共和党・民主党の予備選で大統領候補が正式に決まり、いよいよ本格的な大統領選キャンペーンに突入した。「望まないトランプとバイデンの再選」といわれているが、大統領選が再選になるのは、米史上初めてではない。前回は1956年のアイゼンハワー対スティーブンソンで、どちらもアイゼンハワーが大勝利した。その前は1892年の再対選で、建国してからそれなりに実施されている。
本ブログを読んでいる方には復習になるだろうが、大統領選について今一度説明しておく。
大統領は選挙人(elector)による投票で選ばれる。 選挙人の総数は538人であり、各州の選挙人の数は、州人口の国勢調査に基づいて決められている州選出の下院議員と上院議員(各州2名)の数の合計に等しい。大統領に選ばれるためには270の選挙人票を得る必要がある。そして、選挙人は州の有権者の過半数が誰に投票したかに基づいて自分の票を入れる。なので、州別にみていく必要がある。
ほとんどの州が、勝者総取り方式で選挙人票を割り当てるが、NE州とME州は一般投票での得票数に比例する形で選挙人票を与えるという方法を採用している。 そのため、有権者からの総数による一般投票( Popular Vote )と結果が異なる時もある。既にその現象は何度も起きているし、2016年に初めてトランプ前大統領が当選した時は、 Popular Vote ではヒラリー・クリントン氏が上回っていた。ちなみに、2020年は Popular VoteとElectoral vote(選挙人による投票)の双方でバイデン大統領は勝利した。
大統領選はこのような仕組みがあるため、州に関係なく全米規模で実施される世論調査にはあまり意味がないのである。
トランプ氏は2016年に獲得した選挙人を上回る勢いでリード
2月初旬にMI州・NV州・AZ州・WI州の状況から、私は「もうトラ」だなと発言していた。3月になっても傾向は大きく変わっていない。
世論調査(1/31~2/1)をみると、
— Reika.H (@doll__en) February 5, 2024
Trump vs Biden vs Kennedy他含は、やや青い州までトランプ圧勝。これだけみると「もしトラ」ではなく「もうトラ」
Georgia:Trump+8%
Wisconsin:Trump+3%
Pennsylvania:Biden+5%
Nevada:Trump+12%
Michigan:Trump+6%
Arizona:Trump+8%https://t.co/gbUVERCvbi
州別の大統領選の世論調査を参考にすると、以下のようにトランプ氏が圧倒的にリードしていることがわかる。
RCP Average でトランプ氏がリードしている方を赤色、バイデン氏がリードしている方を青色としてマッピングした。各州に書いてある数値は2024年大統領選の選挙人数だ。
接戦となるスウイング州であるAZ州・NV州・WI州・MI州・PA州・NC州・GA州でトランプ氏がリードしている。2020年はバイデン大統領が勝てた州のすべてにおいて、トランプ氏がリードしている(唯一、NC州は2020年も獲得できなかった)。 最も注目すべき部分は、2016年も2020年も勝てていないNV州でトランプ氏がリードしていることだ。世論調査をふまえると、2016年のトランプ氏が勝利した州+NV州ということになる。NV州では「not sure」がまだ15%いるので、これから逆転する可能性はあるが、少なくとも現状はリードしている。
シナリオ①2016年のトランプ氏勝利を再現+NV州獲得
シナリオ②PA州とWI州は奪われるが、GA・NV・MI州・AZ州で勝利
PA州とWI州はリードの差が小さいため、バイデン大統領が巻き返せる可能性はじゅうぶんにある。仮にそうなったとしても、トランプ氏の方が選挙人数を上回ることになる。
シナリオ③同数の選挙人獲得
Pro-Union(親-労働組合)を掲げるバイデン大統領にとって、UAWの本拠地であるMI州で敗退するのは絶対に避けたいはずだ。なので、MI州だけは絶対に落とさないようにするためにテコ入れをする可能性があるし、実際注力している。そうなると、選挙人は同数になる可能性がある。
同数になった場合は、2024年11月に勝利した連邦下院議員が2025年1月初旬に新大統領選出を決める。合衆国憲法修正第12条により、この場合の投票先は州ごとの下院議員団がそれぞれ決めると定められている。
先述した通り、NE州は一般投票での得票数に比例する形で選挙人票を与えるという方法を取り入れている。仮にMI州をバイデン大統領が獲得できた上で、NE州で1名を獲得できたら、たった1名差でバイデン大統領が勝利する可能性はある。2016年・2018年はNE州5名がすべて共和党、2008年、2020年は1名が民主党になった。ME州も比例だが、上記に示したパターンになるだろう。
