「トランプ大統領とアメリカ議会」中林美恵子

「トランプ大統領とアメリカ議会」
著書:中林美恵子
出版社: 日本評論社 (2017/6/29)

◆ 読むキッカケ

とある方から「中林さん」を知ってる?紹介しようか?と言われたことがキッカケで知りました。まったく存じませんでした。

◆ 目次

まえがき
第一章  なぜトランプ氏は大統領にえらばれたのか
第二章  大統領権限とアメリカにおける三権分立
第三章  トランプ大統領と議会の攻防
第四章  トランプ大統領の人事と政策
エピロローグ

◆ 概要

日本でも米国の大統領は注目される。しかし、大統領職は独裁者ではないので、権力は制限されている。例えば、法案作成については大統領職は手を出すことができない。もちろん、提案をしたり、時に大統領令を使って命令を出したりすることはできる。しかしながら、立法過程には介入することができず、予算さえ大統領の思い通りには取れないのだ。つまり、新規でどういった法案を作成されているかを知るためには議会の動向を知らなければならないのである。
それにも関わらず、アメリカ議会のことになると、ほとんど日本では報道されないのだ。彼らがどういった発言をしたり、どういった思考をしているかなんて、ほとんどの人が知らないのだ。この本は、日本人にとってブラックボックス化しているアメリカ議会について米国の三権分立といった基礎知識から解説して、政府の権限と制限についても細かく解説してくれている。日本人にとって、アメリカ議会に関する教科書としても利用できるような内容になっている。
それに加えて、中林さんは、共和党上院議員スタッフとして働いた経験をおもちなので、実体験や、当時の同僚・友人から聞いた現在の議会や政権についての話もちりばめられている。この本を読むと議会の基礎知識から、トランプ政権の動向(といっても2017年時点)がわかる良書である。

◆ 抜粋

今回はKindleでハイライトした箇所が83カ所にものぼり、多すぎるので的を絞りました。トランプ政権の話は、こちらの本でも読めるので、アメリカ議会について絞りました。

1787年にフィラデルフィア憲法制定会議で議論されたアメリカ合衆国憲法は、国家権力を行政府、立法府、および司法府の三つの機関に分立させ、これを統治機構の基本とした。(中略)この3つの機関は分立してはいるものの、互いに依存しあう。この依存そのものが、チェック・アンド・バランとして機能するのである。こうしたチェック・アンド・バランスの機能を遂行するための原則は、アメリカでは人材の共有を行わないということに象徴されている。これは議院内閣制の日本やイギリスと大きく違うコンセプトである。行政府の人間になるためには立法府に所属していてはならない。

アメリカでは議会が予算権限をもっているため 、大統領令が出されてもそれを実行するための職員の給料や事業経費が出なければ 、大統領令は絵に描いた餅になる 。または 、大統領令のある特定の部分の執行に関して予算措置を講じないという手段もある 。逆に 、議会が予算措置を講じることで 、大統領令を機能させないことも可能である 。アメリカでは予算を講じることイコ ール立法であるため 、こうなると行政府は忠実に法を履行しなければならない

③アメリカ議会の最大の権力および政策実行力の源泉は財布の力である 。大統領が政策実現のために必要とする歳出は 、例外なく議会の立法プロセスを経て定められた権限の範囲内で歳出する必要があるからである 。これが国内政策であれ 、国際政策であれ 、議会がその歳出を本会議で可決しない限り 、大統領には何もできない 。大統領の政策実行を阻止するには 、そのために必要としている予算を議会が 「無視 」するだけですむ

アメリカ連邦議会の権限や責務は多岐にわたる 。財布の力 (つまり予算編成権限 ) 、宣戦布告の権限 、国際条約の批准 、大統領による政治任命職の承認 、疑惑の調査権限 、弾劾裁判 (大統領の罷免も可能 )などはその代表例である 。なかでも 、財布の力はとくに絶大な権限となっている 。これはトランプ大統領の誕生によって変化するものではなく 、たとえどんな政権であっても 、変えることのできない強大な権力だ

