米議会の予算決議が上下院ともに2月5日(金)に可決した。
予算決議が可決すると、財政調整プロセスを通じて策定される財政調整法案については、単純過半数 で可決・成立させることが可能となる。下院は民主党が多数党なので可決するのは当然だが、問題は上院議会であった。しかし、財政調整プロセスにおいては、民主党上院議員50名が一丸となって投票するならば、民主党の50票+上院議長のハリス副大統領の1票)で追加経済対策予算が可決できる
つい先日まで、バイデン大統領は超党派の追加経済対策を進めると主張していたのに、気づいたら「民主党単独で実行する」に変えてきているので、共和党の協力なしで進めるつもりだろう。
① 追加経済対策予算可決までのスケジュール
ペロシ下院議長とシューマー院内総務が死守したい期限は3月14日だ。3月14日、連邦政府による失業給付上乗せ週300$やPUAの期限を迎えるからだ。
ペロシ下院議長は、2/5(金)の時点で2週間以内に追加経済対策法案を2週間以内(2/19日まで)に上院に送りたいと述べている。一方で、民主党向けの書簡では2月末に可決したいという意向も述べている(参照元:The Hill)
2/15(月)「プレジデンツ・デー」からはじまる1週間は、下院議会は休会の予定だったはずですが休会返上して取り組むということでしょうかね。
尚、上院議会はこの1週間は現段階で休会する予定です。
上院予算委員会は共和党と民主党が半々の議員数なので、今回の法案が通過するか懸念していたが、 下院で可決した財政調整法案を上院委員会をスキップして本会議に持ち込んだ事例はあるようだ。
(参照元:Introduction to Budget “Reconciliation”)
② 予算決議の指示内容にもとづく各委員会への予算配分
予算決議を可決させたので、上下両院の担当委員会は16日までに予算決議の指針に基づく経済対策法案を策定することになる。とはいえ、今週中に終わらせるようなスケジュール感らしい。下院の各委員会に振り分けられたものは以下だ。
配分が大きいところとしては、以下の委員会となる。
【1】Ways & Means 9410億ドル → 税還付・税額控除
→ここで1.9兆$の 4640億ドルを利用するようだ(Roll Call)
【2】Education & Labor 3580億ドル → 学校再開支援や失業給付、年金
【3】Oversight & Reform 3510億ドル → 州・地方政府の財政支援
この段階で、配分額が少ない委員会管轄の政策は今回は盛り込まれないと思っていいだろう。
③ 上院予算決議に書かれている指示内容
予算決議には、おおまかな予算指示が書かれている。下院の予算決議だとレポートは簡略化されており直接法案読むのはキツイ…。上院の予算決議レポートの方がわかりやすいので、上院の予算決議資料を参照して抜粋して転載する。
①$2,000 Direct Payments (12月の600$配布を含めて)
税還付で実施予定。
②最低賃金
連邦政府が定める最低賃金7.25$から上昇させる
③失業給付週400$上乗せ
$400 a week in Supplemental Unemployment Benefits
④$3,000/$3,600 Child Tax Credit
子ども税額控除の拡大。
子供1人あたり 6〜17歳は2000$~3000$または6歳以下は3600$
⑤ Earned Income Tax Credit 勤労所得控除
低所得者1700万人に現在の3倍近くの勤労所得控除を実施
⑥$4,000 Child and Dependent Care Tax Credit
13歳未満の扶養者に対するベビーシッター、デイケアなどの費用の控除が子ども1人なら4000$、2人なら8000$に拡充
⑦ 州・地方政府への3500億ドル規模の財政支援
⑧ Vaccine distribution ワクチン供給
⑨Healthcare: メディケイドや地域健康センターの拡充
⑩Child Care:保育サービスへの支援
⑪Pensions: The Budget Resolution will enable the Senate to protect the retirement benefits of millions of workers and retirees in troubled multi-employer pension plans. A
⑫Nutrition: 約1000万人のこどもをもつ家庭へのNutrition Programs
⑬Housing: The Budget Resolution will provide rental and utility assistance and mortgage relief to millions of tenants and homeowners
⑭Homeless Assistance
⑮Public Transit
⑯ Broadband: The Budget Resolution will provide the funding necessary to invest in broadband so that millions of public school students will receive the high-speed internet services they need for their education. ⑰Amtrak( 全米鉄道旅客公社 ):
The Budget Resolution will provide the funding necessary to allow Amtrak to rehire 1,500 workers who were involuntarily furloughed last year
予算決議というものは、予算委員会が上記のような指示をだしているだけで、この指示に対して各委員会は法案を作成する。それを予算委員会が1本にまとめて財政調整法案に仕上げて採決をとることになる。
上記の予算決議の指示内容をみてもらえれば明らかなように、明確な税控除額や予算が書かれていない部分はこれから調整されていくと考えてよい。
例えば、サンダース上院議員が強く求めている最低賃金15$については予算決議にも” The Budget Resolution will enable the Senate to raise the federal minimum wage from a starvation wage of $7.25 an hour to a living wage. ”としか書かれていない。
既にバイデン大統領も最低賃金15$を今回の法案に盛り込むことは難しいとみているようだし、民主党マンチン議員も15$までの引き上げには反対しているので、15$は難しいだろう。したがって、どのくらい上昇させられるかはこれからの交渉次第でもある。 最低賃金 11$ならいいという見解もあるようだ(参照元:The Hill)
また、今回配布する1400$の対象者、 今まで同様に個人所得7万5,000ドル以下にするのが主流の意見ではあるが、マンチン議員は、 個人所得5万ドル 、夫婦で最大10万ドル以下の人達に絞るという提案をだしている(参照元:The Hill)
最低賃金15$といい、1400$配布といい、民主党内部の急進左派と中道派の意見の対立が目立ってきたが、どちらかが不満を抱えることになる結果にはなるだろう。このあたりは、2022年の中間選挙で問題になるが別の議論になるので今回はスキップする。
④ 予算決議に書かれている指示内容はすべて可決するのか?
