米議会9/25-30:政府閉鎖は回避できるか?つなぎ予算シナリオ/民主党メネンデス上院議員の収賄容疑スキャンダル

9月末の年度予算が終了するまであと1週間となった。米国の連邦政府の財政年度は、9月末で終了し、10月から新しくはじまる。 9月30日23:59に年度予算が終了するため、年度予算(つなぎ予算)を可決しなくてはいけない。しかも下院議会は26日から再開するため30日まであと5日間だ。
なんで予算を決めないと政府閉鎖するかというと、「Antideficiency Act (1870年立法)」で定められた通り、議会が承認しない限り、一部の例外(航空管制官など)を除き、各省庁は業務停止が義務づけられているからだ。違反すると、行政罰・刑事罰まで決められている。

2024年度予算の進捗がよくない。12本の個別法案をセットにして年度予算を可決するが、下院はまだ1本しか可決していない。
「年度予算は9月末に決まることなんて、ここ数十年なかったので毎年のことじゃないか。どうせつなぎ予算でしょ?」と考えている方も多いだろうが、今年はその「つなぎ予算」にさえ反対している議員が一部いるのでややこしくなっているのだ。上院では共和党のほんの一部がつなぎ予算に反対しているが、ほとんどは賛成しているので問題ない。問題は、下院共和党なのだ。

シナリオとしては先週から変更なしの4つになるが、マッカーシー下院議長次第だ。 つらつら書くが、最終的にはマッカーシー下院議長が民主党と手を組めば問題なくつなぎ予算は可決する。
ただそれをやると、共和党内批判および下院議長解任動議(可決しない可能性のほうが高い)はほぼ確実に起こる。党内をまとめきれないと、ベイナー元下院議長のように下院議長辞任に追い込まれ、最終的には議員引退になる。ポール・ライアン元議長も「トランプ前大統領の要求にうんざりした」と言われているが、そもそも共和党がまとまらない状況で議員引退したのはある。マッカーシー下院議長も歴代下院議長が党内をまとめきれず、辞任に追い込まれたのをみてきているので、状況はよく理解しているだろう。

1追加なしにつなぎ予算は9/30までに可決。フリーダムコーカスからの票は含めずに民主党と協力して可決する(債務上限法案と同様のパターン)。
すでに一部共和党議員でも動きがある。上院では問題なく可決。
→政府閉鎖回避
2フリーダムコーカスからの要求を受け入れ、 Secure the Border Act of 2023等を追加して下院共和党だけで可決。上院民主党は政府閉鎖を恐れ、9/30までにしぶしぶ票をいれて可決する。 →政府閉鎖回避
3フリーダムコーカスからの要求を受け入れ、 Secure the Border Act of 2023等を追加して下院共和党だけで可決。上院民主党から反発が強く、可決できず →政府閉鎖。シナリオ1・2・4のいずれかで交渉。
4上院が作成中の2024年度予算を上院で可決、下院民主党と共和党が超党派で可決。フリーダムコーカスからの票は入らず。 →政府閉鎖回避

尚、最新の動きとして、年度予算12本の通年予算法案のうち4法案を可決してから、1か月のつなぎ予算の共和党内で再交渉するという流れがでてきている。その4本が可決したところで、つなぎ予算が必要になることに変わりないのでシナリオはこのままにしておく(引用元:HILL


【1】共和党下院がつなぎ予算にSecure the Border Act of 2023を追加したい背景

共和党下院フリーダムコーカスは、単なるつなぎ予算可決に強く反対している。
つなぎ予算にSecure the Border Act of 2023(H.R. 2)などの法案を追加するよう要求(引用元:House Freedom Caucus)して一歩も引かない。この Secure the Border Act of 2023(H.R. 2) は、すでに共和党下院が5月に全員賛同して、下院議会で可決(219票獲得)している。南部国境の壁建設再開、亡命者数の制限、国境捜査官増員などを含む法案だ。上院シューマー院内総務もバイデン大統領も反対しているので、下院可決したままだ。これをつなぎ予算に追加したいというのがフリーダムコーカスの最大の主張だ。まあ他にも年度予算の歳出削減を確約しろとかFBIのWokeをやめろとか色々あるが協議中および細かい内容は割愛する。

この要求は、フリーダムコーカスだけかと思われていたが、そうではなかったことが今週起こった。
RSC所属で債務上限交渉で活躍した グレイブス下院議員がSecure the Border Act of 2023(H.R. 2)がつなぎ予算に含まれないならば、政府閉鎖になってもやむを得ないと発言した(引用元:HILL)。どうやらフリーダムコーカスだけが南部の国境問題に懸念を深めているわけではなく、最大コーカスのRSCも賛同を示しているようだ。まあ5月に共和党下院は全員賛成して可決しているから当然といえば当然だが。
背景として、不法越境者数が急上昇していることにある。米税関・国境取締局(CBP)の最新発表によると、国境を越えてくる不法越境者数は8月に23万人を超えた。Title42が今年5月上旬に失効して、新たな規則を実施してから急減していた不法越境者。しかし、ここ数か月で急上昇しているだけでなく、ここ数年の最大ピークである昨年12月の25万人を9月は超えそうな勢いなのだ。

