中国とオーストラリアのデカップリング

米中デカップリングではなく、中国は世界の先進国とデカップリングするのではないかという考えもある。何かの記事で欧州が中国にある工場を移転するつもりはないという記事がでていたこともあり、欧州が中国とデカップリングする気ないなら、この話はないだろうと考えていた。
しかしながら、オーストラリアと中国の摩擦が予想以上に進んでおり、且つ、オーストラリア経済へのダメージが激しくなっているので一度整理しておくことにする。

事の発端は、 オーストラリア政府が4月に、新型コロナウイルスへの中国や世界保健機関(WHO)の対応について「独立した検証」への要求したことにある(のはず)

それに対して猛反発した中国は
5/12: オーストラリアの食肉処理場4カ所からの輸入を停止 参照元
5/19:豪州産大麦に5年間の反ダンピング関税 参照元
5/20: 豪州産のワインや魚介類、オートミール、果物、乳製品の不買運動の可能性までちらつかせる 参照元
6/8 :中国政府がオーストラリア旅行しないよう勧告
6/9 :中国教育省はオーストラリアへの留学を検討している学生に慎重に判断するよう促す。

関税かけられたタイミングなどで、オーストラリア政府はWTO提訴検討としたが、検討で止まっているみたいだ。

まずは、オーストラリアと中国の経済の結びつきをざっと整理する。

オーストラリアと中国の結びつき

◆ 豪州の輸出品のうち25%~30%未満は中国向け
◆ 中豪貿易は約1520億ドル(約16兆2700億円)相当
◆ オーストラリアへの中国人観光客は年間約140万人(2019年全体の15%)
◆留学生は約20万人と国別で最多( 2019年の37.3%が中国人)
※ 中国からの大学生は、年間約120億オーストラリアドル(80億ドル)相当
◆中国からの不動産投資もそれなりにある(金額は調べ中)
◇中国の鉄鉱石輸入の60%はオーストラリアから
◇ 製鋼で使用される冶金用石炭の80%はオーストラリアから

オーストラリアの輸出品目の3分の1は、中国相手なのだ。一方で、中国にとってオーストラリアへの輸出はたったの2%にしか過ぎない(2018年JETRO)。
中国は、オーストラリアへの観光客と留学生を途絶えさせることくらいわけないだろう。以前、韓国へのやった報復と同じようなことをやらかしているだけだろう。

一方で、コモデティティ、特に鉄鉱石についてはそう簡単にスイッチングできそうにない。 ウッドマッケンジーによると、オーストラリアの鉄鉱石と中国へのLNGの輸出は、1年前と比較して、それぞれ年初来で8%と9%増加しているとのことだ。
というのも、オーストラリアに次ぐブラジルでは災害や鉱山災害で生産が落ち込んでいるので輸出を拡大できそうにもない。CNBCによると、アフリカに切り替える可能性もあるが、まだ数年近くかかるらしい。

According to Wood Mackenzie, Australia’s iron ore and LNG exports to China are up 8% and 9% year-to-date respectively, compared to a year ago. Chinese imports of Australia coal are also “way ahead of where they were before the pandemic.”

https://www.cnbc.com/2020/06/12/china-may-impose-trade-curbs-on-australia-but-cant-stop-buying-iron-ore.html

オーストラリア経済は既にリセッション入り

オーストラリアはコロナウイルスの影響で失業率が上昇している。6月は失業率10%をみこむらしい。 若者の失業率が高く、5月時点で16.1%のようなので厳しい兆候がでていると思われる。

オーストラリア連邦統計局が18日発表した5月の雇用統計は、失業率が7.1%と2001年10月以来の高水準となった。新型コロナウイルスの感染拡大を受けたロックダウン(都市封鎖)の影響で、就業者数は前月比22万7000人減少した。

https://jp.reuters.com/article/australia-jobless-rate-idJPKBN23P08L?il=0

香港がアレになっているので、移住先としてカナダ、オーストラリア、イギリスなどが挙げられているようで恩恵を受けそうなオーストラリアなんだが、それでも中国からの不動産問合せは激減しているようだ。

居外IQIのデータによると、5月の問い合わせは4月から65%以上減少した。オーストラリアでは相対的に早く新型コロナの感染が収束しており、4月は問い合わせが急増していた。

https://jp.reuters.com/article/australia-china-housing-idJPL4N2DV1TT

次の段階はどうなるか

このまま黙っているわけではないので、EU離脱するイギリスとの自由貿易協定交渉を進めるようだ。さすがに中国に屈するわけにはいかないだろう。
とはいえ、欧州が中国の穴を埋められるとは思えないし、単にオーストラリアがシュリンクしていくことになるのかもしれない。

オーストラリアが貿易でも高等教育の海外留学生でも中国の膨大な人口や成長期の経済に過度に依存してきたことで様々な弊害が生まれていることが指摘されてきたが、オーストラリア政府は中国依存一辺倒から脱却する行程としてイギリスとの自由貿易協定交渉を始める考えを明らかにした。

https://nichigopress.jp/ausnews/businessnews/199180/