党上院議員が、AOCを攻撃してますねw

Rep. Alexandria Ocasio-Cortez (D-N.Y.) hit back at a tweet by Sen. Joe Manchin, a centrist Democrat from West Virginia, with an image of her appearing to glower at him at the State of the Union.

引用元:The Hill

今回の総選挙で、民主党議員は、上院では議席を予想より伸ばせず、下院では10数議席(5議席は確定)も議席を奪われる見込み。
ブルードック連合や穏健派は、ペロシ下院議長に、追加コロナ対策予算を可決させないと議席を失うと警告していたわけです。で、見事に穏健派は議席を失ってしまったのですよ。一方で、民主党の暴れん坊であるAOC、オマール議員などの4人組”Squad”は議席を死守しました。
言いがかりとしか言いようがないですが、民主党内部では、AOCなどのプログレッシブ(進歩派)に対して、「お前らのせいで、民主党は議席を失った」と非難する声も高まっているわけですね。
このあたり、何が敗因かきちんと突き止めないと、2022年には共和党に下院を奪われると思いますがね。現に、マッカーシー下院院内総務は、想定以上に議席をのばせたこともあり、2022年には共和党は必ず下院議席で過半数を超えると宣言していますね。 共和党下院議席の大勝は、デジタル広告への投下とドアノックなどのフィールドオペレーションを組み合わせたことが勝因という話がRoll Callでは書かれていますが、一番資金効率がよくて効果がいいパターンだと思いますよ。

⑤ 2020年総選挙で FOXニュースは共和党議員を完全に敵にまわした。

トランプ大統領が FOXニュースの視聴やめるよう呼び掛けているのが話題ですね。総選挙の時、FOXニュースに対しての共和党議員の怒りはピークに達していたと思います。あとは 共和党若手の扇動者であるチャーリー・カーク(共和党大会にも出演)や、彼が創設したターニング・ポイント組織の幹部を怒らせたのは痛いとおもうわ。
アリゾナのバイデン勝利先走り報道にはじまり、最近ではマケナニー報道官の記者会見でいきなりの放送打ち切りなどCNNか?というような勢いでした。
FOXニュース会長ルパート・マードックとトランプ大統領の仲が冷え込んでいるという話もあったし、マードックの妻と息子はバイデンに多額の献金をしていたことも報じられていましたね。そういえば、マードックの献金額って上位にあがってこないですね。

引用元:pew research center

なんだかんだで、Pewリサーチによると、共和党員の9割はFOXニュースが主要なニュースソースなんですよね。
トランプとFOXの縁が切れただけならいいんですが、他のメディアも見つからない段階で共和党とFOXがディカップリングするのは現段階では難しいんだろうなと思います。テッド・クルーズ議員は、極右メディアで有名になったブライトバートに出演していたり、newsmax出演していたりもするので、それはそれでアレな感じもしています。若手はいいですが、米国も高齢者はテレビが主力メディアですからね。

とはいうものの、こうやってトランプ大統領、共和党議員、共和党関係者がSNSをつかった直接発信が圧倒的に増えていて、それに伴って共和党員もSNSで直接情報をとるようになると、選挙の時に有利に働くことにはなるんだろうなと思います。フェイクニュースも広まりますし、都合のいい情報しか信用しなくなるというアレな面もありますが。今回の下院議員選で共和党が大幅な議席増になった理由もここにある気もしています。

⑥中国企業への投資を禁止する大統領令?

大統領令だから行政命令なんだけど、香港でおきた民主派議員の資格失効への制裁の意味もあるんですかね。2021年11月まで猶予期間があるようですが、訴訟されたら現段階では負けるのではないかなぁ。過去にこういった法案をマルコ・ルビオ議員が提出していた気がするけど、調べるのは今度。

大統領令は来年 1 月11日から、対象の31社が組み込まれている新興国ファンドへの投資を禁じる内容。対象企業の証券に投資している投資家には、2021年11月まで処分する猶予が与えられる。政権当局者によると、この命令はかなり以前から検討されていた。

引用元:WSJ

それにしても、バイデンになれば対中国の手がゆるむって主張する人がいるけど、甘いと思うのよね。ウイグル人権法案、香港自治法(Hong Kong Autonomy Act)、 S.945 – Holding Foreign Companies Accountable Act についても上下院で賛成大多数の全会一致だったでしょ。民主党は主に人権侵害の件から中国を非難を強めているし、共和党は知的財産等など米企業を守る立場から中国を非難しているのよね。
また、米議会に反中感情があるっていうのも違うわ。お互いの支持団体の意見を代表すると中国がこれ以上覇権を広げることに反対しているのよ。
一回、中国に関する法案提出数をカウントしたことがあるんだけど、かつてのロシアやイランへの制裁よりも中国は圧倒的に多いのよ。米議会としては、支持団体の利益を守るためにこれ以上中国を放置しておくことは許せないのよ。

中国のハイテク大手へのトランプ政権による厳しい政策路線を踏襲することになる可能性が高い。米議会に超党派の反中感情があるためだ。 (中略)
専門家によると、バイデン氏はトランプ氏よりも中国のハイテク企業の脅威に対してアプローチは慎重になるだろうが、トランプ氏の政策そのものを巻き戻す可能性は低い。ただ、同盟国との協調路線に戻って中国に国際ルールを順守させるようとすることは想定されるという。

https://jp.reuters.com/article/biden-china-idJPKBN27R02V

⑦司法委員会ではハンター・バイデン問題を追及する意向

どうやら上院司法委員会では、オバマ政権時代のバイデン&息子のハンター・バイデンの中国企業との癒着問題を年末までのレームダック期間中に調査を進めていく意向みたいね。どこまで進められるかはわからないけど、12月14日の選挙人集会での投票が期限になるだろうなぁ。司法委員会では11/17に公聴会が開かれるんだけど、議題があがってないよなぁ…
また、民主党主導の下院ではいまだにトランプの脱税疑惑というか財務記録に対して法廷闘争を続けているのよね。まぁどっちも現役大統領と次期大統領の足を引っ張ろうという試みが続いている。

In the Senate, where GOP control hinges on two Jan. 5 runoffs in Georgia, Republican lawmakers are plotting ways to expand and intensify their investigations targeting the former Obama administration and President-elect Joe Biden and his son Hunter, with Senate Republicans saying they will use the lame duck period to ramp up their probes.

引用元:Politico

【ぐだぐだと雑記】

さっさと大統領はどっちになるか決まってほしいですよ、ほんとね。
それにしてもいまだブルーウェーブの期待もあるようですが、バイデンー上院共和-下院民主って一番最悪な組み合わせですからね。上院議会の承認権限って大きいからね。

バイデンー上院共和党のうちは、大きく何かの法案(予算案含む)が通過するって難しいんじゃないかしら。

PBSでも「バイデンは上院共和党とうまく交渉してきたし、交渉できます」なんて発言していたけど、なにいってるのという感じ。今の共和党って、共和党歴代最長の院内総務を務めているマコネルでさえまとめにくいのよ。当初は1兆ドルといっていたコロナ追加対策予算で反発くらってまとまらなくて妥協案で5000億ドルまでさがったでしょ。ちょっと状況が違うのよね。

こうなってくると、上院議会の動きが重要になってくるから忙しくなりそうね。 あと、次の会期の常任委員会委員長設定も気がかりだわ。ツイッターのリスト設定にいれる議員を大幅に変えなきゃならなくなるのは手間だわ。トホホ。