米議会9/18-23:つなぎ予算に関するシナリオ/バイデン政権にとって UAWストライキは試練

9月末の年度終了まであと2週間。政府閉鎖を防ぐため、約1か月のつなぎ予算を巡り、下院共和党内の交渉が続いています。2024年度の予算作成の進捗は遅れているため、9月30日までにつなぎ予算(Continuing Resolution:一定期間、前年度どほぼ同じ歳出を可能にする)を可決する必要があります。

【Point.1】共和党下院フリーダムコーカスは、単なるつなぎ予算に反対票を投じると先月に宣言している。つなぎ予算にSecure the Border Act of 2023(H.R. 2)などの法案を追加するよう要求(引用元:House Freedom Caucus)。しかし、これらを含めると下院民主党の票は見込めず、上院通過するかも危うい。
共和党下院内で交渉が続いており、 ‘good progress’ とマッカーシー下院議長は発言しているが詳細はみえず(引用元:THE HILL)。 尚、マッカーシー下院議長はフリーダムコーカスの議員から議長職解任動議を提出するとほのめかされている。フリーダムコーカス議員からの要求を無視し続けるわけにはいかない状況に追い込まれつつある(引用元:THE HILL

【 Point.2】バイデン政権が要求した$630億の追加予算をつなぎ予算に追加できるかは未だ不透明。 災害対策へのFEMA追加予算・国境の安全確保のための予算 ・ウクライナへの追加支援を要求している。
上院共和党は、これらの予算を支持する議員が一定数いるので上院での可決は問題ないが、下院共和党には反対票が一定数いるため難しい。

つなぎ予算に関するシナリオ

フリーダムコーカスからの要求をマッカーシー下院議長(下院共和党の多数メンバー)がどこまで受け入れるかが焦点になるだろう。9月30日ギリギリ土壇場で、民主党と協力してつなぎ予算を可決して政府閉鎖を防ぐことはじゅうぶんにありえる。私の予測としては、まずはシナリオ3を一回やって、9月30日数日前にシナリオ1で政府閉鎖を防ぐことになるのではないでしょうか。

1 追加なしにつなぎ予算は9/30までに可決。フリーダムコーカスからの票は含めずに民主党と協力して可決する(債務上限法案と同様のパターン)
上院では問題なく可決。
2 フリーダムコーカスからの要求を受け入れ、 Secure the Border Act of 2023(H.R. 2) を追加して下院共和党だけで可決。上院民主党は政府閉鎖を恐れ、9/30までにしぶしぶ票をいれて可決する。
3フリーダムコーカスからの要求を受け入れ、 Secure the Border Act of 2023(H.R. 2) を追加して下院共和党だけで可決。上院民主党から反発が強く、可決できず。
4上院が作成中の2024年度予算を上院で可決、下院民主党と共和党が超党派で可決。フリーダムコーカスからの票は入らず。

とはいえ、マッカーシー下院議長はフリーダムコーカスの一部の議員から、議長解任動議を提出されることを恐れてシナリオ3のままで時間切れとなり政府閉鎖になる可能性も0%ではないでしょう。

問題は2024年度予算

つなぎ予算可決できたから、もう安心というわけではありません。
つなぎ予算は期限付きで決めているので、その期限を迎えるまでに2024年度予算を可決する必要があります。しかも年内に可決しないと、PAYGO原則が待っているため共和党・民主党ともに年内可決は必須です。

というのも、債務上限の時に可決したFiscal responsibility Act of 2023により、2024年予算は制約をうけています。 ①2024年度と2025年度の年度予算法案がそれぞれの会計年度の1月1日までに制定されない場合、裁量支出は現在の2023年度より強制的に1%削減となる(PAYGO原則の復活)。つなぎ予算で可決することは認めていない。そのため、特定の部分で1%引き下げではなく、全体的な削減となります。詳細は、1985 年均衡予算法(Balanced Budget and Emergency Deficit Control Act of 1985) に基づきOMB(行政管理予算局)が削減可能な範囲を算出しますが国防費削減も免れられないとみられています

今までは1年間かけて年度予算を可決するなんてこともありましたが、今年と来年は年内可決が必須になるでしょう。今回のつなぎ予算では政府閉鎖は防げる(あったとしても短期間)になると思いますが、今回の2024年度予算はフリーダムコーカスから追加削減の要求があるなど、交渉が行き詰まる可能性が多分にあります。問題は、次の予算決めです。


