世論調査ではトランプ氏がリード、資金調達ではバイデン大統領&民主党がリード

米国の大統領選挙は、州別でみていく必要がある。
過去の大統領選をみても2000年以降の大統領選を起点として、共和党が勝利する州はだいたい決まっているし、民主党が勝利する州も決まっている。
その中で、「パープル州」が大統領選の勝敗を決めることになる。共和党が勝ったり、民主党が勝ったりしている州だ。
以下の地図ではベージュで示されている州が、パープル州に該当する。2020年はこれらの州でバイデン大統領が勝利した。
参考までに2022年上院選でも、AZ・NV・GA・MI・PA州は民主党議員が勝利した。共和党が勝てたのはWI州の現職議員だけである。今までパープル州だと認識されていた州は、2022年上院選を見る限りやや青い州になっていたといっていいだろう。

ところが、2024年総選挙にむけた最新世論調査において、パープル州ではトランプ氏が大幅にリードとなっている。第三党からの候補者数名を含めても、含めない調査でもPA州を除きトランプ氏がポイントを上回っている。
2020年大統領選、2022年上院選でバイデン大統領や民主党上院議員が勝てた州で軒並みトランプ氏にリードされているのだ。
Georgia:Trump+8% ( Fox News
Wisconsin:Trump+3%(Fox News)※第三党を含めないと同ポイント
Pennsylvania:Biden+5%(Franklin & Marshall
       : Trump+3% Bloomberg / Morning Consult
Nevada:Trump+12%( Bloomberg / Morning Consult
Michigan:Trump+6%(Bloomberg / Morning Consult
Arizona:Trump+8% ( Bloomberg / Morning Consult

MI州やNV州に至っては、上院議員も両方とも民主党議員だが複数の世論調査でバイデン大統領が負けている(※2)。
また、バイデン大統領にとって、致命的なのはアフリカ系アメリカ人からの支持が急落していることだ。 特に2020年は黒人からの支持率が90%に近い支持だったのを考えるとかなり厳しい状況だといえる。
1/3に発表されたSuffolk University & USA TODAY(※3)の大統領選の世論調査 2020年大統領選でバイデン大統領に票をいれていた若者・無党派・黒人からの支持は軒並み下落している。
「もし今日大統領選だったら誰に投票する?」のセグメント別回答(n=1000)でみていく。
◆34歳以下 トランプ氏37%、バイデン大統領33%、第三党候補者21%
◆無党派 トランプ氏35%、バイデン大統領24%、第三党候補者28%
◆アフリカ系アメリカ人は63%がバイデン大統領、第三党候補者20%、トランプ氏12%
という結果になっているのだ。

なので、これらの世論調査や黒人からの支持率をみる限りは「もしトランプ大統領が誕生したら」ではなく「もうすぐトランプ大統領が誕生する」と考えたほうがよいのだろう。

一方で、トランプ氏の資金調達面が軟調なのが、どうもひっかかる。トランプ氏&RNC(共和党全国委員会)が2020年大統領選では絶好調だったのに明らかに様子が異なるのだ。詳細を確認していく。

資金調達ではバイデン大統領&民主党リード

候補者は資金がなければ、選挙キャンペーンを乗り切ることができない。歴史的には、資金調達額を上回ったほうが米大統領選に勝利してきた。しかし、それを大きく覆したのが2016年のトランプ氏勝利だ。2016年はヒラリー氏が5.6億ドルも調達したのに対して、トランプ前大統領は3.3億ドルと大差をつけられていた。にもかかわらずトランプ前大統領は勝利したのだ。2020年のバイデンvsトランプでは、バイデン大統領が過去最高の10億ドルを超える資金調達、トランプ大統領は7.7億ドルという結果だったものの、2016年でセオリーが崩れたことは大きい。

2020年・2022年上院選では民主党がパープル州や赤い州に州外から莫大な資金を投下したが勝てなかった州がいくつもある。 資金調達をより多く実施したほうが勝利するわけではなくなったのは明らかだ。
しかしながら、資金がなければ選挙活動を続けることはできない。広告投下量やイベント開催に大きく影響する。選挙広告に左右されて判断する有権者も一定数いるわけで、そうなると広告投下量がものをいうことになる。
選挙資金調達は、いまだ勝敗予測の指標の1つなのだ。

2023年第4四半期(10-12月)の資金調達額はバイデン大統領がリード

2023年第4四半期調達2023年末の手元資金
バイデン大統領 $31,863,201 9400万ドル
共和党トランプ氏 $18,975,216 6500万ドル
共和党ヘイリー氏 $17,116,188 1450万ドル
無所属ケネディ.Jr氏$7,037,153 540万ドル

FEC(米連邦選挙委員会)への提出資料(※4)によると、米大統領選で共和党候補指名を目指すトランプ氏が2023年第4四半期に調達した選挙資金は1900万ドルで、再選を目指すバイデン陣営の調達資金3300万ドルを下回った。
しかも、トランプ氏は第3四半期に2500万ドルを調達してバイデン大統領とほぼ同額だったのに、 第4四半期の資金調達ではまさかの減少する結果となった。

DNC(民主党全国委員会)の資金調達を含めるとバイデン陣営は9700万ドルを調達し、手元資金は総額1.1億ドルとなった。再選を目指す選挙1年前の同時期では、 オバマ元大統領と民主党が2011年第4四半期に集めた6600万ドル超を上回るだけでなく、民主党大統領候補として過去最高額の手元資金となった。