トランプ氏がリードしている背景
スウィング州で何が起きているかに注目することで、トランプ氏がリードしている背景を探ろうと思う。 バイデン大統領が2020年総選挙で勝利したのに、現在は負けているスウィング州の中から、最新世論調査として公開されているMI州とGA州から分析した。
本当は2020年時の同様の調査機関による世論調査と比較したかったが、データ入手が難しかった。そのため、現在も公開されている2020年総選挙の出口調査(州別)とPew reserchセンターが実施した2020年総選挙に投票した全米有権者への大規模調査(※1)を用いて比較しました。
①無党派層はトランプ氏を支持する人が多い
「無党派層が選挙を左右する」とよく言われるのは、無党派層が最も多くなっているからだ。Gallup(※2)が継続して公表している調査によると、無党派層は40%を超えて最も多い勢力なのだ。
2020年総選挙ではバイデン氏が勝てたMI州もGA州も、トランプ氏は無党派層から支持を集めてトランプがわずかにリードしている。調査によっては、「Undecided」が5~20%前後いるので、今後、彼らがどう動くかで変わるが。
なお、2020年総選挙の出口調査では以下の結果だったので今回は逆転している。
GA州無党派層 :バイデン53% トランプ 44%
MI州無党派層 :バイデン51% トランプ 45%
Pew Reserchが実施した全米レベルの調査でもほぼ同じような結果(バイデン52% トランプ 43% )となっている。
MI州有権者に対しての 世論調査(2024年2-3月)
GA州有権者に対しての世論調査(2024年3月)
②バイデン大統領はアフリカ系アメリカ人からの支持が下落
バイデン大統領の支持率が落ちている一つの要因としてよく指摘されているのは、アフリカ系アメリカ人からの支持が下落していることだ。
スウィング州の中で、アフリカ系アメリカ人の人口比率が高い州はGA州31%・NC州22%・MI州14%・PA州12%となる。
ヒラリー・クリントン氏、バイデン大統領は黒人からの支持が9割を獲得してきた(※1)。それに対して2月~3月の直近の調査ではMI州では68%、GA州では70~81%となっている。実際、2020年出口調査でもMI州は92%、GA州では88%がバイデン大統領に投票していた。
トランプ氏は2020年からアフリカ系アメリカ人の票を獲得するため “Black Voices for Trump(※3)” などのキャンペーンをいくつか展開していたが、結果は芳しくなかった。しかし、ここへきてやっと20%を超える支持もでてきた。もちろんこれは、共和党が議員リクルーティングで白人以外の候補者を増やしてきたことや、共和党を支持するCandace Owensといったインフルエンサーの貢献もあるだろう。決してトランプ氏だから人気があるというわけではないが、2016年選挙から8年がかりでやっとここまで支持がでてきたといったところだろう。
③女性からの支持
2022年夏に最高裁がRoe v. Wadeを覆したことで、各州は州法で中絶を制限できるようになった。それ以降、民主党は「女性のリプロダクティブ・ライツを支持する。女性の権利を支持する」と強く打ち出してきたことで、大統領支持率が低い中でも中間選挙で危惧したよりは議席を奪われなかった。2024年も引き続き女性の中絶する権利を強く打ち出していて、先日のバイデン大統領の一般教書演説でも強調されたことの一つだ。 Roe v. Wadeを復活させると最高裁判事達の前で宣言していた。
ところが、女性からの支持が高まっているかというとそうでもない。
なお、2020年総選挙の出口調査での女性票は以下の結果で、2024年と大きな変化は見受けられない。
GA州無党派層 :バイデン54% トランプ 45%
MI州無党派層 :バイデン57% トランプ 44%
Pew Reserchが実施した全米レベルの調査でも同じような結果だ。
バイデン55% トランプ 44%
ちなみに、 MI州の有権者を対象にしたQuinnipiac University世論調査(※4)では、最も緊急であると思われる政策課題として中絶を選択した人は無党派層でたった4%、女性でも9%と明らかに優先順位が低い。というのも、接戦州のMI州・PA州・WI州なんかは既に中絶の権利が確保されているのでもう州で権利があるから優先課題ではないということなのかもしれない。
MI州の無党派層にとって最優先課題は以下3つなのだ。
Economy 26%
Preserving democracy 21%