参照元:https://www.cbp.gov/newsroom/stats/southwest-land-border-encounters

しかし、これらを含めると下院民主党の票は見込めず、上院では通過しないはずだ。バイデン大統領はこの法案が共和党下院で可決した時、拒否権発動すると発言している。ただし、政府閉鎖を長期的に続けるような脅しをかけた場合、上院とバイデン大統領がしぶしぶ承認する可能性は残る。

2】ウクライナ支援などバイデン政権が要求した$630億はつなぎ予算に含まれない見込み

バイデン政権が要求した$630億の追加予算をつなぎ予算に追加できるかは未だ不透明。 災害対策へのFEMA追加予算・国境の安全確保のための予算 ・ウクライナへの追加支援を要求している。
上院共和党は、これらの予算を支持する議員が一定数いるので上院での可決は問題ないが、下院共和党には反対票が一定数いるため厳しい状況が続いている。

ゼレンスキー大統領は米議会の動向をよくわかっているので、先週末には米議事堂を訪問して直接、米議員に直訴している。シューマー多数党上院院内総務・マコネル少数党上院院内総務・ジェフリーズ下院少数党院内総務にはあたたかく迎えられて、対話する場をもてた。一番重要だったマッカーシー下院議長とは個別で対話できたようだが、ゼレンスキー大統領の米議会での演説要請を拒否している。ゼレンスキー大統領訪問前に、バイデン大統領にさらなるウクライナ支援に反対することを要請した共和党議員数十名に配慮したこともある。
とはいえ、年度の国防予算(国防権限法)に含まれていたウクライナ支援$3億でさえこの数十名の1人である共和党議員が反対したことで、国防権限法から削除せざるおえなくなった。これもまたこの共和党議員数十名の反対を押し切り、民主党の力を借りてウクライナ支援法案を可決させるかはマッカーシー下院議長次第だ。(引用元:THE HILL

民主党メネンデス上院議員の収賄容疑スキャンダル

週末の米議会は、民主党メネンデス上院議員(NJ州)の収賄容疑スキャンダルで政府閉鎖どころではなかった。NJ州南部地区の連邦地検は、民主党メネンデス上院外交委員長を収賄罪などで連邦大陪審が起訴したと発表した。エジプト政府や実業家らに便宜を図る見返りに、現金や高級車など計数十万ドル相当の賄賂を受け取っていたとしている。民主党上院議員内の規則として、「指導的地位にある議員が重罪で起訴された場合、その指導的地位の権限と職務の行使を停止する」と定められているため、一時的に上院外交委員会委員長の役職は外された(引用元:Politico)来年で引退するカーディン上院議員が一時的に委員長につく。
メネンデス上院議員は2015年にも収賄などの容疑で司法省に起訴されたが、陪審団が評決に達することができずに終わった。起訴された場合でも、メネンデス氏は前回と同様に上院議員であり続ける可能性は残っている(引用元:WSJ

メネンデス議員といえば、民主党で有名なネオコン生き残り議員の1人だ。ネオコンは基本的に共和党が中心ではあるが、民主党にも一部いる。
なお、親台湾・大手製薬企業の代表・ヒスパニックの代表でもある。上院外交委員会委員長として、 台湾への軍事支援強化が可能になるTaiwan Enhanced Resilience Actを昨年から強く推進してきた(引用元:www.foreign.senate.gov

さて、2024年再選挙を目指していたメネンデス上院議員だが、ここへきてマーフィーNJ州知事や、NJ選出州下院民主党はメネンデスの上院議員辞任を要求している。金曜日の段階では、メネンデス議員は上院議員辞任を否定した。
メネンデス上院議員の辞任を求め、NJ州選出下院議員でプログレッシブコーカスのアンディ・キムは即座に上院議員に来年立候補すると宣言した。まあ、要はプログレッシブコーカスにとっては、こうした党内のネオコン議員やら中道派議員を追い出す大チャンスなわけです。
プログレッシブコーカスにとっては、メネンデス議員のようなネオコンで大手製薬企業の代表などしている議員は目の敵だったはず。まあ、WV州マンチン議員・無所属になったAZ州シネマの次くらいにランクするような人物だったと思われる(引用元:Politico

まあ政府閉鎖で共和党を悪者にしたいタイミングで、民主党にとって隠したいスキャンダルがでてしまったことは不運だったのかもしれない。
共和党にとっては、NJ州上院選で共和党が勝利したのはここ数十年ないので、メネンデス議員が辞任したといって大きなチャンスとは言い難いだろう。今回は民主党内のプログレッシブコーカスにとってのチャンスですね。