バイデン政権にとって UAWストライキは試練

UAW(全米自動車労働組合)が、 40%以上の賃上げ(9/13に36%の賃上げ要求に引き上げした)・従来型の年金への復帰・週32時間労働制の導入を求めてストライキを決定しました。これらの要求は、Social Justice(社会正義)だと明確にUAWフェイン会長は発言している。
交渉期限直前にフォードは20%の賃上げ、GMは18%を提示、ストライキ直後にステランティスは21%の賃上げを提示しましたが、UAWフェイン会長は承諾していません。40%賃上げを求めています。さらに、フェイン会長はTV取材の中でさらにストライキする拠点を増やすと宣言しました。現在は、 GM社(Wentzville Assembly, Local 2250, Region 4 )・ステランティス (Toledo Assembly Complex, Local 12, in Region 2B )・フォード( Michigan Assembly Plant, Final Assembly and Paint Only, Local 900, Region 1A ) の3社で1拠点を選んでストライキをしています。まだ労働組合員15万人の10%に満たない組合員がストライキしている状況なので、経済への悪影響は現段階では小さい。
プログレッシブコーカス議長のジャヤパル議員やペロシ元下院議長、シューマー上院院内総務など民主党指導部が次々に支持表明し、民主党下院トップのジェフリーズ下院少数党院内総務も応援に駆けつけています。
まあ多くの民主党議員は労働組合からの票に頼っていますからね。

なお、ストライキ手当は週$500で、ストライキ基金は$8.2億ほどあると発表している。フェイン会長はストライキ基金を使い果たすことなく、交渉妥結しないといけないという制約はある。なお、ストライキした直後にフォード社は600名を一時解雇している(引用元:WSJ

バイデン政権は未だにUAWから再選支持を得ていない

AFL-CIOをはじめとして、多くの労働組合は早い段階でバイデン大統領の再選を支持しました。ところが、UAWは未だにバイデン大統領の再選を支持していない。EV移行を強力に進めるバイデン政権に対してUAWは懸念を抱いている。EVへの移行そのものに反対しているわけでなく、EV移行について組合員の雇用確保を保障してほしいとUAWは考えているのだ。
とはいえ、トランプ前大統領を支持しているかというと、はっきりと支持しないと発言している。

バイデン政権にとって、ここでUAWの意に沿うような交渉仲介ができれば再選支持をしてもらい、ますます勢いづく可能性がある。しかし、ここで失敗すればせっかく勢いづいてきたバイデン大統領再選を失速させる可能性がおおいにある。バイデン政権にとっても、今回のUAWストライキはなんとしてもいい方向にしたいというのはあるのだろう。

尚、バイデン政権は昨年末に鉄道労働組合のストライキを阻止することができたが、それはウォルシュ元労働長官の影響が大きかったといわれている。ウォルシュ労働長官は2月に辞任し、今はスー労働長官代理が対応している。バイデン政権は、ストライキ直後にスー労働長官代理とスターリング国家経済会議局長を交渉仲介人としてデトロイトに派遣すると発表した。

環境保護団体もUAWを強く支持

今回のストライキで、EVへの移行が遅れると環境保護団体が掲げる気候変動対策が遅れるためストライキを支持するのか注視していた。

全米最大級の環境保護団体の1つであるシエラクラブは、支持声明文もだした。
まあようは単なるクリーンエネルギーの移行ではなく、労働者にとって公正な移行となるように求めているというわけだ。100を超える環境保護団体はビッグ3に対してUAWの要求を受け入れよと書簡を送付している。環境保護団体と労働組合の団結力が強いことが証明された。

climate activists delivered a message to the “Big Three” on behalf of over 100 environmental, advocacy, consumer, and civil society groups, calling on the automakers to meet UAW demands and protect workers in the electric vehicle transition.

https://www.sierraclub.org/press-releases/2023/09/sierra-club-statement-solidarity-united-auto-workers

とはいえ、力を失いつつあるUAW

1970年代後半に日本車打ち壊して、強い政治的圧力をかけていたUAWはもう過去のことだ。今は教員・サービス業の労働組合が労働組合の中でも最大勢力となった。 2019年にUAWのGary Jones会長が組合会員費の横領で解任されてから、UAWも立て直しを図ってきた(引用元:NPR) 
今回、UAW(全米自動車労働組合)は負けてしまったら、もうどこかの労働組合と合併するしかなくなるんじゃないだろうか…