米国の賃貸世帯は4380万。人口にすると、ざっと1.08億人が家を借りて住んでいる。
今週、NMHCが提供している家賃トラッカーによると、7月第一週は77.4%しか払っていないという衝撃な数字がでてきた。しかし、昨年同期間でも2割近くの人が払っていないのである。 米国での家賃は月初に支払うようだが、月初にきちんと支払う人がそもそも少ないともいえるデータだ。 月末までにはパンデミック後も95%の人が支払い続けているので、レント・クライシスにはなっていないようにみえる。
NMHCが提供している家賃トラッカーの母数は、1100万人。米国の賃貸世帯は4分の1をカバーしているが、4分の3が抜け落ちているということは留意すべきなのかもしれない。また、分割支払いして、満額支払えなかった場合はここで捉えることができず、「支払った」とみなされることも問題の一つといえる。
賃貸物件住まいの人口、月額家賃中央値、立ち退き禁止期間
まず、カリフォルニア州が最も多く、全米賃貸世帯数の10%を占める。CA、TX、NY、FL、IL、GA州の6週合算だけで約5000万人に達して全賃貸世帯人口の半分になる。
今回は、以下の表組を作成した。目的としては、立ち退き禁止期間がいつまで続くかが一つ。また、連邦政府が上乗せしている週600$上乗せがなくなった後に家賃を払えるかどうかということを確認するためである。
Eviction-labから、州別の賃借人口、立ち退き期間を抜粋し(一部ニュースで調べた)、家賃月額中央値は real estate marketplace Zillow のデータから拝借した。また、失業給付保険については連邦政府$600上乗せがなくなった場合の8月以降の平均給付額をCNBCから拝借。
賃貸住まい 人口 | 月額家賃 中央値 | 州失業保険平均受給額 | 立ち退き禁止期間 2020/7/10時点 | |
カリフォルニア州 | 17,035,151 | $2,542 | $300 | ~9月30日 |
テキサス州 | 9,601,665 | $1,359 | $400 | - |
ニューヨーク州 | 8,207,322 | $2,221 | $400 | ~ 8月20日 |
フロリダ州 | 7,157,164 | $1,620 | $250 | ~ 8月1日 |
イリノイ州 | 3,920,658 | $1,563 | $400 | ~7月31日 |
ジョージア州 | 3,603,768 | $1,360 | $300 | - |
オハイオ州 | 3,545,527 | $1,033 | $380 | - |
ペンシルベニア州 | 3,457,067 | $1,273 | $400 | ~ 8月31日 |
ノースカロライナ州 | 3,342,061 | $1,211 | $250 | - |
ニュージャージー州 | 2,924,825 | $1,837 | $450 | 州緊急事態宣言 終了から60日 |
バージニア州 | 2,646,746 | $1,606 | $300 | - |
ミシガン州 | 2,585,932 | $1,196 | $300 | ~ 7月15日 |
ワシントン州 | 2,499,304 | $1,825 | $450 | ~ 8月1日 |
アリゾナ州 | 2,462,278 | $1,375 | $200 | ~ 7月22日 |
4月以降は、CAREs ACTによって連邦政府が週$600上乗せしているため、失業した人も週$800~$1050近くを受給できている。しかも、5人に1人は今までの賃金の2倍以上受け取れてることになるというデータもあるのだ。フードサービス業界の賃金/週は、450ドルなのだ。だとすると、この連邦政府による週600ドルの上乗せ救済措置だけで、いままでの賃金を超えるし、州の失業給付を足すと2倍近く受け取れることになる。
これによって、各州の月額家賃中央値以下なら、家賃負担率は高いものの、なんとか支払えているということが予測できる。また、給料が減額した場合も、州の失業給付で補填できる場合が往々にしてある。その場合も、週$600が上乗せされるのだ。
更には、失業給付をもらった方がいいと経営者が判断しているケースもあるようで、失業と労働を交互に繰り返しているケースもあるとのことだ。
しかし、週$600の上乗せがなくなったらどうなるだろうか。
まず、失業給付金だけでは、家賃を支払えなくなる世帯がいることが容易に想定される。最も家賃中央値が低いオハイオ州でさえ、失業給付金の7割が家賃になってしまうのだ。これでは光熱費や食料品などにまわらないだろう。
可能性は低いだろうが、ロビンフッドユーザーが株式の現金化ということもあるのかもしれない。
立ち退き禁止令が終了することで立ち退き数が表面化することはあるだろうが、それ以上に週$600上乗せが終わらせたことで家賃支払えなくなる人達が激増するかもしれない。
立ち退き禁止期間は、各州とも相次いで延期させている状況なので、再々延長ということもじゅうぶんありえるだろう。
一部のシティや州では、既に2~3割の人が家賃を支払えてないというデータも。
一方で、NY市賃借人の4分の1は、3月以来家賃を支払えていないというデータがでてきた。NY市人口は855万人なので、全人口3分の2が賃貸すまい(570万人)ということだ。そのうちの、25%ということは140万人ほどが支払えていないことになる。一方で、すでに出払った人も増えているようで、マンハッタンの6月のアパート空室率は、2006年8月以来の最高記録 3.67%をマークした。家賃中央値も6.6%の下落だ。
また、マサチューセッツ州においても(賃借人口:2,214,898人)、賃借人の3割が全額あるいは一部支払うことができなかったとされている。8月18日以降の立ち退き禁止終了すると、2万件の立ち退き申請が見込まれているくらいだ。
さらに、ケンタッキー州( 賃借人口:1,353,300)の3分の1が立ち退きにあうという予測もでているほどだ。おそらく、州によっても異なるだけでなく、カウンティレベルによってもかなり異なる。
毎年約200万件立ち退き申告がある米国
Eviction-labによると、毎年200万件以上の立ち退き申告がある。同サイトによると、立ち退き申告の多くは、家賃未払いによるものだが、他の理由もある。例えば、このPBSニュースでは、息子がカレッジ休校に伴い実家に帰ってきたら契約違反だとして賃貸契約を解除されたようだ。家主ともめると賃貸契約解除となったとして信用スコアにも傷がつくようだ。
Eviction Tracking Systemを見る限り、立ち退き申告について急増しているということはない。ウィスコンシン州は、5月末で立ち退き禁止期間が終了したことで、直近4週間は増加している。むしろ、それ以外は、年平均よりも下回っている状況だ。テキサス州は、どうやらカウンティレベルで立ち退き禁止期間が設定されているようなので、まだわからない。
これから増えてくることになるのだろう。
参考資料
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-07-08/coronavirus-moves-nyc-affordable-housing-crisis-to-breaking-point?sref=lw8NgS9l
https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-07-09/manhattan-apartment-rents-slide-after-exodus-empties-buildings?sref=lw8NgS9l
https://www.kake.com/story/42335864/eviction-rates-in-every-state
https://www.leoweekly.com/2020/05/rent-due-mass-evictions-feared-moratorium-lifts/
https://www.bostonmagazine.com/property/2020/07/08/boston-eviction-moratorium-august/
https://www.experian.com/blogs/ask-experian/research/median-rental-rates-for-an-apartment-by-state/
https://www.wsj.com/articles/unemployment-bonus-keeps-workers-on-the-sidelines-11591225925