米郵便公社USPSの財政危機と大統領選挙

米郵政公社(USPS)は5月初旬、2020年1~3月期決算で純損失が前年同期に比べ2倍以上の45億ドル(約4800億円)に膨らんだと発表した。今秋までに手元資金が底をつき、事業を継続できない可能性があるとして、政府に金融支援を要請していた。3月に制定された2.2兆ドルの大型予算であるThe CAREs ACTでは、100億ドルの融資のみの恩恵しかうけず、返済なしの財政支援は実現していなかったのだ。

米郵政公社は、1775年にできたのでアメリカ合衆国よりも歴史が古い。
しかし、インターネットの登場で郵便物は減り続け、2007年から赤字が続いている。2012年には、 法律で定められた借り入れ上限を突破している。公的債務はすでに24兆ドルに達している。

経営改革しようにも、議会の法律改正が必要になる。郵便サービス改定しようにも、議会の承認が必要になり、過去に阻止されてきた経緯もある。例えば、米郵政公社(USPS)は2013年8月より土曜日の普通郵便の配達サービスを打ち切る方針を発表したが、議会によって阻止される法案が制定された。また、POLITICOによると、現法律では、紙の郵便の値上げは、消費者物価指数(CPI)までに制限されている。値上げも上限が決められているのだ。

郵便量は(小包は増加し続けている)、Eメールの出現で減少しつづけていたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、郵便量は増加している。
また、これから大統領選挙、連邦議員選挙に伴い、郵便投票は増加する。今週末、米郵政公社(USPS)は、 国内ほぼすべての46州と首都ワシントンの選挙管理当局に対し、11月の大統領選で郵送により投じられた票の多数を集計期日までに配達できない恐れがあると警告する書簡を送っていたことが報じられた。

ロイターが報じたところによると、 米国選挙支援委員会(EAC)によると、2016年の大統領選では、郵便投票で投じられた票の約0.25%が期日までに届かなかったことが理由で無効となったという。

これは、民主党にとっては是が非でも阻止したい。郵便投票になれば、投票者が広がり、民主党有利に働くと考えているからだ。
ペロシ下院議長は、2020年1月1日時点で導入されていた米郵政公社(USPS)のサービスについて、いかなる変更も禁止する法案の採決を行う意向を示し、今週末に下院議会を招集するという。

共和党とトランプ政権は米郵政公社への財政支援に対して猛反対

民主党は当然ながら支援の手を差し伸べる法案を今年になってからいくつも提出しているが、共和党議員だけでなく、トランプ政権は頑なに反対している。どうやら、緊急補助金に対しての補助金でさえ承認しないと先日発言した。

トランプ大統領は12日、郵便公社に対する250億ドル(約2兆6700億円)の緊急補助金や35億ドルの選挙警備費について、高すぎるために承認しないと発言。
13日にはフォックス・ビジネス・ネットワークの電話取材で、補助金を拒否したのは郵便投票に反対しているからだと述べた。
「(郵便公社は)この35億ドルを詐欺に使おうとしている。これは基本的には選挙の資金だ」

https://www.bbc.com/japanese/53775161

トランプ大統領は、郵便投票は不正を招くと発言しているが、既に郵便投票を許可しているコロンビア州などの5つの州の実績をみれば、不正は数件で、ほぼないに等しい。事実をもとにみれば、トランプ大統領の主張は間違っている。単に、トランプ大統領自身が郵便投票をしたくないがゆえの主張であることは明らかだ。

さて、共和党は投票率を上昇させないように、州で有権者ID登録法を設けてきた。現在、17州で有権者ID登録法が実施されている。また、ゲリマンダーも共和党有利に動いている。下院議員は小選挙区制選挙だが、その選挙区割りを決めるのは、州議会である。以下のグラフのように、共和党が多数党の州議会が多いのだ。そうなると、ゲリマンダーも共和党有利で行われているということだ。

https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3200

また、現トランプ政権のルイ・デジョイ郵政長官は、初めて郵政公社出身でない郵政長官とのことだ。しかも、トランプ大統領と共和党に多額の献金をしてきた経緯がある人物であり、彼が就任してから、時間外労働を禁止して郵便物が積まれた状態が日常茶飯事なり、さらには郵便物仕分け装置が撤去されているということも報告されている。詳細は、こちら
郵政長官は、コスト削減だと主張しているが、民主党は選挙に向けた郵便サービス妨害だとして非難している。


米郵政公社USPS危機で何が起こるか。

では、この郵便公社の危機はどうなるのだろうか?
おそらく、現在のねじれ議会および、トランプ大統領がここまで頑なに「署名しない」と宣言しているので、郵便公社の財政支援は実現しないだろう。

そうなると、何が起こるか。

まずは、大統領選については、ますますトランプ大統領が有利に働くだろう。
先日書いた5つのポイントで、バイデンーハリスコンビは弱いと書いたが、ここに1項目追加できるほどだ。「郵便投票は、郵便サービスの劣化により、多くが無効投票になる恐れがある」と。

もう一つの点として、郵便サービスがこれ以上サービス悪化した時に何が起こるかだ。eコマース向け発送プラットフォームを構築しているShippoの共同創設者兼CEOは、テッククランチにこのような記事を掲載している。
米国の中小企業は、すでに経済閉鎖でダメージを受けている。議会が動かないようなら、これ以上の返済不要の融資も見込めない。Eコマースだけが唯一の活路なのかもしれないが、ここへきてUSPSが利用できない状況になると、さらなる痛手になるだろう。事業閉鎖も更に増えるかもしれない。実体経済はますます悪くなる可能性がでてくるだろう。

米国では、この出荷の大部分は、特に中小企業の場合には、USPSによって助けられている。状況を説明するならば、USPSは世界の全郵便のほぼ半分を扱い、トップの民間配送業者たちが毎年運ぶ合計量以上のものを、わずか16日で配送している。そしてこれらすべては、従業員にヘルスケアと年金を提供しながら税金を投入することなしに行われている。
(中略)
状況を説明するなら、Shippoプラットフォームを利用している米国を拠点とする中小企業(月商1万ドル=約107万円未満)の89%がUSPSに依存している。 (中略) 中小企業が民間配送業者を使おうとした場合には、配送費が大幅に、場合によっては2倍以上に増加することになるだろう。

https://jp.techcrunch.com/2020/04/26/2020-04-24-if-we-let-the-us-postal-service-die-well-be-killing-small-businesses-with-it/

問題は、いつ米郵政公社が事業継続できないタイミングが訪れるかにもよるだろう。大統領選挙に深く関わるので、米郵政公社の問題は注視してみて行かねばならない。