米国コロナ感染拡大と信教の自由

最高裁が、コロナ感染拡大を防ぐ州政府の対応よりも、信教の自由を優先する措置をおこなった。米国を理解する上で重要なニュースなのと、コロナ感染がおさまりそうにない構造的な問題に対して書いておきたい。

信教の自由が優先された

昨日、州知事が制限していた宗教施設の集会人数制限について、最高裁は米国憲法に反しているという見解から、NY州が制定した措置を一時停止命令をだした。
NY州のクオモ州知事は、コロナ感染拡大を防ぐための対策として、宗教施設の集まりは地域の感染状況により10人または25人に制限していた。これに対して、カトリック団体とユダヤ団体が憲法で保障された信教の自由を侵害していると訴訟を起こしていたのだ。下級裁判所はNY州を支持したが、最高裁で覆ったのである。

米連邦最高裁判所は25日夜、ニューヨーク州が新型コロナウイルス感染対策として宗教施設での集会を制限したことに対して起こされた訴訟で、訴えを支持する判断を下した。判決は5対4。トランプ大統領が指名し先月就任した保守派のバレット判事が賛成し、決定的な役割を果たす結果となった。ロバーツ長官は3人のリベラル派判事と共に反対に回った。

引用元:ロイター

実は、この訴訟は10月にはじめておこったわけではない。5月と7月にもカリフォルニア州とネヴァダ州で宗教施設の集まりに関して訴訟が起こっていたが、却下されていた。その時はまだギンズバーグ判事が生存していたので、リベラル派+ロバーツ判事の計5名で却下という判断になっていたのだ。

しかし、ギンズバーグ判事が亡くなり、10月にバレット判事が承認されたことで保守の判事が増えた。現在9名の判事は、6名はトランプ大統領やブッシュ大統領などの共和党大統領によって任命された判事ではあるが、ロバーツ判事やゴーサッチ判事はリベラルな見解にまわることも多い。共和党任命者が多いにも関わらず、プロテスタント保守にとってはもどかしい判決が続いていたのだ。

宗教の自由は、米国民が享受している自由の中で最も重んじられている自由のひとつである。米国の建国理念を考えても、英国国教会から迫害されたピューリタンが信仰の自由を求めて新世界(米国)への移住をしたわけだ。米国の建国と信仰の自由は深く結びついているのである。それに対して制限をかけるというのは、やはり憲法に反しているというのは理解できる。

一方で、1905年、マサチューセッツ州市民が、個人の権利として天然痘のワクチンを拒否し、州に対して訴訟を起したジェイコブソン対マサチューセッツの判例では、最高裁は州を支持した。今回、ゴーサッチ判事とロバーツ判事もこの判例を指摘している。州政府は、州民の健康と安全を確保する必要もあるのだ。

“What did that one sentence say? Only that ‘[o]ur Constitution principally entrusts “[t]he safety and the health of the people” to the politically accountable officials of the States “to guard and protect,”’” Roberts wrote.

https://www.politico.com/news/2020/11/26/supreme-court-religion-covid-barrett-440808

このあたりは、米国の面白さであり、複雑さがここによく表れている。信仰心を理解しにくい日本人は、信仰の自由なんかよりも州政府に州民の健康と安全を確保するのが最優先だと思われるだろうが、そうでないのである。
あと、「分散して集まればいいじゃん」というのもちょっと違う。なぜならば、クリスチャンは日曜日が礼拝の日であり、ユダヤ教では土曜日が礼拝だ。これも聖書によって決められているからだ。聖書は絶対であり、勝手に人間が変更してはいけないのだ。

さて、この最高裁判決に対して、 NY州大司教のティモシー・ドラン枢機卿は称賛する一方で、NY州クオモ知事は非難した
この判例が出てしまったので、今後、宗教的活動については制限を掛けようとしてもなかなか難しくなることが予測される。そうなると、あちこちの教会でクラスター感染が起きる可能性がじゅうぶんありえるだろう。

州、地方政府の方針が一致しないエル・パソ(テキサス州)

テキサス州のエルパソ(スペインとの国境付近の都市)では、医療崩壊が起きている。過密状態の遺体安置所から、冷凍トラックに遺体を運搬する動画などが放映されていたが、テキサス州が州兵の動員に要請に応じなかったので、郡政府は刑務所の受刑者を使って遺体を動かしたのだ…。

細かいところまで追えていないので、ざっくりではあるが。
民主党のエルパソ郡裁判官サマニエゴが10/29にエル・パソ内の感染拡大を防ぐために事業閉鎖命令をだした。しかし、テキサス州司法長官ケン・パクストンがそれを阻止したのだ。しかも今回が2回目。

EL PASO — A state appeals court late Friday again halted El Paso County’s shutdown of nonessential businesses that was scheduled to last until Dec. 1.
El Paso County Judge Ricardo Samaniego issued the shutdown order Oct. 29 in an effort to slow the latest outbreak of COVID-19 here, where total cases since the pandemic began surpassed 70,000 Friday.
A group of local restaurants and Texas Attorney General Ken Paxton sued to block the order after it was issued, arguing that it went beyond Gov. Greg Abbott’s executive order that outlines what limits can be placed on private businesses across the state.

引用元:https://www.texastribune.org/2020/11/13/el-paso-county-shutdown-halted/

興味深いのは、州知事の命令の下で行為が許可された場合、カウンティはそれを禁止することはできないってこと。逆に、州知事の命令で許可されない場合は、カウンティは許可できないってことですよね。

“If conduct is allowed under the Governor’s order, that County cannot prohibit it,” the judges wrote. “If activities are prohibited by the Governor’s order, the County cannot allow them.”

引用元:https://www.texastribune.org/2020/11/13/el-paso-county-shutdown-halted/

そうなると閉鎖については州知事の権限が強くなるわけだが、このマップは、現在の州知事がどちらの政党に属しているかだ。赤は共和党。青は民主党。州とカウンティが両方同じ党なら考え方も同じだろうが、違う場合はなかなか厄介だ。 感染防ぐために事業閉鎖したい人達と、事業は続けたい人達の訴訟が起きているわけだ。こんなんなら、感染を防げるわけがない。
皆が同じ方向を向いていないことが強みでもあり、弱みでもあるなあとしみじみ感じます。

米国でコロナ感染拡大をおさえこめるのか?

これは、なかなか難しいところだ。

まず、第一に、信教の自由が今回の判例で出されてしまったので、宗教的集会を制限することを州政府や連邦政府が出すのは難しい。教会の規模にもよるが、プロテスタントのメガ・チャーチなんかは数千名が週末の礼拝に集う。牧師や牧師によっては、Zoomをつかったり、駐車場で車を停めて礼拝するところもあるようだが、まあ全部が全部そうはいかないだろう。

第二に、州政府の方針によってカウンティではロックダウンできないので感染拡大が抑え込むことができない場合があるだろう。エル・パソがいい事例ではあるが、いたるところで起きていると思われる。
たとえ青い州であっても宗教的集会の人数制限措置が一時停止となってしまったので、州内の教会からクラスターがでるだろう。