一方で、トランプ氏は2023年に年間1億8800万ドルを資金調達したものの、多くを訴訟費用として支出した。FECに提出された書類によると、2023年は約5,000万ドルを法律事務所に支払ったことが明らかになっている(※5)
そのため、手元資金はバイデン大統領を下回る結果となった。

DNC(民主党全国委員会)は、RNC(共和党全国委員会)を上回る資金調達と手元資金

共和党、民主党それぞれの全米の党組織があるRNCとDNCの2023年の年間資金調達額もみてみよう(※6)

2023年 年間調達額2023年末の手元資金
RNC
共和党全国委員会
8,720万ドル800万ドル
DNC
民主党全国委員会
1億1900万ドル2100万ドル
※選挙前年末としては過去最高

今回、共和党RNCの年間資金調達額は2013年以来で過去最低となった。
FOXニュースによると、 RNCの資金調達額(インフレ調整後)がこれほど低調になったのは、2002年McCain-Feingold Campaign Finance Reform Act で企業からの政治委員会資金調達が制限され、個人からの献金に上限設置前の1993年が最後であるとのことだ(※7)
2020年大統領選では2019年単年度だけでトランプ前大統領とRNCは共同で約5億ドルほど資金調達をした。大統領選に突入する2020年には手元資金が1億ドルを超えていたことを考えると、今のRNCの資金調達ぶりは極めて低調だといっていいだろう。
しかしながら、RNCは2024年1月には1200万ドルを調達したと最新の報告をしており、2023年のどの月よりも調達額も上回っているのでこれから伸びてくるのかもしれない。

共和党大統領候補ヘイリー氏は 2023年第4四半期の資金調達で健闘するが、支持は伸びず

ヘイリー氏は資金調達面では健闘しているといっていい。手元資金は、トランプ氏のほうが大幅に上回っているが、2023年第4四半期だけの資金調達はいい勝負だった。2024年に入ってからHFシタデルのグリフィン氏は500万ドルをヘイリー氏に寄付したことが報じられた(※8)

2023年第4四半期調達2023年末の手元資金
共和党トランプ氏 $18,975,216 6500万ドル
共和党ヘイリー氏 $17,116,188 1450万ドル

1月の資金調達も好調だったようだ。1月単月で1650万ドルを調達し、大半は小口献金であつまったとのこと。トランプ氏がヘイリー氏の寄付者に対して “MAGA camp”から永久に閉ざすと脅したものの(※9)、逆に献金が集まる結果になったようだ。 トランプ氏の2023年10-12月(第4四半期)の資金調達は1900万ドルだったので、ヘイリー氏は1か月で資金調達したことになる。

しかしながら、予備選の世論調査をみるとヘイリー氏は勢いが増しているとは言いがたい。2/1に発表されたMonmouth / Wash. Postの世論調査では、サウスカロライナ州はヘイリー氏32%、トランプ氏58%と大差でリードされている。
サウスカロライナ州での共和党予備選でほぼ共和党予備選が決まるといっても過言ではない。1980年以来、2012年の例外を除き、サウスカロライナ州で勝利した共和党大統領候補が本選の候補者となってきた。
共和党候補者はほぼ決まったようなものではあるが、ヘイリー氏がどこまで支持を伸ばすかはみておきたいところだ。

スーパーチューズデー(3/5)に明らかになる第三党からの候補者

第三党として勢いを増す政党「No Lebel」は、まだ大統領候補者を発表していない。スーパーチューズデー(3/5)以降に発表することを明らかにしているため、誰を候補者にするかによってはまだ世論調査が動く可能性はじゅうぶんにある。 政党「No Lebel」 は、公開はしていないが15~25州ていどは大統領選挙の投票用紙に名前を載せられるという話だ。マンチン上院議員になるという話もあれば、ケネディ氏になるという話もある。

また、期待されている第三党のケネディ氏だが、先ほど示したとおり、資金調達額と手元資金をみる限りはバイデン大統領・トランプ氏に大きく出遅れていることがわかる。ケネディ氏は大統領選挙の投票用紙に名前を載せる各州の手続きを進めるものの、完了したのはUT州のみで苦戦が続いている。ケネディ氏は方針を切り替えたのか、リバタリアン党から出馬する可能性もでてきているようだ(※10)

2024年はバイデンvsトランプの再選でほぼ決まってきているものの、スーパーチューズデー後の第三党「No Lebel」やリバタリアン党の動きによってはまだ番狂わせが起こる可能性はあるだろう。

※1:Historical Presidential Elections
※2:Michigan 2024 Presidential Election Polls
Nevada 2024 Presidential Election Polls
※3:A fraying coalition: Black, Hispanic, young voters abandon Biden as election year
※4:① opensecrets.org
https://docquery.fec.gov/cgi-bin/forms/C00836916/1748953/
※5:Trump doles out millions to lawyers: Here’s who’s getting the most
※6:FEC資料より
https://docquery.fec.gov/cgi-bin/forms/C00003418/1753625/
https://docquery.fec.gov/cgi-bin/forms/C00010603/1753300/
※7:Democrats hold vast fundraising advantage as Republicans face cash problems, disarray in crucial swing states
※8:Citadel CEO and billionaire Ken Griffin donated $5 million to Nikki Haley super PAC
※9:Scoop: Nikki Haley’s fundraising takes off while GOP tries to end her campaign
※10:RFK Jr.’s possible Libertarian bid rankles Democrats
※他参考記事
https://www.opensecrets.org/2024-presidential-race
https://www.opensecrets.org/news/2024/02/three-takeaways-from-2024-presidential-candidate-campaign-finance-filings
https://thehill.com/homenews/campaign/4442815-what-we-learned-from-2024-candidates-year-end-fundraising-reports/