委員長が取り上げない法案や承認人事は 、委員会レベルで握りつぶされることになる

アメリカ連邦議会の内部はというと 、徹底した委員会中心主義となっている

アメリカ議会には法案の数も多く 、 2年一会期の間に 1万本以上が提出される 。議員たった 1人でも提出ができるし 、主張を有権者に証拠として示すことができる 。提出手続きも簡単で 、本会議場で提出することを述べたり 、提出用の箱に入れたりするだけで O Kだ 。

問題は 、委員会に付託された法案が 、どのように審査対象に選ばれるかということである 。じつは 、ここで委員会の委員長あるいは小委員会の委員長に選ばれた多数党議員の強大な権限が発揮されることになる 。委員長や小委員長は 、その職権によって委員会で何を取り上げるべきかを決めることができるのである 。

連邦議会内でも権力の分散が行われていることは 、あまり知られていない 。予算に関連する常任委員会は上院と下院の両方に複数あり 、全体の大枠を設定して予算決議を所管する予算委員会 、そして裁量的経費について毎年の歳出法成立を所管する歳出委員会 、そして税制に関する法律を所管する歳入委員会 、さらには複数年度にわたっての歳出権限を付与する法律 (授権法案 )を所管する複数の常任委員会に分かれている

共和党内にもリベラル派が存在する 。例えばス ーザン ・コリンズ上院議員 (メイン州 )は共和党とはいえないほどリベラルであり 、健康保険政策に関して彼女はさらにリベラルな立場に立つ可能性がある 。他にも考え方の違う上院議員は多い 。例えばジョン ・マケイン上院議員 (アリゾナ州 )とリンゼイ ・グラハム上院議員 (サウスカロライナ州 )は 、自ら大統領選挙に立候補した経験をもつ 。じつのところトランプ大統領よりも自分たちのほうが何倍も大統領としての資質と経験があると思っている 。軍事費に関わることでは大統領と協力しても 、他の政策に関してはトランプ大統領に歩み寄ろうとしていない 。さらにランド ・ポ ール上院議員 (ケンタッキ ー州 ) 、マイク ・リ ー上院議員 (ユタ州 ) 、そしてテッド ・クル ーズ上院議員 (テキサス州 )はそろって純粋にオバマケアを廃止することを主張しており 、両極端を切り取って中庸を重んじる案にするという妥協は 、現行のオバマケアよりも悪い結果を招くと主張している 。共和党上院は下院に比べてややリベラルに傾いて決着するのが常であるため 、彼らのような議員の賛成票は期待できない可能性が高い 。

◆ 感想

よくロイターでは、〇〇議員が法案を提出したということがニュースになる。
しかし、この本を読んで立法過程を知ると、法案を提出しただけではたいしたことないということがうよくわかる。法律として制定されるのは法案提出された中で1割にしか満たないのである。
その法案が通過される見込みがあるかどうかを知るには、我々は委員会がその法案を審議しようとしているかを知らなければならないし、大前提として委員長(小委員会の委員長)がどういう思考をもっているかを知る必要がある。
もちろん、法案提出議員は仲間を募るので、多数の議員が法案提出に携わることで圧力をかけることもあるようなので、その法案をどれだけ支持しているかを知ることも重要なのだ。

この本を読むまでわからなかったのは、議員達もメディアのフェイクニュースに疲弊してきたということだ。トランプ大統領のメディア嫌いと同様に、自分自身で発信したいということは、やはり彼らのホームぺージやツイッター、Facebookで直接訴えかける内容を知るべきなのである。

また、大統領職の制限もこの本を読むことでよくわかった。大統領令を確かに連発していたが、オバマ大統領も就任直後に多くやっていたので本数だけ考えればたいしたことないのである。話題になったのは、内容がかつてないようなものだったからだけである。

一方で、この本を読んでさらなる課題もでてきた。
予算員会が複数あることは知っていたが、どうもその予算をおさえるプロセスを理解できていない。予算編成プロセスについては、2020年の課題としておさえていきたい。