バイデン政権の政策はすべて実現するのか?
主に3つのハードルがあると、現段階では考えている。
【1】財政調整プロセスに加えられない政策
最低賃金15$については、専門家からは財政調整プロセスに含めるのは厳しいのではないかという意見がでている。まあサンダース上院議員も、民主党院内幹事も実現できると言い張っているし、党内で反対もいるからどうなるのか未定だ。1.3兆ドル規模にはなるという見積もりもでているので、大枠は実現するだろうが1.9兆ドル確定とするのは難しいだろう(The Hill)
【2】民主党内部からの反対
共和党の協力が不要とはいえ、民主党の票を1人も取りこぼすことはできない。
あるいは、民主党から造反者がでるなら一部共和党議員の意見を取り込まなくてはいけないだろう。特に、民主党マンチン上院議員が注目されているが、最低賃金と1400$配布の対象者をもっと絞ること以外に反対している政策は、今のところないはずだ。引き続き、マンチン議員の発言には注視した方がいいが、大枠には反対しないとみている。
【3】上院での財政調整プロセスにおけるバード・ルール
上院ではバード・ルールという規則が設けられている。 この条項は財政調整法に関して、法案の趣旨と関係のない(=Extraneous)事項は法案から除くことができる旨を規定している。
また、上院での財政調整法案の審議時間は20時間に制限されているが、予算決議の時のように、法案に関係のない修正案をだすこともできる。民主党にしろ、共和党にしろ、ここぞとばかりに修正案を出してきて互いの政策をねじ込もうとしたり、阻止したりする可能性もある。そういったことを防ぐ目的もあるのだ。
詳細のバード・ルールについては以下の通りだ。
①歳入と歳出に関わらないものは財政調整プロセスに加えられない
「トランプ大統領とアメリカ議会」中林美恵子より引用
②予算決議によって法案作成を指示された委員会が、目標とされた支出額に達する法改正をできなかったときは財政調整プロセスに加えることはできない
③委員会が所轄する権限以外についての法改正が含まれる場合は加えられない
④委員会が財政調整指示の指示で示された法制度期間を超えてから、財政赤字につながるような改正案は、全体として財政的にニュートラルでない限り、財政調整に含めることはできない
⑤社会保障プログラムのなかの退職や、身体障害の条項に関わる変更が含まれる場合は、 財政調整に含めることはできない
⑥予算インパクトが生じるとしても、偶然であるような政策案件は財政調整プロセスに加えることができない
また、バード・ルールの規則違反になったとしても、3分の2の承認(60票)があれば盛り込むことができる。しかし、共和党の協力が必要となるので、また60票の壁がでてくるということだ。
尚、バード・ルールは、上院議会で指摘されない限り、盛り込むことが可能になる。つまり、指摘されなければバード・ルール規則違反であっても盛り込まれることもあるようなのが注意すべき点でもある (参照元:Introduction to Budget “Reconciliation”)
最後になるが、現段階で決まっているのは予算決議だけのため、各委員会への振り分け予算額と、おおまかな方針である。
今週いっぱいかけて各委員会で練り直されるので、方針とは異なる予算案がでてくる可能性も多分にあるので、あくまで現段階ということでご理解いただければ幸いです。
★文中でリンクさせた記事以外の参考資料
https://www.cbpp.org/research/federal-budget/introduction-to-budget-reconciliation
https://www.washingtonpost.com/politics/2021/02/04/democrats-might-use-reconciliation-pass-bidens-pandemic-relief-package-whats-reconciliation/
https://www.washingtonpost.com/us-policy/2021/02/07/child-benefit-democrats-biden/
https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/denshi/201802/pageindices/index29.html#page=29