書評:『China 2049』 マイケル・ピルズベリー

China 2049 – 2015/9/3
著者:マイケル・ピルズベリー (著), 森本 敏 (解説), 野中 香方子 (翻訳)
出版社: 日経BP (2015/9/3)

◆ 読むキッカケ

◆ 『China 2049』目次

序章 :希望的観測
第一章:中国の夢
第二章:争う国々
第三章:アプローチしたのは中国
第四章:ミスター・ホワイトとミズ・グリーン
第五章:アメリカという巨大な悪魔
第六章:中国のメッセージポリス
第七章: 殺手鐗 (シャショウジィエン)
第八章:資本主義の欺瞞
第九章:2049年の中国の世界秩序
第十章:威嚇射撃
第十一章:戦国としてのアメリカ

◆ 概要

ピルズベリーは、ニクソン政権以来、30年間にわたって中国の軍幹部や政府高官と接点をもってきたり、中国研究に費やしてきた中国の専門家。
親中家(パンダハガー)だったピルズベリーが、米国政府がいかに中国を誤解していたか、目を覚ませ!と警告を送っている書でもある。
中国の基本的な考え方は、戦国時代の教訓である『戦国策』にあり、「勢」という考え方と、「欺き」がいかに重要な戦略になっているかを説いている。
第三章からは、毛沢東とニクソン大統領の歴史背景が書かれている。第五章では、1989年の天安門事件をキッカケに、1969年から89年の米国との交流は削除され、教科書は書き替えられた数々の事実。そこには、リンカーン大統領は、大悪党であってり、米国がいかに悪の集団であるかが説明されている。第七章からは、中国の技術盗用、WTOのルールを守らない、大気汚染などなど…中国の悪事が暴かれている。

◆ 本文からの抜粋

過去数十年によって推し進められ、現在も続行中の100年マラソン戦略は、大半が戦国時代の教えをもとにタカ派が構築したものだ。100年マラソンの土台となっている中国の戦略の9つの要素を以下にあげる。
①敵の自己満足を引き出して、警戒態勢をとらせない
②敵の助言者を上手く利用する
③勝利を手にするまで、数十年、あるいはそれ以上、忍耐する
④戦略的目的のために敵の考えや技術を盗む
⑤長期的な競争に勝つうえで、軍事力は決定的要因ではない
⑥覇権国はその支配的な地位を維持するため、極端で無謀な行動さえとりかねない
⑦勢を見失わない
⑧自国とライバルの相対的な力を図る尺度を確立し、利用する
⑨常に警戒し、他国に包囲されたり、騙されたりしないようにする

「China 2049」P.58~59

1993年5月、クリントン大統領はホワイトハウスにダライ・ラマ代理人と天安門広場で抵抗した学生リーダーを含む40名の反体制派中国人を招待し、クリントン政権の中国に対する厳しい姿勢はピークに達した。(中略)
中国はあらゆる手を使って、これらの人々を中国寄りの財界人と接触させた。あわせて、影響力あるアメリカの財界人に、商取引をちらつかせた。クリントン選挙戦を経済的に支援した有力者たちは、クリントンに直訴して、中国にボーイング航空機を売り込むのを邪魔したり、アメリカの商業衛星を中国のロケットで打ち上げる計画を妨げたりしないことを求めた。有権者の経済的利益を守るという名目のもと、アメリカ連邦議会では中国に味方する議員が増えていった。そしてついに1993年末、中国が「クリントン・クーデター」と呼ぶものが起きた。中国に同調する面々が大統領に反中姿勢の緩和を認めさせたのだ。

「china 2049」P.142~143

中国のプロパガンダ作戦では、「落とす」ことができない、あるいは、矯正できないアメリカ人はいないと考えられている。「悪者」も、十分に圧力をかけ、誘惑すれば、また「良い人」になると彼らは考えている。そのためわたしに対しても(ピルズベリー自身のこと)、新設にして中国との接点を増やしてやれば、論調はいくらか和らぐだろうと期待したらしい。

「China 2049 P.200

中国チームと世界銀行エコノミストは、詳細にわたる研究の後、民営化と政治改革を進めないことに決めた。彼らはともに、経済成長を支える安定した道は、社会主義的経済政策と中国共産党による政治独占の維持だと判断した。民営化を拒んだ理由の一部は、中国の国有企業は2兆元の価値があるが、国民総貯蓄額は推定で1兆元しかなかったからだ。つまり、中国国民が国有企業に投資してオーナーになるのは計算上、不可能だったからだ。何しろ、中国の田舎では私有財産自体が存在しないのだ。2014年になっても、中国の6億人の農民は自分の土地をもっていない。
(中略)
さらに中国では、五代銀行が中国人のすべての預金50%を保持している。人口が14億人もいるのに、国と地方が所有する銀行が29行、特別行政区の銀行34行、私有銀行が2行しかない。

