米議会2/5-9:上院超党派の国境安全・ウクライナ支援法案はやっとリリースしたが、ジョンソン下院議長は“DEAD ON ARRIVAL”と再び切り捨て

2月は、Presidents Dayの休暇があるため本会議開催日は少ない。今のところ上院は2週間、下院は11日の休暇(といっても選挙区に戻って活動や外交)を予定している。つなぎ予算期限まであと1か月だが、今週も上下院で目立った進捗がない。

1. 下院で可決した約800億ドル規模の税制優遇法案

約800億ドル規模の税制優遇法案である「Tax Relief for American Families and Workers Act of 2024」が下院で賛成357対反対70票の大差をつけて可決した。法案の詳細は過去ブログを参照ください。

Tax Foundation(※1)の試算によると、2024年には1690億ドル、2025年には460億ドルの減税となる。2026年~2033年までは増税となっていくものの、長期的にはGDPを0.5%押し上げる試算を出している。

上院での審議日程はまだ未定だ。シューマー上院院内総務は、この法案に賛同を示している。しかしながら、 「Tax Relief for American Families and Workers Act of 2024」 の法案交渉は、両院の多数党同士で行われたため共和党上院からの代表者が含まれていなかった。そのため、既に不満の声があがっている。次期共和党トップと噂される共和党指導部No.2のスーン上院少数党院内幹事は「現法案のままならば、法案可決の60票を得ることは難しい」とまで発言している。共和党指導部のコーニン議員も反対すると宣言している(※2)
最も懸念されているのは、 子ども税額控除 (CTC)  であり、その次はオフセット(Employee Retention Creditの停止)による歳入増だ。

子ども税額控除 (CTC)の拡大は、民主党にとって優先アジェンダだ。ジェフリーズ下院院内総務もつい最近「下院民主党が多数党になったら拡大する」と宣言している(※3)
シューマー上院院内総務は選挙が本格化する前に可決したいと動くことになるだろうが、来月初旬にはつなぎ予算期限への対処もあるので今すぐというのは難しそうな感じだ。 

2. 上院超党派の国境安全法案:ウクライナ・イスラエル支援法案がやっとリリース

約3か月かかったウクライナ支援と国境法案がやっとリリースされた。
Emergency National Security Supplemental Appropriations Actは総額 1182億ドルとなる 上院歳出委員会プレスリリース資料一式より抜粋する(※4)
【主な内訳】
・ウクライナ支援:600億ドル
・フェンタニル対策を含み、国境の安全を確保する資金:202億3,000万ドル
・イスラエル支援:141億ドル
・ガザ地区の人道支援:100億ドル
・インド太平洋支援(対中国への抑止):48億ドル
・ウクライナ・ロシアからの難民支援:23億ドル
・米国内でのウラン生産・再利用:27億ドル
・米国内の潜水艦産業基支援:33億ドル


さて、この上院超党派の交渉法案については、すでに先週でジョンソン下院議長は “DEAD ON ARRIVAL”と切り捨てている。追い打ちをかけるように、スカライズ共和党下院院内総務は、上院がだしてきた法案は「下院で投票しないよ」と言い切った。さらに、ジョンソン下院議長も続く。さすがにジョンソン下院議長とスカライズ院内総務のトップ2がいうのなら投票は見込めない。

下院で審議されないのに、なんで上院は交渉していたのか?と思う人も多いだろう。流れを説明する。
まず、下院は国境の安全を確保するために2023年5月に「Secure the Border Act of 2023」を可決している(※5)
この法案には、移民流入を制限するだけでなく国境の壁建設再開など含まれているため、民主党は猛反対しており、シューマー上院院内総務は “DEAD ON ARRIVAL” と切り捨てていた。( “DEAD ON ARRIVAL” は議会では頻出単語であり、上下院どちらかで可決しても、自分たちの院では採決さえしないことを意味する)
そして2023年秋頃にバイデン大統領がウクライナ支援の資金枯渇を懸念して米議会に追加予算を求めた。
下院共和党は当初から「ウクライナ支援よりも、 Secure the Border Act of 2023の可決が先だ」として動かなかった。
上院民主党はバイデン政権に足並みをそろえるかたちで動き始め、上院共和党はこのタイミングなら国境政策を再交渉できると考えて超党派で進めていた。それが秋ごろで、交渉は難航してずっと法案が出てこなかったのだ。
そろそろ法案が提出できそうな段階で、ジョンソン下院議長が “DEAD ON ARRIVAL” と発言したり、スカライズ下院院内総務のチーフスタッフも “DEAD ON ARRIVAL” と発言したりするニュースが流れていたが、上院は交渉を続けた。
で、やっと上院は法案をリリースできた。それが2月4日(日)の夜。
そうしたら、すぐさまスカリス下院院内総務が「下院で投票しない」宣言をしてきたという流れである。
上院としては上院で法案を可決することで、下院と交渉したいのだろうが、下院はそういうディールをするかは未知数だ。

その一方で、 ジョンソン下院議長はイスラエル支援について方針転換を示した。近日中にイスラエルへの支援$143億のみを再度投票にかけると発表した。 昨年11月はイスラエルへの支援$143億にあわせてインフレ削減法で増額したIRS予算削減でオフセットにしていた。なお、イスラエル支援は前回と同様の内容で、「アイアンドーム」や「デイビッズ・スリング」として知られるミサイル防衛システムなどの軍事支援で大半をしめる(※6)

つまるところ、上院と下院で足並みがまったくそろえられていない。
シューマー上院多数党院内総務、マコネル上院少数党院内総務はディールができるタイプだが、共和党下院指導部は交渉しないスタンスを貫くようだ。

3.  マヨルカス米国土安全保障長官の弾劾決議が下院国土安全保障委員会で可決

1/31、下院国土安全保障委員会はマヨルカス国土安全保障長官の弾劾訴追決議案を可決した。さらに、下院はマヨルカスの弾劾訴追案を今週採決する予定で進めている。共和党の下院議員の一人、バック下院議員はすでに弾劾を支持しないと表明している。共和党は、投票が否決されるまでにあと2人しか造反者を出せない 。民主党からの票は見込めないため、共和党だけで可決させなくてはいけない。

民主党が多数党をしめる上院では、マヨルカス国土安全保障長官の弾劾は否決されることになるので、弾劾そのものは問題ではない。
問題なのは、弾劾裁判の最中は他法案の審議が一切できなくなるのでまた年度予算が遠のくことにつながることだ。これも今週、注意したほうがいい法案の一つである。

※1 :Five Facts to Know about the Bipartisan Tax Deal
※2:House-passed tax bill heads into Senate GOP buzzsaw
※3:Jeffries vows to expand child tax credit even further under a Democratic majority
※4:Murray Releases Text of Bipartisan National Security Supplemental
※5:H.R.2 – Secure the Border Act of 2023
※6:House Republicans unveil $14.3B stand-alone Israel supplemental