書評「トランプ大統領はどんな人?」中林美恵子

著者:中林美恵子
出版社: 幻冬舎 (2018/5/9)

◆ 読むキッカケ

とある方から「中林さん」を知ってる?紹介しようか?と言われたことがキッカケで知りました。まったく存じませんでした。
まさか、このような出会いになるとは思っていませんでした。

◆ 目次

第1章 アメリカの未来は何色?
第2章 「世界の警察官」をやめたアメリカ
第3章 中間選挙は「大統領の中間テスト」
第4章 トランプ爆弾は、いつ爆発するのか
第5章 アメリカ第一主義は成り立つのか
第6章 トランプ氏が大統領に選ばれた背景

◆ 概要

トランプ政権発足当時から2018年3月の中間選挙前までのトランプ政権の分析を、スティーブ・バノン本人から聞いたことや、元職場であり旧知の友人である共和党議員スタッフからの伝聞を交えてトランプ政権を解説している。
この本が良書であるのは、過去の大統領の大統領令の大統領覚書の数量や頻度を比較して定量的に分析していることがあげられる。
次に、米国の三権分立に言及し、アメリカ議会に立法権があり、大統領職には立法権がないことなどを言及しながら、大統領職のパラドクスにも言及していることも重要だ。
さらには、日本人向けにわかる範囲で、共和党の思考を解説し、ペンス副大統領の主張や過去の法案作成なども事例をあげている。
ビギナー向けには、米国を知るための第一歩として非常に良書だと感じる。

◆ 本文からの抜粋

そもそもバノンはアメリカ第一主義(アメリカファースト)のスローガンを掲げ、トランプ大統領誕生の立役者だった人です。(中略)
例えば、トランプ大統領には情報を読んで理解する習慣がなくて、代わりに何時間もテレビを見て過ごし、根拠がなかったとしても自身の直感に頼る傾向がある点など、ワシントンではとっくの昔に話題になっていました。

「トランプ大統領はどんな人?」 P.24ページ

バノン氏に直接聞いたところによると、ツイートは必ずしも常に大統領が自分で打ち込んでいるわけでは無いそうで、口述筆記させたり、スタッフが代わりに打ち込んだものも発信されているようですから、読むほうも混乱させられる場合がありそうです。
おそらくスタッフが数字を整えて用意した情報と思われるものは、正月から好調な経済、株価ことをトランプノミクスの成果であるかのように吹聴したものです。4日から7日の間4日連続でこれを流していました。

「トランプ大統領はどんな人?」 P.33ページ

トランプ大統領と既存メディアは、険悪な間柄に見えますが、共存しているのです主要メディアの記者は「トランプ大統領は、どの歴代大統領にも取材しやすい」といいます。それは彼がエンターテイナーであり、インタビューを受けたり、記者団に囲まれたりするのが大好きだからです。記者が電話をかければ喜んで出てくれるそうです。前任者のバラク・オバマ大統領は、自分が伝えたいメッセージを厳密にコントロールすることで有名でした。そのため、報道の自由を規制した大統領だと言われて評判も悪かったのです。
(中略)
ただ、大統領のみならず、スタッフまでもが情報のリーク合戦をする政権である事は特筆されます。政府高官のほうも、ホワイトハウスの内部情報をマスメディアにリークしながら、自分の意見を記事に反映したがっているようです。これもかつての政権とはだいぶ違います。

「トランプ大統領はどんな人?」 P.40~42ページ

大統領になる前から、朝1番にする事は部下に切り抜かれた自分に関する記事を読むこと。自分について書かれた記事の全てに目を通して、分析するまでのが日課でした。これは、かなり強度のナルシストと言えるでしょう。自分でも「幼い頃から自分が人々の噂になるにはどうすればいいかを研究してきた」とマスコミに発言しています。

「トランプ大統領はどんな人?」  126ページ

トランプ氏の航空会社も倒産し、続くプラザ・ホテルの破綻は、トランプ氏にとって4度目の破綻経験となりました。それでも彼は、驚くべき錬金術を編み出して行きます。株式公開会社を新しく設立して、これを上場したのです。するとトランプ・ブランドの株を購入する人々が現れました。最高経営責任者兼最大株主のトランプ氏は、集めた資金で自分のカジノを法外な高値で買い取ったり、個人負債の償還に当てたりと、利益相反的な経営を続けました。こうした錬金術が株主たちに明らかになり、実はトランプの19億ドルもの負債を自分たちが負わされていることが後になってから発覚したのですが、それは株式公開会社が上場会社になってトランプ氏の会計内容が初めて公開された時でした。つまり、それまでトランプ・ブランドの取引は秘密裏に行われていたのです。

「トランプ大統領はどんな人?」  133ページ

2011年にトランプ氏は、世論調査で大統領選の共和党候補として名前は上がったものの出馬は決断していません。しかし、2012年になると、本格的に自分の財団を経由して、保守的な政治団体への献金をしています。フランクリン・グラハム氏が運営するキリスト教支援団体には100,000ドルを寄付し、同士の非営利団体にも3.5万ドルを寄付して接近を図っています。2013年には全米保守連合(ACU)や反中絶団体のジャスティス・フォー・オール、ファミリーリーダー財団やテキサスに拠点を置くキリスト教の牧師などにも寄付をしました。 2014年には、ニュージャージ州のクリス・クリスティ州知事が運営する共和党知事教会(RGA)に25万ドルの寄付をしています。

「トランプ大統領はどんな人?」  133ページ

◆ 感想

この本を読んで、トランプ政権は「合法的に」株価操作していると確信しました。引用にはあげませんでしたが、過去にも「合法的に」自身の会社の会計操作したり、多額の税金をすり抜けてきているようです。
別の法人つくって上場させて、キャピタルゲインとインカムゲインで負債を返すなんてもうアレすぎますよ。
しかも、毎朝、自分の記事を部下に切り抜かせて、朝からそれを読むのを習慣として、どうやってトランプ・ブランドを築くかを日々考えていた人にとっちゃあ、メディア・コントロールなんて朝飯前でしょう。
厄介なのが、” 政府高官のほうも、ホワイトハウスの内部情報をマスメディアにリークしながら、自分の意見を記事に反映したがっている ”ということでしょう。まさに、ヘッドラインで何がでるかによって株価の自動売買プログラムが走るという状態になるんでしょうね。

ただ、こんなことって、いつまでも続かないでしょう。
FRBの動向も重要ですし、積みあがった負債は返済し続けられるかも重要です。また、中国が経済好調だからこそ、世界の不動産を買い漁れるし、米国にも資金流入しているという事情もあるので、中国の経済動向も重要です。
そして、大きなターニングポイントとなるのは、間違いなく大統領選挙なはずです。

しかしながら、どんな大統領が誕生しても、留意すべきことは、この本にも書かれている通り、大統領は立法権限をもっていないことなのです。法案を提案することは可能ですが、どの法案を審議にかけるかの権限はもちませんし、ましてや予算をとることもできないのです。だから、あれだけメキシコとの国境壁の予算作成が難航しているのです。
アメリカ議会の動向を注視する必要があると強く感じました。

尚、以下の本の方がアメリカ議会にフォーカスして書かれているので、議会に関しての考察は次回に割愛します。