「China 2049」P.258~P.262

中国は営利目的で兵器を量産する。
長年にわたって中国は、無法国家にミサイル技術を売ってきた。それらの国々にはイラン、リビア、シリアなどが含まれ、大量破壊兵器を開発し、近隣諸国に対して攻撃的にふるまい、テロリストを武装させ、自国民を弾圧している。中国が力をつけるにつけて、大量破壊兵器の拡散は、スローダウンするどころか、ますます加速していくだろう。無法国家は孤立せず、中国の支援を受ける。一方、アメリカとその同盟国に対して、中国は強力しようとせず、機会あるごとに攻撃し、弱体化を図る。とりわけ自国の安全保障が絡んでくると、中国はいっそう強硬な態度にでるだろう。

「China 2049」

◆ 書評

以前、フォーリン・アフェアーズの記事で「中国は問題を解決するのではなく、管理する」と書いていた人がいたが、それさえも「中国共産党」を誤解したのかもしれにあ。中国は、相手が「問題」としていることを認めようとせず、なんとか相手を中国にとって「良い人」にしようとする作戦に躍起になる。中国のロビー活動だ。
ZTE、ファーウェイなどの中国ハイテク企業は、トランプの制裁に対して昨年から既に約8000万ドルを費やしている。

Eight other Chinese companies have spent at least $7.9 million hiring Washington lobbying and public relations firms since last spring, right before Trump cracked down on a different Chinese telecom company, ZTE, according to a POLITICO analysis of disclosure filings. That’s nearly eight times what the same companies spent in the same period a year earlier.

https://www.politico.com/story/2019/06/20/trump-china-zte-huawei-lobby-1371456

クリントン元大統領の時のように、トランプ大統領もうまく懐柔できると思ったのだろう。しかし、トランプ大統領は違い、そもそも議会とうまく連携していないし、ツイッターでいきなり重要なことを発表する。
中国共産党にとっては、予想外のじたいが起こっているのだろう。そもそも敵に自分の企みを知られた時点で負けだともいえるので、ここまで全面に中国の企みが知られてしまったのではもう中国は負け戦になるのかもしれない。

もう一つ、着目しておきたい点がある。「米国は、中国に対して誤った見解をしていた」とピルズベリーの懺悔ともよべる告白がある。これに対して、こんなの嘘だという書評を見かけるが、そうではなく本音なのだと思う。そうじゃなきゃ、米中貿易協議が合意に達するという見立てがある度に、米国株が上昇することはないはずだ。
ここには、プロテスタントが理解し難い部分が多分にあるだろう。まず、契約重視のプロテスタントにとって契約を守ることは当然だ。一方で、中国は騙すということは「契約を守らない」「約束を守らない」ことが大前提だ。これは、真逆の考え方でもある。
次に、プロテスタントは聖書に原点回帰したという経緯からしても、言葉を重んじる。中国は「騙す」「隠す」が重要な戦略なので、言葉を重んじないことになる。つまり、嘘など当然であり、むしろ自分たちも騙されないように常日頃から心掛けているほどだ。
クリスチャンにとってイスラム教のほうがまだ理解しやすいだろう。絶対的な唯一の神が存在して、コーランという経典があるからだ。
それに対して、中国共産党の考えでは、経典はない。経典に近いような重要文献は隠してきたし、英語に翻訳させないなど徹底している。相手に自分たちの思考を知られることはご法度だからだ。2500年前に書かれた『孫子』に、「力を隠し、無力なふりをせよ」と書かれ、これが重要な戦略でもあるのだ。彼らの思想を根っこから理解するなら『孫子』『戦国策』が重要文献なのだろう。

最期に、私は株価の動向を考えるためにこの本を読んでいるので、そこについて書いておこうと思う。株価は、物事を正しくみるかではなく、市場関係者がどうみているかで考えなくてはならない。
China is not an enemy
この記事を見る限り、まだまだ米国内には中国は敵ではないと考えている人が多そうだ。親中派が多いようでは、中国への強硬姿勢がうまく進まないだろう。米中貿易摩擦の緩和期待で上がったり下がったりがまだ続くだろう。
さらに、トランプ大統領は2020年再選を最重要視している。強硬姿勢を貫くことで再選できない情勢になってきたら、覆すかもしれない。

ただ、一つ今までと異なることは、 ホワイトハウス政権に中国の企みが知られてしまったことだ。それは孫氏の教えに反していて、隠しきれなかったので、すでに米中覇権争いにおいて、中国は負け戦に転じているのかもしれない。