米議会1/14-18:上院では高官承認に向けた公聴会がスタート/2025年大型法案の進捗

トランプ次期大統領が指名した政府高官の指名承認にむけた公聴会が今週からスタートする。現在、スケジュールに入っているのは10数名しかいない。既にスケジュールがセットされた中で、承認が難しいといわれているのはヘグセス氏くらいであり、問題なく承認される政府高官を先に進めていると思われる。

トランプ次期大統領が指名した高官承認に向けた公聴会がスタート

上院議会ホームページで公開された公聴会スケジュールは以下の通り。
退役軍人省長官に任命されていたコリンズ元下院議員は、FBIによるバックグラウンドチェックが完了していないため14日→21日に延期された(※2)
また、バラッソ上院院内幹事によると国家情報長官候補のギャバ―ド氏は事務手続き上の理由で来週になるだろうとのことだ(※3)

◆1月14日
・国防長官候補 ピート・ヘグセス氏(軍事委員会)
◆ 1月15日
・国土安全保障省長官候補 クリスティ・ノームSD州知事(国土安全保障政府問題委員会)
・司法省長官候補 パム・ボンディ氏(司法委員会)
・国務長官候補 マルコ・ルビオ上院議員(外交委員会)
・CIA長官候補 ジョン・ラトクリフ氏(情報委員会)
・運輸省長官候補 シーン・ダフィー元下院議員(商・科学・運輸委員会)
・エネルギー省長官候補 クリス・ライト氏(エネルギー・天然資源委員会)
・OMB長官候補 ラッセル・ボート氏 (国土安全保障政府問題委員会)
◆ 1月16日
・環境保護庁長官候補 リー・ゼルディン元下院議員(環境・公共事業委員会)
・住宅都市開発長官候補 エリック・ターナー氏(銀行・住宅・都市問題委員会)
・内務省長官候補 ND州元州知事ダグ・バーガム氏( エネルギー・天然資源委員会)
・司法省長官候補 パム・ボンディ氏(司法委員会)
・財務省長官候補 スコット・ベッセント氏(財務委員会)
◆ 1月21日
・退役軍人省長官候補 ダグ・コリンズ 元下院議員 (退役軍人省)

2025年大型法案の進捗

トランプ次期大統領は「1本の大型法案」を提案している。スミス下院歳入委員長も同様だ。
一方で、スーン上院院内総務は12月に2つの財政調整法案で進める意向を既に示している。1つ目は国境、国防、エネルギーに焦点を当てて、2つ目は減税を含めた税制改正を中心にしたものを検討しているとのことだ。上院予算委員会のグラム委員長も同じ意見だ。
その協議として1月8日に上院指導部との会合を設けた。トランプ次期大統領は、1つにまとめた法案でも、分割しても結果は同じだから問題ないと発言した。
次期大統領は特にこだわりがないとしたら、あとは上下院での協議となってくるだろう。まだ妥結できていないため、引き続き調整していくことになるだろう(※4)

共和党は上下院で多数党とはいえ、造反者を数名でもだすと可決できなくなる。
特に税制改正だけでも共和党内の下院は団結するのが難しい。大きな要因を2つまとめておきたい。

① 歳出削減を盛り込まない減税、財政赤字削減策を盛り込まない債務上限引き上げに反対するフリーダムコーカスの議員

トランプ次期大統領は数々の減税を公約に掲げていたが、フリーダムコーカスの議員らは、「減税だけ」には反対の立場だ。財政赤字を拡大させない減税を支持している。2024年10月に実施したCRFBによると、トランプ次期大統領が掲げている税制は、関税導入による歳入増加をふまえても7.5兆ドルの赤字を生じると試算されている(※5)
トランプ次期大統領が掲げた税制について、彼らは反対票を入れてくるので実現は難しい。民主党が賛成票を入れてくるとはおもいがたい。なんとかして彼らがYESになるようにして共和党がほぼ全員納得する税制改正を進める必要がある。
が、道のりは極めて厳しいだろう。

先週末、フリーダムコーカスのメンバーはトランプ次期大統領に招かれ、イーロン・マスク氏と共に会合を行った。ロイ下院議員に対して「予備選で落としてやる」など発言していたトランプ次期大統領だったが、彼も参加している…。
フリーダムコーカス所属でトランプ次期大統領とも親しいドナルド下院議員によると「普段トランプ次期大統領と関わることの下院議員(フリーダムコーカス)が共に過ごしたことで、お互いを知るよい機会となった。まずはチームビルディングから」とのことだ(※6)
フリーダム・コーカスの所属議員は、トランプ次期大統領とも第一次政権の時にも戦った。第一次トランプ政権が進めていたトランプ・ケアを廃案に追い込んだのもフリーダム・コーカスだ。トランプ前大統領には「フリーダム・コーカスは2018年の選挙で追い出すべきだ、共和党内で団結できないなら」ともツイートされたこともある。それから比べれば、所属議員も相当入れ替わっているが、関係性も少しは良くなっているといえるだろう。
とはいえ、関係性がよくなっても、彼らが政治信条を変えることはないだろう。どちらかというと、トランプ次期大統領側が妥協するのではないだろうか。

また、7~8月頃にくるであろう債務上限の問題は、共和党にとって頭痛の種だ。
少なくともフリーダムコーカス30名ほどは、決して債務上限引き上げに賛成しない。下院で可決するには民主党から票をもらう必要があるだろう。
そのため、債務上限引き上げ(あるいは債務上限一時停止)を別法案として進める案が現実路線となってきている。

②SALT (州・地方税)上限引き上げを盛り込まない税制改正に反対するSALTコーカス

青い州(NY・CA州など)選出の共和党議員が強く求めているのが、SALT (州・地方税)上限撤廃だ。青い州の共和党議員と民主党議員が超党派で進めているが、それぞれの党内から反発も大きい。
民主党はすでにバイデン政権の時に実現を試みたが、主にプログレッシブコーカスからの反対で失敗に終わった。
トランプ次期大統領も第一次政権時代からSALT上限引き上げを掲げているが、共和党議員からの反発が強く失敗してきた。NY選出のローラー議員は、かねてから発言していたが今年に入ってからも「SALT上限撤廃(あるいは引き上げ)が含まれない税制改正には賛成しない」と言い切った(※7)
すでにローラー下院議員はSALT控除上限を独身なら1万ドル→10万ドルに引き上げ、夫婦なら20万ドルに引き上げる法案まで再提出した(※8)

党内から強い反発があるので最終的に盛り込まれるかは定かではないが、SALT控除が含まれない税制改正には何名かの議員が反対票を入れることになるだろう。
SALT上限引き上げを求める議員らは、トランプ次期大統領と会合をもったようだ。

参考資料
※1: Hearings & Meetings
※2: Senate Veterans’ Affairs Committee Postpones Nomination Hearing for Congressman Doug Collins to be VA Secretary
※3:Cabinet confirmation hearings dominate agenda as immigration bills move along
※4:Trump, GOP senators wrestle over strategy for president-elect’s agenda
※5:The Fiscal Impact of the Harris and Trump Campaign Plans
※6:Trump charms GOP rebels at Mar-a-Lago, with Musk in tow
※7:SALT-focused Republicans to meet with Trump as they threaten to hold up bill
※8:Congressman Lawler Reintroduces SALT Fairness and Marriage Penalty Elimination Act