レントストライキRent Strike2020 / 賃貸者と不動産所有者、地方政府の3者が問題に直面

https://www.rentstrike2020.org/

欧米各地で賃貸料支払いの猶予ではなく、免除の動きが高まっている。

米国では、数百万人の人が賃貸料を支払えていない。ここ数週間で少なくとも1000万人が職を失っている。日本と異なり、彼らは貯金がない。Paycheck to Paycheckの暮らしなのだ。

4月第一週時点で、1340万人の賃貸者のうち、3分の1が家賃を支払えていないという調査結果もあるが、都市シャットダウンとレイオフが続けば続くほど、家賃を払えない人が続出するだろう。

米国の住宅所有率、賃貸率は、当然だが州によって異なる。州のなかでも都市部かどうかによっても異なる。全米全体となると、6割が住宅を所有している(多くが住宅ローン負債を背負っているだろうが)。もちろん、ニューヨーク州、カリフォルニア州の都市では約半数が賃貸で暮らしている。

住宅所有率は、ロサンゼルスで人口の半分以下、ニューヨークではおよそ半分。サンディエゴでは52%、サンフランシスコでは53.5%、サンノゼで56%、テキサスのオースティンでは57.5%となっています。

https://gentosha-go.com/articles/-/22745

既に、カリフォルニア州は、住宅ローン返済3か月間猶予で差し押さえはしないと州内の銀行と合意をしている。また、家賃支払いが滞っている賃貸者に対して5月末まで5月末までは強制退去してはいけないという条例も策定された。NYも同様の法案を可決している。

これらは、あくまで「猶予」であり、「免除」ではない。現段階では、期日までに支払わなくてはいけないのである。

では、政府は思い切って、免除にすればいいのではないかというとそうもいかない事情がある。

まず、第一に、賃貸料が支払わなければ不動産収入を得ている人達の収入がなくなる。不動産所有者といっても、小規模から大規模まで様々な状況だ。彼らには二種類の不動産税がかかる。

固定資産税
固定資産税の主な対象は、不動産や動産、無体財産に分類される。不動産はすべての州で課税(税率は様々)されるが、動産と無体財産については州によって大きく異なり、機械や装置、線路などに課税する州もあれば、動産や公益施設には課税しない州もある。固定資産税は、市場価値に税率を掛けて四半期ごとに徴収される場合が多い。
家賃収入に対する課税
家賃収入(賃貸所得)がある場合、不動産物件の所有者の国籍、あるいは個人か法人かに関わらず、連邦と州の税金が課せられる。

https://www.jetro.go.jp/world/n_america/us/invest_04.html

PBSインタビューによると、NY州では7月1日が不動産税の期限になっている。期限に支払えなければ、留置権、しかもそれは第三者に転売されているので、彼らに対して二桁(クレジットカードの年利より悪い利子)の利子を払う必要がでてきて、小規模の不動産所有者にとってはかなり苦しい状況になるのだ。

第二に免除しにくい理由として、固定資産税が米国における地方政府の歳入の75%を占めているからだ。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、州政府、地方政府の財政支出は大きくなっていて、ある一定規模の地方政府の債権をFRBが買い取りにでている。そんな中で、税収が吹き飛んでしまうと、債務を返済できないだけでなく、公共サービスの提供さえもままならない。

地方政府としては、簡単には不動産税を免除できるとは言い難い状況がここにはあるのだ。

https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/report/material/pdf/h2903/02/2_2.pdf

FRBはすべての地方債券を買い取らない

FRBは、人口100万人の都市、200万人の群(County)の債券を買い取るとしている。確かに、これらの都市をみると、賃貸者が際立って多い都市でもある。
これらの都市は、一時的に債権が買われるため、歳入の見込みがたって賃貸免除、不動産税免除という動きがでてくることもあるかもしれない。

https://www.statista.com/statistics/241702/largest-counties-in-the-us/

地方政府支援には最大5000億ドルを振り向け、償還期限が最長で2年の地方債をFRBが直接買い取る。対象となるのは、各州政府とコロンビア特別区(首都ワシントンDC)のほか、人口200万人以上の郡と、人口100万人以上の市。下院民主党はこうした地方政府支援の必要性を呼び掛けていた。

https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-fed-mainstreet-idJPKCN21R2AD

しかしながら、債券を買い取ったからといって、終わるわけではない。
歳入が減れば債権を返済するのも厳しくなる。そうなると、不良債権になることもあるだろう。そうなると、FRB、中央銀行としての資産が、適切な資産かどうかという問題にもなる。

また、債権を買い取る見込みがない地方政府も数多くなる。そういったところで、感染拡大が広がれば、財政逼迫して公共サービスにも大きな影響がでてくるだろう。

このように考えると、レント・ストライキは、単なる賃貸者救済の問題だけではなく、地方政府の税収入、ひいては州政府、連邦政府の税収入をどうするかといった国家の資金繰りの話にまで及ぶので重要なのだ。

この問題は、引き続き、注視していきたいと思う。