Immigration 18%
④非大卒からの支持
トランプは白人の非大卒からの支持が高いのは有名な話だが、今回もその傾向は変わらない。むしろ、微増しているとさえいえるだろう。
2020年総選挙の出口調査結果は
GA州無党派層 :バイデン42% トランプ 54%
MI州無党派層 :バイデン47% トランプ52%
Pew Reserchが実施した全米レベルの調査でも同じような結果だ
バイデン41% トランプ 56% となっている。
⑤ヘイリー氏を支持していた有権者が一定数トランプ氏を支持する見込み
ヘイリー氏は、共和党の大統領予備選の徹底宣言をした時にトランプ氏を支持しなかった。有権者の判断にゆだねるとした。ヘイリー氏撤退後の Quinnipiac University(※4)では、ヘイリー氏に共和党予備選で投票したMI州有権者は
バイデン大統領50% トランプ氏36% その他( UNDECIDED含む)14%となった。 ケネディ氏などをいれるとBiden42% Trump 28% Kennedy 19% Stein5%その他5%となる。
個人的にはトランプ氏に流れるのは3割に満たないのではと思っていたので、思っていたよりもトランプ氏に流れていた。
ただし、これはMI州有権者だけの動向なので、他の州もみていく必要がある。
第三党の動き
2024年大統領選で番狂わせがあるとしたら、共和党でも民主党でもない第三党から誰が候補者になるかだ。ケネディ氏は未だに大統領選の投票用紙に名前を載せる手続きが済んでいない。UT州、NH州、NV州、HI州では投票資格を得るのに十分な署名を集めたとしている(※5)。しかし、刻一刻と投票資格を得る締切は迫ってきて、確実に50州すべてで投票を得るのは難しい。
50州すべてで得られなかったとしても、スゥイング州で出馬するとなるとバイデン大統領にとってもトランプ氏にとっても痛手だ。しかし、最も多く署名を集めているAZ州ではまだ2万通、MI・NV州では1万通ていどで厳しいのではないかとみている。
一方で、ケネディ氏がリバタリアン党から出馬するのではないかという噂もある。リバタリアン党は2016年、2020年と50州で資格を得ているため、リバタリアン党がケネディ氏を党の大統領立候補者とするなら、全米で可能になる。ではいつそれが決まるかというと、5/24-26の党大会となる。まだ少し先の話となる。
また、第三党のNo Labelsも党からの立候補者を近日発表するとしている。しかし、有力候補であったマンチン上院議員やホーガン元MA州知事が「大統領選には出馬しない」と宣言することになり候補者がそもそもいなくなってきている(※6)
というわけで、第三党の動きは以前ほど盛り上がりをみせなくなっている。まだケネディ氏がリバタリアン党から出馬したとしても、トランプ氏やバイデン大統領を上回れるほど票を獲得できるとも思い難い。なので、見たくないといわれている「Trump vs. Biden rematch 2024」がこのままだと実現することになるだろう。
参考資料:
※1:Behind Biden’s 2020 Victory
Exit Polls 2020 by state
※2: Gallup Party Affiliation
※3:Trump campaign opening 15 community centers to reach black voters
※4:2024 Michigan: Trump Leads Biden In 5-Way Race
※5:RFK Jr.’s VP pick comes amid a big, difficult ballot access push
※6:No Labels lays out plan to pick presidential candidate
(雑記・次回予告)
AZ州・NV州も書かなくてはいけないと思いつつ、長くなりすぎたのでいったん公開することにしました。次はAZ州・NV州の話も書こうと思います。
あと、本当は今月にでも「実現が危ういトランプ氏の公約」というタイトルで書き始めていたのですが、未だ仕上げられていません。
上下院で交渉中の700億ドル規模の税制優遇がまとまるかと思いきや、まだ採決できないし、本当にトランプ減税延長できるか怪しいと思っています。
あと、すでに可決した法律については1974年議会予算・執行留保規制法(Congressional Budget and Impoundment Control Act of 1974)があるので法律を廃止しない限り、一時停止はできても取り止めは難しいかと。
などなど、このあたり整理して書いていきますので引き続き読んでいただければ嬉しいです。