GOLD(金価格)は安全資産なのか?

GOLD金は、安全資産であるといわれるが、それは本当だろうか?
2/24~2/27の4日間でS&P500と、ダウ・ジョーンズ工業株は約12%下落した。
金価格が安全資産で逃避しているとすれば、ほぼ同じくらい上昇していいはずが、騰落率は▲0.28%でほとんど動いていない。
仮に、先週先取りしていたという主張があるとしても、2/17~21では、△3.76%しか動いていないのだ。安全資産の円については、ドル円については今週は ▲2.2%と円高になっているが株価指数の下落に比べればたいしたことではない。

GOLDの年初来パフォーマンスは△7.3%だ。年間パフォーマンスは△19%
S&Pは暴落が起きる前の2/19で比較すると年初来パフォーマンスは△4.5%だ。年間パフォーマンスに至っては△18%だ。つまり、プラスの相関関係であり、少なくとも2019年から現在に至ってはリスク資産である株式指数に対しての安全資産とはなっていないのだ。

まずは、GOLDの需要をみてみよう。これは、ゴールド・ワールド・カウンシルが出している資料だ。まずは、供給量についてだが、実は10年間ほど供給量はほぼ変わっっていないことがわかる。多くは採掘によって生産されている。だいたいリサイクルゴールドとの比率は1:2.5~3で推移している。

供給量が一定なのに、価格が上下する一つの大きな要因は、採掘コストである。金の生産では6~7割が採掘による生産である。だとすると、 採掘 コストがダイレクトに響くはずだ。2010~2012年の急上昇は、 採掘 コストが大きな要因であったことがわかるのがこのグラフだ。

https://seekingalpha.com/article/4224995-top-gold-miners-production-cost-still-provides-floor-in-market-price

金の生産企業といえば、二大企業でありBarrick Gold(カナダ)とNewmont Mining(米国)、AngloGold Ashanti(南アフリカ共和国)である。

https://www.mining.com/featured-article/top-10-biggest-gold-mining-companies/

用途別の需要にカラーリングされている。線グラフは、1オンスあたりのゴールド価格だ。 金需要の50~60%が、宝石市場で推移してきた。ところがその比率が減少したのが2019年だ。需要の40%が宝石市場となり10%も落ち込んでしまったのだ。ただ、どこに需要が移ったというよりは、まんべんなく投資、テクノロジー、中央銀行に分散したような状況だ。しいていえば、投資用途は平均より5%ほど上昇している時もある。

https://www.gold.org/goldhub/data/gold-supply-and-demand-statistics

各国中央銀行が保有している金で、世界ランキングは以下の通りだ。
米国は金の保有量報告を確かやめているはずだが、実はドイツ、フランスはこの25年で減少の一途を辿っている。一方で、増加を続けているのはロシアと中国なのだ。特にロシアは大きな買い手となっていた。スイスは、国民投票を経ての結果ではあるが、外圧を受けて2000年以降、段階的に売った

https://tradingeconomics.com/country-list/gold-reserves

ロシア

中国


ロシアはどこから金を購入しているのか気になって調べてみた。
そうすると、「 第Ⅰ-2-5-8表 ロシアからEU諸国への主要輸出入品目及びシェア(2017年) 」によると、ロシアは10億ドルほど金の輸出国であったのだ。

https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2018/2018honbun/i1250000.html

さっきのゴールド採掘企業トップ10入りに入るロシアの企業はないが、実はロシアにも金鉱山があり、中でもシベリアにあるスホイ・ログには世界有数の金鉱床が眠っているとみられているようだ。しかし、このスホイ・ログを保有するポリウスは、世界市場に金を供給するのではなく、ロシア国有銀行にのみ販売しているのだ。ロシアとしては、通貨の価値を担保したいのだろう。さらに、金を増やし、ユーロと人民元を買い入れて、ドルを売却している。
ポリウスは、現段階では、米国の制裁リストに入っていないが、制裁に入ったらまた動きが変わるだろう。

2008年のスコーピング調査に加え、ポリウスがオーストラリアのAMCコンサルタンツに委託して昨年実施した調査によると、スホイ・ログの金埋蔵量は6300万オンスに上る。外部の専門アナリストはこれを確認していないが、関係者の多くはスホイ・ログが世界有数の金鉱床だとみている。
(中略)
ロシア中銀は先月、6月30日までの1年間に金保有高が14%増加し、767億ドルに達したと明らかにした。またユーロと人民元を買い入れる一方、約1000億ドル相当の米ドルを売却したとしている。
(中略)
スホイ・ログでは2020年代半ばに金の採掘が開始される予定で、ロシアは将来的にも十分な供給が確保できるとみられている。
(中略)
ポリウスは、世界の市場に金を供給する他の産金会社とは異なり、ロシア国有大手銀行にのみ金を販売しており、国有銀行はそれを中銀に再販する。スホイ・ログでの金産出が始まれば、中銀は通貨ルーブルの防衛にそれを利用できるほか、危機時にはこの金を売って外貨準備を確保することができる。

https://jp.wsj.com/articles/SB10657482257203054791704585110220953077924

また、中国にも鉱山があり、金採掘をしている。 中国では個人の金保有規制が2002年に撤廃されてから、民間需要が増加の一途を辿っている。
ただ、ロシアと同じように国内で完結しているのか、世界市場から購入しているのかどうかが今回はわからなかった。これは引き続き注目したい。

中国黄金協会によると、中国では2019年上半期、(他金属生産過程の副産物も含めた)金の産出量は前年同期比5.05%減の180.68トンだった。そのうち国内金生産重点企業による金採掘での産出量は同3.19%増の73.11トンで、金採掘産出量全体の47.51%を占めた。同期の金採掘産出量の上位5省級は、山東省、河南省、雲南省、内モンゴル自治区、甘粛省の順となった。河南は自然保護区内の採掘権が廃止されて41.34%減、内モンゴルは一部旧式設備の撤退で3.23%減となった。金の消費量は同3.27%減の523.54トンで、宝飾品用が同1.97%増の358.77トン、金地金(ゴールドバー)が同17.29%減の110.51トン、金貨が同29.27%減の2.90トンだった。(中国新聞社)

https://www.sankeibiz.jp/macro/news/190814/mcb1908140500006-n1.htm

中国の消費者は2019年にその購入額を4.4%増加させて、人民元建てにおいては、金価格が史上最高値から暴落し需要が急増した2013年を除き史上最高値となっていていました。


長くなってきたので、まとめよう。

最初の問であった、「ゴールドは安全資産か?」についてだが、ゴールドの価格は採掘コストに左右される傾向があり、株価からの逃避資産にはなっていないということがみてとれる。供給量、需要量もこの10年間横ばいなのに、金価格だけが上下していることからも、原油と異なり、供給量とも需要量とも相関性が決して高くないとがわかる。
あと、これは推測であるが、採掘コストに左右されるということは、あるていどは機械化・自動化されているだろうが、人がまったく必要なくなることはないと思うのでコロナウイルスの影響を受けることが予測される。そう考えると、金価格の上昇が抑えられているのも納得いくのだ。

また、ロシアの金採掘については警戒すべきだ。ロシアも中国も中央銀行で金の準備通貨を増やして通貨の価値を担保しようともくろんでいる。さらには、ロシアで大きな金鉱山が発見されたことで、金保有量をさらに増やしていくだろう。
米国は、ドル覇権を死守するためにも、この動きを制止したはずだ。今後の動きには注目したほうがよい。